※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※A fortune-teller〜五夜〜昌浩は彰子を胸元に引き寄せて辺りを伺った。 化け物は消えたが、強烈な残滓を感じたからだ。 穢れ、と言ってもよかった。どろどろとした怨念がまるでガムのように彰子の部屋のあちこちに付着している。 紅蓮が物の怪に変化して屋根を伝ってくる。昌浩の肩に飛び乗った。 「・・・・辺りに怪しい奴はひとまずはいない。」 物の怪は昌浩に耳打った。 「うん・・そうなんだけど・・。穢れがこうまですごいのはどうしてだろう。」 緊張した面持ちで呟いた。 彰子へだけの呪いなら、ここまで練られた穢れは生じないと思うのだ。 「わからん。これだけではなんとも言えんな。」 物の怪は昌浩の思うところを理解して、呟く。 「・・・・。」 昌浩の鋭い眼差し。 普段学校で見せない裏の顔。 彰子はじっと見つめる。 「そうだね。ひとまず・・大丈夫そう・・かな。」 もう一度気配を伺って、ほうと昌浩はそこでやっと肩の力を抜いた。 「・・・・・。」 握られている昌浩の手が安堵で緩む。 彰子は逆に強く握り返した。 それに気づいて、昌浩は彰子に視線を戻した。 ばっちり視線が合ってしまった。 「え・・あ・・。」 昌浩はうろたえる。 彰子は大きな目で自分を見上げて、揺るがない。 その眼差しは、陰陽師である自分を心配している眼で。 物の怪はあーあとあさっての方を向いた。自分でとりなせよとひょんと尻尾を振る。 「え・・っと。」 怖かったとか不安にしている目だったら、励ましようがあるけれど、これは不味い。 彰子は学園でも指折りの可憐さなのだ。 そんな目で見られたら、こちらは穏やかではいられない。 しかも夜。 「(不味いって。)」 とりあえず自分から引き離すべく昌浩は彰子の肩をつかんだ。 「・・・とりあえずっ。」 なにがとりあえずだーっと思いながら。 「・・怪我は?。」 「・・ううん無い。大丈夫。」 「・・・・・。」 あ、これは嘘だなと思った。怪我が無いのは本当だろうが、大丈夫じゃない。 昌浩は彰子の部屋に窓から入った。 そしてあちこちに噴射されている穢れを祓って行く。 ドアは特に念入りにかけられていて、粘着状になっていた。 印を結んで、灰にする。 ドンッと強く叩く音がした。 声が戻ってくる。 「彰子っ。」 「あ、私出る。」 「わかった。でもドアは俺が開けるから。」 穢れが落ち切っていないノブをつかんで昌浩はドアを引き開けた。 道長がいた。 「彰子。」 その肩をつかんだ。 「平気。昌浩が来てくれたから。」 彰子は安心させるように笑顔で応える。 道長は昌浩の方を振り返った。 「昌浩。これはいったい。」 「まだよくわかりません。おじさん、彰子をお願いします。元凶を探してきます。」 「わかった。」 昌浩はとてとてと階段を降りる。心配していた穢れは彰子の部屋だけのようで、その他の場所はおそらく最初の雷撃で吹っ飛ばせたのだろう。 下の階には倫子さんがいて、その周りに弟妹たちが引っ付いていた。 辺りを伺ってすぐに残滓が一番強い場所に気づく。 「こんばんは。・・・書斎・・見せてもらいますね。」 昌浩は書斎のドアを開いた。 机の上の書類が盛大に床に落ちて広がっていた。 その中に炭化した封筒が一つだけあった。 「あれだね。」 「おー。」 物の怪は事も無げに応答する。 けれど内心恐れ入っていた。昌浩を見上げた。 他の書類は燃え移るどころか焦げてもいない。それが呪文の効果である落雷であることを裏付ける。 対象とした物以外にはなんの影響を及ぼさない。