わけあり品あの時はそれどころじゃなかった。 「うううう、それは認めよう。」 昌浩は頭を抱えてうなる。 「ほったらかしにしていたし、すっかりさっぱり綺麗に忘れてたのも認めよう。」 拳を固め力説。 「だけどさあ。・・・。」 そしてがっくり荷物の前でうなだれた。 顔色をころころ変えている昌浩を見て物の怪は首を傾げる。 「それ、なんなんだ?。」 「化け物入りかもしれない、荷物。」 昌浩は一息に応えた。 「・・・・。」 只今は夏の終わり。去年内裏が燃えてちょうど一年になり、そのための雑事に昌浩は追われていた。 ここは塗籠だ。例によって陰陽部の者に言われて、納品された品物を取りに来たのだ。 「もっくん不在の時の話だよ・・。」 昌浩は端的に二月末に陰陽寮で起きたことを説明した。 かくかくしかじか。猿真似が現れて襲い掛かってきて、自分は覚えていないのだけれど、六合が退治てくれたそうなのだ。 聞いていて、物の怪は一瞬目を細め、自分がいたらそんなことにはならなかっただろうなと思う。 でも懺悔する言葉ではなく、このあとに起こりうる昌浩の身の上に哀れみを送る。 「あー・・、それは晴明の奴が揚足しを取るのに格好な・・。」 「そう・・、それ。問題はそれなんだよっ。」 トホホな昌浩の背をぽんぽん叩いた。 今春からの反動が恐ろしい。 なにせ完全復活した祖父晴明である。 あの歳で完全復活はなかろうと思うが事実だ。 それに口だけは死ぬまで達者なのが年寄りでもある。 昌浩は頭を片手で抱えた。 「・・・・・・でもさ、陰陽寮が手を打ったはずなんだよ。・・でも着ちゃったわけだから。」 「陰陽寮は陰陽寮で、昌浩は昌浩だからな。うちは。」 晴明に無責任を怒られかねない。 「しかも実は報告してもいなかったりして・・・。」 「・・・晴明ならわかってると思うぞ。」 「わかっていますとも!。わかっていることをわかっていない振りをするのがじい様だというのをわかっていますとも。」 なんたるていたらく・・と、さめざめと祖父の泣きぼろめる姿が目に浮かぶ。 物の怪は眉を寄せた。 昌浩では埒が明かないので、箱に対して用心をしている同胞の六合を見上げる。 「中はなんだ?。」 表情は乏しいが警戒しているのがわかる。 「わからん。符などは無かった。が、空けた瞬間、『猿真似』が昌浩を模して現れた。」 「前のときはどうやって退治したんだ?。」 「藤原敏次が様子を見に来たので、それに取って代わったので退治れた。」 「・・そうか。」 合点がいった。そして・・、昌浩を模すという猿真似を少し見てみたくなった物の怪である。どれだけ強いか客観的に知ることができる。 物の怪は首根っこをひと掻きして不穏な考えは追いやる。中宮を巻き込んでの騒ぎのあとだ。平穏な今を大事にしたい。 「これ問題だぞ。物品扱う奴が最強なんだぞ。」 「・・。」 わかっていると言外に六合は目で応えた。 「どうしよう。触れない。触れないと持っていけない。」 よくわからないことをごにょごにょと呟く。 「また来るなんて、どういう管理しているんだ。陰陽寮は。」 「すいませんねぇ。俺だよ。管理。」 「・・・忘れてたんだな。」 「・・・・はい。」 昌浩が確認するべき事項ではあったのだ。出雲から帰って来たときにでも。 問題を解決するべく放った命令が実行されているか確認するのは直丁の仕事だ。 「・・・とりあえず、持って行こう。」 意を固めて昌浩は呟く。 そして物の怪を抱き上げて荷物の前に座らせた。 「もっくん、持って。」 「は?。」 と、言いつつ意図せず言われたので持ってしまう。 「んで、俺が、もっくんを持ち上げる。」 「・・・・・。」 確かにそれらしくは見える。二人羽織状態だ。 何か納得しずらいものがあるのだが、格好があまりにもそれらしく見えるので、物の怪は動けなくなった。 昌浩は得心いかない顔で硬直した物の怪ごと荷物を抱え上げて塗籠から出る。 傍らの六合は、見送って溜息をついた。 物の怪だが、それは騰蛇なのだ。彼を模写られても困る。 昌浩は頓着せず、簀子を行く。 藤原敏次が簀子を渡ってくる。 ・・少し足早に、こちらに向かってくる。 「敏次殿?。」 