※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※Lost City −12−ロビーでは来賓が帰り始めていた。 よくあるお決まりの集合写真は撮らないらしい。 楓嬢を公に晒したくないということの表れだろうか。 彰子も頼まれていないところを見ると道長サイドで断ってくれているのだろう。 待ち合わせたソファに道長はもう来ていた。 昌浩と彰子が来ると彼は立ち上がった。 「お父さん。もらったものとかはどうしたの?。」 「もう送ってもらった。」 「上海行きにいるものとかは。」 「なに、年度末に3泊するだけだ。京都に泊まるつもりで来ているから、そのまま行き先が上海になっただけだ。」 彰子の心配に道長は大雑把だ。 母の倫子がいないので彰子はいろいろ世話を焼いていた。 「さすがおじさん、グローバルだなぁ。」 昌浩は肩を竦めた。 そこにホテルマンが来る。 「失礼いたします。」 「・・・・。」 無言で六合が応対する。 「安倍昌浩様に。各務比古様から手紙を預かっております。」 「・・・・。」 六合に目で促され昌浩はホテルマンの前に行く。 「ありがとうございます。」 封筒を手渡される。中身を確認して、顔を上げる。 「・・・・わかりました。」 このホテルでの部屋番号に電話番号。夜の0時に迎えに行くということ。 その際車で来てくれるのでその待ち合わせの場所。 ホテルマンが下がった。昌浩は手紙を折りたたんでポケットにしまった。 「なんだ?。」 「メールアドレスです。俺、携帯持ってないからパソコンの方。」 適当に嘘をついた。 「いつ知り合ったんだ。」 「去年の夏休みにですよ。兄の仕事についていったんです。その時に。」 昌浩は本当に嬉しそうに笑う。 その出会いは嬉しいものだったというのが伝わってくる。 そんな出会いをいを久しくしていない大人にとって、彼の姿は少しだけ眩しい。 道長は肩を竦めた。 再びホテルマンが来る。今度は道長にだ。 空港に向うリムジンがついたのだ。 ホテルの正面ロビーにて、昌浩と彰子は道長を送る。 「昌浩。今日はありがとう。楽しかったぞ。」 道長は手を差し出した。 「いえ。こちらも、いい経験になりました。」 律儀なところは吉昌譲りだなと道長は笑う。 「また、頼んだぞ。」 「・・・彰子がいいならそうさせてもらいます。」 昌浩の返事をニヒルに笑い、道長を乗せたタクシーは関西空港へと走り出した。 「・・・。彰子は楽しめた?」 道長が楽しかったというので、尋ねる。 「楽しいとはまた違うけど、目的は完遂したから、すごく満足してる。」 「完遂ですか。」 楓嬢を見ることにそんな意気込みがあったのだろうか。 その顔を見れたのは二回だけ。しかも話をしてもいない。 それよりも隣にいた冥官の方がインパクトがありすぎだ。 その不敵な笑顔をはたはたと追い払う。 「・・・。」 昌浩が首を傾げるが、本当にそんな感じなのだ。 楓嬢を見、昌浩を見せた。 それだけで十分なのに、各務比古に会い、冥官の一面を見ることが出来、贅沢なほど幸運だった。 昌浩は?、と聞こうとしてやめる。 もともと無理を頼んで来てもらったのだ。 いい経験と言うからにはその言葉通りだろう。 昌浩は頬を掻いて、いろいろ考えを巡らせたのか得心がいったように応えた。 「そっかー、そうだね。楽しかったというより完遂って感じだね。でも俺、予定外に仕事が入ったから、まだ遂行中って感じだ。」 「ここまで今のところノーミスだから、頑張ってね。」 「はは。ありがとう。」 彰子の言葉はいつだって慰めの励ましでなく、背中を押す応援だ。 心が軽くなる。 「・・・・。」 チラッと彼女を横見する。 上級生と小競り合いなどは小事だが、 冥官の衝撃がなければ今頃前後不覚になっているだろう。 本当に紅蓮を連れてこなかったぐらいじゃダメだった。 しっかりやれよと心で思って背筋を伸ばす。 