※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



Lost City −7−








「部屋。中庭の向こうだから、そこを通っていこう。」
 比古が昌浩を促す。昌浩は頷いた。
 彰子はちらっと二人を見た。
 後ろには遠巻きに自分達を伺う人達がいる。
 昌浩の横差しは精悍で、一緒にいる各務と遜色無かった。
「初めまして。彰子嬢。」
 そっと比古は手を差し出した。
 彰子は昌浩とは反対の左手を差し延べる。
 キスこそしないがその手を取って掲げた。
 誘われて廊下から中庭のエントランスに出る。
 周囲はそっと溜息を漏らしていた。
「・・・。」
 彰子は目を瞬かせた。
 招待客がいる中庭の向こう、奥から歩いてくる灰色の獣が見えた。
 犬よりもずっと大きい。
 そして猛々しい。
「?。」
 その獣と目が合った。
 獣は低く唸る。比古が気づいて獣に目配せをする。そしてその視線が彰子に向けられているのに気づく。
 彰子嬢も見ていた。
 比古は息を呑む。
「・・見えるの?。」
 ごく小さな声で尋ねた。
 彰子は頷いた。
「・・おおかみ?。」
「・・・・。」
 見鬼だ。この子は。
 なるほどそういう接点かと思った。
「そうだよ。」
 比古の笑顔がずっとすましたものになる。
 ごまかしがきかないなら、常人より用心しなければならない。
 昌浩のように優しい奴ならいい。
 彼は裏の顔を持っているから吹聴もしない。
「そう。」
 比古の心を知らず、もっくんみたいと思った。
「あの子達はあなたを守っているの?。」
「・・・。」
 比古の指先が強張る。
 彰子は言い過ぎたと思った。すぐに謝る。
「あ、ごめんなさい・・。」
 いつもだ。見える人にはつい尋ねすぎてしまう。
「・・・・『達』?。」
「・・あ、うん。」
 申し訳なさげに上目遣いで比古を見る。
「・・そっか。」
 狼が自分達の元まで辿りつく。
 警戒心で唸る狼の中で、首を傾げているもう一匹の狼は、もう一人の兄弟。
 魂の片割れ。
 その彼を見ることが出来る奴がいるのだと思った。
 それは比古にとって嬉しいことだ。
 比古は彰子から手を放し、傍らについて唸る狼に触れる。
「たゆら。」
 彼女は大丈夫みたいだよ、と宥めやり、彰子に向き直った。
「・・・そうだよ。・・ずっと守ってくれているんだ。」
 笑顔で答える。
 その笑顔に彰子は安心したように笑い返した。
「・・・・。」
 吹聴しないだろう。彼女は見えすぎる。
 比古は大納得してしまった。
 昌浩を見やると、苦笑いしている。
 霊力の高い者を陰陽師が守っている。
 それが彰子の傍に昌浩がいる理由だ。




「安倍昌浩。」
 昌浩の顔を見るなり真鉄が驚いて顔をこちらに向けた。
 さすがに同じことを思ったのだろう。比古が察して説明する。
「彰子嬢のパートナーで来ているんだってさ。」
 視線を上げるとエントランスに彰子嬢がいた。そして目を見張る。
 見ればもゆらの方がじゃれついているからだ。
「なるほど。ボディーガードか。」
「・・・はい。こんにちは。お久しぶりです。」
 さすがに察しが早いなぁと昌浩は感歎する。
 比古が真鉄に付け加えるように耳打つ。
「プライベートも、らしいけど。」
「・・・。」
 こつんと額を拳で打って、それ以上は聞かずに、真鉄は得心のいった顔をした。
「ああ。それでか。貴船の神が夕べ来たのは。」
「・・・なんだよ。それ。」
 比古が聞いてないぞ、と訝る。
「俺にはどうでもいいことだがな。」
 昌浩に目を向けた。
「・・・・。」
「『将軍塚が動きだそうとしている』」
 昌浩は目を見張った。
 息を呑む。
「おまえとしてはまずいだろう。」
「・・・・。」
「心当たりあるのか?。」
 比古に尋ねられて、昌浩は頷いた。
 朝に感じたことを話した。
 さすがにそこは陰陽師だなと、真鉄も比古も思った。
「・・・・・おまえ、なんか持ってきてるのか?。」
「京都に来て丸腰ってわけにいかないから、それなりに。でも将軍塚となると、本家に頼んで足りないものを用意してもらうしかないかな・・・。」
 じい様にも連絡入れて・・。
 う、そこは憂鬱である。
「昌浩。」
 傍らに六合が顕現した。
 この場ならそれを驚く者はない。最初から気づいている。
「晴明と本家には俺から連絡する。おまえはこの会が終わってからでいい。」
 さすが祖父の秘書である。
「助かります。ありがと、六合。」
「あ、俺、一緒に行っていい?。」
 比古が挙手する。
「・・・昌浩の邪魔をしないならな。」
「あ、酷っ。」
 真鉄の答えに比古が反論する。
 携帯を取り出しエントランスに出ようと六合は真鉄の横を通り過ぎる。
「出雲とはうまくいっているのか。」
 多少揶揄の入った声で真鉄が後ろから尋ねる。
「・・・・・。」
 余計なお世話だ、と六合は黙殺した。
「?。」
 狼とともに彰子が入れ違いに入ってきて、真鉄の前、昌浩の隣に並ぶ。
「初めまして。」
「初めまして。こんなふうにお目にかかれて光栄だ。」
「私もです。」
 自分の味方かどうかわからないけれど、昌浩の味方ではありそうだった。
 それでいいのだ。





[08/1/1]

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−Comment−
あけましておめでとうございます。
本年もこのような感じでゆっくりと・・。
何故なら・・・。
前厄です。しかも暦を見るかぎり今年の運気はなかりけり。
去年は2連続凶が出たからな。
だから、大人しくしてました。今年も大人しく。

厄年に男の子を生むと、厄が流れるんだと〜〜。生むか?、行きますか?、二人目を。
コウノトリしだい〜。