※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※Stacafe昼下がりの新宿。 藤原グループ所有のビルの一階一角。 スターバックスコーヒーの窓側の席に、切れ長の、ワンレングスの女性がカップを傾けていた。 タイトスカートから覗く細く長い足が人目を引く。 だが脚線美に気づいてないのか本人はいたって真面目に広報誌を読んでいた。 気取らない雰囲気が、色香を払拭して、好感を持たせる。 十二神将の凶将、勾陣。 臨時の秘書の任務を完了させ、正規の秘書六合に引継ぎを済ませてきたところだった。 「(ほう・・ついに中国進出か。ついこの前まではアメリカだの欧州だのだったが。)」 海外に投資を続けた結果貿易摩擦が起こり、一転内需拡大路線を計って物価が高騰しバブルが弾けた。株式交換などでマンモス銀行が出来あがり、ながらえようとしているが、日本経済は痛手を受けいかんともしがたい。 社会は不穏になって行くばかりだ。 「(これは・・昌浩の時代も、仕事は減らないな。)」 むしろ増えるかもしれない。 勾陣はコーヒーを傾ける。 こんこんと傍の窓ガラスが叩かれた。 顔を上げると、天后がいた。 目を丸くすると、天后ははにかんで、自動ドアを回り込んでくる。 「・・なんだ、その荷物は?。」 高さは1m、幅は40cmはあるだろう、天后はそんな大きな紙袋を抱えていた。 「頂き物。晴明に持って帰るように頼まれたの。」 「・・・頼まれたって。大きいな。何が入ってるんだ?。」 「壷。」 天后は傍らにそれを置いて、勾陣の反対側の椅子に座った。 ハイネックにジャンパースカート姿の彼女はビジネスマンばかりのカフェで少々目立つ。 「それまたしょうもないものを。」 「なんでも取引先の人が中国で買ってきたらしいの。」 どこに置くんだ?掃除の邪魔だと一蹴すると、天后も同意見のようだった。 「さしずめまたお蔵入りかな。晴明も男手を呼べばいいものを。」 「青龍が今、車を出してくれてるから、大丈夫。」 「なるほど。」 勾陣はコーヒーを取る。 天后がじっと見つめてくる。 「・・それ、騰蛇が言ってたもの?。」 「ん?、・・ああ、そうだが。六合に借りてきた。」 自分用のタンブラーだ。使いまわすのは自然にもいいし、20円安いのも経済的だ。 時間を潰すのに、そもそも飲まなければいいのだが、融通が利かないのもなんだろう。 「まるで人間みたい。」 「そうか。」 肯定とも否定ともとれない、返事だった。 「このあと貴女は?。」 秘書の仕事をしていたこととは別に、事件が持ち上がっていた。 「昌浩と騰蛇待ちだ。天后は?。」 「異界で待機。」 「最近、逆だな。」 「何が?。」 「以前なら私が異界で待機することが多かったが。それだけ世界が不穏だということだ。」 凶将が出張るということは。 「そんなこと、言わないの。」 天后は肩を竦め、困ったようにたしなめる。 その時だった。 ビィッ・ビィッとクラクションが鳴った。 振り返ると、 横付けされた車のウインドウが開かれて、不機嫌そうな青龍がいた。 天后が慌てて立ち上がる。 「割るぞ。」 勾陣が苦笑いした。席を立つ。 飲みかけのコーヒーを手に持って、一緒に外に出た。 天后が怒られないように。 「気づけ。遅い。」 「悪かったな。トランク開けてくれ。」 たいして悪びれもせずに、勾陣は青龍に答えると、天后から壷を取り、トランクを開けて収める。揺れて割れないように中に入っているゴルフバックなどで押さえた。 青龍はさっさと乗れといわんばかりに、運転席から助手席側のドアを押し開けた。 「早く乗れ。天后。」 案の定急かしてくる。 