※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※Lost City −10−「昌浩。」 ホールに戻ろうとして待合の部屋で比古に引き止められた。 窓の向こうで雑鬼達も手を振る。 「あれ、おまえ目当て?。」 「・・・まだいるんだ。徹夜する気なのかよ・・。」 昌浩は彼らに半眼を据える。 「懐かれてるなぁ。」 面白そうに呟くが、かといって会が終わって早速、彼のところに来た自分も大差ない。 「比古おまえはいいの?。」 彰子と道長はあちこちに顔を出していた。 比古は肩を竦める。 「普段から顔出しているからさ。たまにしか会えないほう優先。」 聞いた昌浩はくすぐったくて笑った。 「はは。でも助かる。さすがにぽつんとしそうだ。」 「俺だって最初はそうだったし、今でも真鉄にべったりだぜ。」 立ち話もなんだ。昌浩は比古を誘ってエントランスに出る。 「六合がいろいろやってくれたんだ。後は地鎮だけ。夜中の1時頃からとっかかろうと思うんだけど。」 「・・それなら、ホテルに一度戻って、仮眠したほうがいいぞ。」 「・・・うーん。それは出来たら・・。」 正直、寝るまでは彰子と行動したい。 「なんで?。」 「不問でよろしく。」 「・・彰子嬢だって、子供じゃないんだし。」 「子供じゃないからだよ・・・って、わかってるなら聞くなよ。」 昌浩はむくれる。が、真っ赤だ。 「防衛は大変だね。」 でも西の楓嬢があれだから、東のお嬢の方がまだ脇が甘そうに感じる。 「とにかく、1時間でも休めよ。俺が迎えに行くからさ。もう車出してもらえるように言っておいてあるし。」 「え。」 「その方がギリまで休めるだろ。」 「いいのかよ。」 「いいよ。こんなのたまになんだからさ。それにこっちも強引に行かないとおまえ一人で勝手に突き進んでいくし。」 「・・・・ありがとう。」 「どういたしまして。」 二人して笑った。 それからは他愛ない話になる。 学校でどこまで習ったとか、今度東京に来いよとか。 気がつくと後ろに一塊の女の子達がいた。 比古はその中の一人と顔見知りなのか会釈する。 それを合図に近寄ってきた。 「そちらの彼。よかったら紹介していただけないかしら?。」 一瞬だけ比古は渋面を作った。が、彼女達を振り向いた後は微笑っていた。 「あ、ごめん。内緒。」 比古は応える。 そして昌浩の袖を引いた。ホールへと促す。 「じゃ。」 ひらっと女の子達に手を振って、比古は昌浩を引っ張っていった。 昌浩は比古の愛想なしの対応に、いいのかなと思って尋ねる。 「比古の立場、悪くならないか?。」 「さあな。でもこんなところで女の子にもみくちゃにされたくないし。」 「・・・そっかー、おまえ、もてるんだ。」 能天気且つ的外れな言葉が発せられて、比古は盛大に傾ぐ。 彼女たちが聞こえないようなところまで行って、昌浩を振り向く。 「・・・・・・おまえ、一回もみくちゃにされてこい。」 「はあっ、そんなことになるわけないだろ。余計恥だ。」 「・・・・。」 まじかよ・・・と額を押さえた比古だった。 彰子が一通りまわってきたので昌浩の元に戻ってきた。 なので比古は訪問を多数受けているだろう各務の待合室に行くことにする。 昌浩は彰子をさっき見つけた庭園に誘った。 話す内容もあまり普通じゃないからだ。 それに春の庭園を彼女と歩きたかった。 「彼との・・話はもういいの?。」 「また夜に会うからいいよ。」 「・・・。」 男同士だから出来る。この点でいつも女は不利だ。 やはりちょっとだけ嫉妬してしまう。 比古ともう少し話してもいいけれど、なんとなく焼餅を焼いてしまいそうだ。 「・・・あの人と。」 