カイロ・アレキサンドリア
3.cross roads











 滑走路は、広大な土地を使って10本だ。
 地球の航路用は4本、コロニーには5本。そして1本は火星に向けてのものだ。
 火星への定期運行へはいくつか課題がある。
 まずは火星に向けてダイレクトにシャトルを飛ばせる時期は公転速度の違いのため限られてくるということ。
 そして地球発のシャトルは、宇宙空間だけを航行するシャトルと機材がまるで違うということ。宇宙空間をスムーズに移動出来ない変わりに、地球の大気圏をものともしない。後者は逆だ。
 相互互換性のあるシャトルがないため、しばらくは地球をまわるL3L4L5を経由しての定期便が主流になるだろう。コロニーに向けての滑走路が多いのはそのためだ。
 ただ火星に向けての滑走路をお膳立てしなければシャトルの開発が現実味を帯びてこない。
「火星への定期便か。」
 テレコマスの呟きが耳に入る。
「・・・。」
 まだ先の話になるが・・だが既にゼクスは行っている。
 コロニーの民間業者も火星へ向かって飛んでいる。
 あと2年のうちには定期便が飛ばせるのだ。公の機関がやる気になれば。
 本来公の組織が民間に後れを取ってはならない。それは火星開発を富裕層だけにさせてはならないからだ。
 とにかくヒイロとしては、滑走路の建設にこぎつけられた。順風満帆とは行かないが最低限順調だ。
「これは地元議会がなんて言うかな。」
 滑走路の傍に作られた喫茶兼休憩所。現場までやってきた上役の息子テレコマスだ。
 ヒイロ・ユイをカウンターの前で捕まえた。ユイは食事のあとでコーヒーの紙コップを持っている。
 条件は飲んだ。だからアシスタントを引き受けてくれた。
 ひとつき前にこれとこれの恋人らしき人に言われたのだ。
 穏やかなのに有無を言わせないものがあった。だから父は何も言わず、引退した。
 それからは自分が表立つことにして、あちこち顔を出している。
 ユイはカウンターにもたれ、取引上応じてくれる。
 渡した書類を片手で持って目を通す。 
 カウンターをはさんで奥が喫茶だが、こちら半分は休憩所。
 ユイがアシスタントを引き受けたことはもう知れ渡っている。休憩所の何人かがこちらに聞き耳を立てていた。
 自動的にならぬ、事実上この空港建設トップの自分達だ。
 本来秘匿すべきだろうが、この広い敷地で奴を捕まえることの方が困難で、場所を厭ってもいられない。
 それにこの土地の話をこの土地の者達が聞けることもいいのではとも思う。
 議会の苦言はシャトルが無い状況での滑走路の建設についてだ。
「何も言わせない。少なくともコロニーへの航路は地球一だ。」
 あっさりすりかえられ、一蹴される。
 そう言い返せというものだ。
「・・。」
「それより、これから人が大量に入って来る。航路下にスラムを作らすな。先に住居区を作れ。」
「コロニー的考えだな。土着の成金どもはどうする。」
「この空港の意義を教えるんだな。その営利は分配されても利がある。」
 そして、先行投資の金は当然その成金からだ。
「世界国家の融資を受けて、あとで管轄内と言われるのは成金の趣味じゃないだろう。」
「・・・・・・・わかった。まあ男を出せだの、金を出せと言われるより、建設的な投機ではあるがな。・・で、俺が言うのか?」
「ああ。」
 テレマコスはなんだか複雑な気持ちだ。
 やらされている感がある。それも綺麗どころをやらされている感があるのだ。
 ユイはこれだけの計算を自分の手柄にしない。それどころかクレームの処理はほぼユイがしている。
「どうしてなんだ。ここまでの考えがあるのに。」
「俺はコロニーの人間だ。現実認識の齟齬が生じる。齟齬は今のところ回避したい」