まだ仕事が残っているわけだから。 完遂・・しなかったら、今度こそ冥官が酷薄な微笑をするだろう。 「(うーん。怖い。)」 やはりそれは避けたい。殴られるとか蹴り倒されるとかならまだしも。 その時だ。後ろから声が掛かった。 「なんだ。もう帰るのか?。」 声に、彰子が背筋を固くした。 振り向けば思ったとおりの声の主がいる。 藤原道隆だ。彰子の実の叔父である。 「夕方にまたお会いしますのでよろしくお願いします。」 「うちの伊周もいくから、よろしくな。」 「・・・はい。」 彰子はほんの少しだけ昌浩の影に隠れていく。 この後の会話の展開は昌浩にもわかった。 そっと優しく手を取る。 握った手に彰子は昌浩の顔を見上げた。 こそっと笑い返して道隆を見返した。 今日目立っていた二人に道隆は親類であることを強調するかのように話す。 「この後どうするんだ?。」 「ホテルに戻って少し休みます。」 休むということを強調してはっきり言う。 「どうだうちに来ないか?」 「またにします。今度おじさんと一緒に行きますよ。」 「つれないぞ。」 「すいません。でも着替えて、・・・その前にシャワーだって浴びたいですよ。疲れた顔で夜会に出るわけに行かないですし。」 昌浩は肩を竦めた。 「定子さんの会なんだから、ちゃんとして行きたいですよ。」 その言葉を聞いて、なんだわかってるじゃないかと道隆は大様に頷いた。 「だから・・、本家は同じ京都ですから機会もありますし、またあらためて伺わさせていただきます。」 「そうだな。」 道隆の満足げな顔に彰子はこっそりホッとする。やり過ごせそうだ。 同時に一つ年上なだけでこうも物言いが違うのだろうと思ったりする。 道隆はまたホールへと戻っていった。 「昌浩。タクシーを呼んでいいか?。」 「あ、うん。お願いします。」 六合に促され、昌浩は応じた。 「安倍の家に行くけどいいよね。」 先程の会話には出さなかったので、錯誤の無いように確認する。 「うん。」 彰子がいつものように笑ってくれた。 安倍の本家は市内だ。 そう遠くは無い。タクシーでも、ほぼまっすぐで、間もなく着いた。 六合が連絡を入れておいてくれたのか、タクシーから降りると、兄の昌親がいた。 「昌兄。」 「久しぶり。思ったよりも元気そうだね。無事終わったということかな。」 「なんとかね。」 昌浩と彰子は昌親に促されて門をくぐり、座敷に通される。 「別件を抱えさせて悪かったね。こちらでは誰も気づいていなかったんだ。」 いや別に・・と続けようとした弟を制して首を横に振る。 「騰蛇がいたら、さぞかし怒るところだね。」 後ろの六合だって正直心穏やかざるものがありそうだ。 昌浩は肩を竦めた。 「将軍塚はいつも不穏なものだから。逆に京都にいたらわからなかったかも。・・・とにかく。お礼を言いに来ました。・・・・。」 足音がした。この家の当主が来たのがわかったからだ。 昌浩は居住まいを正した。彰子も習う。 昌親はそっと微笑した。 次代は既に彼なのだが、尊大な態度を取ろうものなら、不向きだが自らが速攻で鉄槌を食らわすだろう。 「久しぶりだな。」 「お久しぶりでです。」 「昌親もよく来てくれたな。」 「いえ。会えるときに会っておかないと、竹の子みたいに伸びる時期ですからね。」 「どうだ。声、変わったか?。」 「・・・・・まだです。」 昌浩は痛いところついてくるなぁと思ったりする。 「おじさん。今日はすみません。いろいろ頼んで。」 「いや。こちらこそだ。あそこに今、自分も行ってみた。すぐに溢れるようなものではないが、もう私の手では負えない。」 吉平は状況を昌浩に伝える。 将軍塚はまだ鳴動してはいない。この国の行政府が東京にあることを是としている。 だが、それを快く思わない魂が、この世の不条理な魂を集め、この塚の力を解放しようとしていた。 「鎮魂で・・済めばいいが。」 