※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



A fortune-teller

〜正午のTimeTable〜





 経済関係の総会に藤原道長は出席していた。
 会は某有名外資系ホテルにて午前中から開催され、昼食会で終了する。
 会議中なのでSPの任から離れて青龍はを先に昼食をとることにして、ホテルの高層階のレストラン街にいた。
「・・・・。」
 そこで、携帯が鳴った。六合の携帯からの着信だ。
 出たら晴明だった。
「・・・・は?。」
 くだんの件には自分はまったく関わっていないのだ。
 白虎か六合に頼めと言おうとしたが、青龍は眉間にしわを寄せた。
 白虎は唐突の依頼の際の晴明の移動の足だ。
 六合は・・・週末だ。馬に蹴られるのは青龍だってご免だった。鬱陶しいから早くまとまってしまえと思う。
「・・・道長の会食の後になるぞ。」
「かまわんよ。特にこのあとに何か起こるような占は出ておらんのでな。」
 占に出ていたのはほぼ昌浩に押し付けたというわけだなと青龍は思った。
 晴明とのやり取りを終えて携帯を閉じると、ホテルのロビーに同胞の気配が生じた。
 青龍は高層階からエレベーターに乗り、一度一階に降りた。
 エレベータホールを抜けて、ラウンジの手前、ホテルのフラワーショップの前にその姿を見つける。
「・・・・。」
 目立つ・・と思った。
 ここに来るためか、浮かないように露樹が貸したのだろう。このホテルはあんまり普段着で来るところじゃない。
 十二進将達が人身を取るようになったので、最近露樹は自分の着る服を融通が利くように買っていた。
 白いコートにブーツ。ワインレッド基調のロングスカート。
 青龍は怪訝に眉間にしわを寄せた。
 十二神将はただでさえ何を着ても只人以上の着こなしになってしまうのだ。
 露樹に一度進言した方がいいだろうか・・だがこういうところに来るにはやはりそれなりの着こなしが必要なのも事実だ。
「天后。」
 面倒くさくなって、苦言は飲み込んで、名を呼んだ。
 天后が振り向く。大人しい面立ちがなお一層情けない顔になっていた。
 勾陣のことを気に病んでのことだろうが。
「ごめんなさい。仕事中に。」
「まったくだ。」
 容赦のない言葉を浴びせて、青龍は、目線だけでついて来いと天后を促した。
 シュンとするにも青龍がどんどん行ってしまうので天后は慌ててついて行った。このホテルは大きくて、構造も複雑ですぐに見失いかねない。人らしく振舞わなければならないので、出来るだけ慣れた青龍の傍にいるのが賢明だった。
 エレベーターの前でこの後の予定を手短に話す。
「道長の会食の時間が1時半だ。終わるのは3時前だろう。道長を本社に送って、任務はそれからだ。」
 こくりと頷く。
 エレベーターが来たので乗り込む。乗り込む人が多いので青龍は天后の袖を引いて奥へと押しやった。
 乗り込んだ人の視線が天后へと向けられる。
「・・・・。」
 やっぱり注目を引いている。
 青龍は眉を寄せて不機嫌そのもになった。
 天后を背に隠したまま、エレベータ内を睥睨する。周囲の人は慌てて視線を反らした。
 ・・・・目立つから、だから女の神将と歩くのは嫌なんだ、と青龍は苦々しく思った。
「次降りるぞ。今のうちに昼食だ。時間になったら会議室に行く。」
 青龍は12時を差している時計を眺めて、呟いた。
「・・・・。」
 勾陣のいう通りだ。
 違和感のない馴染んだ仕草だった。
 六合ならわかる。十二神将の中で一番寛容だからだ。こだわりが無いと言えばそうだが。
 青龍はそうじゃない。任務遂行のため人間のフリをしてるのだ。
 頑なだけに完璧である。
 エレベータを降りて、青龍は天后を一瞥して踵を返し、スタスタ先を行ってしまう。
 もう行く店は決めていて、突き当たり東側の和食のダイニングだ。
 天后は大人しくついていった。特に希望も無いし、青龍は食べ物に結構こだわるので、おいしいと思う。
 混まないうちに入ることが出来た。
 窓側の席を案内された。高層の窓の外は天候が悪く雲が忙しく動いて、時折下界を隠す。
 メニューをザッと眺めて、青龍はさっさと決め、店員を呼んだ。
 ランチのセットを頼む。天后は単品でちらし寿司と味噌汁を頼んだ。
「・・・・だけか?」
「十分だもの。」
「大体おまえヤセすぎなんだ。もっと太れ。」
 仕事に当たるならそうした方がいいと言う。
 それは人身で当たるならの話だろう。
 今朝の失敗のことを攻められているような気がした。
 天后はずーんと落ち込んだ。
 相手にせず青龍はメニューを店員にかざして指差した。
「これも。二つ。」
「クリーム抹茶餡蜜ですね。かしこまりました。」
 うつむいたまま、ん?、と天后は眦を寄せてその意味を反芻した。
 青龍は食べ物に結構こだわりがあって、でも一人だったら絶対に食べない。
 明らかにダシにされていると思われた。
「自分が食べたいんですかっ。」
「・・・。」
 青龍はメニューに視線を落としたまま、そ知らぬ顔だった。




