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思いのかたち





 緊急用脱出ゲートをヒイロはなんの躊躇もなく進んでいく。
 リリーナも躊躇いもなくヒイロの後をついていく。
「リリーナ様」
 リリーナの横をクリスは走りながら、尋ねる。
「やはりホテルに戻られたほうが・・。」
「ホテルは駄目だ。同じ連中がいる。」
 会話に入り込んできたのは少年の方だ。
「・・あなたが味方だと私には判断出来かねます。」
「では、おまえは来なくていい。俺はリリーナを連れて行く。」
「それこそ出来ません。」
 その不遜な言い方に反発する。
 先程から外務次官を呼び捨てなのも気にいらない。
 脱出用ゲートに出て、視界が開ける。重力が無くなり、通路を蹴り慣性運動で進んでいく。
 100m向こう下方にシャトルが一機あった。
「・・・。」
 後方に追っ手がくる気配がする。
 ヒイロはリリーナを引き寄せて抱える。
 そして通路を蹴った。
「リリーナ様っ。」
 時速50キロの等速直線運動。しかも最短の距離である対角線にだ。
「っ。」
 なんて乱暴な、と思う。クリスも追う。
「・・・。」
 ヒイロはちらと横目に彼女を伺う。
 いくらコロニー育ちだとしても、この動きについてくるには多少の訓練がいる。
 シャトルのハッチにたどり着き、タラップの手すりをつかんで勢いを殺す。
 クリスもまた同じような動きで止まる。
 後方から銃声が鳴った。
 ハッチを開いて、シャトルにリリーナを押し込み、クリスも引き入れてすぐにドアを閉める。
 さらに直後。
「きゃあっ。」
 二人分の悲鳴が上がった。
 2Gを超える速さで、シャトルが発射した。
 ヒイロは二人を抱える。およそ5秒間。
 Gがかからなくなり、ヒイロは二人を放す。
「痛っ。」
 クリスが腕を抱えた。今のGで再び左腕の傷が裂けた。
「クリスさんっ。」
 リリーナが心配する。
 ヒイロがその傍らに片膝をついた。腕を取り、上腕と首筋のいくつかの場所に指を押し込む。
「痛っ・・・・え。」
 クリスは困惑する。
「これで痛みは無いはずだ。筋肉の一部を麻痺させた。それから止血点も突いた。リリーナ、その部屋に入れ。個室になっている。右側に簡易救急キッドがかけられているはずだ。」
「はい。」
「筋肉が麻痺しているのは一時的だ。その間に傷の消毒と血小板の促進を促す薬でで止血を頼む。」
 ヒイロは人体急所を押したのだろう。
 彼は殺人のプロフェッショナルとして育てられた。どこの神経や急所を押せば人が死ぬか知っているのだろう。
 だけどそれは、その逆が出来るということだ。
「俺はシャトルを操舵してくる。任せた。」
「わかりました。」
 リリーナは頷き返した。ヒイロはシャトルの前方部分操舵室に入る。
「リリーナ様。彼は誰なんですか?。」
 尋ねるは振りで、大体の予測はついていた。少年は自分も狙われていると言っていた。
 自分達の行動はまず、彼女とコロニー代表団を殺害することによりコロニー・地球間に亀裂を生じさせ、次にガンダムのパイロットを追跡してガンダムを手に入れることだった。
 ただガンダムのパイロットがあそこまで少年だとは思っていなかった。
「・・・」
 リリーナは逡巡した。だが彼のことで自分が持っている情報など微少だ。
 ヒイロもそう思っているだろう。
「ガンダム01のパイロットです。」
「・・彼が?。」
「はい。」
 リリーナは傍の部屋のドアを開ける。ベッドがあった。
 クリスをそこに座らせる。
 リリーナは簡易キッドを空けて、応急処置をする。
 ヒイロに言われたとおりに、消毒エタノールと、血小板促進剤を使う。
 血小板促進剤はペースト状で傷に直接塗り、2分ほどで固まる。
「・・リリーナ様。落ち着いてらっしゃいますね。」
 外務次官である作業と同じように忙しなくリリーナは動き回る。
「普通なら、竦んで動けないと思います。」
 自分はそうだった。ラルフが手を引いてくれなければ動けなかった。
「そうですね。」
 リリーナはいるものだけ置いて、ほかを片付け、椅子を持ってくる。
「彼がいるから。」
「・・・。」
「少し、浮かれているんです。」
「浮かれるって・・。」
 どうしたらそんな状況がガンダムパイロットとの間に生じるというのか。
 リリーナはクリスの腕の薬が硬化したのを確認して、その上で包帯を巻いた。
「不謹慎ですよね。」
 リリーナはくすぐったそうに笑った。
 こんな笑顔をこの子がするのだと思った。
 外務次官でもクィーンでもない。ただそこには一生懸命な少女がいるだけだった。
 リリーナは包帯を巻き終える。
「少し眠ってください。彼がしたのは痛み止めの薬ではありません。」
「・・ありがとうございます。」
 自分たちは・・自分はこの子を殺そうとしている。
 ツキリと胸が痛んだ。
 少しだけ眠ることにした。このシャトルは間違いなくガンダムのところに続いている。
 リリーナが席を立ち、個室から出て行った。
 通路奥、操舵室はあっちだ。
 リリーナはこの胸を押さえる。あの向こうにヒイロがいる。



