カフェの仮説
カフェからは、奥ゆかしいエディンバラの町並みが見えた。鉄筋ビルの並ぶ日本のストリート事情がちょっと貧相に思えてしまう。
頬杖をついて勇吹は物珍しげに眺めやった。
「・・・。」
カルノがサンドイッチとカフェオレのオーダーを受け取って席に戻ってきた。こちらを見てすっごい怪訝そうにする。
・・思考に耽りすぎと思われたかな。
勇吹はそれでも思いをめぐらさずにいられなかった。
アークの依頼の白羽の矢は自分達に向けられたのだ。
「(レヴィさんの懸念、的中しちゃったよなー・・。)」
あんまり厄介ごとにならなきゃいいけれど、どうもそうもいかないようだった。
カルノが、アークと自分が似てるっていう台詞が気にかかる。
「(姿形・・じゃないよな。)」
カッコ良かったから。
「(・・無くした指輪か。)」
推理するにしても探偵じゃないから正直わかんない。
そりゃここはグレートブリテンだけどさと、勇吹は紅茶をすすった。
カルノも何か考えるところがあるのか、エディンバラ城から仏頂面で、カフェに入ってからは何か怒ってるようだった。
なんか尋ねるのもこっちの考えがまとまってなかったからそんな気になれず、そうしているうちに沈黙を破り、カルノがぶつっと呟いた。
「おまえさ・・。」
「ん?。」
「機内であれだけワイン飲んで、空港でアイリッシュウィスキー飲んで、更にまたブランデー入りの紅茶、普通飲むか?。」
「え。」
カップを持つ手が止まる。
「だから、これ。」
紅茶の傍にあるブランデーのビンを指先ではじいた。
「(あ、そういう意味でシリアスしてたのか。)」
酒臭かったかなと掌を近づけて息をかいでみる。
「夜、駄目押しでスコッチ飲むつもりじゃねーだろうな。」
「・・飲むつもりだけど・・あ、ダメ?。」
ジト目で睨まれる。・・そしてやおら髪をかき上げるとカルノは深深と溜息をついた。
「チェッ、あーあ、そんなふうに浮かれて余裕ぶっこいてさ。」
椅子に凭れカルノは勇吹から顔を背けた。
「・・とり憑かれんなよ。英霊に。」
その言葉を受けて、勇吹は思考の中で用意しておいた言葉を返す。
「・・うーん・・まぁ・・、それはそれでそう意味で俺が世界一になれば、さ。」
かちゃんとカップを置いて、頬杖をついてカルノに笑いかける。
「カルノあっという間に世界一になれるよ。」
「・・。」
「俺カルノに勝てないし。手っ取り早い話しだけどな。」
「この上、自分が英霊を背負い込めば俺を倒せる方法があっさり知れるなんて思ってるのか?。」
「そ、他にもまだ思ってるよ。・・俺はその英霊を使役するつもりはないってことと閉じこもるつもりは無いってこと。そうすると、いっぱい狙われるんだろうなーってこと。ぐちゃぐちゃいろいろ。」
「・・うぜー。」
「ちゃんと守れよ。」
「あのなぁ・・。」
「そしたら、君は本当に世界一だ。」
「・・・。」
とうとう腹がったったらしい。テーブルから乗り出し、がつんと頭を叩かれる。
「痛いなーもう。」
「だから言ってるだろ。そんな力いらねぇって。」
「可能性で物言ってるだけじゃないか。」
「おまえが言うと現実味帯びてきてかえって嫌味なんだよ。」
「酷い言われよう。」
「・・・。」
カルノはどかっと座りなおすと、一瞬黙り込み、溜息をついて話し出す。
「あんまり今回のヤマ、気にいらねぇんだよ。」
「・・なんで?。」
「・・誰か傷つきそうだから。」
「・・。」
そんな大きな事態にカルノは思えてるのだろうか。まだ自分はそこまでのスケールを感じてはいなかった。
「なんか特に奴におまえは関わらない方がいい気がする。」
「・・どうして?。」
「悲しませそうだから。」
「・・・誰を。」
「ナギを。」
「・・。」
END
|