彰子は気を取り直して、さっきの会の終わりのことに触れる。 「何か接触はあったの?。」 昌浩は諸手を上げた。 「まったくなし。」 「・・・・青龍に聞いてみたの。そしたら他人の空似だって。」 ではあれはなんだったのだろう、二人して首をひねった。 「うーん。見間違え・・るわけないんだけどな。」 そこから出てきた時は。 「・・・うん。間違いないと思う。」 「・・・・彰子がそう言うんだから。間違いないよな。」 うーんと呻いて一つの結論に到達する。。 「放っておくに限るかな・・。」 この場合。 「詮索の域を出ないものね。」 「うん。冥官が絡んでるなら、確実に害ないから。・・・・強いから。」 十分すぎる理由だ。 彰子は話を変えた。 「昌浩、六合が戻ってきたみたいだけど、今日の夕方はどうするの?。」 「0時に行動開始ってだけで特には決まってないよ。用意も六合がしてくれたからね。」 「定子さん達と会食に行きたいのだけれど、大丈夫?。」 「・・・何時に終わる?。」 「・・始まるのが遅くて、夕方6時。9時には上がれると思うけれど。」 「じゃあ、先に安倍の本家に来てくれないか。一応挨拶したいんだ。」 「うん、わかった。」 「あ、おじさんは大丈夫?。」 「・・・・お父さん、もう夕方、関空から上海に飛ぶんですって。」 「は?。」 「上海。」 「・・・・・急だね。」 「年度末でいろいろあるみたい。」 「へー・・。」 でも急なのは自分もだ。 あまり道長のことを言えない。 昌浩と彰子は庭園を歩く。 会が終わった直後とは違い、他にも何人かカップルがいて、すれ違う。 何かあるらしく皆一定の方向からだ。 そちらに行ってみることにした。 石畳に苔むした地に、松。 唐破風の門を抜けると、満開の枝垂桜があった。 昌浩と彰子は同時に足を止めた。 満開の枝垂桜にではない。 二人は顔を見合わせる。 枝垂れ桜の傍にはホールへと戻れる階段があった。そしてその上に今しがた噂にした彼がいたのだ。 楓嬢はいなくて、友人と喋っているという風情だった。 さっきは暗くてよくわからなかった。 似てはいる。似過ぎている。 苛烈さも凄烈さも持ち合わせている でも違う。 誰だろう。 疑問は昇華せず、二人は彼を見上げる。 何気なく下ろした小野筱の視線がぶつかった。 二人は会釈だけした。 青龍は他人の空似だと言っていた。ならば不躾に裏家業のことは聞けない。 昌浩と彰子は回り右した。 「比古もよく知らないっていってたしな。」 「定子さんに後で聞いてみましょ。」 「うん。そうだね。地元だもんね。」 そこに落ち着くことにした。 正直出合いがしらだった感は否めない。あの顔に会うのには心構えがいるのだ。 先程、こそこそとしゃべっていたところまで戻って、二人して胸を押さえ緊張で詰めていた息を深々と吐いた。 たが、しばらく衝撃を緩和出来そうになかった。 ひとまわり小さい二人組み。 「彰子嬢と知り合いなのか?。」 すごい勢いで逃げてったなぁと、呆気に取られつつ、幼馴染が尋ねた。 「いや・・。『俺』はまだ両方とも面識は無い。」 好奇の目ではなく、瓜二つのこの身を通して誰かを見ていた。 [08/3/6] #小路Novelに戻る# #Back# #Next# −Comment− 筱のことはまた別の話があって、 比古もまた、別の話があります。 いずれですね。書きたい事優先。 原稿を書きました。18P分。 でもやはりコミケに参加出来ないし、 自分が読み手の立場だったらやっぱタダでどこにいても地方にいても読めるホームページのほうが嬉しい。 と、言うわけで、ロストシティが終わったら、順次あっぷ。 でもいつ終わるかなー・・ロストシティ。 |