 微弱な計器音だけがする。
 シャトル操舵室の前方には宇宙空間が存在している。
 コロニー育ちのヒイロにとって、空気のようになじんだ、空気のない世界。
 でも人間は地球空間の原理を離れて生きることは出来ない。
「(空気がなくても呼吸が出来、太陽の熱に溶けず、加圧減圧に耐えられる)」
 そんな人間などいない。
 微生物次元の話だ。
 操舵室のシートにもたれて、そんなことをつらつらと考えていた。
 ホワイトファングの残党とのこれから起こるであろう戦闘については考えつくしたからである。
 シャトルは自動操縦になっていて、目的のコロニーに行くだけだ。
「(火星なら、どうだろう)」
 意識がそちらの御題に移ったとき、背後のドアの向こうに気配を感じだ。
 少し不慣れなようだが開錠してドアを開け、こちらに入ってくる。
 リリーナ。
 自分を含め無機質な空間を和らげる。気配と温度と香りが男と違う。
 女と言うものはそういうものだろうと思った。
 俺の無機質な受け答えと、通常のやり取りをする。
 彼女は退室せず横のシートに座った。
 自分は彼女から好意を受けている。それも大分一方的な。
 俺がリリーナの崇拝者にならない理由だ。思われている以上意味がない。
 ならば俺はというと、俺はリリーナに必要ないと思っている。
 平和の扇動者の傍に戦争犯罪人は必要ないだろう。
 だが彼女は淋しそうに、だが俺には酷なことを言ってくれた。
 「いつも傍にいて欲しい。」
 ヒイロは息を呑む。
 「必要ない」は、答えにならない。
 リリーナが望む答えは、俺が傍にいたいか、いたくないか、なのだ。
 必要ない、と言いたくなる。
 言葉をあぐねいて、疲れているんだろうと、リリーナのせいにした。
 彼女はやはり疲れていたのだろう・・そのまま俺の肩で寝入ってしまった。
 シャトルはAUTOのまま。することもない。
「必要ない」
 だが、選択肢にない。
 では、いつも傍にいられるという可能性を考える。
 考えるがすぐに想像できなかった。
「・・・。」
 左肩の温もりが彼女が俺を怖がっていないことを伝える。
 二者択一の答えが出ない。
 論理式の正解にもたどり着けない。
 柔らかな髪がシャツの間の肌に触れる。リリーナが身じろいで、もう一度頭を乗せなおしたからだ。
 柔らかな気配。気が散る。
「・・・。」
 信頼できる人だと、彼女は秘書に言った。
 ならば俺はそういう人間なんだろうか。
 感情は反発している。
 嬉しくない。





