※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※Lost City −4−山城の会の当日。 前日の夕方に京都入りした藤原一行と、六合の仕事の都合上、始発の新幹線で、今朝京都入りした昌浩だった。 彰子の滞在ホテルに向かい、六合がカウンターでルームキーを受け取ってきた。 「隣は彰子達の部屋なんだよね。あとで行けばいいのかなぁ。」 「そう聞いている。」 ホテルの従業員に促され、エレベーターに乗り込んだ。 ついた階は8階でビジネス向けだが、それなりに広い部屋が用意されているフロアだった。 部屋に着き従業員が下がったところで昌浩は盛大に溜息をついた。 「俺、彰子の気持ちがわかるかも。」 一泊だけでこんな大層な部屋はいらない。 年季の入った応接が真ん中に有り、窓側に二部屋。 「景色はいいなぁ。さすが。夜景綺麗かも。」 窓を開け放って昌浩は風を受ける。 東山が向こうに見えた。 「・・・。」 ちりと首筋を掠めるものがあった。 「?。」 昌浩は首を傾げた。 「・・・・準備するぞ。」 「・・あ、わかりました。」 戻ってきて、六合が出してくれた服を順番どおりに着替えていく。 「あ、そうだ六合・・・すごい聞きにくいんだけど、彼女さんは?。」 「・・・先に出雲に行っている。新幹線で京都を経由するより、羽田から飛行機の方が早い。」 「六合は迎えに行く形になるんだね。」 「・・・・。」 簡単に昌浩は言ってくれるが、帰さないぞという勢いの守護妖達を振り切らなければならないのだ。 寡黙な彼だがそれは渋面なんだろうと昌浩は思って苦笑いする。 「帰りに羽伸ばしてきたら?。桜も咲き始めているんだし。」 「毎年咲く。何年も見ている。」 「今も昔も何年見てても厭きないのが日本の桜だよ。」 「・・そうだな。」 そう肯定する。 「帰りに、また京都寄ったら?。桜、満開かも。っていうか、この部屋。正直六合と彼女さんの方が似合うよね。」 「・・・・・。」 ごつっとさすがに昌浩を小突いた六合だった。 部屋の内線が鳴る。 昌浩は受話器を上げた。 「昌浩?。」 「あ、彰子。おはよ。」 「うん、おはよう。ついたの?。音がしたから。」 「うん。さっき。今着替えたところだよ。彰子は用意済んだの?。」 「今、髪結いしてもらったところ。これから着替え。9時15分になったらこっちに来れる?。」 「いいよ。」 「うん。じゃまたあとで。」 受話器を置く音がして、昌浩も置いた。 そして思い立って、六合の携帯を取り、本家の電話番号を呼び出す。 内線電話の外線を押して、そこに電話を掛けた。 コールが途切れ、最初の一人目で目当ての叔父が出てくれた。 「あ、吉平おじさん。昌浩です。京都に着きました。」 おはよう、早いな、と父と同じ様な声と口調が返ってくる。 「はい。新幹線は朝一でした。」 「そうか。ご苦労様だな。・・顔に出すなよ。」 「はーい。」 昌浩は苦笑いした。 「それでおじさん。ちょっと聞きたいことがあって。」 「なんだ?。」 「東山で、何か噂を聞きませんか?。」 昌浩の言葉は甥としてではなく、陰陽師としての言葉だった。吉平はそれを察知する。 「・・・・いや。」 声色が堅い。 「いえ、気のせいかもしれません。」 あまり深刻に受け止められても困る。 「今日の京入りでちょっと思っただけです。」 「いや。次代の意見だ。気に留めておこう。」 「・・・・まだ半人前です。」 訂正を入れる。 傍系の三男は正直直系の長男にそう言われるとどうしても逃げ腰だ。 「まあ、何かわかったら当代に知らせよう。・・あとで狩り出されるかもしれないが。」 「じい様ですからね・・・。」 昌浩の溜息が深くなった。 「ちょうど京都に来ているんだ。ちゃちゃっと退治してきなさい。」と事も無げに言ってくれちゃうだろう。 「今日はお嬢さんの方に専念しなさい。」 