春に舞う雪−春風−






 春真っ盛りの卯月の朔に相応しい日だった。
 空は青、木々は萌えて、陽気に花の香りが含んでいた。
「・・・・。」
 二条堀川のところまで来て、彰子は立ち止まってしまっていた。
 露樹に三条の市へ行くのに、堀川を通っていくといいですよと言われての往き道だった。
 目を奪われたのは、満開の桜の大木。
 冬枯れの往路の時には気づかなかった・・桜の木が混じっていたなんて。
 ひらり、ひらりと、舞う花びらを掌に受けて、彰子は驚愕から覚めて笑顔になる。
 こんな感動は、生まれて初めてだった。
 ざあっ、と春風が木々を揺すった。
「・・・・っ。」
 彰子は被衣をあわてて抑えた。
「・・・・。え・・。」
 顔を再び上げて、小さく、あ・・、と呟いて、目を瞠った。
 花吹雪と誰が称したのだろう。
 視界を遮る程の花びらが降り注ぐ。





「・・・・・。」
 彰子は、
 両掌を差し出して、

 青天を振り仰いで、その雪を受ける。


 昌浩に伝えたい、と、思った。・・その昌浩は遥か遠く出雲にいる。
「・・・・・。」
 だけど、
 彼は変わらずに、


 そう、
 振り向けば、そこに、
 彼が、いる、
 いるような気がして、


 綺麗だね、

 真っ白で綺麗だね、
 まるで誰かさんみたいだね、と、
 こっそり笑い合ったりして、



 けれど、彰子は振り向かなかった。
 いないのはわかっているから。
 振り向いてがっかりするのは、躊躇われた。
 彰子は青に映える白が眩しくて目を細めた。


 いてくれたらと思う。
 こんな瞬間を昌浩と一緒に、見ることが出来たなら、
 今よりもっと綺麗に見えるだろう。


「・・・・。」
 傍にいてほしいと思う。
 出来ることなら私だけを、と、とも思う。
 けれど、昌浩が大好きな人はたくさんいて、
 昌浩も大好きな人がたくさんいて、
 私はその中の一人だから、一人占めすることはしない。



 だから強く願う。

 無事で、
 そして、笑顔で、
 昌浩が昌浩であればいい。
 私は昌浩を嫌いになったり、忘れたりしないから、



 彰子の心のように、春風が吹き荒れる。
 花びらが舞った。



 この心一つ、貴方のものだ。



 想いよ届け。






[04/9/8]

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−Comment−
哲学の道の花吹雪は、最高だった・・・・・。

あ、付け足し。
桜は山桜(吉野桜)です。だから真っ白な花。