※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



Lost City −19−








 新撰組絡みで観光すると、京都駅まではすぐだった。
 二人だけで新幹線に乗るのは中々新鮮で、キオスクであれやこれやと物色する。
 夜ご飯のお弁当もよりどりみどりだった。
 缶コーヒーを買い、乗り込んだ新幹線にてプルタブを引いた。
 そう言えばコーヒー派だ。
 紅蓮が傾ける缶コーヒーはかっこよくて、好きだ。
 その影響なのがバレバレである。
 二時間半で東京駅に着く。
 迎えは頼んでいなかった。そう荷物があるわけではないので。
 だが、ホームに物の怪がいたらしい。
 いたらしいというのは、夕刻の東京駅は混雑していて間違いなく見落としたからだ。
 出来ればその怒りの矛先も見落としたかった。
 物の怪が階段上のホームから、怒号とともに降って来た。
「かっこつけすぎなんだよっ。」
 下りエスカレータの中途でかかとおとしされた昌浩は声も出ない。
 ので反論も出来ない。
「何故、俺を呼ばなかったっ。」
「・・・・。いや、あのさ・・。」
 新幹線のエスカレータがそこで終わり、降りる。
 混雑する駅構内の隅に行く。
「・・・・・・いろいろいろあるし、あったわけで。」
 本当ならこんな公衆の中で雑鬼よろしく降って来るなといいたいが、今は物の怪の怒りに気圧された。
「わかってるが、怒鳴らせろっ。」
「それ、俺、きついだけだから。・・・・そもそもさ、冥官の視線がきつかたんだよ。じい様も自分で何とかしろ的だし。」
「ええい黙れ黙れっ。」
 ぺしぺしぺしっ、とその前足ではたかれる。
「そうよ。」
 彰子が物の怪に加勢する。
「それでも、私は紅蓮を呼んで欲しいわ。」
「えらいっ。もっと言ってやれっ。」
「・・・・。」
 東京駅の片隅で、相棒と幼馴染に結託されて、顔面を押さえて頭痛を押さえた昌浩だった。







 帰宅は夜10時になった。荷物を放り出す。
 物の怪は相変わらず仏頂面だった。
 その物の怪を抱き上げて、窓辺に座り込む。
 ここは静かな家で、東京の夜景とは少し無縁な場所だ。
 だがここに帰ってくるまでの光の渦は、京都のそれより凄まじい。
 膝の上の物の怪ははたりはたりと尾を振って不機嫌そのものだ。
「俺も行くなと言われた。」
 それでも、じとっと見やる。
「だがな。呼べばいくものを呼びやがらねぇ。」
「だってまさか鬼が出てくるとは思わなかったんだよ。」
「・・ほんとかよ。それにしてはやけに重厚な布陣じゃねーか。」
 物の怪が・・・紅蓮がいたならもう少し適当でも良かったかもしれない。
「おまえがそれで出来ると判断した。」
 昌浩は押し黙った。
 結果、青龍が怪我を負ったのだ。
 その痛みの責任は自分にあると昌浩は思っていた。
「結果は、おまえが抱え込むしかないぞ。」
「わかってる。」
「・・・ならいい。」
 物の怪は変化を解いた。
 紅蓮に戻る。
 紅蓮は昌浩の頭を一つ撫で、物の怪がされたように膝に乗せた。
「一番難しい神将達を効果的に動かせたんだ。自信持っていいぞ。」
 昌浩は目を見張る。そしてうつむいた。
 その声と腕の中の温もりは大きすぎて、そこから降りようとは思えなかった。
「でっかくなったな。」
 わしゃわしゃと頭を撫でたのだった。




 そのまま寝てしまった昌浩に往年の彼を重ねる。
 勾陣が入ってきて、そんな騰蛇に肩を竦めた。
「会での評判は上々だったらしいぞ。」
「本人は無自覚だろうがな。」
 昌浩のかしこまった顔は家族からすれば、頑張っているなぁと思われる代物だ。
 彰子は・・・頑張っているとわかっていても、そのかしこまった顔が客観的に見れば凛々しく映るということもわかっているようだ。
「青龍の奴は?。」
「おまえに心配されたくないだろうさ。」
「俺はいいんだよ。昌浩が気にしている。」
「大事無い。抜かったのは奴だ。・・・・それに天后を泣かせたんだ。」
 先程見に行ったら、傍にいたのは天后だけで、それもそのはず、治療の水流を彼に翳しているからだ。
 彼の傷の痛みを自分の心の痛みにする。
 こちらを振り向いた時、目をこすったのがわかった。自分は見ない振りをした。
「全面的に青龍が悪い。」
 同情の余地など無いと勾陣は腕を組んだ。
「・・・・・。」
 天后を泣かせたことが非常に気に入らないと言うことだけはわかった。
「まあ・・な。あいつは、主が死ぬことを考えたなら、自分が死ぬ方を選ぶ奴だ。」
 それはおまえもそうだろうと、勾陣は心で言い返した。
 腕を組んで話題を変える。
「太裳が言うには、鬼は浮き足立っているそうだ。まだ戸惑っていて動き出さないでいる。」
「・・・・。」
「冥官も大変なようだ。億尾にも出さないだろうがね。」
「せめて情報をくれればいいんだがな。」
「くれると思うか?。」
「大した戦力と思っていないだろうな。」
「・・・私達はな。」
 所詮は人に仕える神だ。その力は人以上にはならない。使役されて初めて有効な力を使えるのだ。
 鬼は妖と違う。
 鬼はかつて人だったもので、その力は神将を凌ぐ。
「だが、昌浩は、少し面倒を見てやろうという気があるのかもしれない。」
 冥官がこれほどこの世の個人に会うのは珍しい。晴明だってない。
「迷惑な話だ。」
 騰蛇は溜息をついた。











[08/10/1]

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−Comment−

ロストシティは書きたいシチュエーションを押し込んで、しかも伏線バリバリで。不親切な文章だなと読み返して思ったり。
伏線を張ったけど、伏線を消化していくと、篁並みにきっつい言い回しが出てくるので、ぼちぼちにします。
むしろ書かないほうが身のためかもとか思っています。
次ページで完結。やっぱりちょっとある意味きっついかな。


そのあとは普通にノーマル書きます。
雨の話し〜。


迷いの路を〜〜>
あ、ごめん、昌浩。私、その痛み、とうに克服してウン十年。遠いわ〜〜〜TワT。
何せ中一に負って、中二中三で癒したわ。

やたらめっぽう強い昌浩が見れて、ちょっと嬉しかったり。
彰子を含めた晴明サイドの記憶がごっそり無いのがちょおっと口惜しいがーーーーっ。
強いよ強いよ。なんじゃありゃ。かっこいいよーっ。

と言うのが感想。