※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



Lost City −14−







 彰子は部屋に戻る。中は真っ暗だ。
 一緒に泊まる予定だった父以外に、他に引率はなく、今日は一人だ。
 ベッドサイドの明かりをつけた。
 仄かな暖色の光が部屋に陰影をつける。
 カーテンを閉めようと思って、それは既に閉められていて、髪結いさんが気をきかせてくれたのがわかった。
 深夜の23時。
「(・・・・・・返すの、忘れた。)」
 上着を脱ごうとして、気づく。それは昌浩のだ。
 彰子は脱いで、皺にならないよう椅子に掛けた。
 休む前に簡単に明日の用意をと、明日の着替えをカバンから出し、隣のベットに乗せる。
 ベージュ系の短めのワンピース。
 どうも暑くなるらしいので、ソメイヨシノの一、二輪は見れるかもしれない。
 シャワーは明日の朝にしよう。夜会の前に浴びたから。
「・・・・・。」
 ドレッサーが傍にあって、ベッドサイドに立つ自分の姿が映った。
 鎧のような服だった。
 袖は長く襟は高くて、スカートも膝より長くて、スキが無い。
 脱げるかな、と思って試す。
 着せてもらった服だ。
 やがて・・・沈黙した。
「(脱げない。)」
 自分に呆れ返って彰子は脱力し、そのままベットに倒れこんだ。
 ベッドサイドの時計はPM23:12。
「疲れた・・。」
 昌浩みたいにぼやいてみる。このまま寝てしまおうと思った。
 だが不意に頭にかすめる。

 昌浩の部屋のカードキー

 返すのを忘れた。彰子は目を瞬かせる。
 正真正銘、昌浩の部屋のカードキーだ。貸してくれたジャケットのポケットに合った。
 一度起き上がり、椅子のジャケットを手に取った。
 ポケットからカードキーを取り出す。そしてそのまま、その手の中に視線を落とした。
 返さなくてはならない。
 言葉にはいくつかの可能性を伴う。
 今すぐ返すべきか、取りにくるまで待っているか。
「・・・・。」
 寝る前に、
 賭けをしてみる。
 カードキーを手に持ったまま、彰子はベットに再び寝転んだ。
 これは賭け。
 手の中のキーは時限爆弾。
 このまま朝まで寝てしまうか。
 それとも途中で目が覚めるか。
 朝ならその気がなかったと。
 私はどちらでもかまわない。
 でも・・と、自分自身に願をかける。

 願わくば、真夜中に、と。








 昌浩は服を脱いだ。昼間着ていた礼服をもう一度着る。出来る限りの礼儀を神様達に払うためだ。
 それに、いくら山の中の遺跡とはいえ、観光名所だ。狩衣では目立つ。
「観光客が、ずかずか行ってるのに、修学旅行どうしよう。」
「・・・・。」
 六合はノーコメントだ。
 以前物の怪に同じことを言ったら『制服で十分だ、もしくはわざと外せ』と言うことだった。
 だとしても出来る限りの礼儀を払わなければならないことに変わりはない。
 自分は神を見ることが出来、わきまえなければならない側の人間だ。
「寝なくていいのか?。」
「いいよ。本当に起きれなくなるだろうし。」
 数珠やら符やらを上着のポケットに入れていく。
 その時、六合の携帯が鳴った。
「?。」
 訝るように昌浩が顔を上げる。
 六合も着信に眉を寄せていた。随分遅い時間だ。
 こんな時間にかけてくるという事は自分が任務についていることを知っている者ということになる。
「・・・・吉平だ。」
 呟いて六合は着信に応じる。心なしか安堵が混じっていた。
 昌浩もだ。溜息をつく。吉平なら難題を突きつけて来るようなことは無いし、面倒をかけもしない。
 これが得体の知れない敵からとか、祖父からだとぎくりとする。
 その敵やらと祖父が同列なのはこの際仕方が無い。
「・・・わかった。」
 電話は短めだった。
 携帯を折りたたんで、複雑な顔をした。
「なんだって?。おじさん。」
「・・・・展望台周辺で最近変質者が出るそうだ。」
「・・・物騒だね。」
「彰子嬢を連れて行ったりしない様、念を押してきた。」
「誰がっ・・・。・・・・。」
 勢いで応える・・・が、彰子がこっそりついてくるようなことになれば、別だった。
 ありえないとは言い切れないのが彼女だった。
 先程彼女と交わした言葉を思い出してみる。
 もう寝るだけと、わかったと言っていた。
 あの言い方は了承してくれたと思う。
 それでも勢いはどこへやら、自信なさ気に呟いた。
「・・・・・たぶん大丈夫。」
「・・ホテルのカウンターの人間に、女一人出て行こうとするなら止めろと言うか?。」
「いや、いいよ。彰子もわかってると思うし、そこは信頼したい。」
 言いながらその言い草は信じていないな・・・俺、と溜息をつく。
 準備しているうちに早々40分が過ぎた。
「出雲の御曹司が着いていましたよ。」
 太裳と青龍が顕現する。
「あ、ほんと?。じゃあもう行く。」
 昌浩は上着を羽織って、カードキーを引き抜きルームライトを消して廊下に出る。
 廊下は真夜中を映して静かだった。
 彰子は寝たかなとドアをちらっと見た。
 そして、神将達を振り返る。
「青龍と太裳は先に将軍塚に行っていてくれる?。俺もすぐに行く。」
「わかりました。何かあれば封じておきます。」
「頼む。」
 言葉短めに応えた。





