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カクテル・ラウンジ





 北欧、海上基地。サンクキングダムの地下基地とはまた別の場所にある。
 今後火星探査の情報基地になるのだろうか。
 ヒイロは荒々しいフィヨルドの岸壁に立って空を見上げる。
 もう既に彼らが火星へ飛び立って4日になる。
「(あいかわらずだな)」
 戦うべきものに対する嗅覚が誰よりも鋭敏だ。
 行方不明だったこの半年以上かけて準備してきたのだろう。
 おそらくは妹がマーズテラフォーミング計画すを発表する以前。
 あの兄は妹をよくわかっている。
「・・・・。」
 ヒイロはフィヨルドの崖を下りていく。
 中途に非常用の入口があるのだ。
 そこへ難なくたどり着いて、鉄の階段を地下へと降りていく。
 中は外に比べてだいぶ温かい。
 着ていたコートを脱いだ。手に持って歩く。
 ヒイロは管制室に入った。
 ハワードがいた。
 それから。
「・・・。」
 目を見張った。
「お。ヒイロ。」
 相手はいつもどおり陽気に声を掛けてくる。
「・・・どうしておまえがここにいる。」
「スイーパーグループの物資の輸送と、ハワードの手伝い。」
「・・・・」
 それは、いつからだ。
 彼らが飛んだことを自分が知ったのはちょうど一週間前だ。コロニーに航路を通達してきた際、それらを理解した。
 物資輸送のデュオの場合は、去年の11月からは最低でも必要になる期間だろう。
 それをおくびにも出さない。
 自分と違い戦争が終わったあとの今でもデュオは裏社会のプロフェッショナルであり続けている。
 あとどれくらいのことをこれはこなしているのだろう。
 ヒイロは憮然とする。
 そしてこれを慕うものがいる。それはそれでまた優良であった。
 ヒイロは何の感想も言わないでコンソールの一つに納まった。
「なんだよ。機嫌悪いなぁ。」
 デュオは文句を言った。
「ヒイロはいつもそんなんじゃろ。」
「やー、とりたてて悪いぜ。」
「そうなのか?。」
 ハワードはヒイロのところに言って、何をしているのか伺いつつ、尋ねる。
 ヒイロは当然応えない。
 理由はいくつかあったが、言いたくない。
 デュオは手持ちの缶ジュースを傾けて、別の話を振る。
「まあいいや。おまえ、お嬢さんの大統領演説の警護に当たるから来てるんだろ。」
 カトルからの連絡だった。ノインが行方をくらましたからヒイロにお鉢を回した。
「・・・・必要ない。」
「はあ。じゃあ何で来たんだ?。宇宙からわざわざ。」
「紙ベースの資料を渡しに来た。それだけだ。」
「はあ?。なんだよ、それ。」
 ヒイロはそれ以上教えない。
 任務だからだ。
 加えてその任務の内容も内容で、これを慕う奴の揃えたものの輸送に過ぎないから話したくもない。
「ヒイロ。おまえさんはさっきから何をやっとるんじゃ?。」
「観測データをもらう。」
「・・おまえさん・・タダで抜く気か?。」
「そのぐらいさせてもらう。勝手に行方不明になってた奴が悪い。」
 ヒイロは相手のせいにする。
 あらかた抜き取って、自分専用の回線にデータを蓄積できるようにもしてしまう。
「なんじゃ、おまえさんも火星に行くつもりかいな。」
「・・・ああ。」
 言葉少なに、そしてそれ以上は応えない。
 だからデュオがポンと手を叩いた。
「あ、俺、わかった。おまえが機嫌悪いの。」
 指差す。
「本当はお嬢さんと自分が行きたくて、ゼクスとノインが揃ってちゃっかり行っちまったもんだから気に入らないんだろ。」
 余計に、ヒイロは答えなかった。






 大統領選挙の演説。
 戦争が終わった直後の大統領は任期を1年としていた。1年後の1月にもう一度行うという選挙戦は無事始まった。
 この任期は4年。そして次々選は出てはならないというものだ。
「・・・。」
 4年か・・、と思った。
 正直、今のリリーナに大統領は難しい。
 民衆が想像できないからだ。
「(・・8年か。)」
 長いな。
 ヒイロは一人ごちる。
 二階桟敷席から、彼女を見る。
 この角度から銃口を構えたことがある。
 ガンダムからの高さもこのぐらいだ。
 そんなことを思い出した。
 この手にはそれらはなく、『今』に見据えられている彼女の視線がこちらに向くことは無い。
 今の立ち位置は自分が兵士だった時のものだ。いつでも狙える。いつでも守れる。
 だから、もうこれ以上は不必要だから演説会場を後にした。






