EPILOGUE...






 カイはその立場を利用し、リーデリックは警察や諸団体の情報の搾取と消滅に勤しんでるはずだった。
 それは勇吹の友人であるアレン弁護士の活動を妨げないよう、かつ有利に運ぶように情報を提供するためのものだ。
 シータは、アンから手渡されたリーデリックの電報を読んで、ああそうと呟く。
 それは一言。
 『楽しいぞ〜』
 と言うものだった。
「んなのに一々電報使うかよ。何事かと思うじゃねぇか。」
 こっちはアンを口説いていた所だったのだが、戸を叩く音のせいでするりとかわされてしまったのだ。
「上手くいってるってことだね。」
 アンはニコニコといつも通り笑いながら、コーヒーを煎れてくれる。
「なんて返事返してやろうか。」
「カリフォルニアワインのおいしいの見つけて送ってって言って。」
「・・・・なんで?。」
「勇吹が好きだろうと思うから。もうだいぶおちついたでしょう?。パーティしましょ。お肉はこの辺で手に入るから。」
「オッケー。じゃ、そうしよう。」
 シータはマッキントッシュのキーボードを叩いた。メールする。
 コンコンとまた戸を叩く音がした。
 アンが戸口に向かう。
「勇吹です。」
 勇吹の声がドアの向こうから聞こえた。アンは錠前を外して戸を開けた。
「こんばんわ。教会帰り?。」
 街中にある孤児院に勇吹は週に3日通っていた。日本語と算数を教えるためだ。前に家庭教師の経験があることを聞いて牧師さんからお願いされたのだ。
「うん。はいこれ、頼まれてた料理の本。」
「ありがとう。おいしいと思ったら、勇吹にも教えるね。」
「うん。カルノも食べられるオススメなのが特にいいな。」
 そう言って、勇吹は戸口への階段を降りた。勇吹達の家は隣、地域性もあって隣といって敷地は50メートルも離れたところにある。
 手を振って勇吹は自転車に跨ると、まっすぐな林の道をこぎだした。
 町までは自転車で20分。ここまでは少々アップダウンもあるのだが舗装されていてそんなに大変ではなかった。
 夕方を迎えもう家畜は舎に戻されているが林の向こうには春を迎えた牧場が広がっている。
「ただいまー。」
 と、勇吹は自転車を止めた。二階建ての真っ白なコテージ。バルコニーに自転車を上げた。カルノの姿が見えたのでリビングから入る。
「おかえり。」
 カルノはシータからもらったパワーマックの画面をパタンと閉じた。
「インターネットサーフィン?。」
「いや。コンピューターグラフィック。」
「何描いてたの。」
「翼。」
 無くなっちまったからな、と勇吹の背中を指先で弾いた。
 雪のように真っ白で夏の雲のように青空に映える翼は、勇吹によく似合っていたから。
「もっと広い所で飛ばそうって言っただろ。ここ申し分無く広いし。」
「つーか、無駄に広いって言うかさ。そっかー。ロケーションはばっちりだよな。」
 冬の名残の雪の上を、やがて訪れる夏の青空を飛びたいと思う。


 天使でもなく、悪魔でもなく。
 そんなカテゴリで括られやしない。
 言えるとすれば――――ただ一対の能力者。



THE END