「おまえなら、齟齬なんか生じないと思うけどな。」
 テレコマスは苦笑する。
 休憩室の労働者達も頷きあっている。
 それだけが理由じゃないだろう?、と強く思う。
「既に生じている。少なくとも俺はまだ未成年だ。初対面なら面と向かって話にもならない。」
「うわ・・・・。」
 未成年にそうはっきり言われてしまうと大人は耳が痛い。
「・・・・・・そうだな。」
 ヒイロ・ユイの齟齬とは時間が解決するものだ。付き合っていれば彼の誠実さや実効力を信用することが出来る。
 またヒイロ・ユイが大きくなれば根本から解決することだ。
「齟齬が生じてもかまわないのは、歴史を語ることと、未来を語るときだ。」
 コーヒーを傾けて、ユイがポツリと呟いた。




 アレキサンドリアはアフリカ大陸でも開かれた場所だ。
 南には広大な砂漠とサバンナがずっと広がっている。
 自分はこの大きな大陸をまだ渡ったことがない。レイクビクトリア基地もターゲットなら攻撃したが、その機会はなかった。
 又、レイクビクトリア基地は兵士の訓練基地でもあり、地球に二回目の降下をしたとき、そこを叩く事も考えたが、時勢はモビルドールによる戦略図が描かれ、敵対勢力としてトレーズ派に属した。
 そんなことをつらつらと考えるのは、イベリア半島でのトレーズ派に加わっていた時の指揮官を見かけたからだ。
 こちらは格納庫への移動、あちらは労働者の受け入れを求めて部局への移動の足。
「・・・・・。」
 生きていたか、と思う。
 あの横一線のビルゴの攻撃に命を繋いだのは自分だけかと思っていた。
 生きていたのならあの部下達を今だに面倒を見ているのだろう。
 地球で、しかもこんな人の入りの多い場所のアレキサンドリア。いつか自分をガンダムのパイロットと認識できる可能性のある奴らと遭遇する状況になるだろうとは思っていた。
 ただ白を切り通すつもりだった。
 ヒイロは格納庫でシャトルの整備を続ける。
 そこに降りてきた飛行機があった。
 イベリア半島からの労働者が乗っている。

 それから、
 その労働者たちとすれ違うこと多数。
 そのたびにイベリアの労働者達が囁く。
「似てないか?。」
「red oneに。」
 囁かれて聞こえても、ヒイロは白を切る
 一兵士の記憶などぼやけている時期だ。
 ただ労働者の一人が呟いた。
「似てるかぁ?。デカくね。」
「・・・・。」
 それは少しイラっとする言葉かもしれない。


 


 三日後、アフリカ地域協議会に呼ばれて、テレコマスはその会議室に足を運んだ。
 場所はカイロのホテル。三ヵ月後の5月のカイロ会議の会場の傍にあり、当日のゲストの宿泊会場にもなる。
 秘書では心もとないため、アシスタントにヒイロ・ユイを呼んだ。
「・・・・・・・・。」
 ホテルのロビーで待っていたテレコマスは少しイライラしていた。もうまもなく開会だ。
 まさか来ないなんて事はあるのだろうか、そう思い初めていた。
 だが。
「・・・。」
 テレコマスは顔を上げる。自動回転扉の向こう、リムジンが一台止まる。
 後部座席からユイが降りてきた。
 テレコマスは目を見張った。
 彼は回転扉を無造作にまわしてホテルに入ってくる。
 見慣れないスーツ姿なのに板についていて、歩く様も立ち姿も堂に入ったものがあった。
 軽くタイを押さえている。それすらも隙がない。
 正直スーツなど着ているのを見たことが無いのでそもそも尋ねたぐらいだ。
 こういった会議で見た目はかなり重要で、会議に入る前に確認したい事項ではあった。
 が、無用で、思わず自分の身なりの方を考えてしまう。
 こちらまで到達して、上から声が降ってくる。
「待たせたか。」
「・・・・・・・ああ。」
