Holy Day
9.5日-freetime












 目を覚ますとリリーナが起きていた。
 ヒイロは眠気を払うように目を押さえ前髪を上げる。
 暗い部屋の中、声が降ってくる。
「大丈夫ですか?。」
「ああ。問題無い。」
「それにしては長く寝ていたわ。」
 目が慣れて彼女と目が合った。
「寝れるうちに寝ていただけだ。」
「・・・・。」
 リリーナは瞳のうちに生じた焦燥を、だが口にしなかった。
 その瞼を閉じて、額にキスをくれる。
「・・・・。言いたいことがあるなら言え。それではおまえらしくなくて、俺が気障りだ。」
 ・・重なろうとする唇の傍で呟く。
「・・・・・怖かった。」
 かすかな声。
 当然銃撃戦のことではない。
「・・。」
 ただこの胸に今、恐怖も不安も無い。
 それをリリーナに抱えさせておきながら、身勝手で一方的な安堵に満たされている。
 これが今の俺たちだった。
 今の俺たちは傍にいて、共に安堵することは無い。
 ヒイロは目を閉じる。体を起こし仰のいて唇を重ね合わせた。
「・・・。」
 唇が離れて、静かにリリーナは呟いた。
「ヒルデに会いに行きます。ヒルデは家に一度戻っていて検査結果は良好だったそうです。」
「・・・そうか。」
「少しデュオと話をしました。だからヒルデと話がしたいのです。」
 そう言って立ち上がった。
「・・・わかった。」
 そしてこの今から焦燥が始まる。
 ただ俺に、リリーナの行動を制限する台詞を吐く権利は無い。
「・・・。」
 リリーナが背を向けて、病室を出る。
 その後ろ髪のその先が見えなくなるまでヒイロは見届ける。











 3時を過ぎて、ヒルデが身を起こした。
 この家の端末がメモリーオーバーを告げている。
 音はならないがアラームの光が気になる。
「誰からだ。」
 不愉快そうな声が横から上がる。
「マスコミ。こちらも番号をランダムにしているつもりなんだけど、見つけてくるわね。本体を守るためのおとりだからそれでいいんだけど。」
 引っかかってくれそうなセキュリティかけているのだ。
「リリーナと友達でいたいしね。」
 ヒルデが茶目っ気たっぷりに笑った。
 そして、するりと白いケットで身を包んでベッドから出ようとするから、デュオはそれを許さない。
 その細い腰を引き寄せる。
「・・・・・っ。」
 ベッドにもつれるように倒れ、ヒルデの肢体に再び覆いかぶさる。
 細くしなやかな腕が蔦の様に延びて、デュオの体に絡みつく。
 吸い寄せられるように唇を重ねた。
 2年前、受け入れてくれた時と変わらない。
 同じように俺を受け入れてくれた。
 深く、どこまでも。
「・・・。」
 重なる唇の間から囁く。愛していると。
 繰り返し、呟く。
 何度でも呟く。

 置き去りにしてきたものを、もう一度、その手に収め、確かめる。




 別のアラーム音がした。この家のものではない。
 そのけたたましさにいよいよデュオが不愉快になる。
 その音はヒルデのカバンからだ。
 今度はデュオがベットから降りて、机まで行き、カバンを取り上げてその守るための本体の方の端末を出す。
 強制的にスイッチを切ろうとするので、ヒルデが物憂げに呟いた。
「それヒイロからだけど。」
「んでわかるんだよ。」
「着信音。」
「・・・・・・・相手で音変えんなよ。」
「勝手にヒイロが設定したのよ。メールで。」
「・・・・・。」
 デュオが不機嫌そのもので、端末を開く。
 電話に出た。
 相手は開口一番に呟いた。
<なんだいたのか。>
「・・・・。」
 呼吸音だけで自分だと悟られる。
<ヒルデはいるのか?。>
 いろいろ腹ただしい奴である。
 開口一番の台詞も腹ただしいし、いきなり次の言葉が自分の女の名前である。
<代われ。用がある>
「・・・・・・おまえ。なんだってそんなにヒルデになついてんだよ。」
<おまえと理由はさほど変わらないと思うが。>
「同じじゃ困るんだよ。」
 後ろでヒルデが立ち上がる。そしてそのままシャワールーム消えていく。
<借りがある。>
「なんのだよ。」
<リーブラと、それから返せない借りだ。そういえばわかるか。>
「・・・。」
 普通の生活能力はずば抜けているとヒイロはヒルデを評価した。つまりヒルデはヒイロに世話を焼いているのだろう。
 社会性に欠けるヒイロを福祉活動にも引きずりこんだ。
「・・・そんなもの返せないだろ。」
<ああ。>
 だからどうしたというふうだ。
 借りっぱなしでもう開き直っているとでもいうのか。
「・・・・。」
 大体そもそもそういうのは借りとは言わない。
「で、なんだよ。ヒルデにって用件。ヒルデ今シャワー浴びてんだよ。」
<リリーナがそこに向かった。>
「は?。」
<10分ほど前だ。>
「先にそれを言えっ。」
 受話器に怒号する。
 ヒルデがデュオのその怒号で濡れた体そのままに出て来る。即座に自体を把握したらしい。着替えのワンピースを取る。
<話を反らしたのはおまえだ。>
 電話の主は平然とデュオのせいにした。








