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プロローグ

1.コートダジュール





 ――――――大統領暗殺!!!


 全ての報道の見出しだった。
 次に続くのは、―――――ヒイロ・ユイを暗殺した手によるもの、か。―――――
 その文字達は、不穏を囁いていた。









 大統領暗殺の瞬間のリプレイが何度も繰り返されている。
 ヒイロはその映像を横目に見ながら、欧州国際空港から出る。
 暗殺の動きが見え始めた時点で、ヒイロは地球に向かうシャトルに乗り込んでいた。
 だが間に合わなかった。
 大統領の平和への認識が油断を招いていた。
 おそらくプライベートに口出ししようとしたセキュリティを排除したのだ。
 真夏の海岸リゾートにおけるゴルフ場。政治屋が死ぬにはお似合いの場所だがあまりにも場所が悪かった。
 選挙にて選ばれた大統領だけに、民衆は憤りと共に自身の虚無を感じていることだろう。
 そうなれば民衆の意識がどこに向くか。
 答えは一つ。
 政治の汚濁からは無縁に見えるリリーナ・ドーリアンに向けられる。
 さらに先の選挙では次点だったことも後押しする。
 平和を説いた
 戦争を終結させた、
 自身が人質でいる中で恐怖していた中、恐れてはならないと告げた、
 民衆は恐怖から逃れるために安易に指導者を求めるだろう。
「・・・・。」
 それはリリーナが望む形じゃない。
 だがリリーナは大統領になってしまうだろう。
 選挙など形だけになる。




 ヒイロは地中海沿岸コートダジュールのかつてのOZ基地にたどり着く。
 シャトル内でカトルからの連絡を受け、その後プリベンダーからの要請も受けた。
 既に民間人となっている自分が応じる必要はない。
 ヒイロは基地の一角のビルに入る。
 そして最上階へ。全てのシステムを解除して上がっていく。
 階上に出て、ノックもせずにそのドアを開けた。
「・・来てくれるとは思わなかった。」
 プリベンダーのトップであるレディアンがそこにいた。
「・・アテにはするな。俺はもう民間人だ。使っていない技術は鈍化している。」
「謙遜にもならないな。疑ったことなら謝らせてもらおう。」
 そう・・ここまで来るにあたり、レディアン自らヒイロに攻撃を仕掛けた。
 狙撃を二回試み、ここまでのあらゆるシステムを厳重にロックした。
「すまないヒイロ。おまえをアテにする気はなかった。」
「・・・。」
 レディアンはヒイロの前に立つ。
「・・背が伸びたな。」
「背くらい伸びる。」
 そっけない返事にレディアンは微笑んだ。
「大統領を守ってもらいたい。」
「・・まだだろう。」
「ああ。だがもう既に民衆の心は決まっている。」
「リリーナが望まない。ともすればあいつは選挙に出ないだろう」
「それはもう無理だ。ヒイロ。」
「ならば俺がリリーナを殺さなくてはならなくなるな。」
 民衆に祭り上げられるなら殺す。
「・・・本当にそう思っているのか?。」
「・・・・ああ。」
 ヒイロの返答は冷ややかでかつてと変わらない。
 レディアンは声音を押さえて呟いた。
「・・選挙の経過しだいにしろ。」
 前回の選挙が今年の一月で、出馬しない理由が無い。出馬しなければ、リリーナまでもがこの暗殺事件に臆したと思い、民衆は恐怖から逃れる希望を失う。
「無論そのつもりだ。」
 ヒイロは鉄面皮のままだ。
「・・。」
 なるほど、これがカトルが言っていた彼と彼女のもう一つの関係か。
 公私という言い方は正しくは無いだろうが、その開きを感じる。公私は分けて欲しい。
 大統領ならば守る。
 だがリリーナが民衆に祭り上げられるなら殺す。
 大統領にリリーナが足るかどうかは選挙の攻勢しだいというのだ。
 もしくはヒイロ自身がリリーナに期待しているのだろう。自分を納得させるだけの大統領の在り方とやらを。
 今回大統領はボディーガードの制止を甘く見た。
 兵士を排除し、軽んじる行為だった。
 そんな大統領なら初めから求めない。
 それはレディアン自身だけでなく、兵士だったものたちに通じる全員の思いだ。
「・・俺は俺で動かせてもらう。」
 レディ・アンは微笑した。
「かわらないな。本当に。」
 そしてカードキーを胸のポケットから出す。
 ヒイロに手渡した。
「・・・。」
 彼は迷い無く言葉を発していく。
「選挙演説の際はつく。おそらくはまずそこに狙いを定めてくるはずだ。」
「ああ。スペシャルズの常套手段だ。」
 より政治戦略的に心理的に、もっとも効果的な場面。
「厳密にはスペシャルズよりもっと工作員に特化した時代のはずだ。」
「・・・。」
「・・だが、詰めが甘い。」
 ヒイロは酷薄に呟いた。
「俺がいる。奴にリリーナは殺せない。」
「・・・。」
「奴はスナイパーとして三流だ。そんなこと思いたくも無いだろうがな。」
「ヒイロ?。」
「ヒイロ・ユイを殺したスナイパーは痕跡など残さなかった。名も残していない。だからこそコロニーを混乱に陥れることが出来た。」
 武器庫へのカードキーが天井のライトに反射して閃いた。
「真似なら笑ってやる。」
 そこまで、コロニー指導者ヒイロ・ユイを暗殺した際の状況を習いつくしたのだろうか。
 ずいぶん知ったような口を聞いた。
「・・・そこにそうしておまえが生きてヒイロ・ユイを語っていると今回の事件が滑稽に思えてくるよ。」
「ああ。俺もだ。」
 その真似た、手口が気に入らなかった。