 テレコマスはそうとしか答えられない。
 周囲の視線を集めておいて、その視線に無関心な眼差し。
 箔のある彼が真っ直ぐに自分のテーブルに向かったことについて、ある種の優越感すら感じていた。
 だが同時に、この人物に相応しいかどうか自分を疑う。つくづく自分の小心さがいやになる。
 テレコマスはスッと立つ。
 そんなことを考えている場合ではない。小物なのは分かっている。
「もう行くぞ。」
「俺が来る必要なんかない。」
 ヒイロ・ユイはつっけんどだ。
「いや・・・。」
 正直ステータスになるからいいと思ったが、それでは飾り以下だ。
「社会勉強になると思っとけ。」
 年長が言うギリギリの台詞である。
 そうでもないとユイは来てくれない。テレコマスは会議室のドアを押した。背中のプレッシャーに比べたら目の前のゲストには全く緊張しなかった。




 テレコマスの発表のあと、会議が行われた。
 そこでヒイロはコロニー側の考えを二・三コメントした。
 昼食を経て、今度のカイロ会議の議題の整理が行われ、書記が公式に書き、それに代表者が連名した。
 ヒイロは会議がまずまずの方向で動いていると思った。
 会議までなさねばならないことがある。カイロ・アレクサンドリア地域のインフラの整備だ。
 自分のシャトルの設計もプログラムも完成させる。
「・・・・。」
 ・・問題なのは素材だ。そしてその研究は正直地球では無理だ。重力下ありとあらゆるものが考え出されている。
 また地球は有限空間で。
 真空の・・それこそガンダニウムのような宇宙空間での素材でなければならない。
 ガンダニウム・・そんな高度な物質融合がいる素材はあのシャトルにはいらない。
 会議が閉会になり、全体が立ち上がる。
 用は済んだのでヒイロはその大集団を一足早く抜け出した。
 昼食時その旨を伝えたらテレコマスはあとでがっかりされるのは俺だと呟いていたが承諾した。
 ヒイロは通路を行く。
 ホテルのロビーに戻ると軽くヒイロは目を見張った。
 白のハイネックにⅠラインのブラックコートを合わせ、それがまた取り立てて良く似合う。
 トロワだ。
「何か用か?。」
「いや。おまえに別に用は無い。ただここにいるというから来ただけだ。」
「・・・・・・・・誰から聞いた。」
「この辺りに詳しいといったら、奴しかいないだろう。」
「だから外したんだが。」
「ああ、それについての愚痴なら聞かされた。」
「・・・・・・。」
 ヒイロは回転扉を押して開ける。
 青のジープの運転席に収まり、左ハンドルに頬肘をついたカトルがいた。
 珍しく黒いYシャツにグレーのベストを合わせた格好だ。
 ヒイロは後ろのドアを開けて入る。トロワは前のシートに乗った。
 車は緩やかに発進する。
「久しぶりだね。ヒイロ。」
 バックミラー越しに運転手がさわやかに言う。
 とげとげしい挨拶にヒイロは用件のみの返事だ。
「宇宙にいるんじゃなかったのか」
「急遽、来ただけだよ。アフリカ地域が援助を断ったって辺りからいろいろ。」
「不満か?」
「そりゃね。はたから見れば独占だよ。」
「この地域の砂漠化を止めるためだ。」
「止めたいからこちらもいろいろやっているんだよ。・・・でも実質、止められる?。」
 広大な海を思うのと同じ、広大な砂漠を相手にする話だ。地球の自然環境を変えていくことは、途方も無い
 環境サイクルに関して言えば定型が完成しているので、コロニーの方がずっと管理しやすい。
「止める。地球で止められなければ、火星を緑地化出来ない。」
「そうなんだよね。」
 カトルは盛大な溜息をついた。
「富裕国のアラビアでまずそれをやるんだな。そうすれば地域協定がいらなくなる。」
「今、押し付けたね、ヒイロ。」
 しかも大上段に。
