ファントム・ファム・ファタル





 騒動は一気に収束に向かっていった。
 観衆は、気づいたのだ。

 そして自分達の行為に、沈黙した。


 うっとりと・・アンヌがまた囁いた。
 敷島勇吹は、この世で最も醜悪な生き物の元に落ちた、と。
 アンヌの嫌悪は瞬く間に、広まり、
 もはや全て、あとの祭。











 アンダルシアの陽射は変わらなかった。
 海を紺碧にし、白壁は眩しいほど反射し、
 草は萌え緑を濃くしていく。


 シャワーを浴び午後の眠気に襲われつつ、東の部屋に戻る。
 勇吹はベットの上。
 本を開いて、勉強していた。
 その一冊分、お互いが隔てられて、なんとなくカルノは鼻白む。
「うわうざ。何をそんなに勉強してんだよ。」
「・・・何もしないでも賢い人に言われたくありません。」
 本をぱたむと勇吹は閉じる。
「そんなのアミィに聞きゃ一発じゃんか。奴だってもっと頼れと思ってるぞ。療養中ったって頭は無事なんだからよ」
 勇吹の言い返しに負けないぞといったふうにカルノは言い返す。
「俺はアミィには出来なくてアミィにしか出来ないことをやってもらいたいの。さっさと五体満足になるのもその一環。」
「・・・・。」
 言い負かされてカルノはわしゃわしゃと髪をタオルで掻く。
「大体カルノこそナギさん呼んでないだろ。」
「鬱陶しいから呼ばねぇだけだ。ていうかあの羽虫の名を言うな。調子乗って出てくるから。」
「・・元気にしてるの?。」
「随分派手に力を使ったことになったらしいけど、それでも余力十分に残してたみたいだぜ。心配するだけ阿呆だぞ。」
「いいよ。阿呆で。無事ならなんでも。」
 そう言って立ち上がると本を本棚に戻す。
 今よく読んでいるのは経営者達の本らしい。
 なんつー堅い本を・・と半眼で眺めながら思う。
 柔軟そうで相当な堅物なのだ、勇吹は。
「・・・・。」
 その勇吹の腕を引いた。
 うなじにキスして、襟をはだけて、肩に唇を落とす。
 愛しい人。
 誰にも渡さない、俺だけの愛しい人。
 カルノはそのまま勇吹の身体を引き寄せ、そしてベットに倒れこむ。
 勇吹の温もりとシエスタの風が気持ちいい。


 んー・・っともがいて勇吹は腕の中から顔を出す。
 窓から青い空とたなびく雲だけが見えた。
 空からはもう雲雀の声もしなかった。
「・・・・」
 このカルノの故郷はすごくいいところだ。
 一個人の心を勝ち取った地。
 そしてその静穏が後押しする。
「ねえ、カルノ。刻印を。」
 唐突な勇吹の言葉にカルノは瞠目する。
「え・・。」
「今なら大丈夫だよ。」
「・・。」
「もう、おまえの声しか聞こえないんだ。」
 そう呟いて、勇吹が仰のいて口付けてきた。
「・・・・。」
 勇吹の決意をカルノは受け入れる。
 カルノは体を起こして、勇吹のシャツの第3釦まで外し、その胸をはだく。
 その左肩に唇を寄せた。
 呪いをつむぐ。
「・・ああっ。」
 勇吹の身体が衝撃で撓った。
 呪いは赤銅に色を変え肉を焦がしていく。
 その背を支え、勇吹の身体に穿つ。
 所有の刻印を。
 俺の名を。

 Calno Guino


 彼らは、劣情も欲望も満たされたファントム。