※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※RainFrown森が死んでいる・・・否、森はあるのだ。杉の森が。 それがここ最近の集中豪雨であちこち崩れかかっていた。 勾陣はこの手の術策の行使に当たっていた。 次は断ろう・・。 請け負った度に思った。 実際、携えた術を張り巡らせても、崩れるものは崩れた。 原因は既に手遅れということだ。 広葉樹の森の方がよかった。広葉樹の森なら地面深くまで根を張って山を支える。 だが材木や薪の需要としてすぐに大きくなる杉を人が植えた。 針葉樹は根が浅い。 山の岩盤まで根を張らない。 だから雨のたびに地すべりが頻発する。 そのことに気づくまで半世紀かかり、 その間に日本の原生の森はどんどん減っていった。 「自然からの報いだ。」 不愉快極まりなかった。 自分が濡れるとか泥だらけになるとかよりも、不愉快だった。 勾陣は前髪をかきあげて、川から上がった。 この森も崩れるのだろうか。 神に頼んできたが、山の神は力なく微笑んでいた。 無力に打ちひしがれていた。 勾陣も傍の大岩にもたれた。 次は断ろう。 不穏な闘気を隠していない・・。 上の山を見上げて騰蛇は思う。 雨が強い。 旧軽銀座はどしゃぶりで、その上の碓井峠はさらに酷かった。 バイクが壊れると判断して騰蛇は、近くのパーキングにバイクを止めた。 「これは酷いな」 観光地にもかかわらず、旧軽銀座の大通りが川になっているのだ。 この辺り一体の支流を流す川より、実はこの大通りが割と低いためだ。 「・・・雨が止むかな。」 勾陣が出掛けていったのは朝。 今は午後1時だ。 主の晴明が役所の要求をつっぱねるまでに掛かった時間。 これ以上の人為を重ねることは出来ないと。 森を壊した人為。その森が崩れるのを防ごうとする人為。 人はあまりにも自然の声を無視し続けてしまった。 あとは運のみと。 碓氷峠への路の途中から空気が変わる。 下は世俗に慣れてだいぶ開発されてしまったが、この辺りは神域だ。 この地の山の神は豪雨によって流されそうだった。 ・・もつだろうか。 騰蛇は目を細めた。 これほど酷いとは、と。 本性にさえ・・戻れない。 戻ってしまえば、この身の苛烈な神気によって今の山の神の力を乱し、切れさせてしまうかもしれなかった。 さらには雨が、火の性を持つ騰蛇を嫌って勢いづいてしまうかもしれなかった。 その力の均衡が目に見えるようだった。 騰蛇は神気を出来るだけこの人身に抑えこみ、散策道を登りきる。 鳥居をくぐり抜けると、境内には勾陣がいた。 彼女もまた人身で、神気を抑さえ込んでいた。 顔を上げて凄絶に笑った。 「なんだ?。手伝いなら不要だ。作業なら終わったぞ。」 その言い方はその作業とやらへの情熱の欠片も見当たらない。 騰蛇は半眼になった。 「俺は別に手伝いに来たわけじゃない。晴明から言伝を預かったから、伝えに来た」 「帰ってからでもよかろうに」 「その不穏そのもので帰ってこられてもな。だいぶ迷惑だぞ。」 「おまえに言われたくない。」 「・・・・ほお。」 これは随分と機嫌の悪い。 騰蛇は勾陣の傍による。 火山岩の大岩にもたれて、雨に打たれるままだ。 不穏な闘気を隠していない。 晴明の後悔は半ば当たりなようだ。 「・・半分な。」 もし主が自ら行くとなれば、どのみち勾陣が買って出るのだ。 騰蛇は口火を切った。 「晴明が・・。」 「謝罪は聞きたくない。私が来たんだ」 「・・。晴明がすまなかったと。それから戻れ、だ。」 「・・・。」 「戻れ。」 勾陣は伝言を聞きとげて、だが口元で笑ったまま、そこから動かなかった。 今、ここを動けばどうなるともしれないのだ。 土将勾陣の力を、符を解しこの地に張り巡らせているのだ。 「責を晴明には負わせない」 「・・。」 「耐えてみせる。だがこれで終わりだ。二度と引き受けない」 「・・・。」 勾陣は笑んだままいつものように腕を組み、大岩にもたれた。 そっと手を伸ばして彼女の濡れそぼつ髪を梳いた。 怒る理由はわからなくはなかった。凶将である彼女は自分同様人の心の闇のおぞましさを知っている。 ただ、既に安倍だけが残ればいいとしている己に対し、聡明な分彼女はそこまで短絡的になれない。大局を見て公平を望む。 大岩から引き寄せて、その背を左腕で支えた。 「・・。」 勾陣は上目遣いに騰蛇を見上げる。 彼の横髪から滴る雨滴が見えた。 引き寄せてそのままで愛想の無い、と勾陣は仄かに笑う。 風雨が一際増していた。 だが音に聞こえるほどの、打ち付ける雨を感じなかった。 