Holy Day 1.序 デュオは目を開けた。 目を開けたのに、まず認知したのは、聞きなれない雨の音だった。 ああヒイロの部屋だったとデュオはひとりごちて、起き上がった。ベットのその場所で、軽く伸びをする。 ついでのようにベットの背にくつろいでもたれる。 ベッドは窓辺に置かれていて、雨にけぶるコロニーの町並みが見えた。 デュオは見上げる。それが上空へと続いていく。慣れ親しんだコロニー独特の景色だ。 ヒイロもこの景色が好きなのかもしれないなと思った。 だとしたらベッドをこの間取りの部屋のこの窓辺に置く理由がない。戦中の奴なら避ける。 「・・・・。」 ヒイロの気配はなかった。 学校に行ったのだろうか。 この湿度のせいだろうか、やたらぐっすり眠ってしまっていた。 ヒイロの部屋だから正直安心して眠れるのもある。 寝ていて安全だなと思うこと多々。 「ホリデイ、ホリデイ。たまには俺にもあっていいかもなー。」 ヒイロが聞いたら、おまえの日常だろうと言われるだろう。 デュオはベッドから降りた。 「それにしても進歩だよなー。安全なのは同じだけど、モノの量がだいぶ違うものなー。」 頭をほりほりとかきながらぼやく。 ヒイロなりに長めの定住になっているのもあるだろう。特に本が多い。 デュオは部屋の向こうのキッチンに行く。きちんと片付けられているが、いるものは手に届く。 昨日のスープに飯と野菜が放り込まれている。適当に煮て食えと言う感じだ。 進歩だねぇと再び思い、デュオは苦笑いを一つするとコンロをつけた。コーヒーポットに残るコーヒーをマグカップに入れて冷蔵庫の牛乳を入れてカフェオレを作り、レンジで温め、取り出した。 湯気がふんわりと上がった。 コンロの脇にひとまず置き、鍋が煮えるまで隣の部屋に入ることにする。 昨日五飛が読んでいたノートを見るためだ。 「ふーん。」 本の背表紙を見ながら書棚の傾向について読む。 一言で言えば雑多。 特に研究しているのは航空関係らしいが。 どうも火星に行きたいらしい。 あのお嬢さんをつれて。 そりゃ、大変だろう。ある意味戦闘より大変かもしれない。 デュオは二・三冊、片手で引き抜いてはぺらぺらと捲る。 さらっと読んでいるうちに鍋からいい匂いがしてきた。 適当に本を押し戻して、ノートだけ持ってリビングに戻る。スプーンでひと混ぜし、味見する。 味にデュオは溜息をついた。昨日と同じことを思う。 「・・・なんだってこんなに似ているんかね?。L1人の習性か?。」 とにかく味があるのである。味付けではなく、うまみの方があるのである。 野菜の甘みが今はおいしかった。 「誰か、みたいな味にしやがって。」 鍋ごと抱えて、キッチンの前に座り込む。がつがつと食べる。 ある程度食べて、鍋は隣に置いて、マグカップを取った。 カフェオレを口に含む。 ヒイロのノートを開いた。 ページを読み進めていく。 雨の音とページのこすれる音がいい。 晴耕雨読とはよく言ったものだ。 読みながら神父の横顔が浮かぶ。 落ちついた横顔。 本や新聞記事の内容が何であろうと、穏やかに読んでいた。 デュオは自分が今、そんなふうになっていることを知っていた。 そしてあの背に習うことを、悪くないと思う。 「うわー。まだ雨かよ。L1ってのはこれだから。」 わざわざ季節を作ることで有名なL1だ。 地球の環境に近くするためと言うが、こうも毎日雨だと鬱屈するものではないのか。 昼過ぎまで寝ていたデュオだ。 学校から戻ってきたら、まだいた。 「14時には上がる。」 「にしたって多くね。俺、傘なんか持つ習慣無いぜ。」 「知るか。」 ヒイロはつっけんどだ。 「ウェザーシステムを交換したんだ。その実験も兼ねている。それから大気中の浮遊物を一掃出来る。」 「まったくすげーよな。