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王室の王位








 ほんの少しだけの憂鬱。
 答えは決まっている。
 私は王国を再興するつもりは無い。
「この国の政治に携わって欲しい。」
 王族として残って欲しい。
 用意された礼装はこの国ならではの刺繍が施され、淡い白色の生地は階位を表す。
「いいえ。」
 それら全ての声を私は退けた。

 亡国の王子は死んだ事になっている。
 亡国の王女は王になる事を拒否している。

 誰が為の政治か。
 そこに住む人の政治が行われれば良い。
 治世は住人によって行なわれる。
 だから私は王国の崩壊とともに王位という権利を消滅させた。
 だが、それも法改正で変わるとも言えた。
 王位典範という法律だ。
 住民が指導者を望み、その地位を整えれば、ありうる。
 議員の一人が高らかに宣言した。
「ここに、王位継承における議案を提出いたします。」
「・・。」
 サンクキングダムの住人がそのような事を認めないで欲しい。
 王位が有ることに問題があるのではなく、
 住民が治世をするのに他者にそれを委ねることに問題があるのだ。
 何が有用で何が不要か自身で判断する機会をなくしてはならない。
 リリーナはサンクキングダム議会の演壇に被告人のように取り残された。

 ド・・ゥと重々しい音が階上からした。
 そこは開かれるはずの無い二階桟敷だった。
 聞き覚えのある老議員が振り向く。
 倣うように周囲が視線を向けた。
 黒曜石のような礼装のそれは老議員には見覚えのあるもので。
 次兄に使われる装い。
 ゴーストのような闇をまとわりつかせ、その影は部屋から出て行った。

 リリーナは呟いた。
「この国の王権は既に地球にありません。」
 言いおいて、退席する。






 リリーナは議場から二階につながる階段を上る。
 議場の廊下の突き当たり、エントランスに出る彼の後ろ姿を見つける。
 リリーナははにかんだ。
 追いついたのは・・・待っていてくれたから。
 丘陵の斜面を利用した議場は、各階とも森林に覆われたこの国の森につながっている。
「・・。」
 待っていてくれたなら、少し時間があるのかもしれない。
 カイロから来てくれたのだ。
 リリーナはそっと回れ右をした。




 小春日和の園庭は小さな花が咲いていた。
 雪解けの水が石畳を濡らし浅い清流となっていた。
 ヒイロはその奥の石造りの回廊にいた。
 サンクキングダムの二度の王国崩壊を受けた回廊はそれでも蔦が這い、苔が濃淡をつけていた。
 スーツに黒い礼装を肩にかけ、回廊の長椅子に背を預け腰掛けて、本を読み進める。
 適当に拝借した本と同じようにこの服を借りてきた。この国の設備の中で動き回るのに融通がきく。
 春先とはいえ北欧のここは寒い。カイロから来た自分には堪えるものがあるかもしれない。
 ただ宇宙空間は温度差が激しいので、この程度で十分だった。
 草を踏む音がした。
 議場から出て来た時よりだいぶ時間が経過している。
 通路で議員に捕まったかは知らない。それならば間抜けだ。
 こんな議題に大統領自らいく必要は無い。
 そう思って視線もやらずにいた。