「ごめんなさい。」 上目遣いに青龍を見ながら天后はそろそろと乗った。 「じゃ。青龍、またあとでな。」 ひらひらと手を振る勾陣を憮然とした表情で見て、青龍は視線を前方に戻す。サイドブレーキとクラッチとギアの軽やかな音が響いた。 天后が軽く手を振って、車が発進した。 「・・・。」 見送って、勾陣は飲みかけのコーヒーを傾け一口飲んだ。 踵を返して歩き出す。 夕刻。勾陣は、位置について、街を見下ろしていた。 新宿の高層ビルのヘリポート。緊急着陸用かつ高層建築の義務のために設けられたヘリポートに過ぎず一般の出入はもちろんない場所だ。 黄昏の陽射は、彼女と、ビル群と、遠く浮かび上がる秩父の山並みを影にして、街を照らしていた。 騰蛇はその後姿に呼びかける。 「勾。」 「・・騰蛇。」 彼女が振り返った 「昌浩は?。」 「今、晴明の所に福岡の件について報告に行ってる。あとこのあとの任務の関係者の紹介をされている。長くなりそうだったから、先に布陣を見にきた。昌浩も見てから行くそうだ。ここで待ち合わせてる。」 「昌浩も大変だな。帰ってきてそうそう。」 勾陣はやれやれと溜息をついた。 「人心に神も仏もない時代でも、この道が必要とされるのは何故だろうな。」 「・・・さあな。」 騰蛇は、首をかしげる。 滅多に言わないような独白をするからだ。 なんか元気が無いようにも見える。 本人が自覚していないようだが。 「・・・。」 けれどなにかあったのかと、それを勾陣から聞くのは難しそうだった。 騰蛇が眼下の街に視線を落として、呟いた。 「・・・。人間やってるとわかるような気もするけどな。」 「・・・・。」 勾陣は騰蛇を振り返った。自分が投げかけた問いに、答えているような気がする。 肩を竦めた。 「(柄にもなく天后の言った事を気にしていたか。)」 心に引っかけていたようだ。 人間と一緒にするなという考え、と、 人間も悪くないという考え、とが、 交錯して答えが出ない。 もしかしたら答えを知っているかもしれない。他の誰より何倍も考えてしまう奴だから。 「・・・・。」 でも聞かない。 騰蛇が辿りつけるならば、自分で辿りつこう。 勾陣は同じように視線を落とした。 「・・・・・!?。」 ひょいっと視界に、騰蛇が入る。 「え・・。」 真正面。 息を飲んで、呼吸を読まれて、 目を見開いた時には、唇が重ねられていた。 「・・・・。」 騰蛇の目がついと伏せられて、閉じる。 なんなのか良くわからなかったけれど、なんとなくホッとしたので、勾陣も目を閉じて、仰のいた。 騰蛇の掌が背に触れて、引き寄せられ、キスが深くなる。 ――ややあって離れ、見上げて勾陣は首をかしげた。 「どうした?。」 感触の余韻を感じながら、尋ねた。 「いや・・、・・・ちょっと甘えてみただけだ。」 怒られる気もしたので、諸手を上げて答える。 「・・そうか。」 勾陣はくすぐったそうに笑った。 あの騰蛇がどうだ。 まさか甘えてみせるなんてどういう変わり様。 勾陣が笑うから騰蛇も優しい眼差しで笑った。 「・・・。」 勾陣は騰蛇の腕をついと引っ張る。 「そうだな。ちょっと甘えてみるのも悪くないかもしれんな。」 とんと肩口に凭れた。 END [04/6/10] #小路Novelに戻る# −Comment− 十二神将だけになった。 勾陣と騰蛇を書いてみたかったのだ。 青龍も書きたかったのだが、可愛いわー天后。勾陣と仲が良いのがまた嬉しい。 本当は平安時でも書けるかなー思ってたのだが、とりあえずはこちらに。 このシーンを昌浩が見てるかどうかは、さてはて。 タイトルにあまり意味はありません。なんとなく。 |