[09/05/29]
■如月コメント:勢いのあるシーンを書きたくてつらつらと。

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Not Knight





 管理室にサイレンが鳴り響く。コロニーが自爆するためヒイロが即席で作ったプログラムが退避時間を計っているのだ。
 カトルはシャトルを準備し終えて、管理室に待機しているヒイロとリリーナを迎えに戻ってきた。
 ヒイロがリリーナの傍から離れないでいた。
 いくら対陣のトップのラルフが改心しても、兵士全てが状況を把握しているとは限らない。
「・・・。」
 ほぼ今回の陣頭指揮はヒイロだった。
 情報を集め、ガンダムパイロット全員をそろえ、外務次官を守った。
 一人で、ここまで出来るのは彼だけだろう。
 孤高な人だと思った。
「(でも君にはリリーナさんがいるのか)」
 先日のリリーナとの通信を思い出す。
 近く会えそうな気がすると言っていた。
 こんな形で会わせたくはなかったと思う。
 カトルはリリーナがいる目の前で、尋ねる。
「ねぇヒイロ。君はリリーナさんの傍にはいないのかい?。」
「戦争犯罪人は必要ない。」
 それはたぶんいい訳だ。
 ヒイロがそれなら自分だってそうだ。
 当然ヒイロも自分をそう思っているのだろう。だがその上で出来ることを求める。
「でもこうしてリリーナさんを助けたのは君だ。傍にいたほうが守れるはずだよ。」
「・・・・こういうこともなければ普通のSPで十分だ。・・シャトルが用意出来たのなら行く。」
 そう言ってリリーナの手を引いていった。
「・・・。」
 カトルは自爆装置のスイッチを押した。警報のサイレンがカウントダウンに変わる。
 このサイレンは彼と彼女の別れのカウントダウンでもある。。
「カトル。」
 薬で眠らせたホワイトファングの兵士を動かしてきたトロワが戻ってきた。
「・・どうした?。」
 カトルが沈鬱な面持ちだったからだ。
「どうして一緒にいられないんだろう。」
 その台詞にすぐに思い当たる。そこでヒイロとリリーナとすれ違った。
 だがトロワは肩をすくめるだけだ。
 答えも明解だった。
「いようと思えばいられるはずだ。だがあいつが望んでいない。」
 カトルは目を見張る。
「どうして?彼だってリリーナさんが好きなはずだ。」
「おそらくは、そんなふうな、周りが思っているような関係になるのが嫌なんだろう。」
「え・・。」
「今のままじゃ、確実にお姫様と騎士だ。回りもそれを望むだろうし、ヒイロなら荷が勝ちすぎない。」
「・・・。」
 ただ、という。
「あいつはナイトじゃない。」
「ああ・・。」
 カトルは納得する。
「・・・そうか。そうだね。それはヒイロは嫌がるだろうね。彼は何者にも傅いたりしない。」
「そしてリリーナもそれを望まない。リリーナは自分をクィーンと思っていない。」
「・・・さすがヒイロだね。リリーナさんもだけど。」
 二人はどうなっていくのだろう。守る方と守られる方でないならば。
「ナイトじゃない。言い得て妙ですね・・。では差し詰め王子でしょうか?。気品もあるけれど、自己中心的で傲慢なところもある。」
 カトル自身言われすぎている言葉だ。ヒイロに使ってやる。
「なるほど。」
 トロワは口元に淡い笑みを乗せた。





[09/05/29]
■如月コメント:ヒイロはナイトじゃないです。星の王子様なんですよー最初からv。
そしてリリーナは彼の唯一の花。
サンデュグペリの原作を読みませう。

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Farewell





 リリーナがこちらを見ていた。
 自分も見ていた。
 二人して気づく。別れの時間。
 別れなど簡単だった。

 Farewell リリーナ

「・・。」
 彼女の手首を半ば強引につかんで引き止め、こちらを向かす。
「リリーナ。」
 目を見張らせて俺だけを見ている。
「俺は・・。」
 その先の言葉は出なかった。
 何もかもさよならのための言葉だ。
 それが例え愛しているでも。

 いつも傍にいて欲しい、
 心配くらいさせて欲しい、
 俺を望むその心だけは奪っておきたい。
 Farewell リリーナ
 そう呟いたときと同じように。

「・・・。」
 もう既に驚いているだろうが、出来るだけ驚かさないように、唇を触れ合わすだけ。
 リリーナが驚いたままで、硬直している。
 ヒイロは静かに離れ、目を開けた。
 手首を離し、そっと肩を押して、彼女をシャトルへと歩かせた。
 このコロニーの爆発まで時間はない。
 振り返った彼女を見て、早く行けと目で促す。彼女は頷いた。
 別れの時間。
 リリーナがシャトルに乗り込んだのを確認して、ヒイロもシャトルに向かう。
 タラップを上がり、ハッチが閉じられる。
 操縦室には向かわず、窓の外を眺める。
 彼女が乗るシャトルがいる。自分たちは最後で、先に彼女の乗るシャトルがカタパルト上に進入し飛んでいった。