 空港ターミナルに一番近い市街のホテルに昨日から滞在している。
 宇宙に戻るのは定期便のある明後日だ。
 明日は旧欧州立図書館に寄るつもりだ。その予定で特別室に入る予約も入れている。
 大学生と言う大人の身分は思ったよりも動きやすかった。
 信用のされ方が違うというところだろうか。
 ホテルの部屋は10階。窓からは夜の滑走路がよく見えた。
 ヒイロは部屋に入った。
 ソファーの前のテーブルに勝手にオンになっている端末が合った。
「・・・。」
 厳重にロックしてあるはずの端末だ。
 解かれるはずも無い代物になっているはずだが、思い当たるのが一人いる。
 やろうと思えばいつだって出来るという、そのテクニックの本領を発揮して挑んできたのだから、多少怒っているのだろうと思われた。
「・・カトル。」
 端末のモニターを開き、呼びかける。
 一呼吸分応答が無い。
 カトルは実は気性が荒いほうだ。
 始末に置けないくらい性質も悪くなる。
 モニターにカトルの姿が映った。
「ヒイロ。サボりましたね。」
「あれだけの警備がいるんだ。必要ない。」
「まだ、そんなことを言うんですか。」
 真面目な顔に冷淡さを乗せて呟く。
「なら、どうしてわざわざ地球まで行っているんですか?。」
「リリーナが聴講を望んでいる。その上に望まれていることがある。」
 そのことについて語り合ったことは一度も無い。頼まれたことも無い。
 だがお互いに知っている。
「・・・まだやってるんですか、それ。二人して。」
「・・・・。」
「それでもリリーナさんは君にいつだって会いたいと思っているんだ。それで頼んだのに。」
 サンクキングダムの頃からの自分とリリーナの関係を知っているだけに食い下がる。
 ・・デュオだったらこうはならない。リリーナを殺そうとした当初をわかっている。
「テロリストのデータを融通したんだ。状況も把握した。任務なら完了している。」
「・・・。」
 誰が指示したわけでもないがヒイロはそう解釈するのだろう。確かにそうとしか解釈出来ない面もある。
 聞いて少し、リリーナの気持ちがわかるような気がした。
「・・そうですね。わかりました。」
 ヒイロに任務と言う言葉自体を使わせたくない。
 カトルは話を変えた。
「じゃあ報酬の件です。」
「・・なにもしてない。」
「テロリストの個人情報をくれたのは誰でしたっけ。」
 その情報を見つけたのはそもそも自分ではない。
 諜報員として優良な奴がそろえたものだ。
「・・わかった。」
 ヒイロは応諾する。自分に報酬などいらないが、他の者がそうであるとは限らない。
「適当に口座作っておきますからあとでアクセスしてくださいね。」
 カトルがそのデータを送信した。

「・・・。」
 その時だ。リリーナの声がした。

 もう一人と共に近づいてくる。
 幻聴と思うにはこの耳は出来すぎていて、ヒイロはドアのほうに注意を向けた。
「ああ、それ。サボった罰ですよ。」
「・・カトル。」
「彼女のエアポート最終便の経由が6時間遅れているんです。よくあることでしょう?。」
 自身の了見の狭さを露呈したほうがヒイロに勝てる。
「任務は終わっているから。」
 カトルが意地の悪い言い方をする。
「だったら一般人ですね。」
「外務次官クラスを受け入れられる一般人がどこにいる。」
「それそこに。3時間後ターミナルに連れてきてくださいね。そのくらいの恋人の甲斐性は発揮してください。」
 そこで、がっちり切られた。
 後ろのドアも勝手に開けられる。
 さしたセキュリティのある部屋じゃない。
「失礼いたします。」
 髪が長いのが印象的だ。
「あら結構まともなお部屋だこと。これならお通ししてもよろしくてよ。」
「・・・。」
 ヒイロの乏しい表情が、輪を掛けて無表情になる。
「ドロシー。」
 リリーナの声が間近に聞こえる。
「さあ、リリーナ様こちらにどうぞ。」
 大げさなフリだ。
 ヒイロは応接から立ち上がる。
 リリーナが中に入ってくる。
「・・ヒイロ。」
 そしてそのまま絶句した。
 ヒイロはドロシーに呟いた。
「カトルと共謀か?。」
「まあ素敵な響きですわね。」
 ヒイロの低い声音に、ビクともしない。
「それでは私はこのあたりで。リリーナ様、私はエアポートのラウンジにてお待ちしておりますわ。」
 言い残し長い髪を翻して去る。
 ドアが閉まる。
「・・ええと、あの。」
 別れたのがついこの間の2週間前。それは自分たちにしてはあまりにも早いスパンだ。
 逆に戸惑った。
 しかも今は公務中でもあった。ただトランジットが遅れているだけで。
「言い分はカトルに言う。」
 カトルもドロシーも大富豪同士、結託して何かやっているのだ。お互いの利益でも一致したのだろう。
 ヒイロはモニターを閉じて電子音すら止める。
「今は少し、休んでいったらいい。」
「・・はい。」
 リリーナは頷いた。
 大会場を後にしたのは夕食会を終えた7時過ぎ。乗るシャトルの経由が遅れてると聞いたのは夕食会の時だ。
 その時演説会場に来ていたドロシーがやってきた。
 空港までの時間を私にいただけないかしらと、尋ねられ、応諾した。
 それだけだ。
 頷いても立ったままになっていた。まだ公務中なのだ。服装も大統領演説をしたときのままで。
「リリーナ?。」
 ああ、この声がする。
 近くで。
 決して大きな声ではないのに、あの大観衆の声よりも確かに響く。
「・・。」
 この短い期間で会えたことに感動していた。
 戦争が終わったのも実感する。
 そう、夢と未来を共有した彼にいつ会ってもいいのだ。
 ヒイロが訝って近づいてくる。
 だから我侭を言った
「抱き締めて。」
「・・・。」
「強く、ぎゅって。」
 子供の時、父にせがんだように。
「頑張ったんだから。」
「・・・。」
 ヒイロはリリーナが望むままに掻き抱いた。