「言い出したのはおまえだ。」
「わかりました。」
 カトルは自身に山積している仕事を放り出して地球に来ているのだが、逆に増えた気がする。
 ただ半分はバカンスに来ているのは間違いないのでこうして運転している。
「トロワ。おまえは何をしに来たんだ?。」
「L3に置いてきた象を引き取りにいくんだ。」
「検疫か?。」
「いや重度のカルシウムの流出だ。それを補う治療をして、この間完了した。」
「立てなくなったのか?。」
「ああ。宇宙空間なら生きられるが地球では自重を支えきれない状態だった。コロニーに動物園を作るという案もあったが、サーカスの象だ。誇りがある。一般の飼育員では無理だ。」
「地球に連れてきて立てるのか?。」
「五分五分だな。わからない。ただ望むようにするだけだ。」
 象の望むように、トロワはそんなふうに言う。
「明日のシャトルか?。」
「ああ。降りてくるのもここだ。レイクビクトリアも考えたが、テントがここに来ることになっている。」
「象のためか?。」
「ああ。何かあっても海の移動はしなくて良くなるからな。次回興業のためにもレイクビクトリアほどには遠くないしな。」
「そう思うと、これからの開発にカイロ・アレクサンドリアはやっぱり重要なんだけど。」
 なるほど、愚痴である。





 ヒイロのアレキサンドリアのアパートについて、部屋に上がると、五飛がいた。
 ダイニングの椅子を勝手に引っ張って、本棚の前で本を読んでいる。
 トロワとカトルはそれぞれの面持ちだが驚く。
「五飛。君、何でいるの?。」
 カトルが真っ先に尋ねる。五飛は肩を竦める。
「奴から聞いてないか?。」
「聞いてませんけど・・・。」
 ヒイロは愛想無しにで部屋の奥に入って、ジャケットを脱ぐ。
 聞かれなかったから言わなかっただけだと言わんばかりだ。
「医療用データの礼に、古書のサンプリングを渡しに来た。目と鼻の先だからな。アレキサンドリアは。」
 どこのと問われれば、コートダジュールのだ。プリベンダーの支部がある。
「転送しても良かったが、あちこちデータ格納場所を変えてやがるから。渡しに来たほうが早い。」
「それはそうだな。」
 トロワは自分も同じ理由でアレキサンドリアに来ている。
「それに地球にいるのならちょうどいい。ヒイロの書棚は興味深いものが多い。」
「確かにな。」
 一部屋の両側壁は全てそれだ。内容も幅広い。
 カトルはリビングのソファに腰を落ち着けて、奥から戻ってきたヒイロに言う。
「つくづく要衝だね。ヒイロ。」
「うるさい奴だ。」
 しつこいカトルをヒイロは一蹴する。
 トロワが奥の部屋から出てくる。
「勝手にするぞ。」
「ああ。」
 ヒイロがコーヒーとその器具の在り処を指差す。
「ああ。手伝うよ。」
 カトルが立ち上がるも、ヒイロがひと睨みする。
「おまえは座っていろ。トロワのコーヒーはおいしい。」
 そう言って、形の揃わないマグを適当にヒイロは集める。
 言外に邪魔にされたが、確かにその理由なら邪魔なので大人しくカトルは座った。
 そしてまた余計なことを言う。
「うーんこれでデュオが来たら完璧なんですが。」
 他三名が沈黙する。
「・・・言うな。」
「デュオだったら来てしまいそうですもんね。」
 ヒイロの苦言にカトルはにこやかに返事をする。
 五飛が容赦なく可能性を示唆する。
「あれはまだジブラルタルにいるんだ。コロニーへの移住に関してサリィと何かやっている。」
「・・・・・・・・・・。」
 ヒイロがその時、黙した。
 ガンガンっ。音がした。
「ヒイロ。俺。ちょっと通信。貸してくれ。」
 見つけてきたくせに、まるで近所に電話を仮に来たような言い方だ。
 そして勝手に上がりこんでくる。
「おわっ。」