「寝てないな。」
 ロビーにて出迎えた比古が開口一番に呟いた。
 昌浩はそれについてはもう開き直って答える。
「寝れないよ。一分たりとも。」
「うわ。テンション高。」
 比古が茶化した。
 でもその根性は嫌いじゃないので保留する。
 こっちだから来いと車を指差す。
 黒いベンツだ。
「うわ。」
「暗躍するにはちょうどいいだろ。」
「・・・俺、どこの堅気だよ。」
「妖車に乗るよかいいんじゃねぇ。途中でいじけているのに会ったぞ。」
「・・・・・古都と言っても夜中明るい大都会なんだから、そうそう乗れないって言ってるんだけどな。あとで慰めておくよ。実際火急の時は彼が頼りだから。」
 後部座席に乗り込んだ。比古は昌浩の左隣に座る。
 滑るようにベンツは走り出した。
「うーん。このままドライブに行きたいなぁ。」
 昌浩が感慨深げに呟いた。シートが座りやすい。
「そのうち自分で乗るかだね。」
「・・・それ真鉄に言われたとか?。」
「あ、当たり。」
 くすくす笑う。
 比古に対して厳しくて、でも過保護な彼だ。
 昌浩は尋ねる。
「真鉄は?本当にいいって?。」
「いいってさ。」
 比古が何をしに行くかぐらい彼にはわかるはずだった。
「おまえは?。」
「おまえだからいいよってとこだな。」
「寛大だなぁ。」
 どこでそんな信頼を得たのか実はあまり覚えていない。
 昌浩は去年の夏を思い出す。
 出会いは他愛なくて、少しの喧嘩と事件の解決。それだけだ。
 比古が呟いた。
「・・・・。河神比古。」
 昌浩はぎくりとする。
 自分は比古を各務と呼ばない。
 とてつもない言霊だからだ。
 字で書いたり、他の人が口にするぶんにはいい。 
 でも自分はだめだ。別の意味をともなって響いて呼んでしまいそうだ。
「彰子嬢に使わせないように言ってもらえる?。」
「うん。言うよ。でも彰子、わかっているというか・・口ずさめないでいると思う。」
「・・・・うわー・・そんなのまで見えるの。彼女。」
 そこは何せ祖父をしのぐ見鬼だ。
 昌浩は別のことを尋ねた。
「・・・おまえは?。名前を継いで大丈夫?。真鉄も。名前無しでも継ぐのは真鉄なんだろ。」
「傍系の三男で、次点なおまえより、真鉄のほうが立場は楽じゃねーの。」
「・・・・・・ぐぐ。」
「うちの事情を心配するより、おまえは自分のことを、もうちょっと考えろよ。」
 寝てないのも含めて苦言を呈する。
「・・・あんまり考えたくない・・。」
「真鉄は俺より賢くて強くて人望があるの。俺は今は御曹司やってるけどそこに胡坐かく気はさらさら無いよ。」
「・・・・そっかぁ。えらいな比古。」
 素直に感心する昌浩である。
「・・・。」
 言われたほうは脱力してしまうのだった。
「・・・・でも、ほらもっと別のがあるじゃないか。」
 各務でなく。
 昌浩がチラッと比古を横見する。彼は少しだけ言いよどんだ。
「・・・それは・・・それ。これはこれ。」
 昌浩と同じ様な物言いになってしまう。
「あんまり考えたくない。」
 存外に重い名がある。 それは一族を守る言霊。
 それをこれから発揮してもらうのだ。






