※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



Lost City −6−







 彰子は父親の道長について、挨拶に回っていた。
 知人や会社関係の人。先生と呼ばれている人。
 自分はあんまりこういう場に来ないので、行くことになれば、こうなる。
 父に連れて来いという人もいれば、父が自ら連れて行く人もいる。
 顔が強張らないように、でもスマイルで強張ったままの彰子は、どうも何かが起こっているらしい待合室が気になってしょうがなかった。
 そわそわと落ち着かない。面には出さないようにしているが。
「(やっぱり。やめたほうがよかったかも。)」
 さっき青龍が呼ばれていった。
《心配は要りませんよ。》
 彰子の不安を察し、傍らに隠形した太裳が穏やかに応えた。
 太裳は人身を取ることをしないが、青龍の機動性を確保するため代わりなどをちょくちょくこうして買って出てくれる。
「・・・・。」
 彰子は首肯したがきごちなかった。
 待合室で昌浩が目立っているのは間違いない。
 部屋から部屋へ移動しているうちに取巻きを含むお嬢様5人組とすれ違う。
 毛色の違いがわかるのだろう。
 普段の顔ぶれに厭きているお嬢様達が囁き合う。
「SPかしら。二人も。」
「でも本人もすごいみたい。」
 ナイフを叩き落としたって言うよ、と言う。
「・・・・。」
 それって・・何してるんだろう。
 彰子は眉を寄せた。
《彰子嬢。》
 太裳が苦笑いした。
 彰子は相好を戻すため頬を叩く。
「どうした?。」
 道長が怪訝そうにした。
「顔が火照ってきたから。お化粧、崩れてない?。」
「大丈夫だ。」
「そう。ならいいの。」
 彰子はすました顔で父の横についていく。
《昌浩様なら大丈夫ですよ。》
 わかっている。太裳がこうしているわけだから。
 もし昌浩に何かあれば太裳だってここにはいないだろう。
 胸中を穏やかざるものにしているのはもっと違う。
「・・・。」
 昌浩は、・・・実は結構顔がいいということだ。
 そのことについて本人に自覚がないのは仕方ない。十二神将の男の神将達を毎日見ているせいだ。自分も同じ影響で正直造作だけの美に疎い。
 でも客観的に見れば、上の兄達や父親もそれぞれの性格を映して面立ちが良い。
 祖父の晴明だって、若い頃の姿を拝見したことがあるが相当なものだ。
 そしてその血筋の末っ子が昌浩である。
 傾ぐ気持ちを姿勢に反映しないよう背に力を込めた。
 そう・・自覚して欲しいことはそれじゃない。
「(自覚して、愛想をもう少し控えめにしてくれたら。)」
 彰子の苦労は半減するだろう。
 あの顔立ちと性格の良さで昌浩は老若にかかわらず、とても女の人に受けがいい。
 それこそ本人は無自覚なのだが。
 バレンタインとかに無縁な状態なのはひとえに、自分が防衛しているから、の他ならない。
 この家柄を笠に着て。
「・・・・。」
 学校ではもう自分が傍にいることが当たり前で、昌浩を抜かした周知の事実になっているのでそれほど気をもまなくなっている。でも自分に隙あらばとっくにチョコレートの中にいてもおかしくない気もする。
 今日みたいな席にいるとますます実感する。
「(誘ったのは自分だけど。)」
 見せびらかしたいのが本音だ。
 けれど、昌浩が一人で注目されるのは嫌だった。
 考えて気がめいっていく。悪循環だ。可愛くない。
「西の各務と親しげにしていたから、一緒に来たのよ、きっと。」
「(え!?。)」
 ぎょっとした
 それは聞いていない。
 各務と言えば西の大金持ちである。社交界に足を運ばない自分だってそれくらい知っている。
「彰子。道長おじさん。」
「え。」
 彰子は目を見張った。そのまま足が止まる。
 長椅子が廊下に置かれていて、今しがた頭の中ををいっぱいにした二人の少年達がいた。
 片方は昌浩だ。もう一人は各務。
 待合の部屋で待っていると思っていたから。
 ひょいと片手を挙げて昌浩はいつも通りの笑顔で呼んだ。
 比古が感心したように溜息をついた。
「パートナーって、おまえ。藤原彰子なのかよ。」
「そうだよ。」
 昌浩は事も無げに応えた。
「そうだよって・・おまえなぁ。」
 本日の主役は二人いる。元より知れた楓嬢。
 そして彰子嬢だ。
 西と東のお嬢様が揃うという、まことしやかな噂は本当らしい。
「どこに接点があるんだよ。」
「会ったらわかるよ。」
「ほー。」
 昌浩と比古は彰子と道長の元に行く。
「道長おじさん。友人の比古です。」
「各務比古です。初めまして。」
 昌浩に促されて愛想よく比古が道長に手を出して握手を求める。
 道長が一瞬驚いた顔をしたが、気前よく握手を返す。
「ああ、初めまして。」
 昌浩の友人ということにしておこうという体で深くは追求せず柔らかく応えた。
「これから比古の従兄弟ところに行くんだけれど、彰子も連れてっていいかな。」
「ああ、いいだろう。私の方はパーティの時にでも紹介することにしよう。」
 道長がこう応えたので、昌浩は彰子に手を差し出す。
 父の腕を外れて、彰子は昌浩の手を取った。







[07/12/1]

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−Comment−

好き放題書きまくりもいよいよ本腰。
シチュエーションを詰め込んでおります。

次回のシリーズはどうなるのかな。
姫宮様関係かなぁ。
昌浩彰子の二人の進展も、もちっと。
鈍く・・でも劇的に。
(いや、先生の日記読んで、読者的アピールをしておこうかなと。)