上海から成田へ行く飛行機の中で、父だという人に会った。
乗り合わせたのは偶然で、ただビジネスの機内は狭く、それ以上の他人の振り父が出来なかった。
彰子。
それは一の姫の名。私の名前ではない。
反射的に思うも、それならば、と言う思いが名前を追い越す。
居合わせていた母からはその夜に説明された。
でもその理由も当人達の問題で、今、私の問題の方が重要だった。
実父の学園の名を調べた。
憑かれたように彼を探した。
いた。
存在した。
彼がいる。
おぼろげな姿だった彼の姿が、形になった。
そして同時に、この自由な時代に生まれたことに感謝した。
私はこの人を愛することが出来るのだ。
その足で髪を切りに行った。
度重ねたモデルの仕事でウエーブの髪は痛んでいたので、どうせ切るつもりだった。
専属のスタイリストは思い切ってやってくれた。
思ったよりも似合って、満足だった。
切り捨てたのはぼやけた過去。これで後ろ髪を引かれることなく彼に会える気がした。
春の新学期、7時半過ぎ。彼に会えた。
一緒だと思っていた彼女はいなかった。
「章子」
ふっと笑ったのは、彼の運命に私が勘定された気がしたから。
彼は立ち止まって、私を意識してくれていた。
思い出してくれていた。
それだけでいい。
彼の目の前に立つ。
章子は破顔した。
「好きです。」
その言葉をわかっていたのか、彼は沈黙で応える。
「今生は、あなただけを愛そうと思います。」
「俺は俺で、彼とは違うよ。」
彼の声音は堅い。
「・・・いいえ。同じです。」
向けられたのは痛ましい目だった。
姫にはありえない眼差し。
「だから、ダメなのだという事も、わかっているの。だけど。私は、貴方が、好きです。」
一言一言、ゆっくり・・・けれどはっきりと彼に言った。
後ろから一の姫が来るのが見えた。
抱きついたなら、貴方は受け止めてくれるかもしれない。
けれど、しなかった。
彼を傷つけるのは本位じゃなかった。
傷つけるだけしかないのだから。
けれど、抱きついてみて、愚かな女になるのは悪くない。
彼の真横を通り過ぎる。
対するのは一の姫。
何を心配しているのか、あいかわらず自信無さげな面持ちで。でもそれは彼女の本当の感情の表れで。
「話はまたあとでね。」
へつらうつもりはない。
この自由な時代に生まれたことに感謝する。
喧嘩すら出来るのだ。
[2008/11/3]
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−Comment−
LostCityでいろいろ人物設定があるようなないような感じで
如月の頭の中ではこんな感じーと言う判断で、
それぞれの過去設定です。
最初に、章子サイド話[2008/11/3]
次に篁の13年ほど遡っての話。[2008/11/19]
その次に筱・融・篁の13年ほど遡っての話。[2008/12/6]