※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



Lost City −3−







 洗濯日和の月曜日、紅蓮は庭に下り、せっせと洗濯物を干し始める。
 今日は暑いくらいだ。4月下旬並みと天気予報でも言っていた。明日には天気が崩れるらしいので一気に片付けるつもりの紅蓮だった。
 というわけで春休みで寝ていた昌浩を叩き起こした。
 そして目が覚めてしまった昌浩は朝から安倍の家に来ていた彰子と出掛けていった。
 お昼には帰って来るそうである。
 勾陣が庭に下りてきた。
「昌浩も元気だな。夜中仕事だったんだろう?。」
 勾陣が感心した様子で縁側から声をかける。
「それほど大事じゃなったしな。なんでも京都のガイドブックが欲しいから、買いに行ったぞ。」
「安倍も藤原も本家は京都だろうに。」
「だからこそ欲しいらしいぞ。」
「地元の人間ほど地元を知らないというところか。」
 勾陣は肩を竦めた。
 庭の花が暑さでくたびれているのに気づき、彼女はジョウロに水を汲む。
「騰蛇。ついて行かなくていいのか?。」
 主語の無い言葉に騰蛇の返事は明快なものだった。
「不必要な取り合わせは避けるべきだ。」
「・・・わかった。」
 さあさあと、鉢植えの花が気持ち良さそうに、色鮮やか。






 春休みに入って三日目。
 昨日は友達とサイクリングに行って遊んで、真夜中に仕事があったりした。
 午前中は寝倒そうと思っていたが8時には起こされた。
「でも春休みってだけで、なんか疲れないんだよね。」
「うん。わかる。」
 昌浩のしみじみとした言葉に彰子は相槌を打った。
 本屋の隣にあるベーカリーカフェに二人はいた。
 テーブルにはアイスティーと好みのパンと、最新の京都のガイドブックと例の会の日程表。
 日程表の方をひらっと見る。
 金曜日に山城の会。
 宿泊するホテルは道長が用意してくれた。道長が懇意にしている航空会社の系列のホテルだ。
 そこから安倍の本家は近いので、そこでも良かったのだがその方が確かに行動は楽になる。
 条を東に行けば会場になるホテルがありタクシーで移動する。
 土曜日を自由行動。ホテルは市内の真ん中のため、どこへでも行ける。
 帰りは新幹線で東京に。
 両親や兄弟の助言を元に会のための準備はしたので、只今は彰子と土曜日の日程を決めるためにガイドブックを一緒に買いに来た。
「うーん。なまじもう一つの地元なだけあって、どこに行こうか迷うなぁ。」
「昌浩の場合、観光じゃなくて挨拶回りになっちゃうものね。」
「・・・・・普通に観光したい。ついこの間、新撰組もしてたし義経だってやってたわけだから。」
「義経目当てに鞍馬に行こうとしたら、貴船にも行くことになるでしょう?。」
「・・・・・んじゃ新撰組の方。」
「それ聞いたら、神様怒りそう。」
「・・・よろしければ告げ口しないでください。」
 洒落になんないよ、と昌浩はアイスティーをずぞーっと啜った。
「うん、わかってる。・・昌浩は出雲には行かないの?。」
「・・今回はパス。六合の彼女が一緒だから。」
「一緒だと嫌がるの?。」
「いや俺が居ずらいだけ。二人とも忙しいから、せっかくだし。・・・それに。」
 昌浩は渋面になる。
「それに・・・うちにってだけじゃなくて、六合にでさえ遠慮がちなんだよ。彼女さん。」
「なんかあったの?。」
「なんかあるみたいだけど、わからない。俺も知りたい。」
「そう・・。」
 なんかあるんだろうなと思う。けれど好奇心で聞くところじゃなさそうだ。
「じゃあ、新撰組で回りましょ。ホテルは二条だから。」
「江戸めぐりになるかな。」
「うん。」





 夕方、彰子は一緒に安倍の面々と食事をして、20時に迎えに来た両親と帰っていった。
 昌浩の部屋の戸を開けると、春休みの宿題をやっつけているようだった。
「洗濯物置いておくぞ。」
「あ、うん。ありがとう紅蓮。」
 敷かれた布団の横に置く。
 部屋の隅には大きめのバックが置かれていた。京都行きの一式が入っているのだろう。
 先ほど六合が露樹からタイの結び方を教えてもらっていた。
 礼服は黒で普通でも、結び方一つで野暮ったさが無くなる。
 露樹曰く、主役は彰子さんだから昌浩は卒の無い格好を。
 どういうコンセプトを六合と組んだのかはわからないが、それを昌浩と父・吉昌は苦笑いで見ていた。
「用意は出来たんだろ。」
「うん。ギリだとちょっと怖いから。」
「ま、気楽に行くんだな。」
「・・出来たらね・・。」
 はあと溜息をついた。
「青龍と六合が来るってだけで俺緊張しそう。」
「自動的に背筋が伸びてよかっただろ。」
「・・・確かに物の怪だったら仰け反って笑いそう。」
「・・・・。」
 がつんと拳で叩く。
「・・・もっくんが話をふったんじゃないか。」
「もっくん言うな。」
「・・・・。」
 いつもと変わらない押収に、昌浩はやおらまじめな顔になって、ちらっと紅蓮を見る。
「でも紅蓮、来ないんだ。」
「・・六合と青龍がいて、俺までいたら、おまえ何者?だぞ。」
「・・・否定はしません。」
 事態を想像してしまい、どこの堅気だと思ったりした。









[07/9/1]

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−Comment−
短めですみません。次は長いです。京都入り。


月夏饗宴・少年陰陽師推進委員会アンソロ第7弾>
クオリティがすごいです。漫画も多いし。
5・6弾も参加すりゃよかったなー。書きたいことはいっぱい。
個人誌も出してみたかった。
後の祭り〜。

これからもHP中心でやってきます。
推進委員会並みに厳しいところがあるようならば、オフもいいかなって思うかもしれません。