 そして勝手極まりないデュオも、さすがにドアまで後ずさりする。
「なんだって揃ってるんだよ。」
 住人に尋ねる。
「なら来るな。帰れ。」
 家主は邪険にする。
「うわ、それちょっと待て。俺、マジ急いでるんだって。」
 そう言って、デュオはずかずかと上がりこんだ。五飛の目の前を横切って、端末のある机の椅子に座る。 
 ヒイロは腕を組んで流しにもたれる。この状況を理解しがたいものに感じて気が遠くなっている。
 五人集まるとろくなことにならない。
「定住なんかするからだ。」
 トロワの意見は全くもって当たりだった。





 デュオは端末を弾いて、北欧の宇宙開発基地を中継し、そして宇宙のいくつかあるアンテナを経由させて、目的の画面を呼び出した。
 否、呼び出せた。
「よかった。さすが、ヒイロの端末だぜ。」
 デュオが溜息をついた。
「んで、メールを打って・・・よし。」
 そして持ち主を向いた。
「ヒイロ、悪いがしばらく回線開きっぱなしにしておくからな。」
「・・・・好きにしろ。」
 もう何を言う気にもならない。
「・・サンキュ。」
 他人に自分のものを触らせるなど、ずいぶん人間が丸くなったものだ。
 デュオが肩を竦めた。
「相手知りたくないか?。」
「・・・・・。」
「おまえとしては気になる相手だぜ。」
「ノインに何か、あったのか?。」
「・・・おまえなぁ。」
 当たりは当たりだが、あくまで口にしたくないのを感じる。
 1年前から火星に行っている。公ではないが、サンクキングダムの先発隊として、北欧から飛んだ。
「ノインさん達、どうかしたんですか?。」
「火星の軌道についたはいいけれど、シャトルの生命維持装置のシステムがバッテリー不足で誤作動を起こしてるんだと。」
「太陽の地球食だろう?。この間確認されている。」
「それと太陽風。今は火星の方角のほうがずいぶん強いのがわかった。コロニーの数値より、太陽風が強く吹いている。少し距離もあるから観測に時間がかかった。とりあえず修正プログラムを送っておいたからもう組み込んで誤作動は一時的に直ってる予定。」
「おまえのプログラムか?。」
「そう。」
 ヒイロの胡乱げな声にデュオは胸を張って応える。
 五飛が椅子から降りて立ち上がる。
 自身の小型のジュラルミンケースを開けて、ノート型端末を取る。
「プリベンターで長距離シャトルの緊急修正パッチだ。・・・・ヒイロ。」
 端末ごと放る。
 ヒイロはノート型端末を受け取る。
「わかった。」
 階段に座り込んで、その端末を開いてその修正パッチを微調整していく。
「・・・通信があったのはいつですか?。」
「今朝。生きてっかなー。」
「デュオ。」
 カトルがたしなめるように言う。
「マジな話。あいつらそういう危ないところにいるの。俺も早く行きたいぜ。」
 デュオは伸びをして立ち上がる。ダイニングに行って、顔をしかめているカトルに片目を瞑る。
「・・・デュオは詳しいんですね。」
「当然だ。ゼクスの準備を手伝っていたのはこいつだ。」
 ヒイロがさっさと暴露する。
 その場の全員が沈黙する。
「・・・・・ええっ。」
 カトルだけ声を上げた。
「・・。」
「・・・・。」
 空気が穏便でなくなる。
 当然デュオを責める空気である。
「ちょっと待った待った。俺だってハワードの手伝いしかしてねーよ。」
「主力じゃないですか。宇宙側の。」
「けどよー・・ハワードに宇宙の物資を北欧に送れって言われて宇宙と地球を行ったりきたりして地味に送ってただけなんだからよ。なんか火星でも行くんか?と思ったら、ゼクスが居やがって。よく生きてたなーぐらいで。ま、よかったよかった。で。なんかそれまずいかよ」
「・・・・・。」
