※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※




WeekendVegetables







 安倍の家の一角には畑がある。
 夏野菜のナスにオクラ、キュウリ、トマト。
 今年は玉ねぎとジャガイモが豊作になった。

 今日は夏前の収穫祭。



 ダンボールに大量の玉ねぎが入っている。
 紅蓮は大きめのを取って、土のついた皮を剥いていく。
 15個選んで、ザルに溜まる。
 今夜はカレーだ。得意料理である。
 だが、今日は本腰を入れて作らないと料理に自分が負けてしまうだろう。
 勾陣が台所に入ってきた。
「・・・そんなに入れられるものなのか?」
 目を見張って率直な感想をもらした。
 一つ取り上げて手の中で放る。
「ここで使わなくて、どこで使う」
「盛大に使えるのはわかってるが、多くないか」
「こんなものだろ」
 意に介さず、紅蓮は根を取り、お気に入りのナイフでだかだかと玉ねぎを刻んでいく。
「紅蓮ー、母さんは?」
 昌浩が畑から戻ってくる。
 手にはまだ軍手をしたままだ。
「露樹なら洗濯物を干してるぞ。」
 来週から梅雨入りしそうなので、その前ここぞと洗濯をしているのだ。
 畑いじりも然り。土曜日で人手もある。
「あーなら紅蓮。ごみ袋、何処か知らない?。やぶからし取ったんだけど。いつものところにないんだ」
「買いだめが納戸にあるぞ。」
「わかった。」
 そしてたかたかっと足早に出ていった。
「紅蓮、今日使う分だけ・・外で洗って・・・持ってきたんだけど。」
 今度は彰子が入ってくる。
 バケツいっぱいのジャガイモを重そうに持ってきていた。
「彰子嬢。一度に持ってきすぎだ」
 勾陣は取っ手を一緒に持ってやる。
「そこ、新聞紙のところ。」
 床に引かれている。
 バケツを置いた。
 彰子は大きな息をついて、紅蓮と目が合い、笑い合う。
 朝8時に来て手伝っていた。
「どこまで掘れた?。」
「まだ半分。」
 彰子は肩をすくめる。
 畑には他に昌浩の父の吉昌と青龍と白虎と六合が出ている。
 半年分は出来ている玉ねぎとジャガイモだった。
 蔵で保存できそうなものを選別するのは六合。
 昌浩が戻ってきた。
「あ、彰子。」
「昌浩。」
「うわ。あの重いの持ってきたの。」
「うん。持てるかなと思って。」
「無理するなよ。腰に来るよ。」
「うん。あ、青龍がやぶからし刈るの手伝ってだって。脚立出してたけど」
 彰子が言うと柔らかく聞こえるが、正しくは言外に言ったのだろう。
「わかった。」
 そしててけてけっと昌浩と彰子は庭に出て行く。
「・・・暑いのに、元気だ。」
「ウォータークーラー作って、持っていくか。」
 勾陣は肩を竦めやった。





 ボールには、きざまれた太量の玉ねぎ。
 よく炒められるようにスライスされたもの。
 形が残るようにざく切りのもの。
 紅蓮は山盛りの玉ねぎを熱した深鍋にあける。玉ねぎがじゃっと威勢の良い音を立てた。
 木ベラでボールの玉ねぎをこそぎ取り、玉ねぎ全体を深鍋に押し込む。
「・・・・炒まるのか?」
 傍のテーブルでジャガイモを剥いていた六合が一応聞いてくる。
「なんとかなる。」
 深鍋を注視したまま、紅蓮はかき混ぜ始める。
 力技の見せどころではある。
 六合はそれ以上の感想を持たずにジャガイモ剥きに再び専念する。
 隣りで皮剥きを手伝う彰子が常人の感情で正しく苦笑いした。
 台所の向こうで露樹がふぃーんと掃除機をかけている音がした。
 料理は彼らに任せて、家の中を一斉に片付けているのだ。
 ちなみに天一と朱雀は紅蓮に渡されたメモを持って出かけている。
「こちらにお邪魔してもよろしいかな。」
「晴明。」
 紅蓮と六合が異口同音で名前を呼んだ。
 二人の声に、もう少し休んでいろという響きが混じる。
 夕べ遅くまで陰陽師としての用事をしていたのだ。
 昌浩も出動したが休日は元気なのがおこちゃまなので例外。
「露樹に掃除を頼んだんじゃよ。こんな天気のいい日に寝ておれんしな。」
 それでなくても年寄りで朝早くに目が覚める。
 彰子は手を止めて立ち上がり、お茶を入れる。
「晴明。ジャガバタでも食べるか?。取れたてだからうまいぞ」
 紅蓮はヘラをぐーるぐーるかき混ぜながら、尋ねる。
「いただきます。」
 晴明が答えたので、六合が立ち上がる。自分がしようと紅蓮を目で促して、ピンの降りた圧力鍋を開ける。
 ほくほくと湯気が上がった。
「なんじゃもう出来とるのか。」
 「昼にコロッケを作るからその下拵えだ。昌浩がバターで食べたいというので多めに作ってある。」
 六合は皿に一つ取り、ナイフで十字に斬れ込みを入れバターを乗せる。
 圧力鍋で炊いたので皮が自然に弾けておいしそうだった。
 彰子がお茶を出してくれる。六合もその隣りに添えた。
「ありがとう。」
 至極の幸せな、朝の風景だった。