L2はそんなところに金が回らないぜ。」 「L1で実験中なだけだ。そのうち融通することになる。」 「ま、お下がりでいいさ。L2は」 L2は人道支援のほうが先決だ。 あまりにも人種が混ざり、思想統制がうまくいかない。レジスタンスの残党も多い。 デュオは伸びを一つした。 「また来るぜ。」 そういってひらりと手を振る。 コロニーが不穏だと匂わせて、デュオは出て行った。 「・・・。」 ヒイロは険しい顔をした。 すぐにと差し障るものではないが、最初民間人から犠牲が出るような気がする。 お偉方のほうではなく。 デュオはお偉方なんかどうでもいいが、民間人が犠牲になるのは絶対に許せないだろう。 ただ民間人が誰にどう脅かされているかというのはもっとも把握しにくいことだった。 ヒイロはデュオが寝ていたベットに戻る。 しわだらけなのがデュオらしいがもうちょっと何とかしろと思う。 「・・・?。」 ふと目に入る。 自分のノートだ。 「・・・。」 勉強が嫌いだと言った。 ヒイロは憮然とする。 ノートを持ち隣の部屋に入る。 そこでも適当に戻されている本があった。 寝ているかと思えば、と思う。 ノートを開く。跡が付けられたばかりのページがある。 L2における思想統制。 「・・・書くな。」 そこには、デュオの字で、不可能、と書いてあった。 ある程度必要と思っただけで、別にがちがちのつもりはない。が、相当気に入らなかったらしく思いきり×で上書きされている。 そして確かに自分が書いた文より、その後に続くデュオの詳述の方が面白かった。 L2独特のルールが最もL2を自由にする。 規則が多すぎて一つの間違いが事故引き起こすより、違反だとしても独自のルールで回避する技術の方がいい。 「・・・・教会育ち・・か。」 デュオは気になるのだろう。 勉強嫌いと同じように、それでもわかりすぎてしまう頭脳が今のL2の現状を理解する。 デュオは裏社会のプロであり続けている。それはレジスタンスのたまり場になりやすいという一面がL2にはあるからだ。 だが、同時に人道支援が必要であることを意味する。 ジレンマというところだ。 だから早く一緒になれと、思った。 そうすればこの局面を乗り切れる。 雨が上がったので、ヒイロは買い物に出た。 そして、こうしてばったり会ってしまうから嫌なのである。 目の前のヒルデに対していつもどおりの無表情をヒイロは向ける。ヒルデがそれなりの表情を読んで、鼻白んだ。 「何よ。」 「L2から戻ってきたのか?。」 「うん。大変だったわ。学校あるから。L1と行ったりきたり。」 デュオにほらと思う。おまえの人選は正しい。 「ねえ、ヒイロ。ヒイロだったらリリーナにつなぎつけられる?。」 「・・・・・・・・・・・・・・。」 「訝んないでよ。言ってみただけなんだから。」 「理由は?。」 「個人的に会いたいのが一番で、あとはL2の現状を伝えたいのが本音。リリーナに言うのは正直大げさだけど、聞いてもらいたいのよ。少し力技がいる・・はっきり言える人が必要なの。ちなみにあなたは駄目よ。」 「わかっている。」 ヒイロは溜息をつく。 「・・・・・・適任者が他にいるだろう。」 デュオだ。 あれは正直俺とは違う。 奴自身は裏に徹してはいるが、嘘をついていない分、実は表裏関係なくデュオ・マックスウェルという存在を貫いてもいる。戦中犯罪者扱いでコロニー中に顔が知られ、ガンダムのパイロットという過去もデュオにとっては一経歴になっている。スイーパーグループを通し宇宙で顔が広い。公にも民間でも顔が利くということだ。 そして素質もある。 教会育ちと言う言葉が頭をよぎった。 「誰?。紹介してよ。」 ヒイロは答えない。変わりにメモを渡す。 「デュオと俺の回線だ。」 