それが呪の炎。 もちろんそうなるためには、相当の腕がいる。 「(後継者だな。まちがいなく。)」 昌浩にはあんまりその自覚が無い。 廊下の明かりだけでは足りないので、昌浩は書斎の明かりをつけた。 燃え尽きた封筒の中に、銀色に光るものが覗いた。 近寄って昌浩は穢れを払う呪いを唱えると、その燃え滓を寄り分ける。 光るものを拾い上げた。 指輪だった。 石の部分は燃えてしまったけれど、プラチナの部分は熱に強く、まだ残っていた。 「呪詛だ。」 指輪に呪詛がこびり付いていた。 「・・・・。」 呪詛を返すことは出来るだけしたくない。指輪の持ち主を探して、やめさせなければならない。 「・・・昌浩。」 道長がやってきた。 「晴明が電話をくれた。車がもうすぐこちらにつくそうだ。」 「わかりました。あの、おじさん。この指輪、おばさんのですか?。」 「・・・そんなのは持っていなかったように思うが。・・・いや、持っていないな。」 「サイズは・・。」 「それは倫子のにしては少し小さいな。」 「彰子には少し大きいような気もします。」 「・・・・・。」 ・・・・物の怪は目を半分にした。 なんでわかるんだと思うし、だからそう言う台詞を父親の前でさらっと言うなと突っ込みたくもなる・・・つーかあとで突っ込もう。 「封筒に入れて、投函されていたようです。」 燃え滓を見てもここの住所は書かれていないのがわかった。 「家の方に持って入られてしまうと、結界が効きません。」 「そうか、そうだったな。気をつける。」 「たぶん彰子にだと思います。今の騒動は彰子に向けられていたので。それに気になることもあるし。」 「彰子から聞いた。つけられている話しだろう。」 「はい。」 「それはこちらで調べよう。」 「お願いします。術の出所はこちらで調べます。これ預かってもいいですか?。現場保持にしたところで、警察は動かないと思いますし。」 「ああ。そうだな。任せる。」 昌浩は数珠を入れておいた布に指輪を包み、数珠をその上から巻きつける。 道長は落ちた書類の束を再び机の上に積み上げる。 昌浩は近くにあった、ちりとりと手箒で灰を集めて、ゴミ袋に入れて持ち返ることにする。 ひょいっと彰子が顔を覗かせた。 「六合が来てくれたから。私行くね。」 「あ、うん。」 振り返って応えると、道長は昌浩を促した。 「昌浩も一緒に帰りなさい。私ももう休む。」 「・・・はい。わかりました。」 昌浩は一礼する。 玄関に六合がいて、彰子の荷物を持っていた。 物の怪はひょいっと昌浩の肩から降りて玄関の向こうに消えた。 門に辿りつくとバイクの傍に、誰も見ていないところで変化を解いた紅蓮が立っていた。 「ありがとう。紅蓮。六合・・・太陰も。」 見えないけれど、太陰が笑っているのがわかった。 彰子は車に乗った。昌浩もバイクの後ろではなく車だ。ヘルメットだけ持って乗る。 六合は後方確認して、紅蓮に軽く手を振ると、車を発進させた。 安倍の家に上がって彰子はいつもの部屋に入った。 昌浩は部屋の明かりをつけて、暖房をいれる。 「ありがとう。昌浩。」 「どういたしまして。」 いつもとかわりなく、昌浩は応えてくれる。 彰子もそうしようと思った。 でも、今日は、心にかかることが多すぎて、しょげ切ってしまっていたから、 どうしてもくじけてしまう。 笑顔が作れなくて、ややあってうつむいて、 くいっと昌浩の袖を引いた。 彰子の手からドサッと学生カバンが落ちる。 彼の肩口に額を付けた。 「彰子!?。」 昌浩はわたわたと戸惑う。 でも落胆しているみたいだから放せない。 昌浩はそっとその両肩をつかむ。 