だからその腕の中で、ぼんやりと雨と風の音を聞いていた。 雲が切れた。切れたらあっという間に散れ散れになって、青空が覗く。 妙義の山並みを雨が洗って一際険しく目に映った。 騰蛇はほっと胸を撫で下ろした。 勾陣は耐えたのだ。 「さすがだな。」 普段、やらないものはやらない、面倒くさいものは避ける。 安請け合いしない勾陣が、やると決めたなら、違えないし、譲らない。 「もう、二度は、無い。」 やってられないと自力で前髪を梳いた。 「そうだな。そうしろ。晴明は・・昌浩もそのつもりだ。」 「・・・わかった。」 「じゃあ、俺は、命令どおり、おまえを連れて帰るからな。いいな。」 腕を掴んで肩を貸す。それぐらいはさせてくれる。 「・・・。」 そして、ふと思い立ったように呟いた。 「謝罪と、戻れ、と、もう一つ」 肩越し向こうを睥睨する。 「守れ・・と命が下っている。」 そこには竦みあがった山の神がいた。 「俺が護るのは、今はあれ一人」 騰蛇はその性を垣間見せる。 「だが、これも許さない。」 あわよくば奪おうとしたのだ。力を使い切った勾陣ならば容易かろう。 得れば、その力と地位をより強固なものにすることが出来る。 晴明の後悔の半分がここにあった。そんな贄のような事態になりかねなかった。 「これの善意にその行為ならば、それ相応の報いがあると思え。」 勾陣のそれよりも恐ろしい不穏さで、せせ微笑う。 「おまえのすぐ後ろの神が許さないだろう」 呟いて、騰蛇は興味がそがれたのか、踵を返した。 刹那、横恋慕を怒った神が舞い降りる。 後ろに阿鼻叫喚が上がった。そして、新しい神がそこに備わった。 再生されたのだ。 「恐ろしいな。」 勾陣が呟いた。 「別に。」 騰蛇は無関心だった。 勾陣の消耗は思ったほどではなく、これならバイクにも乗れるだろう。バイクなら軽井沢から東京までは割りと近く1時間だ。 彼女に尋ねれば、頷いた。 異界に戻れば心配をかけてしまう。責を晴明に負わせるつもりがないから普段どおりでいたい。 大方の理由はそんなところだ。 あとは勾陣はこの後部シートが実は嫌いではないらしいということ。バイクに乗ることが好きならば彼女も自分と同じ様な手段で免許を取ればいい。だが、特にしていない。 「・・・・。」 勾陣は寄りかかろうとしないから、 時々こうして後ろに乗せているのが不思議な気がする。 「・・こら。乗りながら寝るな。」 高坂サービスエリアについて、勾陣の頭をこづく。 「眠たくなるだろう。高速は単調だ。」 ・・減らず口が戻っている。 「・・コーヒー買ってくる。」 騰蛇は踵を返した。 勾陣はひらひらと手を振った。 そして、シートにもたれて、その背を見送る。 「・・・。」 今はあれ一人と言いながら、許さないと言う。 彼の心は決まっていて、その思いは揺るがない。 END [08/10/26] #小路Novelに戻る# −Comment− 騰蛇騰蛇と書きたかったのよ〜ん。 紅蓮もいいけど、騰蛇って言い方が好き。 あれとかこれとか表現を使ってますが不用意に名を教えないためです。彼も彼女も使えません。性別がわかる。 なにしろ、すぐ後ろには〜昌浩に関係なくない神様がー。 神様を寄り付かせているのは玉依姫ならではなのしょうが、昌浩も出来るんだよなぁ。本人無意識だけど。 となれば、ほっとかなさそうだ、すぐ後ろの神様。 いろいろ妄想ー。玉依姫に貴船の神様に・・・ふふふふ。 この話、書きながら、慧斗を挿入できる??っ、と思いながら、まだ足りないと思い、 そのくせ騰蛇という言い方が好きなので書き散らし、 そーいや勾陣が紅蓮と呼ぶことってあるのかしら、と思いながら、どんなシチュだ?と頭を抱え、 結局、いつもどおり。 結城先生が書くまでまだかなぁ。・・・初めても肝心ですが、次も大事。どんなタイミングで二番目があるかなぁ。やっぱり妄想ー。 旧軽の部分は日向とともに実話。 高速は二人乗りができるようになりました。あ、でも首都高は駄目なので下道で。 昌浩彰子アンソロ・・参加します。 嬉しいですっ。アンソロ!。 昌彰です。だけ!ってのがいいです。 読みたいなー、読みたいなー。 イベントにいけないのでひとしお。 最初、うおっ、帰省中で気づくの遅れたっ、間に合う????っとなって、でも文章出来てもいないのに参加表明なんか出来ーんっ、でも久しぶりの原稿と言うテンションにハイテンション。 割りと時事系のネタが転がり込んで、そういえば手持ちの情報にも同じものがあって、符号が合い、あとは時間軸と昌彰だーいっ。 良いネタがあると文章がまとまるので嬉しいですvv |