※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



A fortune-teller

〜四方〜





「えーと。」
 昌浩は敷いた布団の傍らで、明日の授業の用意をする。
 7時間もあると、辞書は置きっぱなしにしても、ノートがかさばってカバンは満杯だ。
「・・・やっぱり、一度帰ってからにしよ。」
 今日と同じく、彰子と一緒にうちに帰って、一緒に大学に行って、待っててもらって、地鎮。
 昌浩は立ち上がり、台所に向かう。
 明日の予定を伝えるために紅蓮を探す。
 案の定、台所にいた。
 何とはなしに皆が使った湯呑茶碗を片付けている。
 それが我が家の台所の風景。
「紅蓮。」
「ん?。」
 紅蓮が振りかえった。
 この時間帯、いつも傍らで面白そうに紅蓮を見ている勾陣がいないので。
「あ、勾陣達、もう行っちゃったんだ。」
「さっき散らばって行ったぞ。今夜中に片をつける気でいるそうだ。」
 告訴している分まで合わせて44個分の箱の中の符を無効にしなければならない。符を破き、又、証拠になっているものについては、警察が疑われないように、霊の嫌う香りのするパヒュームをつける。
「素早いなぁ。ごくろうさまです。紅蓮は待機中?。」
「帰ってきて出迎えなかったらあとが怖くてな。」
「はは。」
「おまえは明日があるから、さっさと寝ろよ。」
「うん。そう、それでなんだけど、明日の夕方、今日みたいにして一度帰ってくるから。」
「彰子が来るのか?。」
「うん。一緒に帰ってきて、一緒に大学に行くから。なんかさ、彰子、最近つけられている気がするんだってさ。」
「ストーキングか?。」
「うーん。そこまではいってないみたいらしいけど、通りすがりにしては同じ顔を何度も見るからって。」
「通勤通学の範囲かもしれないんだな。だから一概に疑えない。」
「そう。」
「わかった。夕方4時頃か。家で待っている。」
「よろしく頼みます・・・じゃあ、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
 紅蓮は手をひらひらと振った。
 昌浩は部屋に戻ると、引出しを引いた。
 陰陽師として必要なものを入れてある場所だ。
 数珠と呪符。白い紙。白い布。
 昌浩は机について、白い紙を折って、切込みをナイフで入れる。
 白い紙は紙垂だった。
 広げずに折った形のまま白い布に乗せ、数珠と呪符と合わせて包んだ。それを傍らに置く。
「・・・・・。」
 机に座ったので、勢いで勉強する。
 英語のリーダーがおそらく明日当たるのだ。
 ペンを持った途端、睡魔がやってくる。
 頬肘をつきながら、うつらうつらしてしまう。



 彰子の顔が、不意に頭によぎる。
「・・・・。」
 何を考えてるんだと思うけれど、そのままつらつらと考える。
 彰子が布団に潜り込んでいる。
 そこから思考が移って、部屋を出て、道長の書斎に。


 黒い影。
 まるでコールタールのような。


 昌浩はペンをバタッと落として、瞠目した。
 そして、フリースをつかみ、用意してあった呪具を引っつかみ、部屋を出る。
「紅蓮っ。バイク出して。」
「は?。」
 ただならぬ様子で台所前を昌浩が横切っていった。
 紅蓮は追いかける。
「待て、昌浩っ。どうした。」
 靴を掃く昌浩の肩を紅蓮はつかんだ。
「彰子の家・・・・・っ。・・・家、結界張ってあるのに、悪い物が中に侵入してる。」
 靴を履くのももどかしそうにした。最悪な様相を感じているのだ。
 昌浩は陰陽師だから。
「・・・・被れ。」
 紅蓮は玄関に置いてあるヘルメットを昌浩に渡した。
 靴箱の上に放られていたバイクのキーを取って、紅蓮は玄関から出る。
 ガレージを開けて、バイクを出した。
「昌浩っ。騰蛇っ。」
 皮のジャケットを太陰が持ってきた。
「これ、露樹が着なさいって。それから私もついて行くように晴明に言われたわ。」
 相当の緊急性があるのがわかった。が、紅蓮は別のことを尋ねる。こちらもまた重要だ。
「待て。この家が手薄になる。」
「大丈夫。六合達を引き返させたから。それを待って青龍か六合かに車を出させるって。」
 言って太陰は隠形した。空から追うのだ。
「承知した。」







「・・・・・――――っ。」
 どんと、いう音に彰子は覚醒した。

 ドンッ
 バリンッ

 飛び起きようと思ったが、
 彰子は目を見開いた。体が動かない。
 ガチガチになって、四肢が硬直していた。
 金縛りか、
 それとも自分の体が萎縮しているためか。
 ボトッと頭の横になにか落ちた。
 彰子はぎくりとした。
 悪寒からそれは良くないものだと、経験からわかる。
 うぞうぞと数え切れない手足が見えた。
 横目に見やる。
 化け物の幼虫がそこにいた。
「(動いてっ。)」
 逃げなくてはと、彰子はベットの中でもがいた。
 けれど、体はまるで起き上がり方を忘れたように動かない。
 目だけは暗闇に慣れて、この部屋の異常さを彰子の感覚に訴える。
 窓の外が黒い。
 黒いのは闇のせいではなかった。
 たくさんの虫が貼りついてざわざわとうねり蠢く。
 部屋は軋んで、
 内なる結界が破れるのを期待していた。
 そして、入り込んだ化け物は、一口目になれることに歓喜する。







 紅蓮のバイクが完全に止まる前に飛び降りた。
 ヘルメットを外し、植え込みに乗せる。
 首から下げていた数珠を、手に取った。
「太陰。屋根まで俺を飛ばして。」
 隠形していても傍にいるのはわかる。応答があった。
「わかったわ。」
 裾を翻して、太陰は昌浩の体を風に乗せた。
 上空に上がり、昌浩は印を切った。術を叩きつける。
「オンキリキリバザラウンハッタ!。」
 藤原の家に群がる黒く埋めく物が、一閃とともに、一斉に弾き飛ばされた。
「万魔拱服!。」
 瞬間、虫達は灰と化した。




 キイイッと突然、化け物の幼虫がうめき声を上げた。
 閃光が部屋の中を照らす。
 窓にひしめいていた虫が全て消え失せて、外が見えた。
「昌浩っ。」
 彰子は名を呼んで、その勢いで金縛りを解く。
 ベットから転げ落ちるように化け物から逃れ、窓辺に急ぐ。
 バチンと鍵を開け、窓を開放した。
「彰子っ。」
 声が跳び込んできた。
 続いて、屋根に飛び降りる音。
 伝って、彰子の手を確かに握る。
 逃れることは許さないと、部屋の中からコールタールのダマのようなものが襲いかかった。
「禁っ!!」
 コールタールは術の壁に弾き飛ばされた。
「ナウマクサンマンダ、センダマカロシャダ、タラタカン!。」
 後ろのポケットから符を引き抜いて、叫んだ。
 今、受けている援護は太陰。
 この場で一番効果的な術を化け物に叩きつける。
 符は風の刃に変化した。
 声も上げさせない。
 化け物はずたずたに引き裂かれた。








[05/5/12]

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−Comment−

 まだまだ続きます。


「儚き運命をひるがえせ」・・・あ、さだめ、というルビが・・。いろいろに読める日本語。
紅蓮がキーポイントなんだろうな、ほんと。楽しみです。

黒狐は、情状酌量の余地の無い奴なので、無様にしてほしいのが正直なところだったりします・・・(-_-);。ほんと雑鬼ども、踏んだれって感じです。