 車が山頂公園駐車場で停止する。
 ここから将軍塚は歩いてすぐだ。
 車から降りる。窓越しに見えていた夜景が直接目に飛び込んでくる。
 六合は車の上に隠形して乗っていたらしい。
 横に飛び降りてくる。
「・・・・・。」
 昌浩は眉を寄せた。体がこの先に行きたくないと警鐘を鳴らす。
「昌浩。」
 その様子を比古が訝った。
「・・・・。」
 行きたくない。行かないで済むのなら。
 だけど、自分は、陰陽師なのだ。
「比古。俺から離れないで。」
 昌浩は辺りを見渡した。
 ここは展望台で夜景を見るための人達が大勢いた。深夜なため皆大人で、カップルばかりだ。
 春の週末で、桜が咲いていて、酔いに任せて浮かれている。
 だが、自分はそんな気分にはなれなかった。
 そこに太裳が昌浩の前に顕現した。
「辺り一帯を外界から隔離してきました。」
 人避けと遮音の結界だ。
「・・中に人は?。」
「境内には今のところいないですね。営業時間外ですしね。ただ酔っている者達が多いので、無神経に入ってくるかもしれません。」
 それは昌浩も危惧するところだ。
「・・・わかった。青龍は?。」
「将軍塚で待っています。」
「わかった。ありがとう。」
 昌浩は歩き出した。
 比古も続く。
 散策道の向こうは真っ暗だった。・・・真っ暗に見えるようにしてある。人避けの効果だ。
 昌浩の緊張は甚だしかった。
「昌浩。一つ聞いていい?。」
「・・・・・。・・何?。」
 すごい訝しげな声だった。
「・・・。」
 もしかして、俺、本当に足手まといかも、と思う。
 真鉄に言われた言葉を今になって思い出す。
「・・・・俺、もしかしてすごい邪魔?。」
 とりあえず聞いておく。
 昌浩は首を横に振った。そしてそのまま歩きながら尋ねる。
「・・俺も一つ聞きたい。・・おまえ平気なのかよ。」
「・・・・何が?。」
「この雰囲気。」
「・・え、・・・別に。何かあるのか。」
「・・・・・。じゃーいいよ。」
「なんだよ、それ。」
 比古は眉を寄せる。昌浩の他人行儀な態度にだ。
「おまえ、面倒くさくなると隠すの良くないぞ。」
 兼ねてから言おうと思っていたことだ。
「驚かさないようにとかそういう配慮の結果だとしても、悪く言えば、ただ面倒くさがってるだけだろ。それ。」
「・・・ぐさぐさぐさ。」
「今更傷つくなよ。どーせ彰子嬢に散々してるんだろ。」
「なんでおまえが知ってるふうに言うんだよ。」
「じゃー、昼間の一件話したのかよ。」
 上級生とのいざこざだ。
「・・・・・・・・・・・・。まだ。」
「ちゃんと話せよ。」
「・・・わかった。」
 殊勝に昌浩が言ったので比古は話を戻す。
「で、この雰囲気って、おまえはどう感じているわけ?。」
「・・・・・。この国を覆すことが出来る者がいる。妖なのか鬼なのかはわからない。でもその類がいる。」
「あー、なら、俺、平気だ。」
「わかってるよ。」
「別に、気にすることないからな。そんなの。おまえがいる限り世界を滅ぼしたりはしないから。」
「・・・・・・。」
「おまえが理不尽に死ぬようなことになったら、わからないけどな。」
「・・・。真鉄に忠告しておくからな。」
「げ。」
 比古は笑いながら、呻いた。
 彼の名前を出されると正直弱い。
「・・・・・。」
 将軍塚のある寺院につく。
 六合と太裳に手伝ってもらい門を越えた。
「・・・。」
 この門は結界なのだと思った。
 比古が微かに息を呑む。
 振り向けば昌浩が頷いた。
「言っとくけど、比古。おまえだって生身の人間には違いないんだから。殺気に気づかなくて怪我するなよ。」
 この先にある将軍塚からの邪悪な気配。気流となって足元に纏わりつく。
「わかった。」
「・・・・・。」
 昌浩はついてくるものがいないか、後ろを確認しようとして、見事な京都市内の夜景が見えた。西の展望台だ。
 霞掛かって、ちらちらと瞬く。
 彰子はこの中にいた。
 上級生達の話を出されて、ふと思う。