無表情に差し出されたので、思わずヒルデは受け取ってしまった。 「・・ヒイロ・・これ。」 一瞥されて、ヒルデはいらないと言えなくなってしまった。 ヒイロは相変わらず無表情のままだったが、続けた台詞は思ったよりも感情的だった。 「何故おまえがいなくなったかは知らない。」 「・・・・・。」 「だが、おまえはデュオの傍にいるべきだ。」 「ヒイロ?。」 そんなことをヒイロは言う。 無理だよと心の奥で思う。けれど無理を承知で話しているのだろう。 「いまだに俺達は工作員の力を使って、戦争を起こしそうな組織をマークしている。傍にいれば、危険なのはわかる。」 ヒイロはヒルデをじっと見る。本当のことを見抜く強い視線だ。 「だが、おまえはそんなこと、かまわないはずだ。」 ヒルデはその視線を受け止めた。ヒイロに言われるまでもない。 堅い決意――それでもあなたについていく。 デュオは自分の行く道を貫いていくだろう。そしてそれでかまわないと思う。 「このまま行くとあいつは戦争から抜けられない。身が軽いといって仕事は一番こなしている。」 ヒルデはメモに視線を落とした。 「・・・・うん、わかったわ。私に出来ることがあるなら、頑張るから」 ヒイロには申し訳ないが返事は濁した。 「おまえしかいない。」 それなのに断言するヒイロの言葉にヒルデは顔を上げる。 「あいつの勇気はおまえなんだ。」 どうしてそんなこと言ってくれるんだろう。 でも不誠実な回答しか出来ない。 「・・・ありがとヒイロ。」 ヒイロの言葉はすごく嬉しい。 けれど、本当にそうなのかは期待しない。 「本当にそうだったら、すごく幸せだな。」 肩を竦める。 ヒイロが呟いた。 「ああ、リリーナはそう言ってくれる。俺は幸せだ。」 「え。・・・・いいなあ。」 のろけてるわね、とこっちの方が照れてしまう。 ただ、 ヒイロは簡単にリリーナとは会うことが出来ないのだ。 でも心はつながってるらしい。 それが幸せだと言える。 本当に小さな幸せを、二人は大事にしているのだろう。 「会おうと思えば会えるのに、ヒイロたちからすれば、私たちの関係なんてホント簡単なことかもしれないわね。」 冗談めかして言った台詞にヒイロは大真面目な台詞を返してきた。 「人間関係が簡単なら戦争は起きない」 「そりゃま、そーよね。」 具体例にしては話が飛躍しているには違いないと思うが。 リリーナとはこういうスケールの大きな話をしているのだろうか。 「デュオのこともあるけど、ヒイロ。リリーナがここに来るような時は口実にしていいからね。そういうのは得意なんだ。任せといて。」 軽くウィンクで答えて、メモ用紙を折りたたんでポケットにしまいこんだ。 ヒイロはリリーナよりデュオだと言うのだ。確かにその方がL2のためになると思えた。 だが、今は出来ない。 私は何も出来ない。 強いから、彼は何人もの人を守るだろう。自分の手が汚れるのもかまわずに。そしてその傍に銃を捨てた私がいては差し障る。 そして一緒にいなくても、あなたについていく。 やれることはある。 「あ、リリーナといろいろおしゃべりしたいのは本当だから、酌量してね。」 ヒルデは「教えてくれてありがと」というとヒイロとすれ違った。 だが、それだけだ。 ヒルデはデュオに必要がなければ会わないだろう。 「・・・・・。」 その背中はかつての自分に酷似していた。 ヒイロは遠くを見るように目を細めた。 [09/12/2] ■さあてこんな感じで始めました。デュオも実はかなり好きなんだーと言う文章を書けたらなーと思います。 タイトル変更しました。デュオっぽく。 小説目次に戻る → The Other Day 翌々日、ヒイロはL5に来ていた。リリーナが今L5に来ているからだ。 