 ヒルデは飛び出し昨日の朝リリーナと通った道を行けば、リリーナが歩いてくるのが見えた。
 駆け寄って、リリーナを見、そして四方周囲が安全かどうか視線を放って確かめる。
 そして再び彼女に向き直る。リリーナは苦笑するだけだ。
「リリーナ。びっくりしたわ。迎えに行くつもりだったのに。」
「ヒイロに頼まれたから。」
 打算の件だ。
「・・・・。」
 リリーナは定めたものに行動的なのだ。こうして危険を危険と思わずに、来てくれる。
「・・・ありがとう。」
 そしてリリーナとヒイロはデュオに進言してくれたのだろう。
 だからデュオが後方見えるところにいる。
 ヒルデは少し背伸びして、リリーナの肩に腕を絡める。
 抱きしめた。
 今夜のことをたぶん私は忘れないだろう。
 デュオが歩いてくる。周囲を警戒をしているのは一目瞭然だった。
「無茶すんなよ。」
「・・・。」
「どこで戦争好きが狙っているかわからないんだからな。」
 そう言ってリリーナを叱る。
「・・・。」
 デュオはおめでたくない。そうヒイロが言った。
 それでもリリーナは言い返す。
「コロニーは地球より安全ですから。」
 かつてL1で呟いた言葉だ。
「お嬢さん。コロニーにはヒイロ・ユイっていう前例があるんだ。軽はずみなことはするもんじゃない。」
「・・・・。それはドーリアン外務次官の命の話ですか?。リリーナ・ドーリアンの命の話ですか?」
「外務次官だ。」
「それならば平気です。」
 リリーナは微笑んだ。
「外務次官の私はもう既に死んでいてもかまわない存在なのです。」
「・・・・。」
「あの時、ヒイロは撃ちました。そこで私が死んだとしても平和は訪れたでしょう。」
 ブリュッセル大統領府を、ヒイロは撃った。
 撃たなければならなかった。マリーメイアを殺すために。
 リリーナを生かすためにマリーメイアを殺さなければ、再びこの地球圏は強者と弱者の関係になった。
 リリーナの表情は晴れやかだった。
「だから今の私は平和の象徴ではないのです。」
 ヒイロがそこから自由にしてくれた。
「(・・・・・・・そんなわけねぇだろうが・・・・・・)」
 デュオは前髪を掻いた。
 ヒイロは兵士としてただ任務を遂行しただけだ。そしてリリーナが思うところはその結果の副産物でしかない。
 平和は確かに訪れただろうが、今、こうして生きている限り、リリーナは平和の象徴という一面を背負わねばならない。
 デュオはヒイロとリリーナの当初から変わらないギリギリの関係を感じ取る。
「(火星か・・)・・・・・・大統領になったら慎めよ。」
 リリーナの目が閃く。その瞬き一つで一政治家の目に変わる。
「無論です。」
 別の理由が生じる。議会の進行、法律の制定。そういった施政方針の主軸が大統領の死によって歪む。
「他の方に迷惑がかかりますから。私の未来と望みのために慎むでしょう。」
 リリーナは決然と立つ。
 地球圏の未来のために、身を捧げるでもない。投じるものでもない。
 自分の未来を勝ち取るために、大統領になるのだ。
「野心家ね。リリーナ。」
 ヒルデが優しくリリーナの手を引いた。
「じゃあ。たまには休みもいるから、来て。昨日の話の続きをしましょ。」
「はい。」
 リリーナは破顔して頷いた。
 そして家へと足を向ける。
「・・・・・・。」
 デュオがついてくる。
 というよりデュオがいる。
 リリーナは首を傾げた。
 が、はたと気がつく。
「・・・・・・。」
 ヒルデの後姿にリリーナはおずおずと呟いた。
 さっきの勇ましさは当然無い。
「・・・・ごめんなさい。ヒルデ。」
 女友達に会いに行くつもりで来ただけだ。時間帯的にそれならそれでかまわないが。
 今は分が悪い。
「なにが?。」
「・・・・デュオがいるわ。」
「うん。いるよ。」
 ヒルデが苦笑した。
 友人のその答えが明るくて、リリーナは恥ずかしかったけれど嬉しくて、はにかんだ。























