CLOSE TO HEAVEN
カルノはシャワーのコックをひねってお湯を止めた。
タオルでわしゃわしゃっと髪を拭く。
「イブキー。明日何時に起きれば・・。・・・。」
ナイトガウンを着てバスルームを出た。
「・・・・。」
・・・・先ほど、家を抜け出してきた勇吹は、コロンとベットの上に倒れていた。ポケットサイズの時刻表を見ていてそのまま寝てしまったらしい。
「(・・・あーあ。)」
カルノは冷蔵庫を開けて買っておいたファンタオレンジを取り出した。プルタブを引っ張り、口をつける。
そうこうしている物音で起きるかと思ったが、勇吹はいっこうに起きる気配を見せなかった。
テレビのリモコンを棚から取り上げてカルノは勇吹の隣に腰を下ろした。
ベットサイドのデジタル時計を見やる。22:53.
「特におもしれーもんもやってねーな。」
パツンッと、突けっぱなしのテレビを消してリモコンを放った。
室内が静かになって、ヒーターの空調が回っているだけになる。
「・・・・。」
・・すぅ、と寝息が聞こえてくる。
彼のほうを振り向いた。
「(靴履いたままじゃんかよ。)」
やれやれと、そっとスニーカーの紐を解いた。ストッと靴が足から抜けて落ちる。
「せっ・・の。」
背中と脚を抱えてもっとベットの上の方まで勇吹の体を持ち上げた。
彼が少しだけ身じろいだ。
「・・・・?。」
カルノは怪訝に、少し身体を放し彼の顔を覗き込む。
「・・・泣いてんじゃねーよ。」
ツゥ――・・と涙が目尻から頬を伝ってこぼれていた。
ぼそっと呟いて、指先を伸ばす。
親指の平ですくうように拭った。
ん、と、彼が薄ら目を開ける。
「・・・カルノ?。」
気付いて大きく目を開けた。カルノが自分を寝かしつけてくれようとしているのに気付く。
「ああ、ごめん。寝ちゃってた?、俺。」
「・・・ああ。」
たまたまの親切を見られてぶっきらぼうに答える。かえって起こしてしまったせいもあった。
いそいそと身体を起こす。
「・・・・カルノ。」
服の裾が、ツンと引っ張られた。
自分のものとはまったく違う温もりが触れる。
「・・・・。」
追うように身体を起こして勇吹が左の肩口に、そっともたれた。
彼が少しだけものを言うようになって、肩を貸してから、時々こうして寄りかかってくる。
最初は、「悪い」とか「肩貸して」とか言っていたのだけれど、昨日も今日も、もうなにも言わない。
自分も、ああとか、いいよとか言わなくなった。
カルノはベットサイドの壁にもたれる。勇吹がそれに合わせてもっと深く寄りかかって楽にして、目を瞑った。
俯いてばかりではいられない、明日のために。
END
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