「はい。」 それで受話器を置いた。 テーブルに乗せた数珠を再び取り上げる。手首を一巡するだけの短い数珠だ。 昌浩は窓を背にして持たれる。横目に本家の方を向いた。 手の中の数珠を一握りし、こつんと額を打つ。 傍系なのにしゃしゃり出てしまった。 でも「何か」を感じて放っておくことは後になって後悔することが多いから。 昌浩は更に遠くを見る。 指に絡めた数珠が鈍く光る先には、東山。 そして、そこには、将軍塚。 ここ、京都にはたくさんの逸話がある。 将軍塚は昔々その昔の帝が立てた塚。しかも天下の大将軍のもの。 都に何かあればそれを知らせるため、鳴動するという。 「・・・・・。」 京都に関する話は東京育ちの昌浩も小さな頃から絵本の読み聞かせの中にあって、よく知っている。 今思えば陰陽師の勉強の一つだったのかもしれない。同世代の子よりよぼど多くを知っている。 「・・・・それだけじゃないけどな。」 昌浩は肩を竦めた。 誰かが、孫だ!、と叫んで窓辺を横切って飛んでいった。 《晴明の孫だっ。》 もう一つ甲高い声がした。そして窓の向こうの壁を急いで降りていく。 朝も遅くまで起きているものだ。 この後大挙して昼更かししようとする者達が現れる。 「昌浩。時間だ。」 六合に呼ばれた。 「あ、うん。」 昌浩は数珠をポケットにしまいこみ部屋を出る。 六合は部屋に鍵を掛けて昌浩の後についた。 昌浩を着替えさせた後、六合も着替えたのだが。 「・・・。」 さすがである。 礼服がここまで似合う奴は他にいないだろう、としか言いようが無い。 感歎しつつ昌浩はインターフォンを押した。 道長の秘書がドアを開ける。 「おはようございます。」 入ると道長がソファに掛けていた。六合が目をやった先には青龍がいた。 彼もダークスーツで身を固めている。 道長が片手を挙げ昌浩を手招きした。 「おはよう。昌浩。・・すまんな。もう少しかかるそうだ。」 「いや、いいですよ。会場に着いても早いくらいなんでしょう?。」 「出来れば挨拶に行きたいんだがな。」 「おじさんの都合だし。それは。」 「まーそうなんだがな。」 ほりほりと道長は苦笑いした。そして昌浩を斜に見やる。 吉昌と露樹はしっかりやりやがったな、と思わず思う。 髪の長さが気になっていたが、うまくまとめて左にたらしている。六合の器用さは知っているので露樹がそう指示したのだろう。 真摯な立ち姿は、昌浩生来のものだろうが、その横顔は。 「さすがあの晴明の孫で吉昌の子だけはあるな。」 ぼそりとした呟きは昌浩には聞こえない。 ドアが開いたから。 目を瞠いて、凍りつく。 「・・・。」 簡単に数段上を行ってしまう。 アオザイのようなデザインとシルエット。・・だがスカートはフレアーで短い。 白い布地に薄いピンクの刺繍。 知っていたけれど。 昌浩は彰子に息を呑む。 [07/10/1] #小路Novelに戻る# #Back# #Next# −Comment− どこのホテルなのかバレバレですね。 でも泊まったことないので、半分以上推測。 さてさてこのロストシティに平行して、30万打記念を書いた。 本当はこのロストシティが記念用に思いついた話だったのだが、予想以上に長くなってしまったので、別の春の話を書きました。 それにサマーライラで次はお気楽ですと書いたのに、ロストシティはそれなりに重くて、どこがお気楽なんだろうと思ったりたり。 思いやれど行くかたもなし> 百鬼夜行:降伏の瞬間の昌浩と、盛大に燃やそうとする昌浩。 思いやれど:せつない。 疾きこと:彰子はそこで動じない。 それはこの手の中に:六合・・つよーい。 昌親に守られたり成親に話を聞いてもらったり。 彰子の話の続きが聞きたいなぁ。 大蛇編の後日談に彰子と昌浩の様子が無事なのはわかったけれど、どういう感じで戻ったか知りたかったり。 貴船の神様も何を案じていたのかまだわからないし。 |