 ***




 すっかり日が暮れて、雪が落ちてきていた。
 からからと昌浩の部屋から窓を開ける音がした。
 台所にいる彰子は部屋の方を振り返った。
 玄武と太陰の気配もする。昌浩が帰ってきたのだ。
 彰子は豚カツに合わせるサラダをお皿に盛っていて、ほどなくして着替えを済ませて、昌浩がここに来るだろうと思っていた。
「・・・。」
 けど、来ない。
 そわそわしていると、傍にいる露樹が彰子を促した。
「見てきてもらえるかしら。見えない皆さんとお話してるのかも。」
「・・・。」
 こくりと頷いた。
「あと30分したら出来るから、時間厳守とも言ってね。」
「はい。」
 彰子は露樹にお辞儀をして、台所を後にした。
 廊下を少し行って、人身を取った玄武と太陰に遭遇する。
「彰子嬢。」
「玄武、太陰。おかえりなさい。」
「ただいま戻った。」
 彰子にそう答えて、そして、太陰の視線を受けて、そちらを振り向く。
 玄武と太陰は少し困った様子で顔を見合わせていた。
「どうしたの?。何かあったの?。」
「・・・・何かあったわけじゃないけれど。」
 太陰はどう言っていいのかわからなくて声がしりつぼみになる。
「昌浩は部屋にいる・・いて、少し横になっている。疲れたようだ。」
「あ、怪我とかしてないから。」
 太陰は付け足した。
「・・・?。」
 二人の話は要領を得なかった。
「・・・ん。わかった。見てくるわね。」
「そうしてほしい。」
「二人とも、ご飯の用意が出来てるから、ダイニングに行ってね。」
 優しく促すと、玄武と太陰は頷いた。
 彰子は先を進んで、昌浩の部屋の前に立つ。
「・・・。」
 襖から光がこぼれてなかった。
「昌浩。いる?。」
「・・・・いるよー。」
 中から声がした。
 彰子は襖を開けた。
 部屋の中は真っ暗で、昌浩は着替えもしないで仰向けで寝っ転がっていた。
 雑然とした感じに、ささくれだった雰囲気を感じた。
「(・・・・不貞寝?。)」
 そんな感じだ。
 珍しく自分の前で取り繕わないから、少し重傷のような気がした。
「・・・・。」
 今日一日で嫌な物をずいぶん見たような気がしてあんまり元気が出なかった。
 嫌な思惑。嫌な大人。
 切り捨てれる自分。
 消えていく霊達。
 塵も積もって山となって鬱屈する。
 彰子が部屋の電気をつけた。
 昌浩は眩しさで目を細める。
「・・・・!。」
 数回の瞬きののち、途中、自分が見たものに目を瞠いた。
 そして額に手の甲を当てて、昌浩は唸った。
「彰子・・・。そこ見える。」
「?。なにが?。・・・・・・・あ。」
 彰子は思い立って、慌ててしゃがみ込んだ。
 そしてジト目で昌浩をひと睨みする。
 スカートを押さえて、前回のも合わせて、苦言する。
「・・・見ないでよ。」
「油断してる彰子が悪い。」
「・・もう。」
 確かにそれはそうなのだが。
「・・・・。」
 昌浩は明かりもつけない着替えもしていない、・・ただいまも言わないで、寝っ転がっていた。
