春に舞う雪−四朔−






 ひらりと、舞い落ちる。
 手に受けて、それが雪だとわかる。
「?。」
 出雲の里へ続く丘。辺りはイヌフグリが咲き、野原は春の陽射しを浴びて鮮やかに萌えていた。
 空は青天・・なのに、どうしてと首を傾げる。
 昌浩は振り返った。
 丘陵の道から、見える郷の、
 その向こうの山々を振り返る。
 厳かな白雲が山に降りていた。
「・・・・。」
 ざあっと東風が吹いて、昌浩は一度目を瞑った。
 冷たい感触が頬に当たる。
 風が止んで目を開けると、
 山から吹き降りてきた雪が、辺り一面に降り注いでいた。





 二条堀川のところまで来て、彰子は立ち止まってしまっていた。
 露樹に三条の市へ行くのに、堀川を通っていくといいですよと言われての往き道だった。
 目を奪われたのは、満開の桜の大木。
 冬枯れの往路の時には気づかなかった・・桜の木が混じっていたなんて。
 ひらり、ひらりと、舞う花びらを掌に受けて、彰子は驚愕から覚めて笑顔になる。
 こんな感動は、生まれて初めてだった。
 ざあっ、と春風が木々を揺すった。
「・・・・っ。」
 彰子は被衣をあわてて抑えた。
「・・・・。え・・。」
 顔を再び上げて、小さく、あ・・、と呟いて、目を瞠った。
 花吹雪と誰が称したのだろう。
 視界を遮る程の花びらが降り注ぐ。






 昌浩は、
 彰子は、
 両掌を差し出して、

 青天を振り仰いで、その雪を受ける。


「・・・・・。」


 そう、
 振り向けば、そこに、
 彼が、
 彼女が、
 いる。

 いるような気がして、


 綺麗だね、

 真っ白で綺麗だね、
 まるで誰かさんみたいだね、と
 こっそり笑い合ったりして、



 離れていても、ちゃんと何処かで繋がっている温もりを、
 凭れるように感じながら、
 振り向かずに、昌浩と彰子は目を伏せる。





「・・・・・。」
 風が止んで、雪のように気配は跡形もなく消えて、
 胸に切なさが込み上げた。

 同じ時を求め過ごすことがどんなに難しいか思い知る。





 それでも、


 君の、
 貴方の、


 傍にいる。




 それは願いにも似た、誓い。





 季節が終わっても、朽ちたりはしない想い。






[04/9/8]

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−Comment−
朔とは一日(ついたち)のことです。読ませ方も朔日(ついたち)です。
そして「はっさく」という果物がありますが、八朔と書きます。八月一日頃に実るミカンです。
だから四朔という言葉もあるのかしらんとつけてみました。