 ぐーるぐるとかき混ぜて玉ねぎが半分になった頃、六合はコロッケとフライドポテトを同時進行で用意していた。
 コロッケは裏ごしして、炒めたひき肉、にんじんを合わせ成形。
 フライドポテトは拍子切りにして水にさらし、ザルにあげて水気を切る。
 露樹が掃除から戻ってきて六合に加勢して、ザルにあげた拍子切りのジャガイモを油に投入した。
 一度中温で揚げるのだ。そして高温で二度揚げする。
 露樹は手際よく用意された芋を揚げ上げて、シートの貼ったバスケットにざらざらっと入れる。
「彰子さん。これを庭に出ている人達に持って行ってあげて。」
「はい。」
 受けとって、彰子は庭に出て行く。そしてそのまま参加する。
「六合さん、ちょっとお隣りさんに行ってくるわね。」
 近所の子供に上げるのだ。
「わかった。・・・コロッケはいいのか?」
「聞いてくるわ。」
 ご近所付き合いは大事である。





 庭では青龍が植木にハサミを入れていた。
 切った枝を昌浩は集めて行く。
 彰子が戻ってくる。
 その手の中にフライドポテトがあったので昌浩は回れ右をした。
「うわーおいしそう。」
「うん。」
 軍手を脱いで、渡してくれたおしぼりで手を拭く。
 昼前にお腹が減ってきたところだった。
 いつの間にか加勢していた玄武と太陰も来る。
 畑の手を休めて大人たちも来る。
 彰子と昌浩は人数分のお茶を入れて配った。
 一番最後にきた青龍に彰子はお茶を手渡した。
「はい。」
「・・・・。」
 スイッと無言で受け取る。
 おおおよそこの男の礼など聞いたことが無いが、なんとなーくわかる。
「あとどれくらい?。」
「切るのは午前中には終わる。」
「うん。わかった。」
 では枝拾いを手伝おう。





 昼ご飯は1時になった。
 でも蔵に入れる野菜は蔵に入れ、後片付けも終了。
 午後にはのんびり昼寝が出来るだろう。
 五月晴れでとても綺麗な青空が広がっている。
 勾陣と天后は縁側にレジャーシートを広げた。
 そこにフレッシュサンドイッチとコロッケとフライドポテトと、採れたてのキュウリ。食事が勢ぞろいする。
 新しく入れなおしたウォータークーラーを昌浩は持ってきた。彰子はガラスのコップをお盆の上にシャラシャラと並べる。
 紅蓮が小皿と箸を持ってきてセッティングしていく。
「紅蓮。カレーはどこまで出来たの?。」
 昌浩は尋ねる。
「玉ねぎは炒めた。半分以下になったぞ。」
 あとは圧力釜で作れるだけのカレーを作り、それで玉ねぎが残るなら明日はハンバーグにすればいい。
 思い出して彰子は感心する。
「あれ・・よく炒まったわよね。」
「さすが紅蓮。」
 たまねぎがしっかり炒められたカレーは兎角おいしい。
 楽しみだと昌浩は嬉々とした顔をした。
 そして今並べられたコロッケもすごくおいしそうである。





 皆が集まってくる。
 皆でだから、『お祭り』騒ぎ。







END
[06/7/4]

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−Comment−

書今年は玉ねぎとじゃがいもが豊作のようです。
3箇所からいただき、他のおうちでも大量に出来ていると報告が。
やっと消化しました。
だから半分実話です。