 彰子は首を傾げた。
「大丈夫?。疲れてるみたい。」
「・・・うん。大丈夫だよ。これくらいなら平気。」
「・・・。」
 これくらい・・と言うのはどういうことだろう。
 言葉の端々を全部気にかけていたら詮無いけれど、この大丈夫はなんか嘘っぽかった。
「ご飯もう少しで出来るから、呼びに来たんだけど。」
「うん、わかった。着替えてすぐ行くよ。」
「うん。・・・・」
 彰子は昌浩を起こすように、額に当てられた右手に触れた。
 が、不必要なほどあきらかに強張った。
「え・・・。」
 そしてスッと手を引かれた。
「え・・?。」
「・・・・。」
 今日一日だけで、ずいぶん使ったと思う。
 この手は、妖を切払い、人を傷つける手だ。
 ・・・これまでも、これからもだ。
 気味が悪いと言えば、そう。
「ごめん。あんまりキレイじゃないんだ。」
 言って、昌浩は自分で起き上がった。
「・・・・。」
 地鎮の設置のための土の汚れの話じゃない
 言い草で彰子はわかった。
 狩衣の結び目を解いていく昌浩を目を細めて彰子は眺めた。
 ではその手が汚れて穢れているかどうかか。
 でもそれこそ彰子にはわかるのだ。
「(穢れてなんかない。)」
 この手は。
 自分は『見える』のだ。
 狩衣から腕を抜こうとする手を捕まえる。
 昌浩が驚いて振り返った。
「・・・・そう。」
 勝手な思い込みをしている昌浩に少し腹が立って、半ば怒気を込めて呟く。
 そして、たぶんおそらく一応これでも学園屈指に入ってるらしい自分なので、ちょっとそれを意識して、彰子は肩越しまで近づいた。
 勾陣を真似、不穏に微笑む。
「え・・。」
 戸惑う昌浩の右手を、くんっ、とひねった。
「じゃあこれで潔斎ね。」
 言って、彰子はその甲に唇で触れる。
「!?。」
 仰天して、昌浩は硬直した。
 いつもの健康的な笑顔じゃない、彰子の・・微笑。
「ちょ、ちょっとっ。」
 驚き、慌てふためいて、昌浩はそれ以上の二の句が言葉にならなかった。
 彰子は取り澄ました顔で、昌浩の手を放した。
「油断している昌浩が悪い。」
 さっきの意趣返しと言ったところだ。
「・・・。」
 油断していた・・といえばそうなのだろう。
 まったく予期してなかっ・・・いや、つーか、待て。
 予期していたら、どういう関係だ。自分達は。
「あと30分したら、ご飯だからね。」
 あれこれ考えている昌浩を置いてけぼりにして、彰子は廊下の襖に手を掛ける。
「・・・・わかりました。」
 何も考えられなくて、ついでに胸に鬱屈していたものもフリーズして粉々になっていて、大人しく昌浩は返事した。
「・・・それからね。」
 いつもの口調に戻ったので昌浩は声の方に顔を上げた。
「ん?。」
「おかえりなさい。」
「・・・・。」
 あ・・と思った。そうだ。
 そしてそれが自分達の今の関係。
「ただいま。」
 そう、まだ、だった。




