※現代パラレル物です。それを了承する方、読んでくださいです。如月深雪拝※A fortune-teller〜八足〜天后の移動の術で、天后と勾陣はターゲットを回っていた。 雑居ビルに入ったコンビニの前で勾陣と天后は落ち合う。 勾陣は見張りで、天后は隠形してビル4階の一室に入り、孤独の箱の符を無効にしてきた。 「あと四件ね。」 パヒュームを片手に天后が応えた。 「 7時半か。六合が出勤するまでには片が付くな。」 勾陣は腕時計を見る。 その仕草に半ば感心した風情で天后は呟いた。 「そうしてると貴女達、本当に人間社会に溶け込むわ。」 「六合や騰蛇ほどじゃないさ。」 一緒にするなと言うように、仄かに笑い勾陣は肩を竦めた。 天后は拗ねたような仕草で呟く。 「なんかどこかで失敗しそうよ。私は。」 人間のフリ、と言って、ロングスカートを閃かせて一回転した。 仕草が可愛らしくて、出勤途中の人目を引く。 「・・・・。まあ、あんまり出歩かない方がいいかもな。」 フリが下手だからじゃなくて、可愛すぎてかっさらわれそうだ。 「・・・。」 否、 簡単にかっさらわれもしないし、ついても行かない性分だが、かっさらえそうと思った方が大変気の毒なことになりそうだ。 「青龍も、妙に馴染んでるしな。」 「馴染んでるの?。」 「浮いてはいないな。」 愛想は無いわ冷たいわ辛辣だわだが、あれはあれでその他社員の信頼を得ているらしい。 リストの表書きをひらっと見て、勾陣は天后を促す。 「・・・・さて、次は、一軒家だな。ここの住所に行こう。」 「わかったわ。」 そっと人の流れの中に溶け込む。 歩きながら空間を歪めて、その場から消えるのだ。 移動する。 「・・・。」 無難な物陰をすぐに見つけて、二人は目的地に降り立った。 「・・・・っ。」 勾陣も天后も息を飲んだ。 愕然とする。 辿りついた場所は丘陵地帯の高級住宅地で、 目の前の屋敷から尋常でない妖気が漂っているのがわかったからだ。 「これは・・。」 この妖気には二人とも覚えがあった。 「昌浩が持って帰ってきた指輪の呪詛。」 勾陣はうめいた。 彰子の呪詛の件と、孤独の箱がどうして結びつくのか。 天后は持っていた名簿をばたばたとめくった。孤独の箱の購入者リストの詳細なデータのページだ。 購入者の女の姓名住所の他に父母と弟の家族構成やその学歴、仕事の履歴が書かれている。 「勾陣。」 「?。」 呼ばれて、天后の手元を見る。 「これ、今、昌浩が扱ってる霊が散らばってる大学よね。」 女の現職は大学講師とあった。 「・・・。取り込んだか。」 孤独の箱の呪いが、霊達を。 「・・・たぶん。」 天后は頷く。 「呪詛を執り行ったか?。面識はなさそうだが。」 「・・・大学の理事の娘よ。」 「・・彰子嬢と同じ立場か。」 「・・。」 でも彰子はまだ中学一年生でそれほど社交界に縁があるわけじゃない。 歳も20才も違う。 孤独の箱と、彰子の呪詛の件の他に、昌浩の大学の地鎮が合わさってしまった。 「なんにせよ、無効化しなくてはならないから・・・・大学に向かおうか。」 「ええ。」 天后はすぐさま、大学への路を開いた。 昌浩はバスに乗った。バスはスクールバスではなく、普通の路線バスだ。 出した財布をしまう前に、小銭入れから指輪を出した。 「・・・持ってきたのか?。」 肩の上で物の怪が目を丸くした。 「じいさまが、今日は忙しいぞーってわざわざ教えてくれたからね。これに関することもあるんじゃないかと思って。」 そう言ってズボンのポケットにしまう。 バスはほどなくして、大学前に着いた。 昌浩は降車する。 「・・・・。」 降車してすぐに、緊張した。 「・・・・。変だね。」 静かだった。 あれほどいるつるべおとしがの気配が無いのだ。 「・・・・。」 神経を張り巡らせた状態で、昌浩と物の怪は大学の正門を通り抜けた。 昌浩は印を結んだ。そして自らに施す。 「隠形の術か。」 「うん。」 人の目には見えるだろうが、ある一定の妖怪から身を隠せるのと、何より防犯カメラに映らないですむ。 このご時世、この術は妖怪から身を守るより、あらぬ疑いをかけられないようカメラに姿を映させない術として重要になっている。 「・・・・。」 