※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※Lost City −17−朝が来て夕べは今日になった。 彰子は目を覚ました。 覚まして・・すぐ、鼓動が大きく振れる。 起きてまだ目がなれない。 なれないけれど、体に巻きつく腕に体が硬直していく。 上目遣いに目線を上げると昌浩の寝顔が見えた。 再び鼓動がはねたのは、明け方まで一緒だったのが昌浩だということを認識したからだ。 髪留めを解いた髪が夕べの表情をわずかに隠す。 目覚めたらもう消えているだろう顔。 強欲な・・一面。 彼の眼差しを思い出した。 「・・・。」 でも、最後はなかったのだ。 昌浩は服を脱ぎもしなかった。 「・・・・朝。」 気がつけば朝だ。 夏至に向っている季節の窓の向こうは既に明るかった。 朝に目覚めて、昌浩が隣で寝ていた、のは随分昔。 一時安倍の家に預かられていた時、だ。 対妖を怖がるより、人の自分を見る目を怖がっていた頃の。 「・・・・・。」 彰子は起き上がる。 気持ちはこのまま泥のように昌浩の中にいたかったが、理性が体を動かして今日のアクションを打算する。 時計を見れば5時半で。6時半にはお手伝いさんが来る。 起き上がったことで昌浩が目を覚ますだろうかと顔をを覗く。 だが、身じろぎもせず確かな寝息が聞こえてきた。 ホッとする。 明け方の続きがあるなら、流されてしまいそうだ。 彰子は座ったまま身支度を整えた。 服は乱れてはいたが脱がされてはいなかった。 最後はなかったのだ。 堪えるため彰子は前髪を後ろに流す仕草をしてそのまま押さえる。 ・・・・・最後まで行かれたらと思うと、正直怖い。わからないし、痛いかもしれないし、失敗するかもしれない。 夕べだって十分に怖かった。 あげ連ねた単語の意味もわからないまま、そういう言葉が心情に当てはまる。 それを見透かされた気がした。 昌浩の黒い紐の髪留めが床に落ちていた。 拾い上げる。 「・・・。」 賭けには勝った。 けれど昌浩には負けたような気がした。 最後はなかったのだ。何もしなかった。何も出来なかった。 何もさせてもらえなかった。 夜を過ごしたことは、昼間の会に参加してくれたこととあまりかわらない。 私が依頼して、彼は請け負ってくれただけ。 「(本当にする気がなかっただけだったりして。)」 そう結論付けて彰子は立ち上がった。 「・・・昌浩。行くね。お手伝いの人が来るから。」 黙って出て行くのはやはりどうかと思われて、呟き、それから軽く揺すった。 だが起きる気配が無かった。 「?。」 無理に起こすのもなんだった。 ルームキーを確認し、昌浩の部屋から応接の部屋に出る。 外に出るドアの横に六合がいた。 怒られるかなぁと思ったが、六合はこちらが何も言わない限り何も言わない性格の持ち主だ。 「昌浩。起きないけれど、・・眠りが深いみたいだけれど、昨日大変だったの?。」 「・・。ただ術を行使しているだけだ。」 「・・・現在進行形で?。」 六合は頷いた。 「もうすぐ済むだろうが・・。」 あの眠りの深さはそういうことらしい。 「そう・・。朝食、7時になったら私は食べに行くけど、昌浩、無理に起こさなくていいから。ルームサービスもあるし。」 「わかった。」 「じゃ、またあとで。」 「・・・。」 ひらりと手を振って出て行こうとする様子ががあまりにも普段どおりで、訝る。 安倍にかかわるなら、軽い心で近づかせない。 そういうのが大勢いた昨日だ。 「陰陽師に抱かれて後悔はないのか?。」 「・・・。」 心がやさぐれていたので、彰子はその言を凄絶に笑う。 「陰陽師の昌浩だったら抱いてくれるの?。」 「・・・。」 「だったらその方がいいわ。」 こんなにあとくされなくされたら、逆に悔しいものがある。 「じゃあね。」 六合に言いたいことを言ってすっきりしたのか、更に足取りを軽くして部屋を出て行く。 「・・・。」 直球を返されて、ある意味感歎する六合だった。 姓は違えど、安倍の性根を叩き込まれているのは、彼女も同じらしい。 黙って立っていれば天一で、口を開いて態度に出ればその性情は勾陣というのはなかなかシュールだ。 少しだけ夢を見ていた。 あの綺麗な夢を。 昌浩はぼうっとしたまま目を開ける。 寝たのは確か4時だった気がする。 すっかり陽が昇りカーテン越しでも室内は明るかった。 「(・・・・7時半。)」 ベッドサイドのデジタルの時刻が視界に入る。 それならだいぶ寝た方だ。 体に掛かる負荷が無くなっていた。霊魂達の昇天が済み自動的に結界が消滅した証拠だ。 ホッと胸を撫で下ろす。 あとは今日、観光して、東京に帰るだけだった。 「・・・・・。」 