※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



A fortune-teller

〜士〜





 大禍時。
 薄い暗闇は、季節の節目の立春がもうまもなくとは思えないほど陰気な様子だった。
 上空には黒雲が足れ込めて、夕刻を短くする。
 気象情報では、大気の状態が不安定で、所々雷が発生する注意報を出していた。
 大雪になって、電車が止まるかもしれないため、大学生達はいつもの金曜日と違って足早に大学をあとにしていく。
 昌浩は大学敷地内で地鎮の前準備をしていた。
 紙垂や符を要所要所に備えて行く。
 これは霊達の通り道で、これからやってくるだろうこの都市の霊達のためだ。
 この都市に他にも幾つかあるが、ここは大きい方になるだろう。
 昌浩がやっているのは仮処置だ。あとで祖父や道長が大学側と協議して風化したり壊されないものを設置してくれる。
「霊道はこれでよし。」
 図書館跡地に祠があった場所にも、仮処置として竹笹を四方に差し神棚を設置してきた。これくらいなら人目についてもそれほど怪訝に思われない。慣習の範囲だ。
 昌浩が制服や普段着を着たままだったら、やっぱり変だろうが、そこはそれ、狩衣をきていると年齢不詳に見えて、近寄りがたい雰囲気になる。
 昌浩からすれば、業務上の作業着と言えばそうだが。
「昌浩。」
 玄武が戻ってくる。
「だいぶ、生徒は減ってきたようだ。」
「ん。わかった。」
 昌浩はシャベルや余った縄を巾着に戻して片付ける。



 今日は地鎮だけではない。
 デスマスク達を浄化させなければならないのだ。
 抵抗する者達もいるだろう。
 それを問答無用で天堂に送る調伏を。



 日が落ちる。冷たい風が頬を打った。風に冷たいものが混じって、この身を攻めてくる。
 この身が生きていることに嫉妬して、
 嘆き、咽び泣く。

 オオオオ――ッ
 ウウウウ――ッ


 つるべおとしはデスマスクに変わっていた。
 石畳に、校舎の壁に、木々に、張りついて浮かぶ顔は全て慟哭していた。
 恨みにもつ者、自らの死を信じられない者。
 この世に未練があって、浄化すべき時に浄化できなかった者達。
 どうして陽気なつるべおとしに変わっていたのかは祠が潰されたあとになってはもうわからない。
 おそらくは、和むような仕掛けがあったのだろう。
 だが、つるべおとしたちは全て思い出し、怨恨の集合体と化した。
 もうまもなくすれば百鬼と成り果てて、生きている人を、嫉妬から襲うだろう。
 右手に持った数珠がやけに冷たく感じた。
「・・・・。」
 本当は全員助けるつもりでいたけれど、
 それでも、昌浩は言葉を宣言する。
「万魔降伏。」
 消えて行くデスマスク達。
 自分は陰陽師だから。



 吹き付けていた風が凪いだ。
 そして止む。
「・・・・。」
 ふうわりと白い綿のようなものが舞った。
 昌浩は目を見開いた。
 白いそれは、雪だった。
 綿のように柔らかく、優しく降り注ぐ。




 昌浩は右手を差し出して雪を受ける。
 グローブの上に雪は落ちて、さっと融けた。
「・・・・。」
 一瞬にして、この手は、相手の生殺を決することが出来る。
 そんなことを思った昌浩はとんと、その手で自分の頭を叩いた。
「昌浩。」
 太陰に呼ばれた。
「ん。終わった。次は彰子の家に行ってくれる?。」
「わかったわ。」
 太陰の風が吹く。
 少々荒っぽいけれど、距離は短いから、我慢する。
 彰子の家の屋根に降りた。
 昌浩は、穢れた家に触れた。
 潔斎の呪いを唱える。
 閃光が走った。
「・・・・・。」
 付近の住民は、雷が落ちたぐらいに思っただろう。
 しゃがみ込んで立ち上がらない昌浩に、太陰がその顔を覗き込んだ。
「・・・大丈夫?。昌浩。疲れてるみたい。」
「・・・大丈夫。・・・疲れてはいるけどね。寒いしさ。」
 昌浩は立ち上がると、屋根を伝い、邪な気配を探った。
 もう澱んだところは無い。
 ほうと胸を撫で下ろす。
 晴明が昔張った結界も調べる。
 今回は中からの攻撃だっただけで、結界は、まだちゃんと作用していた。
「OK、・・・帰ろうか。」
 屋根から見て、道路に視線を投げる。もう既に暗くなっていて道路は街灯に照らされて光る。
「・・・・。」
 案の定雪が融けて積もらない路肩に水溜りが出来ていた。
 玄武の水鏡で移動するのにちょうどいい大きさだ。
「玄武。」
 彼を呼んで水溜りを指差した。
 言わんとしていることを理解して、玄武はこくりと頷いた。
「寒いから風呂にたぶんもうお湯張ってあると思うから。そこに繋げてもらえる?。」
 風呂の掃除は自分だが、今日は寒いから皆自分より先に帰ってきているはずだった。入る人数が多いのもあるから父がいれてくれてるだろう。
「・・・・彰子嬢が入ってるかもしれないぞ。」
「・・・・。」
 不意に言われて、思考回路が止まり、
 回復してその意味を反芻したていたら、
「・・っ。」
 がつっと、疲れと寒さで反射神経が鈍った昌浩は、屋根の雨どいに激突した。
「・・イテテ・・・え、あ、と。それはまずいか。」
「・・・。」
 振り返ると、十二神将の二人が半眼になっていた。
 お約束だろう、これは。
 疲れているのでバツの悪い顔もする気にもなれなかった。
「庭の池の方によろしく。」
「その方がいいだろう。」
 玄武は腕を組んで、当然だという体で頷いた。







[06/2/21]

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−Comment−

次でおそらく、完結。
昌浩と彰子のシチュエーションにもう一歩踏み込みたいけど、そこはこらえてたりたり。
相変わらず長文書くのに1年かかってます。

間に胎教と出産が〜。
ちなみに私は母乳こだわり派。
哺乳瓶派もいるとは思いますが、それはそれ。
煮沸とか温度とか気にしなくていいので、母乳の方が断然楽!と思ってたりします。
栄養もあるし、赤ちゃんの便秘も気にしなくていいし。(粉ミルクは便が固くなるそうだ)

でもでも、おこちゃまは女の子で、38週と3日で産まれて2588gと小さかったです。
母乳を飲む力が無いかもと思いました。
哺乳瓶はストローみたいにミルクが口に入ってくるのに対し、母乳は思いっきり吸わないと飲めない。
とにかく最初は飲んでもらえなかった。
だがしかし・・、スパルタな母親ですまんの。落ち込みません。
産んで3日目、助産師さんをつかまえまくって、おこちゃまと私の母乳あげの特訓をしてもらいました。
助産師さんはすごく協力的で、そして教え方のプロでした。
3時間起きにたたき起こしては、半ば強引に飲ませて容赦なかったのですが、小さいのについていって、最後には2588gなのに、他の大きい子と同じ目標量を退院までに飲めるようになりました。
小さいのに根性があるそうです。
それは嬉しい言葉でした。

今ではぽんぽん大きくなるまで飲んで、3〜4時間リズムをつけてぐっすり眠ってくれるので、私も眠れるし家事が出来るし、こうして更新も〜。
感蟲七八ではないのは、意外でした。やっぱり3時間起きにたたき起こしてリズムを作ったのがよかったかも。
助産師さんに感謝感謝。