 翌朝。リリーナはヒルデに伴われて、公会堂に来ていた。 今は昼過ぎて1時。
 孤児院の子達もいたが、金曜ということもあって日曜礼拝前の週末の掃除する近隣の家族も来ていた。
 リリーナは講堂の片隅の椅子に座って、レースカーテンを縫っていた。
 傍らには幼児からリリーナより少し小さい子ぐらいまでいた。
 デュオはボディガードとして、傍の壁に寄りかかっている。
「(そうしていれば、女神様々だけどなー。)」
 どこがと思うところ多々。
「・・・・。」
 朝っぱらからマスコミ対策を強いられたデュオである。
 このボランティアは予告通りなのでマスメディアが殺到していた。
 当然マスコミはこういうシーンを切り取りがたる。
 そしてうざいのでそういう機器類は全部壊させてもらった。
 リリーナは女神ではない。
「(政治家かぁ。)」
 言ってしまえばうさんくさい職業ではある。
「・・・・。」
 リリーナはずっと子供相手におしゃべりしている。
 他愛ない話から、それ実は結構裏話じゃないかというものまで。
 リリーナが顔を上げた。
 一枚終わったらしい。深窓のお嬢さんのクセに手際は悪くない。
「デュオ。これあそこにかけられる?。」
 リリーナは戸口前の窓を指差した。
「ああ。いいぜ。」
 何人かの子供たちがついてくる。
 窓に登り、子供たちも窓に登らせる。
 向こうからヒルデとヒイロがやってくるのが見えた。
 そつなく退院させてきたらしい。
 ヒルデが気がついてここを見上げてくる。
 軽く目を見張っていた。
「デュオ。何してんのよ。」
「カーテン引っ掛けてる。」
「じゃなくて子供達。」
「大丈夫。大丈夫。落ちたって死にゃしない。」
「もう・・気をつけてよ。」
 その時庭からヒルデーと呼び声がかかった。
「はーい。」
 ヒルデは手を振った。そしてヒイロに向き直る。
「じゃ、ヒイロ。あとお願いね。」
 そう言って駆け出していった。
「ヒルデ。なんだって?。」
 上から声をかける。
「ピアノの調律をしろと。」
「・・・・・。」
 中のピアノを見る。リリーナのいる場所のすぐ傍だ。
 出来るか出来ないかではない。リリーナの傍にヒイロを置いてやろうという魂胆がヒルデにある。
 ヒイロが講堂の中に入った。
 傍を通り過ぎる時、リリーナが顔を上げた。
「・・・大丈夫ですか?。」
 白い半袖シャツの襟から包帯が覗く。
「問題ない。」
 いつものように応える。
 外してもかまわないのだ。だが、傷口がまだ生々しいので、隠している。。
 ヒイロはピアノの傍に立った。
「・・・。」
 心配を他所にしリリーナに軽い期待感が湧き上がる。
 彼がピアノの蓋を開けた。ピアノはオルガンに近い形のものだ。
 その指が軽やかに鍵盤を弾く。
 ショパンのワルツ。
 軽やかなメロディに軽やかな音が鳴る。
 リリーナが立ち上がった。
 他の子供たちも立ち上がる。
 皆を引き連れて、リリーナはヒイロを覗き込んだ。
「・・・。」
 リリーナの顔を振り向けば、好奇心そのままの視線で見られる。
「・・・。」
 音は確かに調律が必要なくらい外れている。
 それなのに上手い。
 リリーナは感嘆する。
 カトルも弾いていた。ガンダムのパイロットとは皆こうなのだろうか。
 ・・・・・鍵盤が一つ落ちているところで止まった。
「・・・あ。」
 と呟くので、再びリリーナを見れば残念そうにしている。
 デュオが戻ってきてピアノの箱を開けた。上から覗きこむ。
 一箇所落ちているところがある。
 鍵盤が上がらない。
 それから全体的に半音下がっている。
 調律用の専用の器具が無いので、工具と、あとは耳で音を合わせるしかない。
「Aの音を。」
 ヒイロが呟いた。
 自分の声では出ない音だ。
 リリーナが呟いた。
「ラー。」
「・・・・。」
 ヒイロがその鍵盤を弾く。手持ちの工具と指で閉める。
 もう一度鍵盤を弾く。
 Aの音が定まった。そしてそのままピアノはリリーナの声のヘルツに変わる。
 デュオが落ちた鍵盤の箇所を外す。
「弦が切れてら。カリエルトの荷物にあったから頂戴すっか?。」
「ああ。」
「んじゃ。しばらくよろしく。」
 ボディーガードの件だ。
 ヒイロはそれ以外の調整に入る。リリーナは作業場所をヒイロの傍まで持ってきてカーテンを作る作業に戻った。
 デュオは聖堂から出た。
 通りすぎる中庭に、ヒルデがいた。
 ヒルデはこの間喫茶店にいたロンゲの男と話をしていた。L1の今後の活動について話しているようだった。
「・・・ヒルデ。」
「あ、何?。」
「俺、ピアノの弦取って来る。20分ほどで戻るけど。」
「わかったわ。」
 ヒルデは肩を竦めた。
 デュオは踵を返すも後ろを伺いながら歩き出した。