昌浩は慎重に歩みを進めて行く。 大学生の姿は朝が早すぎて無い。掃除の人と職員とすれ違った。 中学生がいるのに振り向かない。視界には入ってはいるだろうが問題にされない・・・・隠形の術の効果だ。 学生棟を抜けて、広場に向かった。 眼の端に、映ったものがあった。 「っ!。」 昌浩はハッとして、瞠目した。 振り返る。 そして、・・・。愕然とする。 掲示板に張りついていたのは、デスマスクだった。 つるべおとしは死霊。 「・・・。」 陰陽師の学習の中で知っていた。 昌浩は駆け出した。 広場に出る。 デスマスクが一面石畳に浮き出ていた。 「どうして・・こんな。・・・。」 つるべおとし達が生前の姿を取り戻し、恐怖におののいたまま凍り付いていた。 「・・・っ。」 物の怪は、気配に職員棟を見上げた。 「・・・・ここの霊達を脅かしているものがあるってことさ。」 物の怪は昌浩の肩から降りて、その周囲に弧を描いて結界を張った。 「え・・っ。」 瞬間ばらばらばらっと、毛虫が降ってくる。 「っ。」 「昌浩、吹き飛ばせ。」 冷酷に物の怪が呟く。 昌浩は首から数珠をはずし、叫んだ。 「臨める兵闘う者、皆陣列れて前に在り!」 指先を剣印に変えて振り下ろす。 閃光とともに、黒焦げになった毛虫たちが地に落ちる。。 「・・・。」 ぶすぶすと焦げてやがて消える。 「・・・毛虫・・。」 昌浩はうめいた。 まさか。 「・・・孤独の箱がここに?。」 「確かに食うには困らないほどの霊がいるな。食いすぎて、臨界点に来たな。おそらく。」 「・・・っ。」 再びだ。 毛虫が降ってくる。 昌浩はそれを結界を張って逃れる。 毛虫たちは結界に阻まれる。けれどしぶとく、貼りついた。 「・・っ。蜘蛛。」 毛虫は形状を変え、蜘蛛へと変化する。 そして後方から粘着質のものが飛んできた。 引っ張られる・・結界を剥ごうというのか。 その粘着質のものは地面にも張りついて、デスマスクたちを剥ぎ取って行く。 振り返った。 「・・っ。」 目を剥いて、眼前の妖を敵とみなす。 身の丈5mもある蜘蛛だった。 蜘蛛は剥ぎ取ったデスマスクを口に運んでむしゃりむしゃり食べていく。 「・・この・・。」 額に冷たいものが伝った。 「・・・。」 物の怪は足元でぼやいた。 「・・・・なんつーか、彰子が気づかなかったら、どうなってたろうなって事態だな。」 そして昌浩と蜘蛛との間に割って入る。 「もっくん。」 「・・・もっくん言うな。」 物の怪はひょんと尻尾を振った。 「孤独の箱を見つけ出して壊せ。・・ここは俺に任せろ。」 「・・・紅蓮。」 「多少のボヤより、これを野放しにしておく方が不味いだろ。・・いいから行け。」 「・・・・。」 昌浩は頷いた。踵を返して駆け出した。 「・・・。」 物の怪は物の怪のままで相対していた。 神将達の通力は現代においてかなり制御されている。 物の怪の言うように多少のボヤより、物の怪の方が心配だった。 「・・・。」 でも今は任せるしかなかった。 振りきって、昌浩は口の中で呪を唱える。 「ノウボウアラタンノウ、タラヤアヤサラバラタサタナン・・・」 孤独の箱を探すため、気を凝らした。 天后と勾陣は妖気を追いかけて、とある一室にたどりつき、顕現した。 「・・・っ。」 毛虫がばら撒かれたように、床や壁に張りついていた。 おぞましいそれらを祓うため、勾陣は手の中で電光を散らし、一気に放出させた。 ばらばらばらと壁に張りついていた毛虫は剥がれ落ち、床に落ちて塵と化す。 「気色の悪い・・。」 勾陣は吐き捨てる。 「・・・・。」 天后は辺りを伺った。 ただならぬ妖気が辺りには満ちていた。 だが・・・彰子の呪詛の妖気ではなかった。 似てはいる・・・だが、それではない。 こちらの妖気はもっと濃くて、欲を持った者がひとたび望めばどんな妖にでもなるようなエネルギーに満ちたものだった。 窓の外を見ると、やはり大学だった。 二人は孤独の箱リストに載っていた女を探すため辺りを伺った。 「!。」 机を倒すような激しい物音が隣りの部屋からした。 二人は振り返る。 勾陣は窓を開け、戸を乗り越えベランダに降りた。 「・・っ。」 女がベランダに倒れていた。 「おいっ。」 声をかけても返事が無かった。 