 安心したのかリリーナがほっと力を抜いた。
 ヒイロはわずかに離れその両肩をもって、頬にキスをする。
「優しいのね。ヒイロ。」
 ヒイロに望んだものの一つ。
 ヒイロは私を支えないといけない。その思いは養父が死んだ直後から生まれたものだ。
 その望みが今叶っている。
「おまえにだけだ。」
 嘘、だ。ヒイロはきっと誰にでも優しいだろう。
 でも、今は自分だけだ。
 ヒイロはリリーナの肩を押してソファに座るように促す。
 彼はそのままミニカウンターに行った。
「ドロシーったら酷いのよ。」
 リリーナは肩を竦めた。
「戦後補償のしわ寄せが大企業に集中して利益が阻害されるとか雇用の弊害だとか。」
 ボヤキながら、ヒイロの手元を眺める。
 何事にも完璧な彼の手つきは柔らかく動く。
 耐熱のグラスを二つ。グラスの大きさはデミタスカップのそれより高く少し細長い。
 ミルクを温める。
「マーケットは自由化すべきだとか」
 ミルクには砂糖が入る。
「散々言った挙句に、これだもの。こういうのも賄賂って言うのかしら。」
「・・・全部つっぱねろ。」
 賄賂にされたヒイロは不愉快千万である。
「企業に無理を強いているのはわかってるの。」
 補償金の、企業規模ごとの3パーセント以上の肩代わりなどだ。
「許容すべき範囲だ。それも。」
 ヒイロは事も無げだ。
「・・。」
 ヒイロの言葉は決定する事項、または決定した事項にとても影響する。
 物事の核心を厳しく突いていてブレることが無いからだ。
 もしかしたら判断をヒイロに任せたら、本当はもっと早く世の中がよくなるのかもしれないわねと冗談で思う。
 ヒイロはカウンターの棚の上に並べられているいくつかのアルコールのうち、スコッチを手に取っていた。
 元から淹れてあったコーヒーを耐熱のグラスに注ぐ。そこにスコッチと熱いミルクを継ぎ足した。
 クリーム色のグラデーションが綺麗だ。
「熱いから気をつけろ。」
 熱いのはアルコール分を飛ばすためだ。
「ありがとう。ヒイロ。」
 プラスチックの持ち手を差し出され、受け取る。
 ヒイロもグラスを持って、自分の右隣に座った。
「いい香り。」
 口に含むと言うほどの熱さはなかった。アルコールはそれほど感じず、ただ体を温めてくれる。
 ミルクの甘さが際立った。
「それを飲んで少し寝るんだな。」
「・・もったいないわ。ヒイロといるんだもの」
「機内でインタビューがある。眠らないと入れたコーヒーで目が覚めない。」
 地球なら、東側では朝になる。生放送となれば、こちらが深夜でも朝だ。
「・・・はい。」
 リリーナはグラスのコーヒーを飲み干した。
 そしてヒイロの肩に頭を乗せる。
 そうだ。あまり焦るのはやめよう。
 会おうと思えば、こうして会える。
 ヒイロがグラスを傾けている。
 こんな穏やかな彼を見ていられるのだから。







