※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



Lost City −2−







 もはや他人事である。
「おまえも物好きだなぁ。」
 経緯を聞いた紅蓮の第一声である。
 只今は学校から帰って、宿題を済ませた後の夕飯時である。
 紅蓮は母露樹の横に立って味噌汁を受け取り、テーブルに並べている。
「まあ、そこは引くに引けまい。」
 勾陣は肩を竦める。彼女は小鉢を出して、酢の物と煮豆を取り分ける。
 テーブルについてご飯を待っている太陰が昌浩の肩を持つ。
「昌浩なら大丈夫よ。政治家のパーティーだって行ったことあるじゃない。」
「・・・それは比較にならないのでは?。」
 玄武が眉をしかめた。
「どう違うの?。」
「勝手が違うだろう。政治家は庶民でもなれる。が、ああいった場所に成り上がりは大概門前払いだろう。」
「・・・そういうこと言うなよー。玄武。」
 昌浩は先ほど彰子が帰る前とはうって変わっての渋面だ。
「我は本当のことを言ったまでだ。」
「はー・・・。」
 そうでしょうとも。
「どうしよう。何から手をつけようかなぁ。」
 途方に暮れている昌浩に、十二神将達は容赦なく他人事を言ってくる。
「ま、まずは道長から日程をもらうんだな。」紅蓮。
「服を用意して。」勾陣。
「作法とか?。」太陰。
「それから向こうの屋敷の間取りとかも用意した方がいいだろう。」玄武。
「ああ、たいてい増改築してるからな。」勾陣。
「うろうろしてたらみっともないわ。」太陰。
 そこに朱雀と天一と晴明がダイニングにやってくる。
「なんだなんだ?。」
 朱雀が訝しげに聞いてくる。天一も不思議そうだ。
 勾陣がかいつまんで説明する。
「はぁー、堂々としてればいいじゃないか。それだけで十分だ。」
「ええ。」
 揚々とした朱雀の言に天一も首肯する。
「昌浩様が普段どおりでなければ彰子様もかえって緊張なさると思います。」
「そうだ。」
 うんうんと頷き天一の肩を抱く。
「こうするだけでいいのさ。それで手を取って・・・。」
 エスコートすればいいと言わんばかりに実演する。
 朱雀は天一を見つめる。
 促されたので天一も見上げて微笑んだ。
「・・・・。」
 既に同胞達と晴明は生温い空気を抱えて沈黙している。 
「わかったっ。わかったから。」
 あわてて昌浩がテーブルから乗り出して待ったをかけた。
 食事前にお腹いっぱいになりたくはない。
「わかったけど。」
 昌浩は椅子に、どかっ、と今一度座りなおす。
 朱雀と天一もテーブルに着いた。晴明はキッチンに寄ってワカサギのフライのつまみ食いをしていた。
「朱雀はいいよ。カッコいいから。様になるし。」
 目指すところは、昌浩的に実は朱雀なのである。
「・・・・。」
 勾陣と紅蓮はそれを知っているので、どうしてそうなるんだかと同時に溜息をついた。
「でも確かに朱雀化してる気もするがな。」
「二人もいらないぞ。」
 紅蓮の台詞は勾陣も同意見だった。
 傍で露樹がくすりと笑う。
「成親が行ったことあるわよ。」
「え、ほんと?。」
「ええ、あちらのお嬢さんと一緒にね。どんな雰囲気だったか聞いてみるといいわ。いるものとかね。」
「へー。うん。そうする。」
 一番頼りになるのはこういうとき母親である。
「お膳立ては簡単よ。あとは朱雀さんの言うとおりね。はい。おまたせしました。」
 露樹は本日のメニューをテーブルに載せる。
 ワカサギのフライと鳥のからあげが紫蘇の香りを伴っていた。






