※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



Lost City −11−







 ホールに戻ると彰子がまたもや父親に呼ばれて、今度は待合室の方に出掛けていった。
 比古はまだ部屋にいるようで、雑鬼達もさすがに帰ったようだ。
 六合がホテルマンからコーヒーを受け取り、テーブルについている昌浩の目の前に置いた。
「ありがとう。」
「眠くはないか?。」
「思ってたよりはないかな。」
 なんていうか眠気を感じるたびに冥官の不遜な笑みが浮かぶのだ。
 カフェインよりずっときついカンフル剤である。
 カップを手に取ると、香り高い温かな温もりが伝わってきた。
 コーヒーの銘柄はわからないが口当たりがいいのでおそらくブルーマウンテンなのだろう。
 ミルクだけで飲めそうだ。
 カップを傾けながら昌浩は後ろをちらりと見た。
「うーん。破壊活動をするにはちょうどいいタイミングかも。」
「・・・・昌浩。」
 六合が一応たしなめる。それでは騰蛇そのものである。
「騰蛇に言いつけるぞ。」
「うーん。じゃあ、やめておこ。」
 先程迎え撃った上級生達がこちらを睨んでいるので、どうしたものかなと思っているのだ。
 ナイフを投げた人だけいない。もう帰ったのだろうか。
 青龍がすぐに行動に移してくれたのだ。
 祖父が青龍と六合を傍に置くのがわかる気がする。
 でも、今は自分が決めなくてはならない。
「・・・六合。青龍はおじさんから何か言われてるのか?。」
「今のところは無い。」
 答えを聞いてほっとして、やおら肩を竦めた。
「・・・・本当ならさ。」
 自嘲気味に笑う。力が足りないからだ。
「青龍は道長おじさんのガードに戻って。太裳には彰子をと言うところなんだけど。」
 祖父のような圧倒的な力を持ちたい・・だがまだだった。
「全員俺と行動して欲しい。」
「・・・・無論だ。」
 神将からすればそれは是非もない申し出だった。
 昌浩には騰蛇がいる。昌浩には彼がついているのだ。
 晴明には青龍と六合だった。だが、次代は騰蛇だ。
 だが、それはそれ。自分こそが主を守りたいことには変わらない。
「比古がいる。彼はなんとしても守らないといけない。正直守り手が必要だ。もしなにかあれば東京から携帯で援軍を呼ぶこともするからね。彰子にも言われたしさ。」
 携帯と言ってもそれは六合の仕事用のだ。
「わかった。」
「・・・。」
 六合は承知してくれた。
 援軍・・出来ればそれは避けたい気もする。カップの縁に口をつけながら考える。
 冥官が見ているだろうとか、じいさまにあとあと何を言われるやら、などといろいろ。
 ふと気がついて昌浩は六合を見上げた。
「・・・・六合。」
「なんだ?。」
「六合も座ったら?。」
「・・・いや、いい。」
「なんで?。」
「・・・・。」
 六合は答えなかった。
 座る気が無いのなら無理に勧めるのもなんだった。
 呑気にコーヒーを飲んでいる昌浩を六合は気づいてないんだなと思った。
 ・・否、気づかせないようにしている。
 自分が影になって。
 六合はちらっと横目にホール出口を見た。
 エントランスで各務比古と話をしている時に気づいた。
「(ぞっとしないな。)」
 あの好奇な目はなんだと思った。
 後ろの上級生もだが、前の女性達はそれ以上に気になった。
「・・・・。」
 目の前の次代は椅子に座って若干疲れた雰囲気もあるが、それも華だ。
 昌浩はこの場において安い存在ではなかった。





 ホール入口に女の子達が集まっていた。
 彰子はなんとなく嫌な予感がした。
 そこを横切らなければ昌浩のところにはいけないので、とりあえず行こうとする。
 が、案の定、塞がれた。
「・・・。」
 彼女達は昌浩目当てなのだ。
「こんにちは。」
 その声音はおよそ穏やかからは程遠かった。
《彰子嬢。》
 傍らの太裳が怪訝そうにした。
 すぐに目配せで彼を制し、大丈夫と頷く。
 この手の場数は踏んでいる。彰子は姿勢と顔を引き締めた。
「こんにちは。」
「素敵なパートナーさんね。良かったら紹介してもらえないかしら。」
「彼と同行している者に聞いて下さい。」
「・・・・。」
「私も無理をお願いしたので。」
「・・・そのわりには彼を置いて出たり入ったりね。」
「・・・失礼いたします。」
 あまり長く話しているとただの幼馴染という現実がはっきりしそうだった。
 彼女達の間を抜けると、六合が見えた。昌浩はその向こうだ。
「・・・・。」
《・・・さすが六合ですね。》
 太裳は感心していた。彰子も同感で頷く。
 心強い味方に、ほっとした。重くなった足取りがいつもどおりに回復する。
 ホールのテーブルに戻った。
「昌浩。ごめんね。おまたせ。」
「うん。いいよ。ゆっくり休めたし。彰子は大丈夫?。」
「平気。夜はないしね。」
「はは。」
「もう会場を出てもいいって。お父さんも、もう飛ぶって。」
「わかった。」
 昌浩は立ち上がった。そっと手を差し出されたので、添える。
 ついてくる六合を振り向いた。
「六合。ありがと。」
「・・・いや。」
 彰子は気づいているようだった。
 昌浩は六合にステージの袖の出口を指された。その方がラウンジに近い。
 途中には男達が固まっている。
「・・・・。」
 彰子は先程のいざこざを知らない。
 でも、先に言われる前に言う。
「・・・覚えてろよ。」
 誰が彼女を守っているのか。
「・・・・っ。」
 おまえだけには言われたくないという顔を上級生がした。
 だが虚勢もそれまでで、何故その台詞を彼が吐くのか彼らにはわからず困惑の方が先んじているようだった。牽制だと気づかないから、不気味さだけ残る。
 ただでさえ安倍昌浩は学校における彼とはだいぶイメージが違っていた。
 度胸と人望と、予想以上の箔を持ち合わせていたのだ。
 首を傾げる藤原彰子にあとで話すよと笑い、その手を引いて、ホールから出て行った。








[08/3/28]

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−Comment−

にじりにじりと昌浩をかっこよく。
青龍も実はかっこよく書きたい・・・。うふふふ。

うりゃうりゃ書いてたら、意外とノーマルな方向だなぁ。一本。