※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



A fortune-teller

〜九字〜





 天后は勾陣を連れて、空間をショートカットさせる路の向こうに消えた。
 昌浩は振っていた手を下ろした。
 そして植え込みの影から出る。火事で出来た大学の正門前の人だかりに混ざった。
 女の記憶から、自分達の姿だけは削除はしておいた。 
 どうせ妖に襲われたことなど説明出来ないのはわかっているから、得体の知れないものへの恐れは残そうと、妖に襲われた記憶は消さずにおいた。
 消防車の回転灯が回っていた。
 でもボヤで済んでいるので、消防車は来たけれど水の放出は無かった。
 大火事になるようなヘマするかいと、物の怪は尻尾をひょんと振ってしたり顔だが、昌浩はあとでじいさまに多少は投げられるんだろうなーとか思った。でも、別にそれくらい日常茶飯事なのでたいした問題じゃない。
 死霊を外に出さないための結界も張った。応急処置にとしては、これで大丈夫だった。
 野次馬に加えて、学生もこれから登校してくる時間帯だ。いくら隠形の術を行使してるからといって、あまりに怪しい行動は、人目に映る。
 魂鎮めと地鎮は今夜だ。
「天后。落ち込んでいたけど、大丈夫かな。」
「・・・果てしなく落ち込む前に、なんとかなるさ。・・・それよりも呪詛だ。」
 肩の上で、物の怪は昌浩を促す。
 頷くと昌浩はもらった孤独の箱の主の女の詳細データをひらっと広げた。
「・・・・。」
 女の家族構成は、父、母、弟。顔写真もあるけれど覚えは無い。
「昨日・・・ちゃんと注意しときゃよかったかな。」
「んあ?。」
「帰り道、いたらしいんだよね。彰子を待ち伏せしてるかもしれない奴。」
「いたらしい?。」
「俺としゃべっていて、彰子も気づかなかったから。」
「ほう。」
 物の怪は昌浩を意味ありげ、昌浩を斜に見て笑う。
「・・待ち伏せが本当なら、それはさぞかし気に入らなかったろうな。」
「・・。」
「この弟あたりの怒りに任せて、生成されたかもしれないな。」
「・・・ん。」
 昌浩は用紙を四つ折りにして制服のポケットにしまいこんだ。
「・・・もっくん。学校に一度戻ろうか。」
「・・あの女の家に行くんじゃないのか。」
「うん・・、それでもいいんだけど。」
 昌浩はバス停へと踵を返した。
「呪詛は確実に彰子を狙ってた。今戻れば、ちょうどいるかもしれない。」
 いつもの登校の時間帯だ。
 バスがちょうどよくバス停についていた。昌浩は駆け乗った。
「それにさ。じいさまがね。学校には普通に行かなければならないって言ったんだよね。」
 昌浩は物の怪に片目を閉じて、肩を竦めた。
「裏を返せば、普通に行けるって事だろ。・・・上手くやればの話だろうけどね。」
 そう言って笑った。







 虹はとうに消えている。
 彰子は教室で小説を読んでいた。けれど気になって大学の方向を何度か振り返っていた。
「・・・。」
 目を瞬かせる。
 色が違っていた。
 よく見知った色だった。
「(・・昌浩の。)」
 瑠璃色の結界が発動してる。
「(なにかあったんだ。)」
 彰子は、微かに息を飲んで・・・何も出来ないことに溜息をついた。
 この校舎から、出て、迎えに行きたかった。
 けれど、この校舎から出てはいけない。
 何か起こっているからこそ、自分は、出てはいけない。
 昨夜の妖は確実に自分を狙っていた。
 彰子は、机に頬杖をついた。
 朝練を終えた友達が戻ってくる。
「どうしたの?。なんか考え込んでるみたい。」
 おはようと言いつつ尋ねられる。
「退魔の呪文ぐらい使えたらなって、思っただけ。」
 せめて九字くらい。
「何?、RPG?。」
「そんなとこ。」
 そんな世界の話だ。