 誰が守っているのか、と。

彼女が眠る
 この街を








[08/6/1]

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−Comment−

うーん。比古昌浩はいいねぇ。

ロストシティ大体書けつつ、どうもポコポコ話が浮かんで終わらないからサイドストーリーを別タイトルで設けることにしました。
出雲サイドに小野サイドに藤原サイド。どれも過去の話。


まあ、ゆっくり気まぐれ更新です。
試験勉強を始めたからです。一年越しの。
それから夏が始動しております。
とにかく忙しい季節の到来です。
海だー山だー。遊べー。たまには勉強しろー。





愁い〜〜〜新刊感想>
ネタばれを含むので一番下の行に。







では、ついでに。
ブログには書きにくいことを、ここでついでにぼやきます。

まずは一つ目。それは『痩せた』という話。>

こんなことを一言でもブログで言おうものなら実母から、どうしたの?、電話が届く。
ダイエットとか、そういう痩せ方じゃないですよ・・・と言っても通じません。
妊娠して出産したら太ると思っているので。
実際は出産したら、一人目は痩せて、二人目から太るらしいです。

さて。
ついこのあいだブラジャーを買うにあって久々ワコールの店員さんに測ってもらったのです。
アンダーとトップを。
9年前はF68でした。登山リュックのせいで背中ムキムキの筋肉マンだったころ。
そして今回F65・・・・。
痩せてる・・・っ。
筋肉が落ちて贅肉が付いてるとばかり思っていたのだが。

ワコールの店員さんは親切です。
綺麗なおねーさんに測ってもらえてなおよし。
値段は3000円以上しますがね。
店員さんに測ってもらって選んだそのブラジャーはどこも締め付けません。
私、高校生までCとかBとかつけてたけど、大学生でバイトして小金持ちになったので測りに行きました。
サイズの違いに愕然。
そしてそのころFに可愛いのがない時代。Eを買いました。
でもEではほんと入りきりません。
今はこのサイズでいろいろありますね。



夏に向けて、体を作る>

普段。156cm49kgで推移中。
夏に向けて、体を作らなきゃということでトレーニング開始。
やはり冬太りのぽっこり2段腹はちとダイバーには痛い。

ちなみにダイエットじゃありません。トレーニングです。
ダイエットしたい人は、ジュースをやめ、夜食をとらなきゃ、絶対に痩せます。
ちなみにお酒飲んでいる人は永遠にお腹がへっこまないでしょう。
ごはんはしっかり三食。おやつも軽く。
腹八分目に医者要らずでごー!。

だがしかし、このままいくと夏痩せで48kgだー・・・。400献血出来ないではないか。
食べれば太る。が、食べて太るのはメタボになるだけ。
筋肉です。筋持久力っ。
登山してないので筋肉が落ちてるのです。
筋肉の『重さ』が、欲しい。

今日ドラッグストアに行ったら、さすが肌を露出する夏。
通路両側ダイエットにメタボに快便に肌艶。
食ってなんとかなるものなのかね。
ドリンク剤なんてむしろ太る気が。シュガーダイエットってなんじゃそりゃ。
運動したほうがいいよー、なんでもいいから。

とりあえず、夏始動。
石垣島に行くぞ〜〜〜〜。マンタだーっ><。





愁いの波に揺れ惑え>
お互い一歩引いていたのが〜〜〜〜っ、二歩も三歩も四歩も五歩も下がらんでいいーーーーーっ(号泣TヮT)

それから、
「俺じゃあ彰子を守れない」
って、主人公自ら吐露するの、聞いたの初めてなんですけど・・・。

(ディズニーのアラジンで僕を信じてと連呼した挙句に全然信じれない奴とは大違い。)

くううっ、痺れます。