   ***




 騰蛇が勾陣をその腕に抱いて空間に凭れていた。
 太裳はその傍に顕現する。
「・・・・。」
 凶将の二人がこうしていると、大蛇が横たわっているようだ。
 もしこの異界に踏み入った者があって、これに遭遇したなら、即、足音を忍ばすだろう。
「・・・太裳か。」
 騰蛇がうっそりと目を開けた。勾陣も薄く目を開ける。
 彼らの気配は凶将のもの。不穏そのものだ。
 蛇に睨まれた蛙と言ったところか。
 もちろん太裳は蛙ではない。そしてこの気配が彼らの性情全てであるとも、もう誤解していなかった。
 太裳は穏やかに笑った。
 騰蛇はちゃんと起きて聞いていて、勾陣は寝起きが悪いだけである。
「天一と朱雀が報告をくれました。くだんの件は片付いたようですよ。」
「・・そうか。昌浩に怪我は?。」
「あさってのこと考えて藤原の家の雨どいで、額にあざを作ったとか。」
 騰蛇は半眼になった。しょうもない。
 あさってとは暗に彰子のことだろうと推察した。
「天后は?。」
「青龍とともに。」
 多少の苦笑いが入る。
「こちらも完了しましたよ。知らせは天后がくれました。」
「まだ戻ってないようだが。」
「珍しい東京の雪景色だから、足を伸ばしているようですよ。」
「・・・・・。」
 それは雪も降るだろう。
「珍しい。」
 騰蛇はぼそりと呟いた。
「詳しく言うとチェーン規制で、下道で帰るしかないとか。今、小田原の辺りだそうです。」
「・・・・。」
 そんなとこだろう。
 青龍の奴が気の効いたことを、まあ時たまするかもしれないが、それも偶然を大目に見るとかそんなとこだろう。
 今日などはまさにその場合に当たりそうだ。
「車で行くな車で。」
「まあ、二人でゆっくりできるならそれでいいのでは?。」
「天后がそれでいいならな。」
 勾陣はぼそりと呟いた。
 起きたかなと太裳は薬壷を出した。勾陣に話し掛ける。
「勾陣。天空の翁が毒性から薬を作りました。」
「・・・。」
 勾陣は半分寝ぼけながら、その言葉にはピクリと反応して顔をしかめた。
「ご気分が良い時にでもどうぞ。」
「・・・気分が良い時に飲むと余計苦い。飲まないか、もしくは今いただくとするよ。」
「飲むように。不精は回復を遅らせるだけですよ。」
 太裳はきちんと飲ませるため騰蛇に手渡した。
「では騰蛇、よろしく頼みます。」
「わかった。」










[06/3/21]

#小路Novelに戻る#  #Back#  #Next#

−Comment−

時間軸がわかりにくいですが、12時、18時、21時ぐらいです。、
サイドのシチュエイションを書きたかったのです。
十二なので、十二神将の名前を全部出してみました。

名前の呼ばせ方は、基本的に、そのままの名前ばかり。
実際そのままの呼ばせ方が結構好きだったりします。
勾陣と騰蛇に関しては特に。
二つ名を知っている上で、そのままの呼び方をする方が、クールでいい。
そういうわけで今回の話は昌彰中心なのでシチュエイションの中で紅蓮以外呼ばせてない・・・。
紅蓮を文面を書くときに、昌浩相手は紅蓮、勾陣相手は騰蛇。
ワザとです。騰蛇って音はかっこいい。
勾陣は、呼ぶときだけ勾。でもしっかり言う時は呼ぶ時も勾陣。
慧斗は・・・どこかで使うことがあるだろうか(遠い目)。

次ぎで完結です。今度こそ。


WBC・・・っ、日本が世界一だっ。