※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



SpringRain







 しとしとと朝から雨が降る。
 胴着姿の昌浩は軒下から出て空を見上げた。
 昨日土曜日は晴れでスギ花粉が飛び、季節がら偏西風で黄砂も飛んでいたのだ。
 玄武が屋根の上にいたので、思わず拝んでしまう昌浩だった。
「・・なんだ?。」
「雨が降って今日はすがすがしいよ。」
「我は何もしていない。」
「そんなことないと思うよ。」
 昌浩は両手を出して、雨を受ける。
「濡れるぞ。」
「はは。でも暖かいからこうしていたいかも」
「鍛錬にはなるな。」
 玄武は腕を組んでそのまま昌浩を見る。
 庭の真ん中までいき、昌浩はその場で軽く跳ねて体を慣らす。
 そして拳を固めて、腕を振った。
 玄武がそうして昌浩を見ているので、縁側の紅蓮は部屋に戻る。
 つむじ風に乗って、くるくると空から舞い降りてくる気配があった。
 昌浩はおもむろにそちらを見上げると、太陰だった。
 昨日はいなかったから、どこかに行っていたのだろうか。



 玄武の隣にトンと座りそのまま空を振り仰ぐ。
 少し疲れた様子を玄武は訝る。
「どうしたのだ?」
「大気が予想以上に酷かったのよ」
「・・どこまで飛んだ?」
「北京の上空より少し先まで。」
 玄武は目を見張る。
 自分が施した水の玉は国境付近までを往復する程度だ。
 帰りはどうしたのだと問おうとしてやめた。
 肩に、髪に、細かい砂。
 神気で吹き飛ばしてもまとわりつく砂。
「黄砂が春の風物詩なのは昔のことか・・。巽にはこれからは別の時期を選ぶよう言っておくべきだと思うが?」
「もう言ったわ」
 偏西風に乗ってこれた時代とは訳が違う。
 一時代前はこんなことはなかったのに、この百年でこの時期の大気はまるで砂漠だ。
 頬の砂をわずらわしげに拭っているので、玄武は進言する。
「あとで騰蛇に対処の仕方を聞くだけだな。」
「なんで?・・。」
 何故と呟いて思い当たったのか、押し黙る。。
「あれが一番人界の事情に詳しいのだ。」
 正論を答えられる。
 騰蛇の物の怪の姿を思い出して、太陰は頭を押さえた。
 春一番とともに訪れた黄砂に難儀していた彼だった。
 白い毛にまとわりついてそれはもう大変だった。
 昌浩と彰子と自分たちで寄って集って綺麗にした。
 太陰は再び仰向いて、屋根に寝転がる。
「・・もう少し休んでからにするわ」
 騰蛇はやっぱりまだ少し苦手なので、先延ばしにする。
「玄武ー。」
 下から声がした。
 昌浩が庭から手を振っていた。
「なんだ?」
「紅蓮が、太陰にだって」
 手に持っているのは蒸しタオル。
「それっ。」
 昌浩は振りかぶって、投げる。
 手に受けたのは、適度に熱いタオルだった。
「すまない。ありがとう」
「どういたしまして。あんまり酷いなら異界で休むようにだって。」
 事情を騰蛇から聞いたのかこちらへの問答はなく連絡事項だけだ。
「承知した」
 昌浩は庭の先程の位置に戻った。朝の鍛錬の続きだ。
 太陰の頬に押し当てると、それを彼女は手で押さえて受け取り、額に当てる。
 暖かさが心地いい。
 まるで騰蛇のようだと思っている自分がいるので、口元でほのかに笑う。
 その心変わりを認めて、玄武も嬉しそうに笑った。
 共に恐怖したときもある。そしてこの胸の内の痛みとして残っている。
 太陰は本格的にここで休むことに決めたのか、屋根に寝転がった。
 玄武も水気にまどろむように頬肘を膝についた。


 今この時の、この雨が気持ちよかった。






[09/3/9]

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−Comment−
 巽は不定期報告程度でたまに来てるんじゃないかなと。
 事件はないです。
 巽が黄砂を運んできたのではないです(あたりまえーTT)










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昏倒

いっそ昏倒している方がマシかもしれない。
この心が激しい怒りに晒されている。
矜持なんてものもズタズタだった。
誰の傍にいたくて、
誰とともに在りたかったか。

主の傍にいたくて、死なずに戻ったのに、再びこうして倒れている。
傍にいたいのにいれない。
せめて一振りの刀を渡した。
主の傍に最後までいられる彼に。

―――そうして風が知らせる。

地龍を退治れたと。地の柱の従神とともに。
彼が背中を預けて戦える。
胸のうちに揺らめく動揺。
これは嫉妬だとわかってはいた

[09/2/11]
勾陣は自分にすごーく怒っていると思うんですよね。