ありえた未来に






 出仕のため着替えていると、妻戸を叩かれた。
 昌浩・・と、尋ねられる。
「彰子。」
 呼ぶと、彰子がひょいと顔を覗かせた。
「おはよう。」
「おはよう。」
 彰子は答えて、昌浩の顔色を見やった。
 心配げに。
 昌浩は苦笑いした。
 一昨日の久しぶりの夜警から、さっそくぶっ倒れてしまったから。
「・・・。」
 けれど彰子は何も言わずに傍にやってきて軽く襟を整えてくれる。
「露樹様が、朝餉の用意が出来たから、いらっしゃいですって。」
「うん、わかった。」
 答える。
 答えながら昌浩は、
 彰子が傍にいて、安堵している自分を感じていた。

 ほら、こんなに近くにいる。

「・・・なに?。」
 見つめられているのに気づいて彰子が首をかしげた。
「ううん。髪、すぐ結い上げるから。」
「うん。」
 と、言って、彰子はぱたぱたと部屋から出て行く。
 その後ろ髪を眺めながら、
 あらためて、本当に家にいるんだなぁと、思った。





 ありえた未来に、瞠目する。
「・・・。」
 格子の向こうにいたのが本当に彰子だったのなら、
 手を伸ばしていた。
 偶然が、叶って、衝動に走って、
 抱き締めて、
 連れ出して、
 命を軽々しく捨てた自分なら、するだろう。
 目先に走るだろう。


 だって、知ってるから。
 君に最奥は似合わない。
 君は本当に奔放で明るくて、意思があって、強さがあるんだ。







 だから、
 ありえた未来にぞっとした。









 髪を整えて結い上げて、烏帽子を被った。
「・・・。」
 その思いの偏りにもちろん自嘲もある。









 ならば、あの姫は?、と、
 彰子の幻でもなく、現実に存在する章子。
 問われれば、答えは決まっていた。



 ―――ありえたはずの彰子を重ねて、守る。


 昌浩は目を伏せた。

 それは酷い理由だけれど、


 俺はそれでいい。












END
[04/6/5]

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−Comment−

章子様を守る奴はこれからいくらでもいるのだ。
紫式部に、一条帝。
だから、昌浩が章子を守る理由は、この位じゃ・・・・・だめかなぁ。
昌浩が守るのはあくまで彰子だってば。
章子は、彰子と二人で守れ!

なーんてのが、『光の導を指し示せ』直後の感想。
相変わらず彰子が好きな如月。今回は章子まで出てきてくれて二乗で幸せ。
章子も、守り甲斐のありそうな子じゃのう。

天后もしょげた感じが想像できて、可愛いわ。
青竜と並んでて、なんか可愛いわぁ。
上手いなぁ、結城先生。

もっくん復活。結構完全復活?。
なのでその感想文も書いてるところ。それもそのうちに。