 降り注ぐような温もりを感じた後だった。
 以前なら別れの言葉しか口にしなかった彼の唇が私の唇に重ねられた。
 彼は愛し方を知っているのだと思った。
 後ろ手にドアのスイッチに触れ閉める。背を打つように傍の壁に凭れた。
「・・ロっ。」
 思いがあふれだす。触れてくれた口元を押さえる。
「リリーナ様」
 シャトルのドアの開閉口にて一部始終を見ていて、クリスは立ちすくむ。
 かろうじて、リリーナに声をかけた。
 ほかのガンダムのパイロットたちは彼と彼女を二人きりにした。それで二人の関係が真に浅からぬことだとは思った。
 リリーナも信頼できる人だとヒイロ・ユイのことを言っていた。
 だがこんなに動揺させている。クリスはその彼を訝った。
 背も自分よりだいぶ小さいリリーナの肩に手を置いた。
「大丈夫ですか?」
「・・いいえ。」
 リリーナは首を横に振る。顔を抑えた。
「ヒイロ・・。ヒイロっ。」
「リリーナ様?」
「会いたい・・。傍にいて欲しいんです。」
 どうしても傍にいられない。
「ごめんなさい。」
 今は泣かずにはいられない。
 彼は心ある人だと思えたから。
 嬉しいのと、
 嬉しさゆえに欲が出て、離れ離れになるのが苦しくて悲しかった。
「クリスさん。知っていてください。私も弱い人間です。」
 リリーナは顔を上げた。
「こんなことも無ければ私は彼に会えないのかと思うと、この私だって平和を望まない者になることが出来るんです」
 時には愛情が戦いの引き金になることだってあるとヒイロは言うのだ。
 彼は愛を知らない人じゃない。
「・・クリスさん。ごめんなさい。でもこれが私なんです。」
 クリスは首を横に振るしか出来なかった。
 リリーナは涙を拭って、クリスの横をすり抜けシャトルのシートにつく。
 クリスはその横に座った。
「では発進させます。」
 カトルが事務的に声をかけた。
 クリスが頷いた。だが同時に、地球生まれのしかも令嬢の彼女と01のガンダムパイロットがどうして関係しあうのか読めなくて、目で訴える。
 だがカトルは首を横に振った。彼と彼女の関係は誰も知ることが出来ないし、介入もできないと。
 いずれと、カトルは苦笑した。
 リリーナは困惑しているクリスに呟いた。
「クリスさん。でもね。リリーナ・ドーリアンが戦争を望んでも、ヒイロ・ユイが許さないのです。きっと私を殺してくれる。」 
 もし次期大統領になってもそれは同じだ。
 だから安心して私は権力のトップになれる。
 地位に甘んじたり、周囲に流されれば、彼が私を抹殺してくれるはずだった。
 彼は私の自爆装置のようなもの。
「・・・。」
 立ち姿からして柔和さを持ち、その言動から誠実なイメージを持つリリーナだ。小さな体にこんな激しい心を持っているとは誰も思わない。
 ただ彼女はピースクラフト王女で、クィーンで、外務次官という肩書きの持ち主だ。
「・・・もっと普通に恋をしてください。」
 クリスは苦し紛れな説教をした。
「そうですね。」
 リリーナは寂しそうに笑った。





 シャトルの通路の壁にもたれながら「いつも傍にいる」という可能性を考える。
 ヒイロは指先で口許を押さえた。
 拒まれなかった。
 キスという行為がどんな意味を持つのかは知識では知っている。
 ただ、
 愛されたことのない自分がこんな愛し方を知っているのが不思議だった。





[09/05/29]
■如月コメント:TVA49話Farewellと北米版では言っているのです。ぐぐぐぐっとくるんです。その低音がっ。

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