※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



Lost City −8−







 比古達の部屋を後にして中庭をわたっていく。
 昌浩は彰子の手を引いた。
「・・・?。」
 訝る彼女を目で促し、少し聞かれてはまずい話なので木陰に入った。
 かいつまんだ事情を話す。
 彰子が目を見張った。
 今朝方東山の方に異変を感じたこと。
 真鉄の元に神様が来たこと。
「・・・・そう言えば。」
 行きしなの新幹線の中で感じたのがそれだったのだろうか。薄暮の京都に気のせいだと思ったが。
「・・・。」
 貴船の神がそういうのだ。ならば昌浩は行くだろう。
 それは仕方ない。
「・・・大丈夫?。」
 一語だが呪具の用意や昌浩の状態やつじつま合わせの時間などもないまぜだ。
「うん。比古もいるし。六合と青龍と太裳に来てもらうから。」
「紅蓮は?。」
「・・・・。紅蓮は今のところ待機。今回は地鎮のようなものだから。」
「・・・・。」
 でも昌浩を守ってくれるのは彼だ。
「なにかあったらすぐ呼んだほうがいいと思うわ。怒ると思う。」
「あ。うん。」
「約束してね。紅蓮、呼ぶって。」
「・・わかった。・・・」
 彰子の言葉は正しいのだ。
 本当に本当なら紅蓮がいるべきで、紅蓮がいい。
「・・・・。」
 そう言ってくれる。
 大事なことを。彰子は、必ず言ってくれる。

 変わらずに。



「・・・・。昌浩?。」
 昌浩の了解に胸を撫で下ろしそうになって、出来なかった。
 昌浩から向けられる眼差しがいつもと違っていたから。
 もっとずっと大人びたもので。
「・・・・。」
 ここは京だから。
 襟足にそっと手が触れてきた。ひやりと冷たい。
 まるで触れてはいけない物に触るようだ。
「ごめん。・・。」
 ・・少しだけ、と呟いて、
 引き寄せられ、抱きしめられた。
「・・・・。」
 木陰に入っても中庭だ。先程から沢山の視線を感じる。
 正直不快だった。
 ひと悶着もあって、余計に心に余裕がない。
 『誰にも、渡さない。』
 切ない思いが、抱きしめる腕を強くしていく。
 行ってしまわないように。
「・・・・。」
 その昌浩の痛みを彰子は感じ取る。
 背に両腕を回した。
 応じたら一瞬だけ強張って・・・・・だけど強く掻き抱かれる。
 襟足の右手に顎をすくわれた。
 顔を上げると、頬に昌浩のそれが触れる。
 緊張か手と同じ様に冷たい。彰子の熱を奪うように触れてくる。
「・・・。」
 彰子は当然の如く、昌浩を受けとめる。
「・・・・・。」
 それでも、抱きしめる昌浩の手は強張り、かすかに震えていた。
 彰子はそっと微笑った。
 頬の手に自分の手を重ね、掴む。
 見上げて頭を傾いで、手が震える理由を不思議がって見せる。
「でも・・先に逝ってしまったのはあなたの方よ。」
 震えを止めるには十分な言葉だった。





 歓声が上がった。
 彰子は昌浩の手を強く握り返し、引いて駆け出した。
 引っ張られて後につく。
「おおっ。」
 どよめきが上がる。
 待合の部屋に降りる階段の一番上。
 そっと手を引かれて、降りてくる。
 昌浩と彰子は目を見張った。
 白いロングドレスに白い肌が美しい。
 指先が裾をつまんで、重さを感じさせない足取り。
 まるで妖精のようだ。
 そしてその妖精をあわよくば掻っ攫うことを考えていた者達は閉口した。
 小野楓の羽衣を奪い取ることは何人にも出来ないだろう。
 
 『彼』がいる限り。

 彼女の手を引く青年は、義理の兄と聞いている。
 けれど、それが今だけであることはこの場の誰もがわかった。
 その微笑みは彼女に向けられて最上で、
 その笑みは他者に敗北を悟らせる。
「・・・・。」
 その姿を見に来て良かったと思った。
 彰子は畏敬の眼差しで彼女を見上げる。
 好奇とはまた別の感情が胸のうちに生じた。
 楓嬢もまた、守られている者で、
 そして守っている者でもあるのだと。
「・・なんで、冥官。」
 横からのうめきに、彰子は苦笑いして振り向いた。
「・・・。」
 轟沈している昌浩がいた。
 揺れているところに最大級の蹴りである。
 接点がどこにあるとか、そもそも冥府と現世は本来は関わりを持たないはずとか、まあいろいろ。
 でもそんなことはどうでもよく、
 艱難辛苦なんざ一蹴したのであろう彼には、自分の揺れなんざ一笑に付すだろう。
 どうにも待ったなしで現実は優しくない。
「(別に・・・さ。)」
 戸惑ってもいないし、流されてもいない。気後れはするけれど。
 そしてどれも悪い感情ではない。
 ただやはり・・追い討ちをかけられてとどめをさされた感は否めなかった。
 頭を抱えて、昌浩は一つ呻いた。
「紅蓮を連れてこなかったぐらいじゃダメかも。」
 だから京都は、敬遠したい。










[08/1/12]

#小路Novelに戻る#  #Back# #Next#

−Comment−
賛否両論・・それについてはまた別の話。
史実で彰子はものすごい長生きなので、その辺りからの推測。

さてさて。
冬コミにて、いくつか日向葵が少年陰陽師の同人誌を買ってきてくれましたv。
買ったから!の暮れの話に、最初一冊くらいかなと思ったけれど、届いてみれば5冊・・ですかっ。
日向は私の好みを外さないので、当然期待!

んで感想。

雪月花時最君憶>午後の低気圧
史実もからめて且つ切ない話に、読みふけりましたよっ。
なにより私にゃ書けない昌浩と彰子の喧嘩シーンが、つぼにはまりました。
うーんうまいなぁ。

キミのとなりで>午後の低気圧・星楽館
風音さん勘違い、とか、理由を今すぐ、とか、一瞬で朱天、とか。
可愛いくて可愛くてっv。

秋色恋風>空*想・星楽館
抱きかかえて落ちるシーンがいいです。夢を繰り返さないのがっ。

恋星夜>宵の空の色
甘いです。><って感じです。
なんつーかそういうシーン無しに、甘いんですよっ。
甘いのも私は書けないので、いつもごちそうさまです。
太裳って微妙な位置なのですね。キミのとなりででも思いましたが。ちょっとへー・・でした。

恋心涙雨>星楽館
あのシーンを書いてますね。うん。そう思ってて欲しいなーという感じです。


同人誌タイトルだけですが、でも皆さんわかってるでしょー。
私はコミケから足抜けしているので、そこらへんはご容赦。
それにしても皆、史物をうまく書くなぁ。
また参加したくなってきますよ。ほんと。

・・・・うううう。作ろうかなぁ。