※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



A fortune-teller

〜六時〜





 真冬の板張りの稽古場は、それはもうしんしんと冷えていた。
 昌浩は充分な準備運動して、合気道の型をこなす。
 晴明が道場に入ってきた。
「はやいの。」
 ほっほと声をかける。
「じいさま。・・おはようございます。」
 昌浩は振り返った。
 動きを止めると、どっと汗が吹き出てくる。さすがに40分も気を入れて動いているので、これだけ寒くても汗をかく。
「ああ、続けてかまわんぞ。」
「わかりました。」
 昌浩は型の続きをする。
 晴明は、昌浩の型を注視しながら話し出す。
「・・・・昨夜の藤原の家の呪詛。」
「・・・・。」
「どういうものか調べたか?。」
「・・・・。」
 それは一応、寝る前に、・・・一応。
「方法は・・・よくわかりませんが、すごく簡単で、不完全で。」
 六壬式盤は不得手で、確かな結果は得られなかった。
 内心とほほと思いながら、答える。
「目的なら、・・・・恐怖ですよね。」
「そうじゃな。」
 昌浩の解答に、片目をすがめた。
「さて呪詛とは術者がいて仕掛けられるもの。媒体だけで出来るものではない。」
「術者がいると思っています。」
「わかっているならよろしい。ただの怨念じゃないとわかっておるならな。」
 ほっほっと笑って晴明は戸口に向かう。
「・・・じいさま。そんなことわざわざ俺に言いにくるってことは、今日の俺、そんなに忙しいんですか?。」
 昌浩はそんな晴明の背に半眼を向ける。
「ほっほ。用心は怠らないことじゃな。」
 晴明は人の悪い笑みを浮かべる。
「あの、俺、普通に学校があるんですけど。」
「学校はもちろん普通に行かねばいかんなぁ。」
「・・・・・・。」
 行かなかったら、今晩、投げられるのだろう。
 晴明は母屋に消える。
「絶対なんとかしてやる。」
 ぶつっと呟いて、
 ・・・やおら昌浩は真剣な表情に戻った。
 性急になる感情を押さえようと、息を吐く。
 両拳を握り、目を閉じて、正眼の構えを取る。
 夜遅かったけれど、朝、早くに目が覚めて、すぐに稽古を始めた。
 このあと禊もする。
 陰陽師としての力を発揮する条件を揃えて行く。
「・・・・。」
 彰子に植えつけようとしたのは恐怖だ。
 恐怖を心に巣食わせようとした呪詛だった。
 昌浩は目を開ける。
「させるかっ。」
 絶対に。





「おはよう昌浩。」
「おはよ。彰子。」
 すっかり身支度を整えた彰子が洗面所の昌浩に挨拶する。
「・・・・寝れた?。」
 少し心配げに昌浩は尋ねる。
「うん。ちゃんと寝たわ。」
 いつも通りの笑顔で、そして、いつも通り、彰子は昌浩の背後に立つ。
 頭から水を被ったのだと思う。
 昌浩の髪は肩より少し長く、手入れしないと絡む。
 いつも通りその長い髪に苦戦していて、さっきから洗面所を動いていない。
 放っておくと、途中で面倒くさがって適当に結わいたりするので、彰子的には、それは少し我慢できない。
 彰子はクスッと鏡の向こうの昌浩に笑って、彼の手から梳き櫛を取る。
「・・・ありがとう。」
「どういたしまして。」
 安倍の家に彰子が来てくれると、時々こうなる。
「彰子は俺より長いのに、なんで早く用意出来るんだろ。」
「寝る前の手入れの時間が違うの。」
「おわっ。」
 くいっと引っ張られた。





 後ろ髪を一本にまとめるのに、卸したての黒い髪ゴム全部の長さを使って、がっちり結ばれてしまった。
 うなじが鬱陶しくなくて、動きやすいのはわかっているが、さすがに自分ではできない。
 ちらりと後ろをついてくる彰子を見やると、彼女は満足げだった。
 台所に入ると六合がいて露樹を手伝っていた。
「おはようございます。」
 中の二人に声を掛けて、昌浩は六合に尋ねる。
「ねー六合。今日、六合はじいさまと一緒なんだよね。」
「ああ。」
「何時頃家を出るつもりでいる?。」
「11時頃だな。客先に直行するつもりだ。」
「勾陣と天后は?。」
「全部で6件だから、午前中に済ませるだろう。」
「紅蓮は?。」
「・・・おまえに一日付くように晴明に言われていた。」
「え、あ、そうなの。・・・わかった。」
 意表を突かれて、でも、やっぱりこれは何かありそうだなーと思う。
 彰子の手前、表に出さないようにする。
 十二神将達の同行を確認して、昌浩は牛乳パックを取ってマグカップに注ぐ。
「おはよう。紅蓮。」
 彰子が廊下で声を掛けた。
 洗い上がった洗濯物が入っている洗濯籠を持って紅蓮がやってくる。
「おはよう。彰子。眠れたか?。」
「うん。大丈夫よ。天一もいてくれたし。」
「ならいいけどな・・。おはよう、昌浩。」
「おはよう。あ、六合から聞いたから。よろしくお願いします。」
「ああ。あとでな。」
 言って、台所を横切っていった。
「彰子も飲む?。」
「うん。もらう。」
 もう一つのマグカップを取り出して、牛乳を注ぎ入れる。
 ホッとミルクにするために電子レンジに入れた。






[05/7/20]

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−Comment−


 昌浩の髪を、彰子に結んで欲しかったので・・・・。


 如月はおめでたになりました〜。
 うーん、ドラマで言う吐き気は、絶対に大げさだと思う。
 吐かないよ。
 そこまで気持ち悪くならないよ。
 体質差もあるだろうけど。
 仕事もフツー、家事もフツー。でもさすがに自転車はやめた。
 更新は止まるかな?、でもたぶんいつもどおりゆっくり更新だと思います。