口元に掌を当てる。生きている。気絶しているだけだった。 勾陣は辺りを伺った。 その時だった。 ガシャンと隣りの部屋の窓を突き破ったものがあった。 剛毛の生えた長い獣の足だった。 「・・・っ。勾陣大丈夫っ。」 「!っ。出るな天后っ。」 「え。」 振り返る。 天后はこちらを振り返ってしまった。 後ろに気づいていない。 その手を引いた。 天后を背に隠す。 瞬間、 2本目の足に、勾陣は腹をえぐられた。 「勾陣っ。」 天后は、叫んだ。 勾陣は手を翳して電光を散らした。 痺れて、獣はその足を引かせた。 勾陣はベランダの手摺に体を打ちつけるようにして倒れ、天后はその体を抱きとめる。 そして、水の術を持って、結界を張った。 「ごめんなさいっ。ごめんな・・さい。勾陣っ。」 「おまえのせい・・じゃない。」 勾陣は右の腹を押さえながら呟く。 指の間から血が溢れる。 「・・・・な・・・・ぐっ。」 がくんと膝を着いた。 勾陣は慄然とした。 これは貧血のせいじゃない。 「・・・。」 毒だ。 蟲の・・。 気づいたせいか、肌が泡立ちを覚えた。 「・・・く・・っ。」 「勾陣っ。」 天后は勾陣の手を取った。 「・・っ。」 酷く冷たかった。体温が下がっている。 天后は蒼白になった。 「一度。戻りましょう。」 「待て、放っておくわけに行かない。」 「貴女の方が、放っておける状態じゃないわっ。」 「大学の・・・関係無い人が巻き込まれる。」 勾陣は天后を見上げた。 立ち上がろうとする。 天后は首を横に振った。 「・・っ。」 がっしゃんっと背後から盛大な音が鳴った。反対側の窓が割れる。 もう一体がいて、挟まれたかと思った。振り向く。 「払除!」 毛虫達が割れた窓から吹き飛ばされて、消え失せた。 「・・っ。」 その声が、誰だかわかった。天后は顔を上げて、その名を呼んだ。 「昌浩っ。」 「・・っ。」 がたがたと机を動かす音が響いて、昌浩が、窓から顔を覗かした。 「天后・・っ。勾陣っ。・・・。」 そして・・。 「・・・っ。」 向こうに見えるのは蜘蛛の化け物だった。昌浩は目を剥いた。まだいたのか。 割れた窓を開けて、昌浩はベランダに降りた。 胸のポケットから傷を癒す符を引き抜く。 それを呪いの光に変えて、勾陣に当てた。 応急処置だ。完全じゃない。 「勾陣。異界を経由して、家に。・・まだじいさまがいる。」 「大丈夫だ。」 「大丈夫じゃないっ。戻れっ。」 昌浩は一括する。 そして、背を向けて印を結ぶ。 「アラバティチリティチリタハティ。」 天后の結界に合わせ、その領域を強化する。 部屋の外に出ないように、蜘蛛を取り囲むように。 その時だった。 気絶していた女がうめく。 うめいて、目を開ける。 「・・っ。」 人がいると思って、突然起き上がって、昌浩の制服の裾をつかんだ。 「助けて。」 「・・・っ。」 「助けて助けて助けて。」 狂ったように喚く。 「放して下さいっ。」 これでは身動きが取れない。 「助けて、助けてってば。」 女は立ち上がる事が出来ないのか、でも裾をつかんだ手は堅かった。 「昌浩。孤独の箱の主だ。」 「・・それはどこに。」 「たぶん・・・その部屋だ。」 「・・・。」 昌浩は目の前の2本足に目を向けた。 その瞬間3本目の足が窓を突き破る。 「・・・ひいっ。」 喚くだけ喚いて、女は昌浩を盾にした。 「このっ。」 天后は昌浩から女を引き剥がそうとする。これでは昌浩が術を使えない。 隣りの部屋の窓枠は軋み、ばきっと折れた。 「・・・っ。」 5個の赤い目が光る。 蜘蛛の頭だった。 確実に昌浩達を捉えていた。 「・・・。」 勾陣は昌浩の前に出る。 「勾陣っ。」 「大丈夫。おまえの結界はそう簡単に破れないだろう。」 言っていることとやっていることが無茶苦茶だ。 「・・・っ。天后。早く、勾陣を。・・・・っ。」 蜘蛛が息を吸った。 「・・・っ。」 あの粘着状の糸が吐き出される。 その時だった。 「させるかっ。」 子供の声のような甲高い声が上がった。 それとともに糸は炎に巻かれる。 物の怪はベランダに降り立った。勾陣の傍にいく。 めらめらと粘着の糸は音を立て始める。 「嘘。もう片付けたの?。」 昌浩は目を丸くして驚く。 物の怪はにっと笑った。 