リリーナは、今、地球で地域間地位協定が作られている中、L5の位置づけを確認するためである。 人々個人の財産がかかわる案件でリリーナが最も頭を抱えている問題でもあった。 「・・・・。」 L5は他のコロニーに比べ高い建造物の少ないなどと思いながら、そんな街中をヒイロは徒歩で通り過ぎていく。 ヒイロは紺のジャケットのポケットから携帯端末を取り出すとリリーナにつながる番号を押す。 回線は今リリーナについている秘書の回線番号だ。 いきなり知らない番号で書けても自動的に弾かれるだろう。L5は他者の干渉を許さない技術が発達している。通信然り、警備然り。 受話器が上がり、リリーナの声がした。 <Ni Hao> 挨拶くらいはこの土地の言語というところだろう。 「俺だ。リリーナ。」 <ヒイロっ。・・・。> 声音が堅い。何か訝っているのだろう。当然だ。 「別に用は無い。ただ掛けただけだ。」 用件がないことをさっさとクリアする。 必要がなければ会わないだろうと言いながら、 必要がないのに会うとはどういうことだろうと、あとで思った。 ヒルデに言っておいて、自分も必要がなければ会っていない。 「・・・・。」 説教した手前、必要がないのに会うというのを実行してみている。 馬鹿らしいが、本当にそれだけだ。 「今、何をしている。」 <・・・・え・・と。部屋にキッチンがついていたので、料理をしていました。> 「・・・・。」 <メニューは揚げたお魚をここの味風に白湯(パイタン)で煮てみたりしました。味見はまだです。> だんだん声が柔らかくなってくる。ほっとしてるのだろう。 <機会があればヒイロに作ろうと思っていたのですが、その前に試食してみようかしらと。> 「・・・・・。」 <よかったら今度食べてくださいね。> そこでヒイロは溜息をついた。 <・・ヒイロ?。> 「・・・・電話は苦手だ。」 <?。> ヒイロは磁器をつけたワイヤーをスリングで飛ばし一気にホテル4階上へ上がる。 全ての警備の視線を避ける。 さすがにL5だけあって警備が一流だった。気を配る。 左手の腕力だけでバルコニーの屋根の裏側に一度隠れ、 警戒がないか確認し、すとっとバルコニーに下りた。 収音器がこすれたのだ。がさがさっと音がする。 いくつかのタイミングで強く鳴る。 影が動く。キッチンの横のバルコニーに続く窓を見る。 ヒイロがいた。 あわてて受話器を持ったまま、鍵を開けた。招き入れる。 「食いたい時に食えない。」 受話器の音声と肉声が同時に聞こえた。 「当たり前です。」 驚きを抑えるためにちょっと怒った風になってしまう。 それをヒイロはいつものように聞き流して、リリーナの真前を通り過ぎる。 どこに行くかと思えば、レストルームにて手洗いとうがいをしている。 「・・・・・。」 唐突なくせにどこか最低限ありきたりを通す彼である。 こちらも文句の一つも言わなければ置いてけぼり感満載だ。 追いかけて、レストルームを覗く。 「・・・」 ひょいとリリーナが顔を覗かせた。 「連絡は、欲しいわ。」 電話は苦手だと言うから一応お願いしてみる。 「・・・・わかった。」 振り返ってヒイロが了解するのでリリーナは嬉しそうに微笑った。 そしてそっと傍に来て胸に手が置かれる。リリーナが仰のいた。 そっと触れ合うだけの唇を重ねて、ヒイロは有事だろうと無事だろうと変わらないことに気がつきながら、目を閉じる。 「・・・。」 やがてリリーナは目を開けて、くすぐったそうに笑った。 そしてコンロの前に戻った。 ヒイロは隣りの、流しの方に寄りかかる。 先に中華鍋で油通しさせた白身魚の拍子切りのフライが網に上げられていた。 ヒイロは摘み上げて味見する。 口に広がる甘みが意外だった。 「・・・おいしいな。」 ヒイロは正直に言う。