 昌浩は路線の関係で正門側ではなく、校庭の真横にあるバス停に下りた。
「・・・。」
 反対側の路肩に赤のGTRが止まっていた。
 孤独の箱の女の弟が所有する車と同じ車種だ。
 中には2人いるようだった。
 昌浩は剣呑に目を細めた。
 中にいる者達から、この指輪の呪詛を感じたからだ。
 待っていたら、来るだろう・・・。
 車を一瞥して、昌浩はポケットに手を突っ込んで、正門に向かって歩き出した。
 予感はしてる。
 昌浩は気配を探った。
 正門からこちらまでの角をもうすぐ曲がってくる。
「・・・・ビンゴ。」
 物の怪が肩の上で呟いた。
 昌浩は、ん・・と返事した。
 孤独の箱の女の弟の顔がそこにあった。
「あんなの背負ってなかったけど。」
「背負ってたら、彰子も気づく。」
 弟の・・その肩に邪鬼が乗っていた。
 ポケットの中で指輪の呪詛が高まる。
 昌浩はずっと防ぎつづけていた。返してはいない。どんな人間が術を送り出しているかわからなかったからだ。よく調べもせずに呪詛を返したら、無関係な人まで傷つけてしまう恐れがある。
 相手との距離を測った。
 邪鬼は嫌らしい笑みを浮かべて口はだらりと開かれているだけだが、脳に直接聞こえてくる。
「(こいつが呪詛を。)」
 ・・・・不完全だけど、威力は形成していた。
 弟はGTRに向かって手を振っていて、道路を渡ろうとしていた。
「・・・・。」
 昌浩はポケットから、指輪を出して、放った。
 チャリンッ。
 音に、弟は振り返った。
 自分の存在に気づいて、目を見開いた。
 リンリンリンッ、リー
 弾んで転がっっていく。
「・・・貴様は。」
「・・・・。」
 その言葉には老若に関わらず初対面の人間に対して守るべき礼儀など欠片も含んでいなかった。
 昌浩の気分が一気に氷点まで下がった。
 相手を睥睨する。
 女の弟は、足元に転がってきた指輪を拾い上げた。
 石は無いが、プラチナのあつらえは特注の一点ものだ。
「貴様がどうしてこれを持っている。」
 憤怒の形相で、近づいてくる。
 昌浩は口元だけで笑う。
「これって、何が?。」
 はぐらかして肩をすくめた。
 不遜で可愛げのない応答に、弟は目じりをつりあげた。
 ドンッドンッと音がして、GTRから2人の青年達が降りてくる。
 昌浩は横目に見る。
 青年達の肩にも邪鬼が乗っていた。おそらく目の前の邪鬼から増殖したものだろう。
 相手を貶めようとする感情は感染しやすい。
 感染しやすい人間が現代に多いのもあるだろう。
「もっくんは手出し無用だからね。」
 肩越し囁く。
「もっくん言うな。」
 昌浩は3人の男達に囲まれた。
 青年達は、薄く笑った。その肩の上で邪鬼も同様に笑った。
「・・・。」
 その時だった。
 バンッとフェンスにボールが叩きつけられた。
 その場の全員がいっせいに振り向く。
「安倍っ。」
 駆け寄ってくる。
「高野。」
 クラスメイトだ。
 フェンスに当たったのは野球のボールだった。
「・・・。」
 誰かに見られてたことで、あまり猶予は無いと判断したのか、男の一人が昌浩に殴りかかった。
 昌浩はそれを予期して、体を引き避ける。
 そして後ろにいた青年に捕まらないように、且つ、躊躇無くその襟首をつかんだ。
「・・・せっ。」
 昌浩はひと気合いれる。
 青年がうっとうめいた瞬間、昌浩は背負い投げて、眼前の男に放った。
「安倍っ。」
「大丈夫。」
 トントンと着地し足場を定めて、眼前の男から目を反らさず、昌浩は高野に答えた。
 有無を言わせない声色に高野は目を見張る。
 女の弟は憤然と怒鳴った。
「彰子嬢とどういう関係だ。」
「幼馴染み。」
 昌浩は偉そうな態度をあらためず、即答する。
 そして、刀印を指先で模った。
 左から右へ、横に・・・・・ゆっくり一閃を引く。
「・・・・どういうつもりか知りたくも無いけど。」
 瞬き一つ、冷徹な眼差しに変える。
「・・・っ。」
 場慣れした雰囲気に男達は飲まれた。
 ザッ・・と、あとずさった。
 相手は中学生で、昨日までの雰囲気なら、世間知らずのガキに見えた。
 けれど、今は違う。
 冷酷で、情け容赦のない性情を感じる。
「二度と近づくな。」
 ・・・相手ガ悪イ。
 邪鬼の顔が歪んだ。
 男達も同じような顔で歪む。
「・・・禁。」
 口の中で呟いた。
 刹那、邪鬼達の首に一筋赤い亀裂が走った。
 男達の目が見開かれた。
 邪鬼の首はそのまま後方へズレて、ごとりと落ちた。
 ゆっくりと降ろされた刀印は遅いが、重く、確かに食い込んで、邪鬼達の首を落とした。
 厳かな声で呟く。
「天地玄妙、急々如律令・・・。」

 術者と指輪の持ち主に。
 昌浩は、・・・呪詛を返した。







[05/12/28]

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−Comment−

 うーん。なかなか進まない。

 明日はコミケ・・推進委員会の同人誌に小説載せてます。そちらの方もよろしくです。
 日向も漫画で参加。
 私、原稿見てないので、どんなのか楽しみ。

 『いにしえの魂を呼び覚ませ』
 か・・・っ、
 ネタバレになるので言いませんが・・・。
 朝から買いに行って、スタバで読んで、これから仕事です。