 地中海の日差しのまったく当たらない、武器庫。
 ヒイロは銃をいじっていた。
 既に目の前には三本のライフルが置かれていた。
 全て同じ形、組み立て式の銃。
 五飛が入ってくる。
「何年前の骨董だ?。」
「30年前だな。当時宇宙空間で発射できる唯一のライフルだ。」
「腕もいるな。」
「ああ。」
 ライフルを組み立てているのはプリベンダーの連中に理解させるためだ。見本といったところだ。
「これからしばらく時代に残された武器での抵抗が主流だろう。使い方を知っていれば防げる。これは威力はあるが、射撃角度も限定的だ。数も撃てない。」
「なるほどな。ヒイロ。・・ヒイロというと今は紛らわしいかな。思い出したようにヒイロ・ユイが語られている。」
「・・・別に。そのコードネームは捨てている。」
 ぶっきらぼうな返事に五飛は鼻白んだ。
「盛大に使っているだろうが。」
 ヒイロが面倒くさいことに適当なのは知っている。
「・・正直面倒くさい。」
 捨てようと思えば捨てられる、だが周りは呼ぶだろう。何よりリリーナが望んでいる。
 だからもう自分も取り成せるように布石を撒いている。
「初めからそう言え。」
「・・。」
 ヒイロは話を逸らす。
 暗殺されたということになっていることについて尋ねる。
「大統領の容態は?。」
「意識は戻った。ただまだ予断を許さない。頭を割られたんだ。生きているほうが不思議だ。」
「・・」
「再起不能には違いない。本人にやる気が合ってももう既に民衆も認めていない。」
「本人を出すなりして早くモニターに回帰したほうがいい。情報の伝達が曖昧でコロニーでは暗殺されたことになっているぞ。」
「・・ああ。」
「このままではリリーナに首謀者の疑惑がかけられる余地を残す。」
「それは俺たちプリベンダーにもだ。結託されていると思われている。」
「・・・。」
「文民統制が試されている。あの大統領はそれがわかっていない。地位に固執してまだ諦めがつかないらしい。」
「・・それが本当ならば、俺が再度殺してやる。」
 ヒイロの声音は冷淡なままだ。
「・・おまえの焦燥が当たったな。テロリストの情報もあったのに、あの大統領はそれを無視した。」
「ああ。」
「リリーナ・ドーリアンはどうなんだ?。俺は阿呆を守るのは願い下げだ」
「リリーナは従順だ。無理は言うがな。」
 矛盾に聞こえる。
 だが五飛もその言に納得出来るものがある。
 そういう矛盾はヒイロたち兵士には問題にならない。
 むしろ歓迎されるものだ。
「・・・リリーナ・ドーリアンはおまえの忠告を聞いた。あのホテルから今現在も一歩も出ていない。それはおまえだったからか?。」
「かもしれないな。」
 ヒイロは四本目の銃を完成させる。
 それで立ち上がる。
「トロワは?。」
「もう既に潜入を終えている。壊滅させる時機は、スナイパーしだいだな。」
 トロワも行動が早かった。ヒイロのテロリストの情報は持たせていたが、いつの間にかその企業に潜伏している。
「スナイパーは遊撃隊だ。指令系統を持たない。」
「・・そうか。」
 その時だ、後ろの手のひらサイズのモニターがつく。
「・・諦めがついたらしい。」
「ああ。」
 現大統領の事件の釈明会見が始まった。