白身はほくほくして、小骨の苦味も甘い。 海のないコロニーでは魚は当然養殖だ。 「ええ。」 だが天然ものが養殖よりおいしいというわけではない。 ようは鮮度である。 「・・・・いつも作ってるのか?。」 「出来るだけ。といってもコンロがある時だけ・・かしら。この前は2週間前で。」 白湯に色取々の切った野菜を放り、揚げた魚を入れる。 そのあとリリーナはサイドテーブルに乗せていた手帳を取り確認するように覗く。 ぎっしり詰まった予定の横に料理に関するものはメモだけだ。 横ざしの視線に苦笑する。 「おいしかったから料理長に聞いたの。簡単な作り方。」 塩で味を調えて、火を止めた。 二つ分のお皿に取り分ける。 ヒイロはキッチンの反対側バーカウンターで青茶の葉を取る。即席で沸くポットで湯を作り、茶葉をトールサイズの耐熱のグラスに入れてそのまま湯を注ぐ。 「ミルクは入れるか?。」 「いいえ。でも食後にそうします。」 「わかった。」 テーブルなどはないので応接がそのままテーブルだ。 お茶とお魚料理と小麦粉を練って蒸かしたマントウを並べる。 「でも、どういう風の吹き回しくらい気になりますよ。」 「・・・・・理由がないことはない。」 食事を進めながら会話する。 食べながら話すのはあまり好ましくないが彼との場合時間がもったいないので厭っていられない。 「・・・・一昨日、午前中はデュオがいて、午後はヒルデに会った。」 「ヒルデに?。」 「戦後L1に帰った。」 「怪我は?。メリクリウスとヴァイエイトの。」 リリーナはすぐに尋ねる。MO2では重症者をすぐにコロニーの病院に搬送した。ヒルデは自分と会ったあとメリクリウスとヴァイエイトの襲撃にあったと言う。 「大丈夫だ。後遺症もない。俺と会ったのは一年前で、その時から一度の不調もない。」 「そう。」 心の底からほっとする。 ヒルデが無事なことと、それからヒイロ自身のために。 あれはガンダム01のパイロットの技術が使われていたはずだった。 後遺症など残れば、全く気にするなと言う方が無理がある。 目の前のヒイロは淡々としているが、気にしていないわけではないのが言動からわかる。 「今は学生で、だがL1の福祉活動の企画運営に携わって長い。おまえのところにも何か伝わっているんじゃないか?。」 「・・・・・・。ヒルデの名前は無いわ。ただL1の公共サービスがモデルになるというのが。・・それかしら。」 「おそらくは。・・・学生内のサークル活動だからな表向きは。」 「ヒイロも参加してる?。」 「・・・ああ。」 我ながら似合わないと思う。 が、聞くとリリーナはわかりやすく笑顔になった リリーナも喜ぶと思うよというヒルデの言葉は当たっている。 「そのヒルデがおまえにつなぎをつけられるか聞いてきた。」 「もちろん会いたいわ。」 「L2の人道支援がらみだ。」 リリーナが息を呑んだ。 「・・・・。」 正直その助けにはなれない。あまりにも隔たりが大きくてL2の現状をよく知らないリリーナはおおまかな取り決めぐらいしか出来ない。 「デュオはなんて言って・・・・。・・・・・。」 言いかけて口ごもる。 「デュオは地球にいたわ。だってサンクキングダムでハワードと兄といたもの。・・・それから私の警護と・・大量破壊兵器を作ろうとした組織の自主的な摘発。」 指折り数える。 「・・・・・・・・・ああ。」 ヒルデのこともあるが、そこも大いに気に入らない。 「デュオはヒルデと会っていないのね。」 「・・・・・・おそらくな。」 スープを飲み干して答える。 「デュオは俺よりおめでたくない。」 ヒイロよりという。 皿を綺麗に平らげて、重ね合わせ、流しに持っていく。 「今ある平和を、信じたい・・・だが、それだけだ。」 温めたミルクを作るため小鍋に冷蔵庫からそれを取り出して入れる。 