Holy Day
10.holiday









 統治から、自治へ。
 個性から、共存へ。
 変わるために人類の意思の成長と昇華が不可欠で、そこに必要なのは敵ではなく、立ちはだかる困難とリリーナは位置づけた。
 ヒルデは・・それも2年前、俺を撃たなかった時、困難の方を選んだ。
 そしてヒイロは。
 俺は?。



Hail, Holy Queen enthroned above, O Maria
Hail, Mother of mercy and of love, O Maria
Triumph all ye cherubim
Sing with us ye seraphim
Heaven and earth resound the hymn
Salve, salve, salve, Regina


 公会堂の日曜礼拝に賛美歌が響く。
 ヒルデは一昨日配慮してくれた神父にお礼を言いにいっていた。
 原因のリリーナはホテルにいることにしておいて、ヒイロがなんとかしているはずだ。
 歌に耳を傾けながら、デュオはホールサイドの出入口の外、階段に座って頬肘をついていた。
「・・・。」
 L1の組織的復興の早さを目の当たりにしていた。
 L5は地球間地位協定。L4の民衆と富裕層間の確執。L3の怠慢。L2の貧困。
 どれも差別と隣りあわせな案件だった。差別は嫉みを生み、向上心を消す。
 結果争いの元だった。
 L1のやり方は個人の権利は後回しにされてしまうが、ただそれがこの戦後、全世界的に、この今に行われなければならない。
 今必要なのは強烈な共産主義だ。
 それによってインフラが完成する。
「(・・・・・うわー絵空事)」
 デュオは遠い目をした。
 大体共産主義なんて言葉、自分になんて似つかわしくないんだろうとか思う。
 L1もこのあとはどう動くつもりなのだろう。個人の利益を後回しにするだけでは民主主義的成長は望めない。
 とすれば規制緩和策・・・ということになるだろう。
 夢と未来を描けるように。
「L2は一斉に個人の利益に飛ぶかな。」
 インフラなんか後回しにして、たとえば火星に利益を生むものがあれば、飛んでいくだろう。
 そのフロンティア精神を優先するのも、実は、戦後政治に有用だった。
 爆発的な成長を促せることにもなる。
 できれば自分としては、そんなふうにL2に成長してもらいたかった。
「デュオ。」
 快活なヒルデの声がした。振り向けば神父と連れ立って歩いてくる。
「・・・・・。」
 デュオの目が半眼になって、沈黙が深くなった。
 そんなデュオに気づかず、ヒルデはぺこんと神父に頭を下げた。
「ありがとうございました。それから申し訳ありません。」
 いやと、壮年の神父は手を振った。
 それからデュオを見る。
 最初サークル仲間ぐらいかという顔だった。
 が、軽く目を見張る。
 神父はヒルデをもう一度見た。
 ヒルデは苦笑し軽く頷き返した。肯定だ。
 神父は何かしら得心が行ったのか、軽く嘆息をして、いや、それならばいいのだと呟いた。
 指先を絡めて十字を切る。
「未来に幸あらんことを。」
「ありがとうございます。」
 そして公会堂に入っていった。
「おまたせ。」
 振り返った。悪びれなどない。
「おっせーよ。」
 一応一睨みする。
 あの神父が自分がガンダムのパイロットだと気がついたことじゃない。公言しようとかまわないが胸のうちに収めておいてくれるならそれでいいというだけだ。
 問題は。
「おまえ、まさか神父にまで口説かれてんじゃねーだろうな。」
 そっちである。
 ヒルデは目をしばたたかせた。
「L1に残って欲しいとは言われたけど、その言い方は神父様に失礼よ。」
「俺が神父だったら、口説く。」
 傲然と言い放つ。
「そりゃ口説くのが神父といえば神父でしょうけれど。なんか意味が違くない?。」
 ヒルデの目が半眼になった。
「俺、腹減ったの。余裕ないの。」
 朝10時だがカリエルトの荷物送ったりといろいろしていて朝ごはんがまだなのだ。
 デュオは立ち上がった。んーっと伸びをする。
「あ、私も。じゃあ家に帰りましょ。」
「カレー食いたい。」
 リクエスト前にリクエストする。その子供っぽい言い草にもメニューにもヒルデは気安い返事をくれる。
「それいいね。OK。私も食べたいぞ。」
 ココナッツの入ったカレーにスパイスきかせれば、インスタントにおいしいカレーが出来る。
「・・・・。」
 デュオは先んじて階段を降り出したヒルデを見た。
 手を伸ばして引きとめ、そのまま背中から抱き締める。
 気安い返事をくれる彼女は、自分のだ。ここの誰のものでもない。
 身長差からまるで覆いかぶさってしまうほどだから、壊さないように、そっと。



