※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



RainSnow







 もうまもなく雪になるだろう。
 長年の間隔とはまた別に、人間の気象予報が頭に浮かぶ。
 太平洋側に低気圧が進んで、電車の窓を叩くような雨が降っていた。
 それから例年に無い寒波がこの師走に訪れていて、昨日からやたら寒かった。
 青龍は安倍の家の最寄の駅について、ホームに降りる。
 厚めの黒いコートが今日は丁度いい。
 首元まで持ち上げた。
 空を見上げ青龍は少し読みを外したことになって渋面になった。
 雪が降るつもりで今日の移動は車ではなく電車だ。
 傘は折りたたみで持たされているがあまり使いたくない。
 雨を忌避する理由が神将たる自分には無いからだ。
 雨も自分も元はと言えば同じもの。
 当たり前のところから派生したもの。
 だが同時に別のことを思う。
 濡れて帰ったら、何事かと天后が色を失くすだろうし、洗濯を渋る騰蛇がいる。
「・・・・」
 思って腹ただしくなる。
 つい思ってしまった自分が腹ただしい。
 その二人の名前が真っ先に出てきたことで、青龍は濡れて帰ることに決めた。


 だが、その二人がそれをさせない。
 青龍は改札の向こうに天后の姿を見つけて、眉を思い切りしかめた。
 広い大きな傘を差してロングスカートに白いコート。
 切符ではなくICカードのため次回使うためには改札を通らないわけには行かない。
 仕方無しに改札を抜ける。
「青龍」
 天后が気づいてこちらにやってきた。
 平屋建ての駅舎は雨が微妙にかかる。
「雨になったから、傘がいるだろうって」
 騰蛇とは言わないが、その言い回しは騰蛇だ。
 憮然としたまま、だが青龍は大人しく受け取った。
 人間ばかりの駅前に不審な行動をしても安倍が変に思われるだけになる。
 ぱんと傘を差してさっさと歩き始める。
 安倍の家は駅から少し遠い。
 あの家の秘密を守るためだ。
「今日は仕事もしてきたと聞いたわ。六合と同じ様なこと?」
「いつもと同じだ」
 ただ長引きそうな取引の手伝いをしたことはした。
「言うほどのことじゃない」
「そう」
 少し後ろの横から静かな相槌が帰ってくる。
「晴明は?」
「出先の京都からもう戻られているわ。」
「・・・・」
「特には無く、顧問としての仕事だけで済んだそうよ」
「そうか」
 京都に向えば無理難題を言う神がいる。それを心配して尋ねたのだ。
 同行に六合と白虎がついていて、日帰りで済んだのだから、本当に何事も無かったのだろう。
「六合と白虎と露樹様でしまい天神で買ってきたものを片付けてたわ」
「・・・・」
 同行に白虎と六合がついていたなら、それは大事になったのが予想がついた。
「・・そのために行ったのか?、白虎は。」
「そのつもりじゃなかったらしいけれど、組み合わせとしては出来すぎでしょうね」
 くすりと笑った。
 何事も無く、そしてそんなふうに大事の方がよっぽどいい。
 道は町を抜けて畑が点在し、雑木林にかかる。
 商店街の温もりが無くなり、温度が下がったような気がした。
 ほうと天后が掌に息をかけた。
 自分はしっかり皮のグローブをしている。
「帰ったら暖かい紅茶と、シュトーレンをいただいたから、それを食べましょうか」
 青龍の剣呑な眼差しに天后は苦笑しながら答えた。
 ふうわりと風が吹き、彼女の髪が旋風に遊ばれる。
 撫でて押さえて見上げた。

 雨が雪に変わる。

 土に落ちていく。
 傘に落ちていく。
「・・・」
 青龍が目を見張る。
 コートに。
 彼女の髪に。
 天后は傘を降ろし、空を振り仰いだ。
「・・・・濡れるぞ」
 それは自分がしようと思っていたことだった。
 天后はいつもどおりたしなめられたぐらいに思っているのか、自嘲気味に笑った。
「本当なら、いらないの」
「・・・・」
 その横差しは消えていく自然の者達の横顔だ。
 今は降るこの雪も、消えて春になるのではなく、温暖化と呼ばれる現象で地上から失われていく物の一つ。
 そっと掌を広げて素手に落ちる雪を確かめようとする。
「雪は俺は嫌いだ」
 目蓋を閉じれば思い出せる。
「・・昔のことですけれど」
 そっと静かに笑う。責めているわけではなく、どちらかと言えばむしろ同調だった。
 思いは変わる。それは最初の主の言葉。
 傘を持っていってやれと言ったのは騰蛇で、そんなふうに騰蛇は変わっていった。
 だが変わらない思いもあると青龍を見れば思う。
「雪は嫌いだ」
 その言葉に全てを込めて、経緯を端折るのは誰かと同じか。
 天后はそのまま佇んだ。
「・・・。」
 雪は嫌いだった。
 青龍は天后の前に立つ。
 傘と自らで雪を阻む。
 濡れた右掌をグローブで取って引く。
 天后は目を見張った。
 お構いもしないで青龍は掴んだ掌のその指をやおら絡めてコートの左側のポケットに収めた。
「青・・龍?」
 そうして声と温もりが今は自分のものになっているのに気づく。
 硬直するも離れない天后を青龍は見ない振りをすることにした。




[08/12/25]

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−Comment−
 おおう。またもやクリスマスに青龍天后を持ってきてしまった。
 なんていうかすごーく、引き寄せたかったのっ。
 そこまで書きたかったのっ。

 青龍騰蛇を含めたわけじゃないけど、
 まあ普段から、紅蓮昌浩も比古昌浩もぶっちゃけ全神将対昌浩と意識してるっちゃーしているので。