二重の痛み
「(あーあ。なんか『ついに』って感じだよな。)」
レヴィとナギの誘いに応じようと決めて、不意にそんなことを思った。
勇吹はベランダに背を寄り掛からせた。ぼんやり肩越しの夜景を眺めやる。
家が神社を経営していること、母から伝えられた秘密ノートと、粘土をこねるように物の形を変えられる得意技。
自分の宗教上の世界はそれだけだった。
「(・・。)」
けれど、自分の能力は秀でているらしくて、こんな場所にとりあえず辿りついている。
得意技にも、名前が実はあって、神霊眼。エーテルを操り生きているものを作り出す特殊能力。
言霊の精度もいいらしい。
「(最終的に、いきつくところは、やっぱあれかな。)・・。」
それを思ってややげんなりする。
「(不死にする方法はわからないけど。)若さを維持させるってのはたぶん出来るだろうな。」
はあ、と溜息をついた。
――――たぶん、俺は人を生きかえらせる事が出来る。
神霊眼に加えて、自分には命を甦らせることが出来る言霊が伝わっているから。
「でも。」
たとえ、自分に近しい人でも、まして自分のせいで死んだ人でも、
それはやらないと決めたこと―――。
「(決めたことなんだ。)」
かすかに霞める気持ちがある。
・・・・部屋の向こうから台所に通じる扉が軋む音がした。なんて時間に起きてんだよと顔に書いてある。それでも心配して気を使ってくれてんだよなと苦笑いして、カラになったコップを勇吹は手摺から取った。
「・・。」
自分の戒めなど、どうでもよくなるかもしれない。
それは自分のためでないはずだった。
彼が淋しくなければ、そして彼が望むならば。
離れていくとしても。
END
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