※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※Lost City −13−定子主催の夜会は、シャンソンの歌声とともに始まった。 「ちょっと意外だったかな。」 「うん。」 もっと京都らしい堅いものか、大人にしかわからないものになるかと思っていた。 食事はテーブルごとに出され、コースも京野菜中心で、それほど重い内容ではなかった。軽いバイキングも並んでいて、量を食べることも出来た。 昌浩は仕事前に肉っ気のあるものを食べることを控えていたので少しありがたかった。 バイキングのトングでサンドイッチを小皿に取りながら、昌浩は彰子にいる?と尋ねた。 彰子は首を横に振る。 「私はもういいわ。服がきつくなるから。」 「・・・・・大変だね。お洒落も。」 洋服の件を出されると昌浩は視線が宙に浮いた。 似合っている。確かに似合ってはいる。 昼間よりはラフだ。 髪も前髪まで上げていた昼間とは違って、後ろだけ上げて、前髪は垂らしていた。 だが夜会を意識してか、衣装は全体的に黒い。 デザインはアゲハ蝶を意識して、これが世に言う『ゴ』がつく格好かと思った。ゴテゴテはしてないものの、やはりそれとしか言いようが無い。 正直見た瞬間に、一人で着れる代物なのかと聞いてしまった。 やはり髪結いさんに手伝ってもらったらしい。 「昌浩こそ大丈夫?。足りてる?。」 「炭水化物を取ればね。なんとかガス欠は避けられるんだけど。でも仕事が終わって明日の朝は結構食べるかも。・・・。」 背後でサックスが掻き鳴らされた。 ジャズバンドの演奏が定子のセンスを演出する。 昼の式典があまりにも重厚だった中、その雰囲気を崩さず、かつ陽気で、これはすごいと思った。 昌浩と彰子だけでなく、客全てがそう思ったのか皆振り向いて聞き入った。 彰子が定子に呼ばれて、昌浩はパーティ会場からバルコニーに出る。 ここは京都駅近くのホテルだ。 東山につながる夜景を見ながら、一息ついていた。 例によって雑鬼達が来ていた。 雑鬼達は昌浩に聞いてもらいたいことがたくさんあった。街の様子が変わっていくこと、意外とまだまだ人が妖に驚くということ。 滔々とそれを聞いていた。が、あまりにも終わらないので今晩の仕事にまでついてきそうだった。 ハッとする。それはまずい。正直危険な仕事だった。 「・・・・今夜、来るなよ。」 「大丈夫!。俺達野暮じゃないから。」 「野暮とか言う問題じゃない。」 巻き添え食わせたくないから言っているのだ。 「大丈夫!。この後はみんな解散って決めてるからさっ。」 「なら、いいけど。」 ふうと溜息をついて、再び雑鬼達の会話に耳を傾けた。 その後姿は半分闇に溶け込んでいた。 昌浩の格好は黒のハイネックのカットソーに濃紺スーツの上下。会場が暑かったから上着は脱いでバルコニーの手すりにかけている。 カットソーの右肩にはデザイナーによるイラストが染め抜かれていた。 白い薔薇のようでグラデーションやラメの具合で蜘蛛の巣のようなデザインにも見える。 「・・・。」 冗談めかして実はこれが一番いい値段がしたんだよね、と言っていた。 彰子は扉のガラス越しに立ち止まって、その背を眺める。 部屋から彼が出てきた時、こんなの着こなせるんだと思った。 「(・・・いつも知らない。)」 定子に尋ねられた。 いつもなの?と。最初どの話かわからなくて、式典が始まる前に起きた一連の騒動のことを定子から聞いた。 自分は知らない。どこかでそんな仕打ちを受けていれば知らない間に片をつけてくる。 いつも知らないうち。 そして知ろうともしないから、知らないままなのだ。 教えてくれるまで聞いてあげない、尋ねない。 からん、と扉を開けた。バルコニーに出る。 パーティ会場の人達が振り向いた。蝶が蜘蛛の巣に飛んでいったように見えたから。 「・・・・昌浩。」 「あ、彰子。定子さんなんだって?。」 「楓様あたりから話を持っていったんだけど、定子さんも彼女を見たの今日が初めてなんですって。」 「あ、そうなんだ。」 「なんだ?、なんだ?。何の話だ。」 昌浩よりも雑鬼が身を乗り出してくる。 彰子は苦笑いした。 「小野楓さんと小野筱さんの話よ。」 「あ、俺、そいつら知ってるっ。」 「いいよ。おまえ達は話さなくて。聞いたらややこしそうだ。」 「っんだよっ。ケチッ。」 「そんなこと言って噂話にしてあとで怒られるのは俺なんだぞっ。」 この世ではなくあの世で一番恐ろしい男にだ。 「とゆーわけで、彰子だけ続けて。」 「あ、うん。どこまで話したかしら。えと、ああ、それから筱さんとの婚約の話はないらしいの。あくまで養子縁組で兄弟らしくて。でも昼間の様子があれだから不思議そうにしてた。」 不思議そうにしていたと言う。彰子は不思議じゃなかった。昌浩もだ。 「ふーん。」 生温く返事をする。 「やっぱり一枚噛んでるのかな。」 「うん。かもね。」 首を傾げる昌浩に同意した。 風が吹く。 冷たい春風だった。 ブラウスでは少々肩が冷えた。ここに来るまでがタクシーだったので上着は持ってこなかった。 「寒い?。」 「うん。少し。」 中に入ろうと促されるかと思ったが、昌浩は自分のジャケットを掛けてくれた。 そして雑鬼達の雑談に再び戻る。 視界をやれば見事な夜景だ。 中に入るのは確かに勿体無かった。 ホテルに戻ったのは22時だ。 「・・・どうしよ目が冴えてるな。比古に寝ろって言われてるんだけど。」 「シャワー浴びたらいいんじゃない?。」 「うーん、そしたら朝まで起きれなさそう。」 「じゃあ、このままラウンジでココアでも飲みましょ。あれ、カフェイン入ってるし。糖分は取った方がいいでしょ。」 「あ、いいね。いいかな六合。」 別にかまわないという感じだった。 閉店の23時までくつろぐ。 エレベーターに乗り込み、その中で昌浩は呟いた。 「彰子。ホテルから出るなよ。悪いけど、誰もつけてないから。」 彰子は微かに息を呑む。神将を3人も連れて行く事態なのだろうか。 「・・・うん。わかったわ。」 ちゃんと紅蓮を呼んで欲しいと思った。けれどそれは既に言った。あとは昌浩が判断することだった。 「売店とかは平気だけど、それでも廊下は物騒だから。あんまり部屋からもさ。」 昌浩は言いながら、子供に言うみたいだと思ったりもする。 「うん。もう寝るだけよ。」 彰子は言われなれているのか、気にした風もなくにこやかに笑った。 階にたどり着いて、フロアに降りる。 「そっか。・・じゃあお休み。」 彰子は手を振って部屋に入った。 六合について、昌浩も部屋に戻っていった。 [08/5/1] #小路Novelに戻る# #Back# #Next# −Comment− うーん。ネットが回れない・・・。 |