「・・大丈夫です。」 何故なら比古が来てくれるから。 彼は排他された王道の正統なる後継だ。 京を都と思う輩がその声を聞くだろう。 だが、この場では内緒だ。伝えても訝るか、心配させることになるだろう。 つくづくアンダーグラウンドな家業だなと思う。 こっそりちゃっかりな祖父のことをあまりとやかく言えない。 それが後継の定めだという自覚は実はおぼろげにならある。 吉平の妻が、お茶とお菓子が運んできた。 その後ろに成親がついてきて、座敷に爽やかな笑顔を覗かせた。 「おお、物好きが来ている。」 ずばり昌浩のことである。 「・・・久しぶり。成兄。」 「なんだ。結構元気そうじゃないか。慰めにきたのに。」 「事前情報をくれたから。」 小物とか見取り図やら、まあ大体の進行状況とか。 「役に立っただろ。」 成親は得意げに胸を張り、やおら肩を竦めた。 「なんだ、元気なら、俺は退散するぞ。まだ二・三軒回らないとならないんだ。」 そこを吉平が引き止める。 「ああ、待て。」 立ち上がり傍にあったバックからカメラを出した。 「成親。そこ並べ。」 「は?。」 「写真を撮ろう。せっかくだから。」 昌浩たちとな、と、片目を瞑る。 吉平の妻も満面の笑みで、三脚を持ってきてくれる。 成親も得心がいって笑った。 「嫌だなぁ。おじさん。俺の時はスルーしたくせに。」 「おまえは顔はいいが性格が良くない。」 「まあ、おじいさん譲りですからね。」 「直そうとしないところがまたそっくりでかなわん。」 一通りのやり取りをして、成親は昌浩と彰子を招く。 床の間の前に皆で座った。 昌浩と彰子が真ん中だ。 背後に兄達が立つ。 何枚か撮影し、それから外に出た。 春の盛りの、華やかな庭で、空は青一色だ。 縁側で、立ち姿を撮る。 満足した様子で吉平はカメラを三脚から外した。 「じゃあ、俺は帰るぞ。」 「ありがとう。成兄。送るよ。」 「ああ。」 「成親さん。これ、お車の中ででもどうぞ。」 差し出されたお菓子をありがたく受け取る。 彰子を振り向いた。 「あきちゃん。これまた格別に美人だな。将来が末恐ろしいぞ。」 「そんなことないです。」 「今度ゆっくり話そうな。じゃ。」 ひらっと手を振って昌浩と部屋を出て行く。 「ある意味、大変だった?。」 昌親が聞いてくる。 お菓子とお茶を頂きながら、彰子は頷いた。 「・・・・はい。」 「成兄もそうだけど昌浩は輪をかけて無頓着だからなぁ。」 昌親は嘆息した。 「実は結構格好いいんだけどねぇ。」 「昌親おにいさんもそうですよ。」 「いいよお世辞は。」 「だから無頓着なんです。昌浩が。」 彰子は正直な心で正しく三兄弟について批評した。 玄関前に来て、彰子の聞こえないところで成親は感歎した。 「やーびっくりした。なんだ、あれは。あきちゃんか?」 「彰子ですよ。」 「おまえ大変だなぁ。」 「成兄に言われたくないです。」 「いやいや女の子の成長は早い。最初から美人なのとはわけが違う。もう俺らの射程圏内だぞ。」 「・・・成兄っ。」 昌浩が真っ赤になった。 背中をどかっと蹴る。 「痛えっ。おまえ、マジで蹴るなよ。」 「容赦してますよっ。」 「あたりまえだっ。武術を現在進行形でしているおまえがマジ蹴ったら痛いですむかっ。」 「・・・・・・・。」 もはや何も言い返せなかった。 「ま、お疲れさん。」 言葉とは裏腹に、人の悪い笑顔だった。 [08/4/15] #小路Novelに戻る# #Back# #Next# −Comment− 中継ぎの話が長いな。うーん次もだ。 書きたいシチュを書いてたら、こーなる。 だがメインまで遠い・・・。一つ、二つ、三つ、四つ目か?。 その後、五、六、七、八。 20で終わりたい・・・・。(希望的観測。) みんなのうた> 今月の歌のクリスタルチルドレン。 リリーナ(GWね)が素で言いそうな言葉が散りばめられています・・・。 ああ、素敵だ。 |