「あれくらいならな。・・あそこが広場だったから盛大に燃やさせてもらった。」 「・・・簡単に言ってくれるよな。」 心配してたのだ、一応。 あれが十二神将最強だと、勾陣が言っていた。 やっぱりそうなのだろう。 物の怪は勾陣の様子を見て、変化を解いた。 凶将騰蛇が顕現する。 「騰蛇。」 「大丈夫か?。」 その腕を支えてやる。 「ああ。」 「・・・。」 勾陣の有様に騰蛇は目を細める。 そして、その向こうにいる昌浩にしがみついている女を見据えた。 「ひっ。」 女は、昌浩から離れた。 騰蛇の不穏な気配にしりごみする。 「孤独の箱の持ち主さ。」 勾陣は伝える。 「・・・元凶か。」 騰蛇は吐き捨てる。 そして、腹立だしさをぶつけるがごとく、後ろの蜘蛛を発火させた。 火事を知らせる警報が鳴った。 「・・・・。」 紅蓮の行為を咎めず、昌浩はその部屋に入った。 熱気の中、黒い陽炎を立てた箱が一つあった。 箱の中はまるで黒ずんだ溶岩のように、ぽこり・・ぽこり・・と泡立っていた。 陽炎も溶岩も霊達だった。箱の中に取り込まれて、粘土のように練られてしまったのだ。 ぽこんと箱から毛虫が一匹放出された。 毛虫は蟲だった。この箱は孤独の箱。作り手の望み通りに自我を無くした霊達は形成を促されてしまったのだ。 蟲は人の肉と魂を喜んで食う。 「昌浩・・・。」 天后が追ってきた。伝える。 「あの女の家で、彰子嬢と同じ呪詛を感じたわ。」 「・・っ。」 後ろから紅蓮に支えられた勾陣が呟いた。 「そこから、生成されたのかもしれない。」 「・・・わかった。」 微かに息を飲む・・けれど、昌浩はやおら笑った。 「ありがと。すぐ調べるよ。」 これ以上勾陣に無理をさせられない。 「諸々の禍事罪穢れ・・・・急々如律令。」 昌浩は右手の指先で符を剥ぎ取った。 呪いの詠唱とともに、符は手の中で焼け落ちる。 箱を取り巻く陽炎と、溶岩は消えた。 練られて再形成されてしまった霊は、二度と元の姿には戻れない。解放ではなく、消滅させたことになる。 「・・・・。」 昌浩は広場に浮き上がったデスマスクたちを思った。 つるべおとしたちは恐怖を思い出し、かつて人間だった時のことを思い出し、デスマスクに戻った。 陽気な妖には、もう戻らない。 そして、恐怖を思い出した死霊たちは、不安で悪霊と化す。 浄化が必要だった。 「・・・今夜。地鎮を執り行う。それで、全部決着をつける。」 昌浩の言葉に、神将達から頷きが返ってきた。 [05/11/12] #小路Novelに戻る# #Back# #Next# −Comment− 他との、、ばらんすがっ、と思うほど長いかな。 9、10、11、12、13で終わるかな。それぞれに長いけど。 10が既に出来ていたりする。 ブログに書いた感想を、まとめて。追加も。 ■其はなよたけ姫のごとく■ にいちゃんずかっこよすぎっ。 結城先生、あれ、昌浩でやってっ!。 (とか思いつつ、にいちゃんずだからいいんだが。) 剣を持たせた成親と弓を持たせた昌親と数珠と符の昌浩の構図のイラストが見たいっ。 なんじゃ、あのにいちゃんずの強さはーっ。反則!。 立ち回りって大好き。かっこいいよー。昌浩もやってほしいなー、肉弾戦。 成親の横顔かっこいいよ。 地下人扱いの顔じゃないよっ。 不服な顔も、さぞかし腹が立つほどかっこいいんだろう。 ■鬼遊戯■ もう篁の台詞につきます。 「強情さは身を滅ぼすこともあるぞ、心しておくことだ」 そう!、そのとおりっ!!。平安の昌浩もそうなんだよっ。 篁が言うから、ぐさぐさぐさってくる。 いろいろはっきりすっぱり忠告されてた昌浩だが、篁に昌浩に対しての嫌悪がないのがね、またいいです。 昌浩みたいなの、嫌いじゃないんだろうな〜とか。 ■星屑■ 昌浩と彰子がかわいいよー。 楽しいだろう、そりゃ。 私はラパスに行きたい・・・・もちろん三冠+アザラシねらいのダイビング。 メキシコは食事がおいしそうです。 スペイン系にふっかけられたことはありませんが、スペインでタクシーの釣り銭ごまかされたことがあります。大きなお金をだしておつりがね、コインだったのですが、他所の国のコインってわかりにくいでしょう、すぐに足りないって気づかなかった。 |