 20分ほどしてデュオは戻ってくる。ヒイロはピアノではなくスピーカーの方をいじっていた。
 講師等が立つ場所の下のスピーカーにピアノからのアンプを繋げている。
 デュオのこめかみが最大限寄っていた。
 理由はわからないでもない。
「・・・・。」
 相手にせず、ヒイロはピアノの足元の蓋を開けた。。
 デュオはピアノの下に潜り込んで、弦を外す。
 鍵盤は想像以上に重たい。しかも古くなったフェルトが多くありデリケートで二人掛かりのほうが確実だった。
 ヒイロは重い弦を引っ張り、デュオが組み合わせを調節していく。弦を交換した。
 ヒイロが鍵盤を弾いてみて、落ちた鍵盤が上がるのを確認した。
 直った。
 あとは調律だけだ。
 ヒイロは再びアンプの場所に戻って、オンオフを可能にし、オフにした。
 デュオはその傍のステージに上りマイクを確認する。
 盗聴器など仕込まれていないかだ。これで三度目だ。
 出入りの多い場所だった。
 それは隣接する福祉施設や児童施設、それから中等学校が授業の一環で生徒をここにこさせてもいた。
 サイドの出入口からヒルデが入ってこようとする。がまた呼び止められていた。
 こうも声をかけられるのはリリーナのことだけでなく、おそらくヒルデがL2に行くからだろうと思われた。
 が。
「何人の男と話してんだよ。あいつは。」
 デュオが呟いた。
「・・・・L1だけなら主要なので24人いる。」
「・・・・・・んなのおまえも数えんな。」
「ほっといていたわりには嫉妬深いな。」
 なれなれしいだの、なついているだの、と。
「・・・・・。」
「皆ヒルデを気に入っている。」
 デュオはおもむろに立ち上がる。
「片端から呪ってやってもいいぜ。」
 デュオは軽口で応戦する。
「好都合だな。隣のセンターにいい加減引導渡してやってもいい元気のいい老人が大勢いるからな。」
 徒労である。
 男受けは老若問わないらしい。
「ヒルデはいい女だからな。」
 半ば冷やかしがかった声だ。
 真面目なのか挑発されてるのか際どい。
 どうも真面目に挑発されているっぽい。
「・・・・・・・・・・・・やっぱりおまえが一番ムカつく。」
 襟をつかんだ。
 他の男なら歯牙にもかけないが。
 ヒイロは平然としたものだ。
「OZ掃討作戦が済めば、宇宙に帰れると言ってたくせに、のろのろと地球にいた、おまえが悪い。」
「・・・・。」
 本当にそんなことをよく覚えていやがる。
「デュオ。」
 静かに・・・だが怒気のこもった気配がする。
 そして死神の図体を横からドンッと押す。
「おわっ。」
 予想外の力によろめく。
 そしてそのままさらに押しやられていく。
 戸口付近のヒルデに押し付けた。
 そしてリリーナは回れ右する。
「なんだなんだ。俺、なんかしたか?。」
「くーび。」
 ヒルデが呟いた。
「あー・・。」
 見やれば、ヒイロの腕を引っ張っていく。引っ張られていく男は予想通りなのか涼しい顔だ。
「女に庇われて、なんとも思わないのかよ、あいつはっ。」
「リリーナだからでしょ。」
「・・・・・。」
「だいたい仲良すぎるのよ。あんた達。」
「仲が良かったことなんかねーぞ。」
 デュオは仏頂面で腐った。
「・・・・・。」
 あとはもう調律だけだ。
 ピアノの前に戻ったヒイロは先程のAの音を基準に、音を閉めて合わせていく。
 あらかた終わらせていた。先程繋げた場所を重点に鍵盤をいくつか弾く。
