※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※A fortune-teller〜十割〜邪鬼の頭部と胴体が煙と化した。 指輪は・・呪詛は弟の中に返され、媒体としての効果が失せ、その手の中で無害化した。 弟の目は見開かれたままだ。 凍りついたように強張った手を顔面に当てる。 膝を着いた。 「・・・・。」 ぶるぶると異常なほど、震え出す。 「お、おい・・。」 我に返った青年の一人がその肩に触れて揺する。 昌浩は、黙して見下ろした。 ・・呪詛は返されることはないようだった。 邪鬼が消えたのを確認して、昌浩は一瞥を残し踵を返した。 「・・・・。」 呪詛を返して、何が起きたか。 それは彼が邪鬼に望んだことだ。 『恐怖。』 昌浩は警察を頼る気は毛頭なかった。 この弟のような利己的な感情は、警察に突き出し、法の下の裁きを受け、更正への手続きぐらいで治りはしないのだ。 もう二度としないなんて言わせても、きっと口先だけだ。一時の反省や謝罪もその後を保証しない。 確実に感情を仕留められる術を昌浩は持ち合わせていた。 「・・・・。」 そのうち癒されることもあるだろう。誰かの支えや優しさを知って。 昌浩はフェンスに足をかけて、ひょいっと越える。高野の傍に降りた。 青年達は追い掛けなかった。 「安倍?。」 高野が怪訝そうに自分と青年達を交互に見た。 「平気。たぶん話はついたから。行こ。」 苦笑して先んじて歩き出す。 「・・・ああ。」 答えて追うが、ちらりと振り向く。 青年達はしゃがみ込んでしまった一人を支えて、車へと移動していた。 「・・・・何、あれ、もしかして藤原さんのストーカー?。」 「・・たぶん。」 「・・・・おまえ、もしかしてからまれた?。」 「やっかみかな。昨日一緒に帰ったからだってさ。」 無難に答えた。 「・・・。」 やけに事も無げに聞こえる。高野は半眼になった。 「場慣れた様子だなぁ。」 「慣れるかよ。」 高野の言に反論する。 対・人間、より、対・化物が多いが、それはそれは、あの手この手で来るのだから。 「・・とりあえず、内緒でよろしく。下手に噂になると、彰子が学校に行けなくなるからさ。」 「・・・学校側や警察は?。」 「彰子の両親から連絡が行く予定。・・内々に片がつくようになってる。」 「・・・・わかった。」 そこまで言うならな、と高野は諸手を上げて追求をやめる。 予鈴までまだ10分あった。 教室まで一緒に行こうということになって、野球部の部室を経由する。 「おまえ、カバンは?。」 「教室にあるよ。早めに来て様子を見に行ったんだ」 適当に相槌を打って、昇降口まで戻って来る。 「・・・・・。」 彰子がいた。2年の下駄箱に立って、心配げにそわそわしていた。 こちらに気づく。 昌浩は片手を挙げて、応じた。 「昌浩。」 彰子は昌浩を見とめた。 怪我していない。 特に・・・・良くない気配も無い。 「・・・・。」 無事な姿にほうと息をついた。 物の怪は大人しく肩に乗っていて、いつも通り、にやりと笑って心配すんなと尻尾を振った。 隣りにクラスメイトがいるし、あんまり大仰に出来ないから、心持ち遠めに傍による。 「大丈夫だった?。」 「うん。大丈夫・・・、と、言うより気づいてくれてよかったよ。おかげで結構いろいろ片付いた気がする。」 昌浩は苦笑いしてそう答える。 「?。」 彰子は首を傾げた。 予鈴が鳴る。 物の怪がひょんと彰子の肩に飛び乗った。 説明は物の怪からということだ。