※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



A fortune-teller

〜一夕〜





 昇降口にオルガンの音色が響く。
 『大地讃頌』のメロディだ。
 卒業式に全学年で歌う。どこかの教室が放課後を練習に当てているようだった。
 昌浩はとんとんとつま先を打って靴を履きながら、ちょっとだけ放課後が帰宅部なのが淋しい気がした。
 でもそれは皆が一様に感じてることで、塾に行くとか、帰っても誰もいないとか、部活動でもして遅くに帰って来いとか。
 だから、好きなことしたり必要とされたり選ばせてもらっている自分は恵まれているのだろう。
 カバンを肩に掛けて、ほうと手に息を吹き掛けた。
 北の寒気が下りてきていて、すごく寒い。
 昇降口を出て学園のバス停に向かう。
 ちらっと定期券を確認した。
 持ちなれていないので落としてないか、つい確認してしまう。
「(最近自転車乗ってないなー。)」
 暖かい日に今度高尾の方へ遠出してみようか。
 などと考えていたらバスが来て、乗り込んだ。
「・・あ。」
 と口の中で呟いて、昌浩はほりほりと頬を掻いた。
 そしてがら空きのバスの二人がけの通路側に座った。
 窓際には、吐く息のように真っ白な物の怪が座っていた。
「ただいま。現地集合かと思った。」
「おかえり。一度行って、迎えにきた。バス停からは、わかりにくいところでな。」
「ありがとう。」
 肩に物の怪がひょいと乗ってきたので小声で耳打った。
「今日は紅蓮は物の怪姿なんだ。」
 正直ちょっこんと可愛らしい姿でバスに乗っていたので、トトロの猫バスかとツッコミをいれてしまった。
 紅蓮なのに、もっくんなのだ。
「小回りききそうだし、バイクでなんで来なかったのさ?。」
「冬にバイクを転がすと寒い。てゆーか、あわよくば乗りたいとか思ってるだろ。」
「もちろん。」
「危ないから基本的にダメだと言ってるだろ。」
「危ないかなぁ。」
「それに俺が好きなように運転出来ん。」
「うわ。自己中。」
 そう言い返したら、ぱしっと尻尾で頬を叩かれた。
 昌浩は苦笑いした。
 8つ先のバス停なので深く椅子にもたれる。
「でもさ。今、毛虫の件もあって、結構あっちこっち調査とか大変だからさ。」
 季節はずれの毛虫が空から降って来る・・・そう言った事が都内で頻発していた。最悪なことに先週『祟り』だとテレビで宣言した人がいて、おもしろ半分にした人、本気にした人、で少しややこしい事態になっていた。
 本当は、暖冬兼ヒートアイランドのせいで季節がズレているだけなのだ。駆除するシーズンはもう少し前か後、そういう話だった。
「一気に雪でも降れば、多少は減るんだろうがな。まあ、そのうち収まるさ。テレビの情報なんか、あっという間に次の情報に流されるもんだ。」
「そうだね。」
 昌浩は窓辺に頬肘をつく。
「・・・それにしてもじいさまが行くのに、なんで俺まで、行くことになるんだろう。」
 祖父が行くなら陰陽師として自分がすることはあまりない。 ただ人手はいるんだろうと思った。
「行ったらわかる。」
「・・・。」
 昌浩達が向かっているのは清涼学園附属の大学だった。
「あんまり大事じゃないといいけれど。」
「大事かは陰陽師が決めることだが・・・。」
 物の怪は、かりかりと長い耳の後ろを掻く。
「つるべおとしが出る。」