 大統領を降りることにする。
 但しこれは私の政治方針を否定するところからではない。
 大統領を降りる。それについて強制も無いことをわかってもらいたい。

 今回の事件は事前に情報があったもので、私はそれを甘く判断してしまった。
 それだけだ。

 テロリストの早急な捕縛と、次期大統領の舵取りを期待する。


「本当に死んでいなかったんだな。」
 ヒイロがぼやいた。
 報道記者がこれよりは治療に専念すると告げていた。
「・・おまえがそう思うのだから、コロニーでは相当酷い情報伝達のなされ方だったんだな。」
 五飛が溜息をついた。
 ただこれで市民感情に一定の終止符が打たれるはずだった。









 ヒイロは武器庫の階上4階、要人警護にあたる者の控えの部屋に入る。
 五飛は、「いるものは受け取っておけ」、と言ってヒイロが作ったうちのライフルの3丁を持っていった。
 プリベンダーの要員の指導は自分に任せておいて、おまえは自由に動けと言っている。
 実際プリベンダーの指導を請け負っているののだろう。本人は向かないと思うだろうが、L5に戻れば武の道場があり、大勢の者が五飛を師とする。
 部屋のテーブルには必要なものが揃っていた。
 プリベンダーのユニフォームにボディーガードにつく際スーツ。銃とナイフが数種類。
 セキュリティ上の通行証。ボディーガードにつくその他の者の個人情報。
 待遇のよさにヒイロは憮然とする。こんなものは自分で用意出来、工作員だった頃の自分を思うと溜息も深くなると言うものだ。
「?。」
 ヒイロはハッキングするためのディスクを手に取った。
「こんなものまだ持っていたのか。」
 自分のディスクだ。それは2年前のオペレーションメテオで地球に降下してまもなく奪われてしまった正真正銘自分のディスク。
 持っていたとすればサリィだろう。
「(返却されても困るんだがな。)」
 なにせあのドクターJが作ったものだ。
 それでも頂戴しておく。自分の雑さは知っているのでそのうち壊れるだろう。
 傍にある端末にディスクを入れてみる。
 立ち上がったのはディスク自体のシステムじゃない。そのプロテクトを利用した端末の方のプログラムだ。
 レディアンの指示がそこに書かれていた。
 今は夕刻を向かえイタリアの標準時間で18時だ。
 19時にレディアンは女のボディーガードを二人連れてくるとのことだった。その後ニース市内のホテルに足止めされているリリーナを迎えに行き、場所をテレビ局に移し記者会見に臨む。
 女のボディーガードの経歴をざっと眺める。
 今回の事件の際にも大統領にもついていた二人だ。レディ・アンはリリーナがいずれ大統領になるのを見越して場数を踏ませていたのだろう。
 所属は元OZのようだ。だがOZが連合に取って代わり、ロームフェラが台頭した際、それぞれ自国を守る戦いに身を投じている。
 サリィは連合所属だったが、時期としては同じで、目的も同じだろう。見れば年齢も25と6であまり変わらない。
 その二人をレディアンが指導したとなれば、まずまずだろう。
 プリベンダーは地球側の人間が中心だ。
 宇宙コロニーはAC時代の創成期には生きることに精一杯で争うという概念すらなかった。また近年においては武器を取ることをコロニー指導者ヒイロ・ユイが排した。( だから戦争の終わりに現れたコロニー側の戦闘集団は本当に特異といえる。ガンダム然り、ホワイトファング然り。もう二度と構成させてはならない。)
 そのためコロニーは戦闘における能力者が少なく、防衛集団を構成すれば必然的にそうなる
「(五飛を見習うわけじゃないが、少し宇宙での勝手も伝えるべきだな。俺が)」
 ヒイロはその二人に期待を持っていた。理由がある。