 まずくはないが、抜け駆けとか先を越されたとか、そういう感があるものである。口にはしないが。
 ゼクスは敵だが、敵である以上存在するから敵なのだ。
 そしてカトルからすれば別の視点もある。
「その時点でノインさん差し置いてるじゃないですか。」
「あー。そうっちゃそうだな。」
 でもデュオとして大人の機微は正直どうでもいい。
「ましてリリーナさんのお兄さんでしょう。」
「お嬢さんねぇ。お嬢さんに男なんてヒイロ一人いればいいんじゃね。」
「そういう問題じゃないでしょう。」
「いや、絶対そういう問題だって。」
 言い合う中、通信が急に開いた。ウィンドウが現れ、サンドストーム画面が現れる。
「おっと。」
 デュオは端末に一足飛びに戻ると、そのモニターを修正して適正な画面にしていく。
 ノインが画面に現れた。
「<・・・・・応答ありがとうデュオ・・・・。は?。>」
 画面に現れたノインが驚愕した。
「<・・・・そこはどこだ?。デュオ。>」
 朝はモロッコの市場の景色だったはずだ。
「ヒイロんち。」
「<・・・・・・そんなことがあるのか?。>」
「らしいぜ~。俺もびっくりだぜ。通信借りにきたらきっちり揃ってやがってよ。」
「おまえもだろう。」
 五飛が椅子をガンと蹴った。
「さっさと状況を聞け。」
「いやー確実にこっちの状況の方が恐いと思うぜ~。」
「<確かにな。>」
 ノインが微苦笑した。現況としては笑える状況ではないのだが、笑えた。
「<状況は・・・芳しくは無い。酸素の流出があった。水で分解してしのいでいる。電力はプログラム通り充電を始めている。>」
「OK。二日もつか?。もうそっちに空気タンクと貯水槽送った。」
「<二日なら十分だ。>」
「そっか、良かったな。ああ今からまたプログラム送るから。」
 ヒイロが完成させたプログラムを端末を解して送りつけているのが分かったから中継する。
「五飛が俺のより、プリベンダーの修正パッチの方がいいってよ。んで、それヒイロが微調整済み。」
 ノインがこれ以上ないくらい目を見張らせた。
 それがどれだけ信の置けるものかノインには分かりすぎるほどわかる。
「<・・・・・ありがたい。>」
 努めて冷静に礼を言う。
「<・・・・・。>」
 あらためて5人を眺める。
 同時にそこに5人揃っている偶然も、こんな結果なら、彼らも集まりやすくなるのではないだろうかと思う。
 彼らにとって、同世代というものはやはり貴重だろうから。
 横からヒイロが現れる。
 珍しい。
 そうノインが思ったのも束の間、指先ほどの記録装置を見せられる。
「<?。>」
「後ろの男に、言う。」
 ノインが背後を気遣うようにした。
「二ヵ月後何があるかはわかっているな。」
「<・・・・二ヵ月後?。>」
「俺がデータを集めてるのは知っているだろう。あとはおまえの勝手だ。」
 それだけ言うとメモリーをデスクにおいてリビングに戻ってしまう。
 デスクのメモリーはあとでそこに入れるというだけのものだ。
「<・・・二ヵ月後。>」
 呟くノインの肩を押さえる手があり、それが離れて、隔壁の向こうに通じるドアが開く音がして出て行った。
「<・・・・・・・。・・そうか。>」
 ノインは顔をほころばせる。
「え、なんだよ。ノイン。謝礼はいいから教えろよ。」
 代金よりちょっと興味あった。
「<・・・・私から言ってもよいものか。>」
 苦笑する。
「<やはり言うわけにはいかないな。二人に嫌われてしまいそうだ。>」
「えーなんだよー。」
 デュオがぶーたれる。
 後ろから五飛が忠告する。時計を見ていた。
「そろそろ通信を切れ。余計な電波を飛ばす余裕はないはずだ。」
「・・・・・ちぇーっ。」
「<二ヵ月後に分かる・・と思うぞ。>」