 そしてヒイロは着席をした。
 流れるように全鍵盤を弾いた。
 音は定まった。
「・・・・・。」
 リリーナがその傍に立つ。
 ヒイロはショパンの前奏曲を弾くことにした。
 スピーカーならオフだ。
 その指が流れるように動き、しっとりとした曲が始まった。
 それはリリーナのためだけに。
 あきらかにそれが見て取れて、デュオはあきれと感心と、ヒイロの変わりっぷりに賞賛を送る。
 いや変わったのではなく、これが奴の本当の姿なのかもしれない。
 そう言えばじゃあなんか機嫌悪かったのはなんだったのだろうかと思う。
 が、ああして弾いているということは今は機嫌は悪くはないはずだ。
 なんなんだ・・・と思うが自分を振り回すのがヒイロだ。
 ヒルデがちょんちょんと肩をつつく。
「リリーナは3時に退散させるから。」
 今は2時だ。
「OK。」
 そのとき後方の搬入路に大きいトラックがついた。
「食料届いたみたい。デュオ手伝って。」
「あ、わかった。」
 気安くOKをくれる。
 アテにするならデュオにしろといったヒイロは確かに正しい。
 搬入路は給食室用で、ここら一体の施設は個々に給食室がある。
 年齢にあった食事療法が行われているのだそうだ。
「・・・L1はこういうライフラインが組織的だよなー。」
「ま、得意分野よね。」
「L2はどうだろな。」
 ヒイロのノートには思想統制について盛大に反論してやったが、ヒルデにも尋ねてみたい。
 反論するかどうかは聞いてからだ。
「気の長い話になるけどやってみた方がいいと思うわ。地球もね。」
「・・・・・・なるほど。」
 つまりお嬢さん向けである。
 ヒルデの気配りに感心する。
「具体的には?。」
 更に尋ねる。
「これから行くのよL2に。まず土地に慣れなきゃ。具体性はそれからよ。でも詳しい人がいると構築も早いはずよ。そこに反論より意見が多いとなお良いわね。」
「・・・。」
 ヒイロの愚痴でも聞いたのだろうか。ただありえない。
 とすればどこまで考えてくれているんだろう。
 何もしてこなかっただけに、胸が詰まる。
 ヒルデは自分のことを考えてくれている。
「確かに反論なんかより少数意見のほうがずっといいな。」
「うん。」
 俺の声にヒルデは微苦笑をして、そのあと可愛く片目を瞑った。
 そして彼女は軽やかに戸口から走り出した
「・・・・。」
 デュオは肩を竦める。



 そう。
 俺はこうして自由だから。


 できることはしてきた。
 したいこともしてきた。



 ―――-だけど、しなければならないことは、未だ。

















[10/7/1]
■漫画だとワンカット部分・・・。

ゼロ始動の際のキーの動かし方がピアノみたい・・と思ったので。
バイオリン演奏家偽装するからピアノ出来そう。

ノインをノイン隊長と冷やかしたヒイロなので、軽口くらいたたきます。
ヒイロは・・・無口なんだろうか。


前奏曲・・です。あ、一緒になっちゃった、とか思った。
ショパン。
ワルツはもちろん子犬のワルツ。
さすがに別れの曲はやめました。雰囲気ぶち壊し???。サンクキングダムパロディ書くならありだな。


次でホーリーデイ完結です。
あ、ヒイリリにジアザデイがあるか・・・。

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