※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※Lost City −5−不穏な気配に藤原定子は二階の踊り場で足を止めた。 ここからは待合の部屋が見渡せる。 「・・・・。」 待合の部屋にはテーブルが置かれ、軽い飲み物とお菓子が提供されていた。 でも中には高校生だろうにシャンパンのグラスを傾けている者達がいた。 そして明らかに酔っている。 女の方から誘われて、格好悪い、とか、厚かましいったらない、とか。 口々に言い募る先には、従兄弟のパートナーである安倍昌浩がいた。 こういう席は初めてなはずだ。 可哀想にと思う。 「(従兄弟が無理を言ったのかしら。)」 定子は溜息をついて再び部屋内を見渡す。彰子はまだ来ていないようだった。 「・・・・。」 自分が出て行って角が立たないような場面を待つことにする。 言われている当人はオレンジジュースを傾けて、テラスの窓辺にいた。 「(とりあえず無視しよう。)」 あんまり気持ちは良くないが。 こちとら少し衝撃を受けていて余計に穏やかでいられない。 道長や神将があの場にいたから平静を装えたけれど。 「(俺、最後まで保たないよ。)」 ・・あの立ち姿に惑う。 あの子はまだ誰のものでもないのに、違うと心が否定する。 「こっち向けよっ。」 見知っている上級生が居丈高に叫んだ。 「一度貴様には思い知ってもらわないとな。」 「・・・・。」 くそっと思う。 「目障りだ。自分こそ不釣合いだと思わないのか。」 朗々とした嫌味が罵声に変わっていく。 「なーなー孫!。あれ食っていい?。」 呑気な声が上がる。 「・・・いいわけないだろ。」 窓枠に乗っている猿鬼がシュークリームを指差すので行儀が悪いと払った。 猿鬼だけではなく、京都中の見知った雑鬼どもが昌浩に会いに来ていた。もう昼だというのに。 睡眠時間を割いてわざわざ来てくれたので、窓辺で相手をしていた。 はたから見たら隅にいるように見えるかもしれない。 「なー、孫。」 「孫言うな。」 「だって孫じゃーん。孫はさー、後ろのに、うらまれてるのか?。」 猿鬼が尋ねる。 「・・たぶんね。」 辟易した風情で昌浩が応えると一つ鬼がくるくると昌浩の肩で回る。 「相変わらず、お姫関係は大変だな!。」 「祟ってやろうか!。そのくらいは出来るようになったぞ!。」 意気揚々と言い放つ猿鬼を今度は小突く。 「そんなことは出来なくてよろしい。」 「でもずいぶん多勢だぞ。」 「いいよ自分で何とかするから。」 ひらひらと半ば投げやりな態度で応えた。 後ろでは酔いに任せた連中が集まってきていた。 他の客が騒ぎに係わり合いにならないよう、ざっと引く。 「こっち向けよっ。」 「向かせてやるっ。」 テーブルの上のシュークリームを手にとって昌浩に向かって投げつけた。 客の輪の中で小さな悲鳴が上がった。 「もーぉら、いっ。」 雑鬼達は投げつけられたシュークリームをキャッチする。そして頬張る。 「・・っ。」 振り向き様、昌浩は手刀でナイフとフォークをはたき落とした。混じっていた。 しゃらん・・っと甲高い音がフローリングに響き、昌浩はすぐさまそれを踏む。 「ごちそうさまでしたっ。」 「・・・ほぉ・・。」 それはそれは・・前方の男達よりはるかに行儀が良いではないか。 だがしかし。 さてどう説明してくれよう。汚れるはずの服は綺麗なままだ。 窓辺もフローリングもしかり。 この事態に男達は目を白黒させていた。 「(良し。ここは窓辺。)」 後ろに全部飛んでいったことにしよう。 それがいい。 自分自身に言い聞かせてたら、六合が待合の部屋に入ってきた。 昌浩の傍に寄る。 否、実は隠形して傍にいた。 「大丈夫か?。」 自分より遥かに長身の六合を見上げ、肩を竦めて笑った。 すぐに姿は現さず、回り込んで来てくれたのだ。 「うん。平気。」 そして再び扉が開けられる。 「青龍。」 「・・・俺が連絡した。奴はSPだから。俺より当てにできる。」 「あ、そうだね。」 道長についていたはずだが抜けられたようだ。 青龍は剣呑な眼差しのまま、昌浩の傍に来た。 昌浩はハンカチを胸から取って屈んだ。足下のナイフとフォークをつまむ。 「あと、任せていい?。」 差し出して、青龍は何も言わないがすぐに受け取った。 受け取り・・・真横を鋭く睥睨する。 視線の先の男達が竦み上がった。 六合も一瞥する。 大事な安倍の後継だ。それをつまらないことで傷つけたり、恥をかかせようとする輩を十二神将達は許せない。 「・・・・六合っ、青龍も。下がって。」 不穏な空気を感じて、昌浩は彼らの闘気を制しようとする。 その時だ。 男達と自分達の間に、女性の影がそっと割り込んだ。 肩をそれとなく出し、クリーム色のふんわりとしたドレスに、揃いのコサージュと髪飾りが彼女の美しさを引き立てる。 定子は流し目で男達を制する。 「もういいでしょう?。お下がりなさい。」 男達は絶句して、動けなくなる。 昌浩は、あ、と思った。 「定子さん。」 呼ばれて、昌浩を振り返った。 青龍と六合は目で了解し合い、昌浩の後方に下がる。 彼女は優しい物腰で近づいてくる。 「お久しぶりね。昌浩。」 「お久しぶりです。」 「噂は聞いているわ。活躍してるのね。」 「いえ。まだまだです。」 謙遜する昌浩に定子はクスクスと笑った。 「安倍は本当に東京を中心に活動しているのね。京都には戻らないの?。」 「本家はまだこちらですから。」 よく出向きますと苦笑いする。 その時だった。昌浩も定子も振り返る。 どこぞの一団か到着したようで、ドアが賑やかに開いたのだ。 「!?。」 昌浩は目の端に見知った顔を見つけて、目を瞬かせる。 向こうも気がつく。 「あっれー!?。昌浩?。」 頓狂な声が上がった。 「比古。」 目を見張って呼んだ。 一団から抜け、ほけほけと笑いながら比古が昌浩の元に来る。 「なんでこんなところに昌浩がいるんだ。一応庶民だろ。」 「酷い言われよう。」 「おまえってつくづく意外なところにいるよなー。ほんとに。」 くすぐったそうに笑う。何にしても会えたことが嬉しいという顔を比古がした。 「お互い顔見知りかしら?。」 目を丸くして定子が尋ねた。 「はい。」 昌浩も会えて嬉しそうだ。 それはそれは、と定子は感心する。 なにせ西の御曹司とだ。 「・・・・。」 先程の自己対応力といい、二人のSPといい。 「(うちの従兄弟は実は自慢したいのかもしれないわね。)」 苦笑いして肩を竦めた。 当人はこういう諍いには慣れているのか引きずらない。 「なんだ。比古が来るんだったら、そんなに緊張しなくてもいいいんだ。」 「・・・おまえな。」 さらりと昌浩も言う方である。 [07/11/18] #小路Novelに戻る# #Back# #Next# −Comment− 一先ず更新っ。11月分。 鬼太郎が、昌浩に見える今日この頃。 君は連れてかないよ、とか、俺が変わらなさ過ぎるのか、とか。 猫娘かわいいわぁ・・。 |