「あーもー、気になる。けどしゃーねーなもう。・・・じゃ、またな。ノイン。」
「<ありがとうデュオ。>」
 それで切れた。
 デュオは椅子をくるっと向ける。
「で、なんなんだよ。」
「腕ずくで調べたらどうだ?。」
「おまえを吐かせようとしたら、こっちが気絶するわ。」
 割に合わない。
「二ヵ月後。二ヵ月後。」
 カトルが何か会議あったかなとなどと思う。
「・・・・・・言っていいか?。」
「・・・言うな。」
 くそ、気がついた奴がいる。
 トロワだ。
 トロワはお湯が沸いたので、鍋を持ち上げてとぽとぽとコーヒーを入れ始めた。 
「んだよ。トロワもわかることかよ。あー、気になる。」
 デュオが戻ってくる。
「ヒルデに聞くかな。くそ。ここだってヒルデに教えてもらったしな。」
 ぶちぶち言う。
「こっちはあんまりヒイロとヒルデの接点増やしたくねぇってのに。」
「ヒルデさん?。・・・とヒイロ?。」
 久しく聞いていなかった名前に好奇心が芽生えたが、そのあとに並べられた名前を呟いて、語尾は疑問形になる。
「ああ、同じコロニーだからって理由だけで、やたら会ってやがるんだよ。」
「・・・・・は?。」
 それはどういう状況だろう。想像できない。
「だろ?。接点ねーよーに思うだろ。それが・・っ。くそ。大体ここだって、俺に聞かれたら答えてもいいって言ってあったんだぜ。無関心そうにして、いい感じに付き合ってやがんだよ。こいつら。」
「コロニーのアパートをそのままにしてある。管理を任せているんだ。ヒルデは何が不都合なことかわかっているからな。」
「そのなれなれしさが気にいらねーっての。」
「確かにヒルデならわかるだろうな。」
「・・・・・・・。」
 そのツーカーさも気に入らない。
 こいつらやっぱりどっか出来ているんじゃないかと思うデュオである。
「じゃあ、あとで教えてください。デュオ。」
 カトルはもう降参することにした。
 デュオはソファにどかっと座る。
「んで、なんでおまえらここにいるの?。」
 それに対しカトルがこれまでの経緯を言うと、デュオはまとめる。
「五飛は遊びに来ていて、トロワは通りすがりで、おまえは愚痴りに来たのか。」
「なんで愚痴に聞こえるんでしょうか。」
 カトルはこうまで言われると心外だと言う。
「アラビアンとチャイニーズは商売の障害ってか。」
「勝手にくくるな。」
 五飛が文句を言った。
「そうですよ。」
「んでもよ、アフリカ系のお人よし集団が太刀打ちできねーだろ。昔から。」
「でも交渉のいいところまでいってたんですよ。それを。」
 横目にじろっと見る。
「ヒイロが。」
 にらまれた方はしれっとしたまま。
「ヒイロがカイロに来た時期から風向きが悪くなって、結局白紙ですよ。」
 実務者協議をこうして確認してみれば、影で糸を引いていたのはやはりヒイロだった。
 全体的に乾いた笑いが起こる。
 やはり愚痴である。



 トロワの煎れたコーヒーは誰もが文句なしで。
 デュオが呟いた。
「これで元気になれた奴、いたと思うぜ。」
 皆思い思いにくつろいで、それに異論はなかった。









[10/11/27]
■アニメディアの5人見てたら、ライトな五人を書きたくなりました。
 いろいろつっこんでみて、あーこんなふうな五人いいなーと思いながら。
 それにしても5人並んでむさくるしくならないんだよなー。さすがW。そこイメージわかないわ。

 カトルは気づかないかな・・。。
 ねーさんずの顔を全員分知らないでいるので意外と女性プロフに疎そう。
 カトルは王子様なので正直覚えられる方で覚える方じゃないしなー。

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