 父が帰ってきたようなので玄関まで迎えに行く。
 そうして彰子は目を見張る。
 昌浩の父・吉昌が一緒だったからだ。
「ただいま。」
「おかえりなさい。吉昌のおじさまとまだお仕事なの?。」
「いや、書類を渡すだけだ。」
 そう言って書斎に向かっていく。
 道長は吉昌を応接に通して、彼に封筒を渡す。
 封筒を開けて中の書類を取り出し、確認し始める。
 父は吉昌の向かいに座って、待っているだけのようだった。
「お父さん。いい?。」
「ん?、なんだ彰子。」
「あのね。」
 今度の京都での会合の話を切り出した。
 吉昌もいるから調度いいと思った。
 話を聞いて、道長は満面の笑顔になった。
「おお、それはいいんじゃないか?」
 二つ返事に吉昌は困った顔をした。
「政治家のパーティーとはわけが違いますから。うちのに務まりますか?。」
「おまえの息子だ。それに晴明の孫でもある。心配することなどない。」
「そうですか。恐縮です。」
 道長はそうか行くのか、と、呟いて頭でいろいろ画策をし出す。
 あんまり彰子が大変にならないように吉昌はトンと書類の束を揃える。
「これで大丈夫です。週明け持って行きますよ。」
「ああ。任せた。・・あのTOBのも見てもらおうか。時間は大丈夫か?。」
「私の方は。」
「じゃあ、ちょっと待ってろ。それからその京都についても話してしまおう。」
「わかりました。」
「あ、なんならうちで服とかそろえてもいいぞ。」
「そういう楽しみは取らないでください。」
「そうか。そうだな。すまんすまん。」
 なにやら道長はご機嫌である。
「・・・・。」
 彰子は軽く会釈した。
 難しい話もするようだったから、お茶を入れてこようと思ったのだ。
 部屋を出ようとする彰子に気づいて吉昌はソファから立ち上がる。
「・・・。」
 廊下に出て彰子は頭を下げた。
「・・・・おじさま。ごめんなさい。」
 忙しいのに、その上大変なことを任せようとしているのだ。
 元はといえば自分の我が侭でしかない。
「いいんですよ。・・・お父さんに、ああは言いましたが。」
 内緒と言わんばかりに口元に指先を当てて吉昌は笑う。
「うちはね。結構、いろいろ場慣れているんです。」
「・・・おじさま。」
 吉昌の茶々に、彰子は堪えられず笑ってしまう。
「だから大丈夫ですよ。・・・。」
 それよりも目の前の彰子の方が心配だ。
 道長を横目に見る。
 TOBのことも考えているだろうが、それよりも彰子とパーティに行けることがことのほか嬉しいようだった。それにこれを機会にして新規の挨拶先を考えているのだろう。
「まあ、大変でしょうが。」
 それでも何とかするのだろう。小さい頃からそういう子だった。
 行き過ぎて何でも我慢してしまうほど。
 というわけだから、頑張れ息子。
 ほぼ完全に昌浩に丸投げにすることにして、ぽんぽんと彰子の頭を撫でた。
「うちのは心配しないで楽しんできなさい。」
 吉昌の優しい言葉に、彰子は笑顔で頷いた。






 居間に移った晴明にお茶を出し、紅蓮は今日の話を尋ねる。
「俺も行くのか?。そういう場は不得手だし、様にならんぞ。」
「そうじゃのう・・昌浩には六合についていってもらうとするかの。」
 晴明は新聞のテレビ欄を眺めつつ応える。
「・・ま、それが妥当かな。晴明。おまえはどうする?。」
「勾陣に臨時で変わってもらえばすむじゃろ。」
 襖の柱に寄りかかる彼女を振り返る。
 了解とばかりに勾陣が片手を挙げた。
 紅蓮は前髪を掻き揚げる仕草をした。
 昌浩は昌浩で忙しい。学期末のテストは終わったが、それに伴っていくつかの仕事を入れてもいる。
 大人が考えるべきところは先に考えておくつもりの紅蓮だった。
「道長には青龍の奴がつくのだろうし。」
 昔から気の合わない奴だが、だからこそかもしれない。自分と違って意外とそういう場をこなせる。
「だとしたら俺は奴の邪魔になる。俺もそう思う。物の怪になってついていってもいいが、そういう場で特に期待できるようなことは何もないだろう。」
 逆を言えば青龍も自分の邪魔になるような場には出てこない。
「不必要なら行く必要ないだろ。だから待機だ。俺は。」
「・・・・そうじゃな。」
「・・・・。」
 勾陣が話題を変える。
「六合の予定はそれでいいのか?。」
 その会の予定は週末だ。
 そして今日も週末である。
 当然六合は夕方からいない。
「・・・そうさのう。何なら一緒に行ってもらって、そのまま六合には出雲に挨拶しにいってもらうとするかの。よし。そうしてもらおう。」
 しばらくご無沙汰してもいる。
「京都と出雲じゃ大分遠いぞ。」
 紅蓮が半眼になる。
 いない神将の予定を勝手に決める当代であった。






 夕飯の片づけを終えて、昌浩は受話器を取り上げた。
 京都の成親の住むマンションの番号を押す。
 お互い加入する電話会社を同じにしてIP電話でかけられるようしてある。遠距離でもタダだからとりあえず優先的に。出なかったら携帯。
 コール音は三つほどで切れた。
「あ、もしもし。昌浩ですが。」
「おお。昌浩か。なんだ、おまえなら大歓迎だ。」
「誰だと思ったの?。」
「おまえ以外。」
 友遠方より来る、って奴だなと言う。
「どうした?。なんかあったか?。」
「ちょっと聞きたいんだけど。」
 昌浩はかくかくしかじかと経緯を語る。
 成親の第一声は紅蓮と同じだった。
「物好きだなぁ。」
 彼らは昌浩の真実兄なのだ。









[07/8/1]

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−Comment−
前々から、朱雀化してる・・と思っていたので、やっとその言葉を入れた文を作ってみました。