「信じたくとも現実には、常に個人的な危険が俺たちの周りにはある。俺たち自身はそれでいい。身を守れる。」 リリーナのセキュリティなども通常のものとは違う。 「・・・・。」 「ヒルデは普通の民間人だ。今更会う気はないだろうな。」 温まったミルクをグラス半分になった青茶に注ぎ足す。リリーナのものにも足した。 はす向かいに再び腰を降ろす。 「ヒルデはなんて言ってるの?。」 「さよならなら言ったそうだ。」 「・・・・。」 リリーナは悲しくなった。戦争が終わって同時に終わったのだろうか。 無いとは言えない。 「・・・・。」 そんな顔をするだろうと思ったから用意しておいた言葉を言う。 「俺は会わせる気でいる。」 ヒイロの言葉に顔を上げる。 彼は表情を全く変えず、ある意味呑気にお茶を飲んでいる。 難を感じていないようだった。 「その方がL2にとってはいいからな。」 「・・・はい。」 安堵して笑うことが出来た。 食器を片付けた応接のテーブルにノート型の端末を置いて、ソファーには座らずラグにそのまま座りながらヒイロは端末に手を伸ばしていた。 端末の中の通用語以外の書類を翻訳してくれている。 リリーナも傍らに座り込んでいた。そんなふうに書類整理しながら、ヒイロは地位協定について議論させてくれた。 ヒイロと話しているうちに頭の中で整理がついてきて、おとしどころを考えたりも出来るようになった。 難しい話ではある。が、100年後の未来に地球がどうあるべきか。人々に理解させなくてはならない。 そこまで大体たどり着いてリリーナは肩を竦めた。 「ヒイロ。続きをするわ。シャワー浴びてきて。」 「・・・湯沸しと端末が同時に動いてれば、中に誰かいるか訝られるぞ。」 「・・。そうでした。」 「風呂なんかいい。それより・・何度も言ってるが、おまえは休んでおけ。」 「嫌。ヒイロと一緒じゃなきゃ。」 「・・シャワー浴びて頭を冷やしてきたらどうだ?。」 「ここにきてすぐにすませました。」 リリーナはすでに藍染のラフなツーピースの室内着だった。 「・・・・あ、ヒイロ。これ足しておいて。」 リリーナが一度立ち上がりメモを帳を持ってくる。 「ここ。このアドレス。」 とページを見せる。 ヒイロは手帳ごと取ろうとする。 リリーナは慌てて引っ込めた。 「ダメ。」 「そう言われると見たくなるが。」 「女の子の手帳よ。仮にも。」 「・・・わかった。」 そのページだけ見て、回線上のその文章についてアクセス登録をする。 もちろん翻訳がいる。 リリーナの政治や経済の勉強のためだ。参考になる史実などを整理して理解する。過去に習うと言ったところだ。 端末を軽やかに弾く音が続いた。 その傍らに座りながら、リリーナはふと気がつく。 コロニーなら・・・近いから来れるのだと思った。実際重力のある地球より近い。 宇宙での勝手を知り尽くしている彼なら尚更だった。 そっとその腕に手を掛けて、肩に頬を乗せる。鍛えられた腕なので私の頭が乗っても支障ない。 ちょっと顔をしかめるだけ。 「リリーナ。」 ここで寝る気かとでも言いたいような、あきれた声がする。 「なあに?。」 この温もりに触れていられる宇宙を素敵だと思う。 [09/12/16] ■ソフトバンクのCM風に この同人誌には、如月が後から並行したヒイリリサイドを思いつく(煩悩の)まま書き足した経緯があります。 とゆうわけで二本立て。 ホーリーデイの文のあとに、ちょこまか入るときがあるでしょう。 タイトルは、うん、森のくまさんの英語の歌、そのまま。 ヒイロがリリーナにクマあげたからさv リリーナの手帳・・。まあ高校生並みな普通な感じなところがある設定。 とするとどんなものか、私も不明。 小説目次に戻る → |