 後ろからゴスペルが響く。




Our life, our sweetness here below, O Maria!
Our hope in sorrow and in woe, O Maria!
Triumph all ye cherubim!
Sing with us ye seraphim!
Heaven and earth resound the hymn!
Salve, salve, salve, Regina!





 天と地に響けと歌う。

「ヒルデ。」
「何?。」
「俺、やらなきゃならないことがあるんだ。」
 デュオは腕を解いてヒルデをこちらに向かす。
「・・・なに?。」
「何年先になるかわかんねーし、器じゃねーかもなんだけど。」
 礼拝と彼女を過去に透過する。
 ヒルデは聞いてくれる。
「俺はマックスウェル教会を再建する。」
「・・・。」
 彼女は目を見開いて驚いていた。
「最初は俺がいるところがマックスウェル教会だってぐらいなんだろうけどさ。」
 やりたいことやってきた。
 出来ることもやってきた。
「コロニーはやっと物が言えるようになった。だけどまだ支配されることに慣れきった性情がくすぶってる。リリーナも頑張っちゃいるが、それはトップにだけ伝わっているのが現状だ。このままだと民間には届かない。」
「・・・。」
「物を言ったっていいんだって、俺は言いたい。」
「・・・・うん。」
 ヒルデが嬉しそうにはにかんだ。
 それは元はヒルデがリリーナに頼もうとしたことだ。
 あの時はリリーナしか思いつかなかったから。
 が、ヒイロにはデュオだと言われた。
 そしてデュオにはわかっていたのだ。
「だから。」
 MOIIで言えなかった言葉を。
「L2に一緒に帰らないか。」
 その言葉はとうに今更で。
 俺に言われなくても、ヒルデははもうL2行きを決めている。
 だからこれは俺の始まりの言葉。
「俺にはおまえが必要なんだ。」
 ヒルデをまっすぐに見る。
「俺の帰る場所になってほしい。」
「・・・・・。」
 ヒルデは胸に手を当てた。
「覚えていて、私はコロニーのためにならなんでもする。」
 返事は決まっているから、一拍の間を置く。
「コロニーのために。」
 デュオのためでもある。私のためでもある。
 だけどそれだけじゃない。それだけでは未来は作れない。
「あなたの好きなコロニーのために。」
 ヒルデが破顔した。
「私はなんでもするのよ。」
「・・・。」
 あの時言えなかった言葉が言えた、そして返事がもらえた。その返事は肯定で。
 デュオは嬉しくてくしゃくしゃになりそうな顔を隠すために、ヒルデを引き寄せ、抱えあげる。
 片腕で軽々肩まで持ち上げられ、ヒルデは驚いて、戸惑う。
 デュオは大きくて、この場所は高い。
 見下ろせばデュオの精悍な眼差しがあった。
「・・・・。」
 ヒルデは真っ赤になる。
 本気のデュオがいる。
 これからの未来に本気のデュオがいる。
 私の好きなデュオがいた。

 二人は笑い合って額を合わせる。

 デュオは再び呟いた。
「L2に一緒に帰ろう。」
 あのMOIIで言えなかった言葉を。
















[10/7/22]
■挿入歌は天使にラブソングをで使われた賛美歌です。
ゴスペルで歌い、ジャズ風にも歌った歌。
あのシーン大好きで挿入。

マルクス主義〜。資本主義→社会主義→共産主義
あと、修正資本主義。修正マルクス主義。
などなどそう言った単語を駆け巡らせながら、書きました。

んで、ホーリー終わりました。終わったーっ><
あまりどろどろにならずにすんでーっ、よかったー。



ヒイロとリリーナの話は別立てにします。ジアザデイ。





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