 つるべおとし・・現代風に言うと、街路樹から、人の頭部だけでどぼんと落ちてきて、通行人を驚かし笑い飛ばす物の怪。
 そして白い物の怪のもっくんは後ろ足立って腕組みした状態で昌浩にとうとうと語る。
「あれを見ていいか?。俺を物の怪と言うな。本来はああ言うものだ。」
「じゃ、妖。」
「間違っちゃいないが、淡白なんだよ。」
「じゃあ、妖のあっくん?。」
「・・・おまえのネーミングセンスはどうしてそこに落ち着くんだ!。」
 喧々囂々と怒鳴る物の怪を素通りして、昌浩は大学図書館を見て回る。
 どうしてこんなところに中学生がいるのだろうと不思議そうに大学生達が振り返る。
 昌浩は、内心とほほと思いながら、学生服につけた館内を回るための見学用のバッチを見る。
 これで説明するしかない。
 見学ですと堂々と言えば案外不信がられないものだ。
 先程、理事室にまず行った。祖父晴明と理事である藤原道長がいて、道長仲介のもとで晴明は紹介されたようだった。
 依頼内容は大学内に住む妖怪の除去。
 昌浩はうーむと唸ってしまった。
 そうこうしている時、ぼとりとまたつるべおとしが落ちてきた。髭の濃い真っ赤な顔をしていた。
 そしてげたげたげたと笑い出す。
 昌浩は一つていっと蹴りを入れるが、それがまた可笑しいのか、箸が転げて可笑しいくらい笑い続ける。
 こんなのが、敷地内にぼとりと現れるそうだった。
 昌浩は只今は現地調査中だった。
 そして大学は広い・・・・つまりこういう意味での人手がいったのだった。
 古狸めと思ってしまうが、祖父の命令は絶対だし、なにより自分が調査した方が不信がられないのも正しいところだった。
「(それに・・。)」
 昌浩はつるべおとしを振り返る。
 おもいっきりけなすように笑うのでむかっぱらは立つ。
 が、反面、ほっときゃいいのに、と思うのだ。
「・・・。」
 だってどうせ見えないのだ。
 多少の霊感のある人達が見えるだけで、普通は見えない。
 けれど、必要以上につるべおとしを理事達が怖がるのは、つるべおとしが人を食うと言われているからだ。
「(食わない奴は、食わないのにな。)」
 要は食う奴だけ、退治すればいい。
 又、ここまでたくさんの自縛霊で無い霊が集まっているのも変だから、その原因を突き止めて、他にばらけさせればいい。
「あれ?。」
 地下の閲覧室に来ていたのだが、部屋をぐるっと回ったが、この壁の向こうにあるはずの部屋に入るドアがないのだ。
 図書館内の地図と案内を見てみる。
 確認したところには青で囲み、つべおとしを見たところには赤で星をつけていた。
 物の怪は昌浩の肩に乗って地図を眺める。
「電動書庫だな。」
「・・なにそれ?。コンピュータールーム?。」
「レールに乗って動く書棚のことだ。書棚が重なっていて必要な場所だけ書棚を動かして通路を作り、本を取る。・・・・・ああ、ここもそうだ。閉架になってるんだよ。」
「閉架?。」
 再び昌浩が尋ねるので物の怪は近くの書棚を差した。
「こうやって普段公開している書棚を開架という。反対に公開してない書庫が閉架だ。古くなった本や貴重書が保管されていたりする。電動書庫は閉架の書庫に使われることが多い。・・・さて、入れるかな・・。」
 物の怪は地図から顔を上げた。
 ドアは防火用の壁みたいになっているのがそれだろうと思われた。
 その横に、ICカードを切る場所があった。
「入れそうにないな。学生証か職員証がいる。」
「あ、あれカードリーダーなんだ。」
「ああ。あとで道長に言って入れてもらうしかないな。後にしよう。」
「わかった。」
 昌浩は時間を見る。只今5時だ。大学は10時までやっているから、まだ調査は出来る。
 先に閉室する職員棟、許可の要る講師棟は既に。図書館も閉架以外は見た。
 次ぎは、講義棟4つ。そのあとは学食。研究センターを見て回っている晴明と待ち合わせており、軽く食べることになっていた。その後、サークル棟、グラウンド。
「・・・・・。」
 少々気が遠くなった昌浩だった。







 23時に帰宅した昌浩だった。
 くたくただったが遅い夕飯を食べていた吉昌と食事することが出来たのがちょっと嬉しかった。
 晴明は先に帰ってきていて食べ終わったところである。
 大忙しだったのは主婦の露樹だ。3世代が時間差で帰ってきた。
「昌浩も、サラリーマン並みねぇ。」
 と、昌浩と紅蓮の膳を揃えながら露樹はほけっと正しく指摘する。
「訴えれるよね。」
「あら、我が家に労働法はあったかしら。昌浩?。」
 ご飯をよそって、昌浩に渡した。
「・・・無いよねぇ。」
 ぼやく昌浩に紅蓮が付け足す。
「どちらかと言えば、働かざるもの食うべからずだな。」
 紅蓮は自分を含めて5人分のお茶を入れる。一つ盆に置くと、勾陣が現れたので渡す。
「晴明に持ってってやってくれ。」
「わかった。」
「おまえもいるか?。」
「後で自分でする。早く食え。」
 そう言って、盆を持ってダイニングを出ていった。
 食事を済ませ、お茶を取って吉昌が呟いた。
「まあ。無理はするな。」
 流れとして必然的になだめ役が回ってくる吉昌だ。
「結局、何事だったんだ?。」
「・・・人の魂が、学校中にばらけてた。・・一部がつるべおとしになっていた。調査してわかったのはそれだけで。検証はこれから。」
「明日も行くのか。」
「うん。まだ見ていないところあるから。」
「今日みたいに遅くならないで、適当に切り上げて帰ってこいよ。」
「・・・うん。」
 返事は少しだけ悪かったかもしれない。









[05/3/1]

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−Comment−

5ページで終わるかな。ちょっと書き出してみました。