その辺を彰子は承知している。こくりと頷いて、齟齬が無いように合わせる。 「じゃあ、またあとで。」 彰子は手を振って、踵を返した。 部活動しているクラスメイトが戻ってきて、合流した。彼女達の間で賑やかな声がわっと上がる。 高野は彼女達を見送って、女同志の方が、面白く盛り上がる内容だなぁと思った。 「・・・おまえの場合洒落じゃねーから、からかい甲斐が・・。」 高野は後ろからぼやいた。 「は?。」 胡乱げに振り返る。 高野は昌浩の言葉じりを揶揄る。 「即答で、幼馴染かよ、ってこと。」 「言葉通りだけど。」 昌浩は動じず気にしたふうもない。 高野には、素なのか、フリなのかはよくわからなかった。 でもここまでくるとフリのような気もした。 「幼馴染だったら、実際うざくね?。これで、おまえ、途中でお払い箱にされたら、やりきれねーだろ。」 「・・・・なんのこと?。」 昌浩は微かに笑って肩を竦めた。 大学に孤独の箱があって、しかも昨日の夜に現れた毛虫とも関連があって、彰子はたいそう驚いていた。 とにもかくにも、彰子の件が片付いたので、昌浩的には十割解決したようなものだ。 学校で普通に授業を受けて、普通に下校する。 木枯らしが吹き抜けて、彰子は髪を押さえた。 「夕方になって冷えたかも・・。このあと地鎮なんでしょ?。」 「・・・着込んでいくよ。すぐ終わらせて、家に帰ってあったまる。」 「インフルエンザも流行ってるしな。9時には終わるだろ。」 物の怪は昌浩の肩でおおよそを答える。 「・・・・今日は、おばさまと一緒に買物に行くの。メインは豚カツって言ってたけど、他に何かリクエストある?。」 聞かれて、昌浩は即答する。 「おでん。あっためるやつ。」 おでん種がセットになって、湯銭するレトルトのそれだ。 「うん。わかった。」 彰子は頷いた。 頬を打つ風が冷たい。 朝から雲は厚くなる一方だ。 まだ4時前なのに辺りは暗くなってきていた。 「雪になるかなぁ。」 安部の家の前で空を振りかえって昌浩は呟いた。 ドアの前に立って、彰子は首を傾げた。 「勾陣・・ってここにいるの?。」 怪我をして異界に戻ったと聞いた。 昌浩は向き直る。 「いや、異界に・・・。」 だだ漏れの気配を感じる。 「・・・・。」 物の怪が憮然と沈黙した。 昌浩の肩から降りる。 彰子が開けたドアを擦りぬけ、玄関に上がった。 「・・・。」 昌浩と彰子は視線合わせ、物の怪のあとを追う。 気配は居間からだ。物の怪の白い体が細く開けられた戸の間を縫って消えた。 そして彼の唸るような声がした。 「・・・・勾陣。」 居間にいる勾陣に物の怪はたいそうはなじろんだ。 姿を確認して、眦を最大限寄せる。 そして踵を返した。 「もっくん。」 ついてきた昌浩は、すれ違う物の怪を呼びとめたが、答えなかった。 「おかえり。」 声は勾陣からだ。 勾陣はさも可笑しそうに苦笑していた。 昌浩と彰子は、勾陣の傍にいく。 「なんでいるの?。本当に、やばいんだから、異界に行かなきゃ。」 昌浩は傍らにしゃがみこんだ。 再び呪いを施す。 「ああ。もう少ししたら行く。」 「今すぐ。」 「晴明の指示があったらな。」 当代の指示を仰ぐという。 「・・・。」 祖父だって放っておかない傷だろう。よくわからない。 だが家の守護のこともある。六合は・・・今日は帰らない日だ。 「・・・勾陣、なんか意固地になってない?。」 彰子はきょとんと尋ねる。 「まあな。天后も天一も大げさでな。」 「実際、大げさな怪我だよ。」 「そら来た。」 