※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



Lost City −Ending−








 かつての都の姿も、府の姿も、無い。
 南の海も戦乱も、ビルに飲まれた。

 ここは、喪失の街。



 それでも――――――





 新学期。
 三日前に京都から帰ってきて、あっという間に春休みは終わった。
 翌日は寝ていた。昼前には起きて、鍛錬して、宿題して、仕事をちょこっと。
「忘れ物はない・・・よな。」
 春の陽気に誘われて、呆けてしまうのは言い訳になるだろうか。
 今日は本当に暖かかった。
 桜も東京の方が京都より咲くのが早く、既に五部咲きだった。
 昌浩は日常に戻っていた。
 京都に行って、それなりに遂行し、流されも傷つきもしないで済んだ。
「・・・・。」
 けれど、昌浩の顔が辺りの桜とは対照的に曇った。
 忘れ物とは違うけど、少しだけ気にかかることがあった。
 彰子から連絡がないのだ。
 いつもなら春休みも終わりだということで出掛けようということになる。
 それに、待合の部屋で上級生といざこざの話をしなければならないとも思っていた。
 一昨日の夕べに電話したら、家族で出掛けているらしかった。昨日はそのせいで電話が躊躇われた。
 待っていた電話は掛かってこなかった。
 通学路の桜並木。
 登校する生徒達が増えてくる。
 クラス編成表を見るために昌浩も早く家を出ていた。
 今日から、新学期。始業式は8時半。
 俺、京都で何か失敗したのかなぁとそんなことを考えながら昌浩は現在時刻を確認する。7時48分。
 桜を眺めながら昌浩はゆっくり歩く。
 彰子が家から来るなら、そろそろ後ろから来る時間だった。


 腕時計から目を離す。


 見たことのある横顔が目に入った。
 その女子の制服はこの学校のものではない。
 ワンピースのロングスカート。白を基調とした制服を気にして、寄りかかりはせず背筋を伸ばしてガードレールの傍に佇んでいた。
 見たことがある横顔。ただその髪は覚えがあるものとは違い襟足が見えるほど短かった。
 彼女は気がついて、目を瞬かせる。
 やおら一歩前に出て、こちらを向いて微笑んだ。


 昌浩は、瞠目した。息が止まる。
 そしてそのまま動けなかった。

「章子。」


「・・・はい。」
 破顔する。少しだけ切なくもあるけれど。
 彼が名前を呼んでくれた。

 それだけで、いい。







 ―――失えないものがあるのだ、と。












[08/10/1]

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−Comment−

 これでロストシティは終わり。

 こ・・・こで章子の名前を出すのは反則かも。
 とか思いつつ、大体の主要な人たちを出したく、彼女の存在がないのは許せず。

 最後の最後まで伏線バリバリ。