「ありがとう。ヒイロ。来てくれて嬉しい。」
 ふんわりとした気配が回廊に広がる。
 温度が男とは違うと思っている。
 春まだ寒い回廊が温かくなっていく。
 ヒイロは顔をあげた。
「・・・。」
 軽く目を見張る。
 胸元の見事な淡いピンクと黒の刺繍と、フェルトの様な温かい風合いの生地のドレス。その刺繍はこの王国独特のものだ。
 長い袖と長い裾。寒さを防ぐため、綿が入っているのか全体的にゆったりとしているドレス。
 髪をネットで束ねたリリーナがバスケットを腕にかけて佇んでいた。
 ヒイロは本に視線を戻し、無表情にぼそりと呟く。
「・・・。似合っている。」
 当然の事を言っただけだ。生まれた地の服はその者がその地を離れても最も似合う。
 それでもリリーナがはにかみをいっそう深くした。
「・・嬉しい。」
 そう言って右隣に腰を下ろす。バスケットは右に。
 温かな気配はそのままヒイロのものだ。
「私はよくは知らなかったのですが、この服の方が女の人の服なのね。」
 ただだいぶ市井に近い服だ。礼装ではない。
「あの中にはいなかったがな。」
 議場のことを言う。
「大統領制になってスーツがスタンダードになっていますから。」
 リリーナはバスケットから小さなティーセット一色を取り出す。
 ポットには茶葉が既にいれられて、水筒の熱湯を注ぐだけだ。
 リリーナはソーサの上のカップに紅茶を注ぎ、ヒイロに差し出した。
 ヒイロはカップだけ受け取る。
 トレイが無いのでそれで良い。
「今回の事は身内だけに堪えました。」
「・・。」
「王位だけならいくらでも、と思います。こういった文化継承の視点から見ればいいのかもしれません。」
 こうして紅茶だけ飲んでいるだけだ。
「そうしているだけなら無害だからな。」
 コロニー育ちのヒイロは素っ気ない。
 宇宙は新技術が選択され、伝統は重んじられない。
「・・。」
 王位継承権は自分で消滅させた。
 だが、後続の継承者は何人かいる。
 王位の復活を巡る法案が今薦められている。
 どうかその法律が通りませんように。


「プリンセス。」
 遠くから声がする。
 議会はどうしたのだろうか。議会が始まって2時間が経過していた。
 休憩時間だろう。
 リリーナが立ち上がろうとしたが、ヒイロが肩を竦めた。
「真面目に応答するだけ無駄だ。」
「誠意のある対応を・・。」
 本を閉じて、その本でその側頭部をおさえ、肩に引き寄せる。
「・・。」
「たまには怖じ気づけ。」
 守ってくれるのだ。
 温かいヒイロの肩の温度にリリーナは甘える事にする。
「・・いつもではダメですか?。」
「・・ああ。」
 そもそもする気等ないくせに。
「ありがとう。ヒイロ。」
 リリーナはそっとヒイロの背に顔を伏せた。
 怪訝な様子で老議員とその子息、孫がくる。
 男ばかりなのがむさくるしい。
 かといって自分の職場環境もそんなようなものだが。
「失礼。お身内の方でしょうか。」
 志を共にしている以上、否定しない。
「・・。おまえより身内だ。」
 声色は不機嫌そのものと言えた。年長の相手に不遜な態度を取れる青年は今この国には不在だ。
 ヒイロは足を組み直した。本を開いて再び視線を落とし、呟いた。
「おまえは戻るといい。主張すべき場は議会であり、説得するのは住民だ。」
 彼女ではない。
「この国の王権は既にこの地球には無い。」
 リリーナと同じ事を黒衣の青年は言った。
「戻るように。」
 静かな声には、有無を言わせないものがあった。



 議員が去ってからしばらくして、議場から歓声が上がるのが聞こえた。
「・・。」
「亡国の住人は愚かじゃなかったようだな」
 熱っぽくかたってもいいセリフはどこまでも素っ気ない。 
「・・王権は残るのでしょうか。」
 文化継承としては。
 それを火星にもちこんでみるのは、少し試してみたいかもしれない。
「王権を握りたければ、文明初期の火星なら出来るだろうな。」
 インフラをするのに便利なときもある。
 王が賢明ならばの話だが。
「兄なら出来るんでしょうね。」
「・・・。」
 彼女にも出来る。
 たぶんあそこにいる議案を提出した継承権のあるだけの奴らには出来ない。
 王位とはそういうものだ。
「ヒイロは?。」
「興味ない。」
「指導者も王位も最初は同じ様なものよ。」
「興味ない。」
 それでも人は彼の周りに集まるだろう。







[09/5/4]
■次兄ヒイロ。

萠も無い話ですがぼそりと。

書いててアベルと沙織さん思い出した。
映画最後の彫像。
あれ可愛かったなー。

王室の王位ってタイトルだった気が。
うろ覚えの曲です。
黒衣の礼装はOPからで、
次兄はカードダス設定。
パクリばかりです。
次兄の衣装は黒だったようなーとどこかのイタリアの文章で読んだ様な。
何にも調べず、書きたいように書きました。

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