昌浩の言葉に勾陣はいい加減聞き飽きたふうに呟いた。 「・・・天后は?。」 昌浩は話題を変えた。 「落ち込んでるから、青龍と合流させて、残りをさせるそうだ。晴明が言っていた。」 「動いている方が良いけど・・・よりによって相手が青龍かよ。」 なに考えてるんだじいさまは、と昌浩は半眼になった。 その昌浩に勾陣は口元だけで笑う。 「だからいいのさ。」 「・・・晴明!。」 物の怪は入るやいなや晴明に怒鳴る。 「なんで勾の奴がいるんだっ。」 「おお。紅蓮。おかえり。」 「おかえりじゃない!。あの怪我を放っておくなっ。言っとくがなっ、死ぬところまでいって自我を無くしたあれを止めるのは大変なんだぞっ。」 「そうそう。そうなんじゃよ。」 晴明はひらひらと手を振った。 「玄武、太陰。」 すっと呼び声に応じて、二人が現れる。 「紅蓮。」 「・・・・。」 物の怪は、変化を解いた。 「チェンジ。」 晴明はテニスのコートチェンジのごとく両手を交差させた。 「・・・。晴明。」 紅蓮は地の底のような声を出す。けれど、晴明は飄々としていた。 「昌浩はあとは、地鎮だけだ。彼らの方がいいじゃろう。」 晴明は紅蓮の肩をぽんぽんと叩いた。 「勾陣を促してもそうそう聞かんだろ。家の守りもそうじゃが、天后が気落ちしてしまっていてな。」 「・・・・あの場合、勾がそうするのは当然だ。生命力が違いすぎる。天后が受けていたら、命は無いんだ。あれだから、ああして生きていられる。」 「両人ともわかってるじゃろうて。だからおまえが問答無用で異界に連れて行きなさい。」 「・・・・わかった。」 紅蓮は踵を返した。が振り返る。 「天后は?。」 「青龍のところにやったよ。」 「・・・・。」 「まだ孤独の箱が残っている。今夜中にけりをつけさせる。」 そのやり方は端から見ていれば、厳しいように聞こえる。 が、紅蓮にはそうは響かない。 確かにそこには、腑に落ちないものがあるのだが。 「・・・・。」 紅蓮はこめかみを押さえる。 何故だかわからないけれど、とっても理解しがたいけれど、 天后にとって一番なのだ。 紅蓮が玄武と太陰を伴って居間に戻ってきた。 「昌浩。騰蛇に変わって、我と太陰で地鎮にあたることになった。」 玄武が口を開いた。 あーそうなるよな、とすぐに納得して、昌浩は頷いた。 「ん、わかった。じいさまが?。」 「そうよ。移動も私達の方が早いし。」 「否、我の水鏡で移動しよう。」 「・・何よっ、それっ。」 ムキになる二人に、主に片方だが、昌浩はまあまあとなだめた。 「紅蓮は?。」 「こいつを問答無用で異界に連れて行けと、晴明が言っていたのでな。」 「わかった。」 昌浩は勾陣に向き直る。 「ちゃんと治るまで来たらダメだからね。」 釘を刺す。 「わかったわかった。」 ひらひらと勾陣は手を振った。 「・・・・・。」 昌浩と彰子は目を合わせると頷きあった。 「玄武、太陰、地図を見せるから、来て。」 二人から首肯が返ってきて、部屋を出た。。 「・・・・・・・そんなに大げさじゃないぞ。」 やれやれと勾陣は呟いた。 「大げさかどうかは、おまえが決めることじゃない。」 「おまえに言われたくないな。」 軽く勾陣はねめあげた。 「・・私の命は、おまえがいるから、大丈夫だ。」 「・・・それが大変迷惑な話なんだがな。」 騰蛇は軽く溜息をついた。屈み込んでその髪を梳く。 怪我の程度を見る。そんなに余裕は無いはずだ。 「人身でいると回復が遅い。」 「そうだな。」 まるで他人事のように応える。 