「・・・怖かった?。」 こくんと頷いた。 「おじさん達の前で、ずっと元気にしていることはないと思うよ。」 けれど首を横に振った。 「・・・・じゃあ、俺の前でいる時は。」 「・・・・・・・・・・ん。」 彰子は昌浩の胸元の服をつかんで、くぐもった小さな声で呟く。 「・・・・本当は、ごめんなさいって言いたくなるの。・・・・でも、ごめんなさいは違う、とも思う。」 「・・・・・うん。わかるよ。」 とんと彰子の頭に昌浩は自分の頭を凭れさせる。 「・・・・・・。」 助けてくれる、守ってくれる。でもそれじゃダメだと、・・・一人でも頑張らなきゃと思う。 でもそれを実行に移すことは危険で逆効果だった。 出来るだけ自分も頑張るということで、協力した方が解決が早くなると思う。 「助けてくれて、ありがとう。」 この言葉に慣れて無責任な委ねになったら、ごめんなさいだ。 「・・・ん。」 ぼたぼたと泣く彰子の後頭部を、昌浩はそっと撫でた。 襖の向こう側で、立ち往生している十二神将が二人。騰蛇は布団を抱えたまま。六合はカバーやらシーツやら持っていた。 紅蓮は目の前にいる六合に向かって言う。 「一、昌浩がいいなと思っている。ニ、あんなふうに感情を吐露して欲しいなとか思っている。」 そこに勾陣が現れて、指折り数える。 「三、奥手とか言っているけれど、案外さらっとシーンを切りぬける。」 「四、抱き締めたいなぁ、とか。」 「五、会いに行きたいなぁ・・・・そう思うんだったらもっと彼女に会いに行け。」 六合の気持ちを勝手に決めて、勾陣はそう締めくくった。 「・・・・・・勾陣。呪符の残りはあと何枚だ。」 槍玉に挙げられていた六合は話を変える。 「あと3枚だ。それから晴明におまえの分もするように言われた。明日は普通に仕事に出てくれとさ。」 「週末だし、そのまま行くんだな。」 「・・・・・。」 六合は表情が乏しいながらも二人のお節介に少々あきれ顔だ。 その話題から離れろと言わんばかりに、襖を指差した。 「勾陣、開けてもらえないか。」 くくっと笑いながら承知して、勾陣は襖をノックした。 「彰子嬢。布団を持ってきた。」 彰子がパタパタとやってきて戸を開けた。 ごしごしと目許を拭っていたけれど、元気そうだった。 昌浩が後ろからついてくる。 そっと肩に手を置いて彰子に呟いた。 「じゃ、俺も休むから。あ、天一が来て傍にいてくれるから。」 「あ・・うん。彼女がいてくれると嬉しい。」 朝目覚めた時に、彼女の眼差しと綺麗な髪はすごく目覚めを優しいものにしてくれるから。 目を開けてとてもグロテスクなものを見たあとだから、今日の朝が来た時はなおさら、そうであって欲しかった。 「おやすみ。」 「おやすみなさい。」 昌浩は肩から手を離して、その手を軽く振った。 [05/6/18] #小路Novelに戻る# #Back# #Next# −Comment− みーちゃんが一歩踏み込んでくれないと、日向葵に言われたり〜。 もう片方の同人サイトで鍵付きBLを書いているしな。そこには一線をあっさり踏み越える奴がいるので。 だがしかしっっ・・・昌浩と彰子は、お互い一歩引いているからニ歩分遠いのよーっ。 騰蛇と勾陣なら書けます。騰蛇は半歩後ろに引いているだけで、勾陣は恋愛できる一線の上にいるから、どちらかが屈めばいいんですっ。(ってなに書いてるんだばさ。) ・・・とあるアニメの主人公と同じ14才とは思えないなー。 「滝波」 玄武が太陰を一生懸命押さえようとしているのが可愛かった。 台所風景がいいです。 「ザビ3」 彰子ってば・・・ひるむどころか、諌めるんですかっ。 |