 目が覚める。ソファに横になっていた。
 時間が経過したことに気がつく。
「・・。」
 空になった二つのグラスの向こう、ヒイロがホワイトシャツの手首のカフスを止めていた。
 黒のスラックスに、自分のこの肩に掛けてある黒いジャケット。
 リリーナは横になったまま眺めていた。
 背筋の通ったしなやかな立ち姿。静謐さがありながら野獣のようで、こうして圧倒される。
「(他にいないわ。)」
 そっと立ち上がった。
 リリーナは熱に浮かされたように歩いて、ヒイロのその背にすがりつく。
 これは自分のものだと言いたい。夢と未来を共有したのだから。
「・・・。」
 ヒイロが動きを止めた。
 触れられ方が違う。
 この体を嗅ぐように触れられる。
「・・リリーナ。」
「好きよ。ヒイロ。」
 絡み付く白い指先。
 ヒイロはかすかに息を呑んだ。
「・・・。」
 まともな男なら五秒ともたない。
 ヒイロはまともではない。
 少量だとしてもアルコールはやめたほうがいいかもしれないと思った。
 振り返り、髪を撫でる。気持ちよさそうに手に側頭部を傾いでくる。
 顎を持ち上げ、口づけをする。
「ヒイロ・・・・。」
 声が甘い。
 仰のいてきた。細い指先がシャツを掴む。
 吐息を貪るように吸い込んでくる。
「・・・。」
 だから少しだけ、甘い息を返す。
「ん・・。」
 リリーナは満足したようだった。
 絡み付いた腕を離し、そっと抱きついてくる。
 ヒイロはほっとした。
 このまま空港に連れて行けば、公務どころじゃなくなる。
「・・リリーナ。目が覚めたか」
「ええ。とても。」
 先程とはうって変わって、さわやかな返事だ。
「ならそろそろ行くぞ。外に車を用意したから、それで行く。」
「わかったわ。」
 そう言って、リリーナはヒイロから離れた。
 髪を結わいていたリボンを解きながら、レストルームに向かう。
「・・。」
 見送って、今度こそ、我知らず脱力する。
「・・いきなり変貌するな。」
 前髪を掻き揚げる。
 アイリッシュコーヒーを飲ませたのは自制のためだ。
 二時間もあれば出来る。
 そんな劣情は思ってすぐに捨てた。
「・・・。」
 ヒイロはジャケットを着た。
 リリーナが戻ってきた。
「ヒイロ。本当はセキュリティで来ていたの?。」
 今日の演説のセキュリティと同じものだ。
 本当は?、としたのは彼を見つけられなかったからだ。
「ああ。」
「そう。」
 実際は参加していない。参加する必要もない。
 そして・・聞きに来てくれたのだ。それは私の望みのためだ。
 何も言わなくてもわかってくれている。
 ヒイロが先にホテルの部屋を出る。
 リリーナは後続する。





 ヒイロの運転する車の、ヒイロの隣のシートに収まる。
 ものの15分だ。
 彼の肩越しに揺れる空港の夜景を眺めながら、往く。


 ヒイロは空港についてから、その進入経路はさすがだった。VIPのラウンジまで最短で。
 フライトの刻限は正直間近だった。
 でもそこも感服する限りでヒイロには急いでいる様子が無い。
 隔壁が開いてドロシーがいた。
 視線はこちらにくれてやるが、紅茶を傾けソファに収まって見向きもしない。
 ヒイロは出入り口付近で立ち止まる。
「ありがとう、ヒイロ。」
「ああ。」
 そうして隔壁が閉じられた。







[09/07/17]
■ヒイロのホテルの部屋がラウンジがわり。

小説2巻読んで今までのもやもやが吹っ飛んだ。マジでリリーナがヒイロに求めているもの。父性。
リリーナはエンドレスの小説上でマリーメイアに対して母性だし。
うおおお明記されてる。
ちょっと嬉しい悲鳴。

やっぱりこの時点で恋人同士と言えるのは、デュオとヒルデ。最強なのはゼクスとノインだな。
カトルとドロシーもどちらかといえば優しさとか厳しさ主体だからなー。
恋人は、「甘い」ことが条件。雰囲気もね。相手にもね。


二階桟敷席について。
ヒイロの王子様的部分にふさわしい場所です。
辞書で調べると載ってます。


それからヒイロが優しいかどうか。
たぶん。
小説読んで、すごーくしかめっ面するとゆーか嫌そーにするのに、カトルを撃とうとした兵士の足払いをする。最低限で最大限。
何を憎むかと問えば、「弱い奴が嫌い」だとか「俺を操ろうとするもの」とすごい利己的なことを言うのに、やってることは自己犠牲。
ゼクスに言われた優しすぎるというのはその辺だよなぁ。


それから判断うんぬんのくだり。それトータルで考えるとヒイロの考えじゃないのかーとか、確認させているとか、ジャッジしてもらっていないかと思うこと多々。
ヒイロはホント支配者の素質十分なんだよな。だからゼクスに、おまえがホワイトファングを率いろ、とか言われたりする。
でも絶対にヒイロがならないけどね。

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