※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※



A fortune-teller

〜虹〜





 昌浩は道具入れから、グローブを取り出す。指先の無い皮製の、ライダー用のグローブだ。
 特注物で、甲側に薄い強化プラスチックが埋め込まれている。
 弾丸が貫かないまでの強度は薄さのため無いが、咄嗟に身を庇っても甲を傷つけないで済む。
 手というのは何をするのにも大事で、手だれならば手首や指先を落としにかかってくる。
 相手には時代錯誤な者達が当然いるので、こういったものが必要になってくるそうだ。
 昌浩は、ぎゅっと指を通して、両手に装着する。
 ニ、三回拳を握って手に馴染ませた。
「えーと、符と数珠・・。」
 制服のジャケットを取って内ポケットに符を突っ込む。
 数珠は・・・・。
 これが一番困る。
 手首に収まる数珠ではなく、長い方の数珠なのだ。
 やっぱ首かなと思いながら、インナーシャツを白から黒に着替える。
 少し襟が高いので首から下げても一応隠れる。
「(学校内にいる時はカバンに入れとこ。)」
 Yシャツを着込んでジャケットを着た。
 ダッフルコートを更に来て、グローブの上から手袋をした。
 マフラーとカバンを持って廊下に出る。
 台所に物の怪と彰子がいて、もう準備を済ませていた。
「少し早いけど、行く?。」
「うん。」
 かちゃこんと済ませた湯呑茶碗を彰子はささっと洗って拭いて、物の怪が指差している棚に片付ける。
 カバンを取って昌浩の後ろを追い掛けた。





 改札から出て、南西の空に垂れ込めている雲に、物の怪は眉をしかめた。
「向こうでは降ってるな。傘持ってきたか?。」
「置き傘ならしてるけど。」
「俺も。・・・東の空は晴れてるけど、崩れそう?。」
 天気予報は確か曇りだった。
「雲は西から来るんだ。・・風が弱いから、すぐには降らないだろうが、ちょっと降るかもな。」
「学校まで、もてばいいよ。」
 そう言って、昌浩は彰子の手を取って、引いた。
「俺は濡れたくない。」
「・・・降ってきたら、カバンに入ったらいいよ。」
 肩に乗りっぱなしの物の怪に昌浩はそういう言い草をした。
「入るかっ。」
 ぎゃんぎゃんと言い返す。
 とてもじゃないが同じ紅蓮とは思えない。だがしかし、同一なのだ。
「・・・・・・昌浩。」
 感触に、真剣な声で割って入って、彰子は昌浩を呼んだ。
 手を引かれた時に気がついた。
「・・・・昌浩。今日、忙しい?。」
「え、あ、うん。かもしれないだけど。・・どうして?。」
 首を傾げられてしまったので、彰子は握られている手を持ち上げた。
「・・・・堅い。」
 彰子は軽くねめあげるようにぼそっと呟いた。
「・・・うーん。的確だな彰子。」
 物の怪は昌浩の肩の上で感心する。
 一方昌浩は、ばつの悪い顔をした。
「あー・・うん。」
「・・・大丈夫?。昌浩。昨日の今日で、疲れてない?。」
「大丈夫、大丈夫。普段ちゃんと寝てるし。こんなに仰々しいの滅多にないから。」
「仰々しいの?。」
 昌浩の失言続きに、彰子は確実に突っ込んでくる。
「あ・・うん。じいさまは、学校は普通に行けると言っていたけどね。」
「・・・・・。」
「ま、どうなってもなんとかしないとな。それが現代の陰陽師だ。」
 物の怪はしっかりせいとばかりに昌浩の背中を尻尾で叩く。
「無理しないでね。私も、今日放課後、家の人に来てもらってもいいし。」
「・・・・大丈夫だよ。」
「・・・・。」
 昌浩が笑うので、彰子はそれ以上、言えなかった。ただ指先を絡めて握り締める。





 駅から学校にほどなくして着く。
 いつもより早い。
 部活動の朝練のため登校している生徒達に混ざる。
「・・・・・虹・・。」
 彰子は虹がかかってると思った。
 昇降口まで行って、彰子は校舎の向こうの空に首を傾げる。
 東の空の陽射しのせいか、朝虹が西の空にかかっていた。
 珍しいと思ったが、それが凝視に変わる。
「昌浩。」
「ん?。なに?。」
「向こうの空。『割れて』ない?。」
「・・・・・。」
 昌浩は彰子が差す方向を見上げた。
「・・虹。」
「・・・・欠けているな。あれは。」
 建物で見えないわけではなく、虹がかかればそこに延長する空に、虹がかかりきらない。
「・・・・。」
 続いて明かに異変を告げるように、境目が太鼓のように震動して張った。
 昌浩と物の怪が目を見張る。
「・・・・結界・・・?。」
 そんなものは無かったはずだが。
「さっそくかな・・・・。・・・一応、見ておこうか。」
「・・そうだな。」
 向こうにあるのは一昨日から調査している大学だ。
「・・大学に行くの?。」
「うん。」
 昌浩は、コートとマフラーを外す。
「彰子、ごめん。コートとカバン、教室に持ってってくれる?。」
「あ、うん。」
 昌浩は、彰子に手渡すと、踵を返して駆け出した。
 その肩の上で物の怪は、器用にバランスを取る。
「・・・・。」
 見送って、彰子はやおら溜息をついた。
 たいした事なかったら、気づかなければよかったな、と、思った。
 でも、この目は本当によく見えるので、見過さない。
 そして、言わなかったら、もっと大変なことになるかもしれない。
 たいした事じゃなければそれに越したことはないのだ。
 昌浩の手間が増えただけで。
 彰子は昌浩のそれなりに重たいショルダーを肩にかけて、腕にコートとマフラーを持った。
 昇降口を上がる時、何人かの生徒が目を見張ったが、気にしない。
「(・・・・・昌浩に何をしてあげられるだろう。)」
 それがいつも問題で、いつも考えていることだった。







[05/8/31]

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−Comment−


グローブっていいですよね〜。あと、制服。
やっぱ、学生の戦闘服は制服でなくっちゃ〜。