頼まれた荷物の行き先の一人だ。 敏次は昌浩の目の前まで来て、頭からつま先まで通り一遍眺めて、取り越し苦労か、と言った顔をした。 「・・・・遅いから、春先のようなことがあってはと思って来たんだが。」 一瞬剣呑になる。何をもたもたしているんだといった感じになった。 昌浩は苦笑いした。この人、感が良くなってきたなぁと思う。 「いえ、実は、その・・たぶんなんですが。」 「・・・?。」 「春先の物と同じような感じがして、恐くて開けられませんでした。陰陽生の方で確かめてもらえませんか。」 自分より自分のことを見ている人だった。 昌浩は敏次を見つめ返す。 客観的で、時に鋭すぎて、・・・油断ならない。 「・・・・なんだと?。」 敏次は眉をしかめた。 「わかった。」 「お願いします。」 昌浩は敏次に手渡そうとした。 その時だった。 物の怪がその布包みを解いた。 傍目には勝手に解けたように見えたはずだった。 「も・・っ。」 もっくんっと叫ぼうとして昌浩は飲み込む。 弾みで手から荷が落ちる。 中は鳥の羽根を糊で伸ばした呪具だ。それが簀子にバラける。 「・・・っ。」 ぶわっと霊力が溢れた。勢いで昌浩は簀子に転ぶ。 猿真似は昌浩を一度摸して姿を取った。 「ほう。」 物の怪は蔀戸に飛び退って呑気に呟いた。これほどかと。 そして物の怪は軽快に蔀戸から跳んだ。 猿真似目掛けて敏次の背を足で突き飛ばす。 「うわっ。」 敏次も簀子に転んだ。 転んだ先にもう猿真似の姿はなかった。 昌浩が顔を上げた時には、いつの間にか放った物の怪の炎に焼かれていた。 あー清々したとばかりに物の怪は敏次の真横を通り過ぎ(見えてないが)、座り込んでいる昌浩の元に行く。 「大丈夫か?。」 「・・・・・っ。」 応えられないのをいいことに、物の怪は得意げである。 昌浩は拳を震わせて、手柄を全部持っていった物の怪の頭をがつんとこづいた。 「(この状態をどう弁解するんだよっ)」 昌浩は敏次を振り向く。 「あのっ。大丈夫ですかっ。」 呆然としていたが敏次は落ちた羽根を拾ってまじまじと眺める。 「・・・・ああ、大丈夫だ。」 一瞬にして消えてしまった妖を敏次がどう思ったのか。 「また、同じ妖だったな。」 「いえ、あの、前回はよくわからなくて。」 「・・・・・ああ、そうだったな。今回は失敗したのかもしれないな。私は何も唱えてない。」 敏次は羽根を拾い集めて顔を上げた。何か怒ったような顔をしていた。 開けてしまったのがまずかったかもしれない。 と、思ったが違った。 「・・手を講じたのではなかったのか。」 「敏次殿?。」 昌浩が訝ると敏次は応えた。 「陰陽生の物品に妖を入れるなど特定の悪意があるとしか思えない。だからそう奏上して、業者は出入りを禁じられたはずなんだ。君が出雲に行っていた時の話だ。」 「そうだったんですか。」 そうか、彼が管理していてくれたんだと思った。自分は忘れていたのに。 敏次は立ち上がった。 「こうもくるようでは常に君が危険になってしまう。」 「・・・・。」 知らなくてもわかってくれる。 「また、奏上するしよう。業者ではなくなにか別の原因があるのかもしれない。」 「・・・はい、お願いします。」 昌浩は晴れやかに笑った。 何も知らなくてもこうして身を心配してくれる人がここにもいるのだ。 「・・・・。」 敏次が手を差し出した。 昌浩は手を借りて立ち上がる。 「・・・。」 敏次は昌浩の顔を見た。 きょとんとした表情が返ってくる。 敏次は思い出して、あの時の顔はなんだったのだろうかと思った。 差し出して断られた手を、今はこうも安易につかんでくる。 「前は酷い顔していた。」 死相だったとは言わずにいた。彼はこうして生きているのだから。 「・・・。」 「顔色が良くて何よりだ。」 敏次は荷を持ってそれだけ言い置いた。 [07/3/1] #小路Novelに戻る# #Next?# −Comment− 相の続きです。 が、あまりにもテンションが違うのでタイトル変えました。 次は彰子です。あと2話くらい続きます。気長に書きますが。 昌浩と彰子の甘いのを書きたいけれど、なかなかなか。 |