ありえた未来に






 寝つけなかった。
 早くに目覚めてしまった。
 俗に言う睡眠不足である。
 ひとえに土御門殿の中宮のくだりが胸にこごおっているせいだ。
 まだかわたれ時だが、時機に朝になるから、彰子は身支度を整える。
 頭がぼーっとしているけれど、簀子に降りて朝の風に当たれば目が覚めるだろう。
 妻戸を開ける。ひんやりとした夜明け前の空気が室内に流れ込んだ。
 雨は上がっていた。雲間に星が見える。
 そっと静かに簀子に降りた。

「・・・・っ。」
 彰子は目を見開いた
 目を向けたのは安倍邸の庭のはずだけれど、
 これは既視感?。
 緊張で、彰子は微かに息を飲んだ。
 それとも誰かの夢だろうか。私はまだ目覚めていないのだろうか。
 あまりにも現実的で、彰子の意識が夢に同調して行く。
 安倍邸での暮らしは一睡の夢で、今、ここで目覚めたのだろうか、と。
 かわたれの闇が誘う。




 目の前には怪異を収めた昌浩が立っていた。
 戦闘で傷だらけで、疲労していて、
 思わぬ遭遇に目を見張り、
「・・・・彰子。」
 口にしてはならないこの名を呼ぶ。


 ありえた未来に、
 胸に切なさが込み上げた。
 感慨と安堵で両掌で口元を押さえる。
 護るという約束に、偽りは無かったのだと。


 やがて、私を安心させるように昌浩が笑った。
「もう大丈夫。」
 初めて助けてくれた時と変わらない声で。
「ずっと、護るよ。」
 約束したから。


 そして、信じた。










 中宮の彰子の頬に涙が伝った時、
 心に二心が流れ込んだ。


 誰トノ約束ナノカ。
 私デハナイ誰カ?。


 顔を上げて、見やると、
 昌浩の向こうに知らない人がいた。
 目を剥いて慄然とする。


 昌浩は後ろ髪引かれることなく踵を返して、消えた。
 中宮の彰子も引きとめなかった。


「・・・・・。」
 そうかもしれない。
 ありえないことじゃない。

 去来する悲しみに、
 頬に伝う涙の意味が変わる。




 ・・・・・・・・けれど、
 それでも彰子の胸に憎悪は生まれてこなかった。
 やがて静かな心がこの胸を、再び満たしていく。


 嘘偽りは無かったのだと、
 護ると言う、約束に。

 偽りは無かった。


 それだけでいい。
 私は大丈夫。



 信じたのだから。







 ありえた未来で。











END
[04/10/19]

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−Comment−

 つい・・・・彰子側を。


 BGMは中島みゆきのMayBeだなと、CDを探す。
 数ある中で、無い。
 それを旦那にぼやくと
 旦那が会社の車にあると言う。
 ので、
 朝もはよから、一曲口ずさんでくれました
 ・・・優しいなぁ。
 思いつつ、全部歌詞を覚えてるものだと感心しきり。
 ファンはすごいすごい。

 持って帰ってこようか?。と、言ってくれるのですが
 いえ、充分です(^_^;)。
 歌詞が知りたかっただけなので。