勾陣はその掌に頬を預けやった。 「心配されるのも悪く無いと思ってたんだ。」 「・・・おまえが?。」 口だけだ。 勾陣は心配されるのをとても好まない。彼女は自分に次ぐ通力の持ち主で、そのことに誇りを持っている。 半ばあきれて、今度は盛大に溜息をついた。 「・・・・。」 減らず口ばかり叩きそうなので、騰蛇は勾陣に向かって屈み込んだ。 ソファの背凭れに手をついて重みで軋む。 「・・。」 勾陣は気づいて、唇が重ねられる寸前に呟く。 「・・・昌浩はいいのか?。」 一瞬だけ、動きが止まる。 「・・・怪我人は黙ってろ。」 「・・・。」 それは今日は、自分の為に時間を使ってくれることへの肯定だった。 勾陣は目を伏せる。 唇が重ねられた。 そっと仰のいて冷たくなっていた唇で、彼の熱を奪う。 「異界に戻るぞ。」 触れた唇で呟く。 「・・・。」 勾陣は瞼を閉じて頷いた。 彰子は母と買物に出掛けて行った。 玄武と太陰をキッチンに待たせて、昌浩は着替えずに、朝とは別の準備に取りかかる。 攻撃用の呪符とともに、護りの符を追加する。 高杯と瓶子と榊と・・・、当座だが祭るのに必要なものを揃えた。 しっかりとした祠は道長に頼むことになるだろう。 「・・・。」 今日のうちに、彰子の部屋の穢れを祓いにもいこうと思った。せっかくあの弟を仕留めたのだ。嫌悪する全てを祓ってしまおう。 戸の付近で軽いノックがあり、晴明がいた。 「どうじゃ。学校は普通に行けたか?。」 人の悪い笑顔で尋ねてくる。 「行けましたよ。」 ・・・なんとか、と口の中で付け加えた。 「彰子嬢の部屋の方も、今夜中に終わらせるんじゃな。」 「そのつもりです。」 「ならいい。それから・・・理事の息子の件はわしと道長氏で解決するとしよう。」 「あ、大学の祠の設置もお願いします。」 「承知。」 ほっほと満足げに晴明は頷いた。 「・・・じいさま。」 昌浩は気になることを尋ねた。異界の状態までうかがい知ることが出来ないから。 「勾陣は大丈夫なんですか?。」 「・・・・。」 「異変があればすぐここに来そうだ。」 「・・大丈夫じゃよ。」 晴明は目を細めて笑った。 でも、昌浩は腑に落ちない。 「命を賭けて、暴走すると聞いてますけど。」 「大丈夫じゃ・・・・あれがついとるからな。」 「紅蓮が?。」 「あれが最強だ。」 取り澄ました顔で答える。 ・・・・詰まるところを昌浩は尋ねた。 「・・・じゃあ、紅蓮が暴走したら?。」 「・・・それはそれは、大変じゃのう。」 「・・・・。」 晴明はそう呟いて、笑うだけ。 答えを教えてくれるわけではなかった。 ぽんぽんと晴明は昌浩の頭を叩いて、部屋をあとにする。 「・・・・。」 引っかかったものがあったので、額を拳で押さえて考える。 「・・あ。」 全ては帰結する。 ・・・だから、自分達が強くあらねばならないのだ。 命をかけることなく、紅蓮を止めれるように。 [06/1/29] #小路Novelに戻る# #Back# #Next# −Comment− 第4弾の原稿を仕上げていたので、なかなか更新出来ませんでした。 うーん、ホームページもいいけれど、同人誌の緊張感がまたいいのです。 誤字脱字蛇足字に対しての意識が全然違う。 今回は8ページ。 まだネタがあるのです。 平安時ばかりですが。紅蓮と勾陣、昌浩と彰子。どれを書こうかな〜と思って、8ページにおさまりそうなのを。 アウトプットがなかなかなか。 身重なので、あんまり端末の前に座っていると冷える。 来週で臨月突入です。 |