※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※Ribbon親戚の結婚式に参加するため、彰子は湾岸のホテルに来ていた。 父親の計らいで待合室ではなく、部屋で待機。しかもスイート。 彰子は窓辺の椅子に、ドレスの裾を気にしながら座った。 慣れたので、動じることもないが、新郎新婦と同等というのもどうかと思う。 やれやれと、彰子は天を仰いだ。 「(頑張らなきゃ。)」 花束を渡すことになっていた。自分が出来るせめてものの誠意と祈りを込めて精一杯努めようと思っている。 彰子は窓辺に目をやった。 本日は晴天。真冬の放射冷却のせいか冷ややか過ぎるほどの青空で、富士山が見えた。 ゆっくりしようと思った。けれど少し高めの椅子は足がつかず、そのためかなんとなく落ち着かない。 そわそわしていると、ノックがされた。 きゃっと一瞬びっくりしてしまったが、彰子は立ち上がった。 ドアの前まで行く。 「安倍昌浩です。祖父から託っ・・。」 がちゃとドアを彰子は押し開けた。 「昌浩。」 ごつっ、 「きゃ・・、ごめんなさいっ。」 「いや、今のはよけられない昌浩が確実に悪い。」 物の怪が昌浩の足元でツッコミを入れた。 「紅蓮。」 昌浩は額を押さえながらうめくように呟いた。 「ごめんね。大丈夫?。」 「平気。近づきすぎたかも。」 冗談めかして答えて苦笑いする。 昌浩も正装していた。彼の祖父が式の安全管理を請け負っているためだ。 その手伝いという形だが、彰子は昌浩が実質の実働員であることを知っていた。 「大丈夫。それより渡さなきゃいけないものがあったから持ってきたんだ。」 昌浩はスーツの裏ポケットを漁る。 「昌浩。とりあえず入って。」 「ごめん。すぐ位置につかないとダメなんだ。」 ポケットから白い布を取り出す。正確には布に包まれた物を取り出した。 「そうなの?。何かあったの?。」 「いろいろあるらしいよ。」 「大物女優との式だからなぁ。形式だけだとか言うマスコミやら、ファンの妬みやら、わらわらと。」 女優自身にもひとくせもふたくせもあるという言葉は、昌浩も物の怪も飲み込む。 彰子はその女優さんに花束を渡すのだ。隔意は持たない方がいいだろう。 ただでさえ彰子が(可愛いから)悪意を受ける可能性が濃厚になってきて、そのためにこうして呪具を持って来たのだ。 昌浩は白い布を開いた。 中から鮮やかなワインレッドのリボンが出てくる。 幅は2cm、長さは50cm程で、白い文字のラインで染め抜かれていた。 「これ一応、呪符なんだ。災いを避けることが出来る。」 「呪符?。」 いつもなら和紙に墨だが。 「昌兄が、これなら持ってても目立たないだろうって。」 「ほれ。あいつ、機器類の分野、得意だろ。」 ひょいっと昌浩の肩に物の怪は飛び乗って、彰子と目線を合わせる。 「大学の染料を研究しているゼミに手伝ってもらって、印刷機みたいのを作ったんだと。」 「まぁ・・。」 彰子はリボンを手に取った。 良く見るととても小さな字で、しかもサンスクリットで書かれていた。 ぱっと見、おかしくないように配慮してくれたのが良くわかった。 「他にも紺と、白があるんだ。」 「・・・うん。ありがと。使わせてもらうね。」 彰子はそれだけ言ってはにかんだ。 他に色があるなら、どうして持ってこなかったんだろう、とか思った。 「(色、選んでくれたのかな。)」 今日のこの真っ赤なドレスに似合う色を。 白いレースをあしらってもいるドレスなので、白でも似合うかもしれないけれど、昌浩は赤がいいかなと思ったのなら、それがいいのだろう。 そんな彰子の心を知らずに昌浩が呑気に続ける。 「カバンとか、身近なところにつけて持っておいてほしいんだ。」 「わかったわ。」 「あ、いつもどおり回収します。呪符だから。」 「うん、わかった。」 そして彰子は、アップにした髪に結んだリボンをはずした。 「え。」 昌浩はギョッとする。 止めるまもなく、彰子は呪符のリボンを結びなおした。 わたわたしている昌浩に、彰子はふふっと胸を反らし、浮かれ調子で答える。 「だってリボンでしょう。リボンは髪に結ぶものよ。」 言われてしまい、昌浩は真っ赤になった。 端から見れば・・・の話にだ。 「ありがとね。昌浩。それから守ってね。」 「うん。・・・。守る。」 頬は上気したままだけれど、頷いた。 物の怪は、昌浩の肩から降りてお先〜と言わんばかりに、エレベーターホールに向おうとした。 が、その尻尾を昌浩は、はっしとつかんだ。 「じゃあ、行くから。」 「頑張ってね。気をつけてね。」 「うん。」 昌浩は踵を返した。 彰子は彼を見送って、エレベーターホールに消えると部屋に戻った。 「・・・・。」 鏡の前に立つ。元のリボンを丁寧に巻いて置いた。 嬉しそうな自分の顔が映った。 昌浩は物をくれるとき心ごとくれる。 それは下心ではなく、真心で。 彰子はリボンの端の長さをそろえ、整えた。 「私も、うん、頑張らなきゃ。」 結構緊張していたのかもしれない。けれど昌浩の顔を見て氷解してしまった。 窓辺から見える青空は、春先の陽射しを通し、温かい。 今日の式次第がうまく行くことを予感させる。 ピンポーンとインターフォンが鳴った。 昌浩は使わなかった。使ってどこが鳴るか困ったのかもしれない。 「はい。」 「彰子お嬢様。式が始まるそうなので。」 「はい。すぐ、行きます。」 彰子はぱたぱたとハンドバックを取って肩に掛けた。 END [04/2/12] #小路Novelに戻る# −Comment− 書きたかったシチュエーションを勢いで書いてしまいました・・・。 |