寝たのは4時だった。 それまでは彰子がいた。 ベットの隣を見やっても、既にもぬけの殻だった。 いつの間に起きたのだろう。 昌浩は起き上がった。 礼服のまま寝転んでしまったので、スーツは皺になっていた。 まあ、寝ていたせいだけではないし、戦闘でも破かなかったので怒られはしないだろう。 全部脱ぎ捨てて、下着姿でシャワーを浴びに行く。 シャワールームはベットルームと隣合わせにされていた。 シャツを脱いでシャワーのコックをひねる。予想を違わない熱いシャワーが降って来て気持ちが良かった。 明け方の熱が寝汗とともに流れていく。 もう少し抱き締めていたかった。 強欲だが思ってしまう。 それだけは夢と自分は違っていた。 「・・・・・。」 天命を全うすれば先に尽きてしまう命だから、片時も無駄に出来ない。 昌浩はシャワーを浴びタオルを腰に巻いて、部屋に戻りさっさと着替えた。 「・・・髪留め・・。」 近くに見当たらなかった。探す時間より、今ならまだ朝食のバイキングに間に合うのでその時間の方を優先する。 「六合。いる?。」 ドアを開けて応接の方に出る。 カードキーが無くても六合はいて、本性から髪も短くし、窓際でコーヒーを飲んでいた。 「おはようございます。彰子はもう、ご飯を食べに行った?。」 「7時に行くと言っていたからレストランにいるはずだ。」 「そうなんだ。わかった。俺、行ってくる。六合はどうする?。」 「食事なら済ませた。・・・チェックアウトは俺がいたほうがいいだろう?。」 「あ、そだね。じゃあ、行ってくる。」 ひらっと手を振って昌浩は出て行く。 ある意味六合の方が無関心で融通が利くなと、ちゃっかり思ったりした。 心で謝りつつも悪びれるつもりはなかった。 エレベータでレストランの階まで行く。 レストランに行くと入口付近のテーブルに彰子がいた。 笑顔で片手を上げて自分を招く。 「おはよう。・・・・。」 少しだけ口ごもる。本当に片時も油断ならない・・と思ったからだ。 背後の二つ向こうテーブルに上級生達がいたからだ。 彰子は気にした様子も無く肩を竦めた。 「おはよう。術を使ってるって聞いたから、もっと遅いかと思った。」 彰子は食事を済ませて食後のカフェオレを飲んでいる状態だった。 「それはもう終わったよ。ぐっすり寝たからよく寝れたかも。」 「そう。ならいいけど。」 くすっと笑って、彰子は席を立った。 「バイキング、8時半までだから、まとめて取らなきゃ。一緒に持ってあげる。」 どれだけたくさん食べるかはわかっている。 それはもうどこに入るのかと思うほど、食べる。 「ありがとう。」 水とナプキンを持ってきてくれたウェイターに昌浩は朝食のチケットを渡した。 「・・・。」 髪結んでこなかったんだ、とこっそり思った。髪もしっとり濡れていて急いできたのがわかった。 自分ならそれがわかる。 だが、周りの人は違う。 同じおざなりな仕草でも昌浩がすれば意外性に転じる。 これでは水も滴るなんとやらだ。 女性客の視線が痛い。 本当に油断出来ないと彰子は背筋を伸ばして歩き出した。 「・・・あ。」 彼女の後姿を指差す。 「俺の髪留め。」 両側の髪を一房ずつ取って後ろのトップで結んでいた。 「・・部屋に落ちてたから、もらいました。」 「・・・返してもらいます。」 しゅるっとほどく。 「彰子いっぱい持ってるんだから。」 昌浩は髪留めを口にくわえて、後ろ髪を両手で集める。 夕べ本当にいたんだなと思えた。 「はーい。」 肩を竦めて彰子は笑った。 お互いに際どい会話していると思いながら、昌浩は髪を結わきなおしたのだった。 これでいつもどおりだ。 [08/8/1] #小路Novelに戻る# #Back# #Next# −Comment− ・・・・いろいろ不問でよろしく。 刹那の静寂〜感想> 代わりに・・・欲しいと言える昌浩だから。 嵬がとてつもなくエライ!、姫宮とのやり取りが可愛くてたまらない。 勾陣の不穏さもいいですわ〜。 冥官は、・・・放り投げたんかいな。それは神将の気持ちを逆なでするわいな・・。 相変わらず最強不敵な男だなぁ。 情けは別次元。楓に全部置いてきたんだろうな。 でも篁だって、その楓といるのがたまらなくなった。 そしてとても信頼していた人がいて、その人に守られながら失って自身の無力を責め続けてもいた。 そして強くなった後にも筱に守られながら失った。 篁にとって最愛の人達だった。 何もまだ失ってないうちから、失った気になるな、と言うところだね。 でもこれは篁の感想と言うよりは、篁の境遇を昌浩が知るようなことがあれば昌浩が感じる思いかも。 お盆は、木曽御嶽山に登ってきます〜。久々の3000m峰だ〜。 |