 自分がリリーナの専属のボディーガードになりたくないということだ。
 火星への取り組みが山積していて、大概は暇な身辺警護などをやっている暇は無い。
 ヒイロはホワイトシャツを手に取るとタンクトップの上から着込んだ。
 黒いネクタイに、それから靴。ボディーガードの一種の正装というべきダークスーツを着込む。。
 短銃の様子を確かめ、背中側のズボンに差し込む。胸のホルダにはナイフを仕込んだ。
 セキュリティの通行証。それからディスクを内ポケットに収めた。
 再び端末に向かう。
 デュオとの定時メールを見た。
 コロニーで情報を受け取ったテロリストを洗い出せたというものだった。
 大統領暗殺未遂事件で混乱する通信を解析したのだろう。どさくさに紛らせてあったとあった。
 <ま、俺達も似たようなことやってるからわかるってもんだ。>とコロニーのテロリストに自分達を重ねる。
 ヒイロも否定しない。
 だがその進出は止めさせてもらう。不要だからだ。これ以上俺達のようなものを出してはならない。コロニーにも地球にも。
 コロニーはデュオに任せておけばいい。宇宙の行動範囲の広さは奴の右に出る者はいない。
 カトルとも連絡を取り合っているようだ。
 もうそれで十分だろう。自分はスナイパーの捕獲に専念できる。
 ヒイロは画面を睨んだ。文面にではない。今更起こった暗殺事件にだ。
 時代遅れのスナイパーがいるから触発される者たちが出てくるのだと。
 そこにノックがした。
 レディ・アンだ。室内に入ってくる。
 後ろに例の二人の女性がいた。
 背の高い赤茶の短髪のジョー。リリーナと似た髪の色と長さのセツ。
「おまえとしては気になるだろう?。紹介しておく。」
 ヒイロの本当の胸のうちを見透かして肩を竦めた。そして目線だけ後ろを振り向いた。名乗れということだ。
「ジョーです。」
「セツです。」
 最低限の自己紹介。
「おまえは名乗らなくていい。今は紛らわしい。コードネームは却下する。そのうち適当に呼び合え。」
 言外に専属のボディガードから外してあるということを言っている。
「ならば座標としてg01とだけ言っておく。」
 ヒイロは彼女たちに伝える。
「記者会見がある。まだ敵は欧州にいるはずだ。俺も出方を伺わせてもらう。」
 ヒイロは先んじて部屋を出た。
 ボディーガードは本来単体で動ける者達だ。チームワークが要な兵隊とは違う。
 自己紹介など無味乾燥で、この程度で十分だ。
 先方もそれを理解しているようで、なかなか上出来だった。








「ここでいい。少し見てくる。」
 ヒイロは交差点で停車をした際に降車した。
 運転するジョーはそのまま車を走らせていく。
 コートダジュールの青い海岸線地を遠くに眺められる場所。
 日がもう傾き、もう夕闇がそこまで来ている。
 ヒイロはリリーナのいるホテルより10分ほど離れた場所に立っていた。
 地図や周囲を見渡した限りでは射程距離や角度から考えて、リリーナを窓辺から狙えるのはこのあたりのみだ。
 めぼしいそれらしき建物を見つけた。
 7階建てのアパートメント。
 ヒイロは非常階段を上り、壁を一階分軽々と登り、屋上に出る。
 ここからでは別のアパートメントの軒先が邪魔で見えない。
 だがその下は?、と二つ下の階のベランダを目指して飛び降りる。
「・・・・・・。」
 6階の部屋のベランダの手摺に引っかかる。
 ちらりと中を覗き込み、だがひらりとベランダに侵入する。
 もはやもぬけの殻だった。
 だがここにいたことは間違いない。
 中に入ろうとして鍵は開いていた。
 ここにいたものがいなくなってから、もう既に一日は経っていそうだ。差し込む西日からして部屋の中の温度の上昇と、空気の乾燥からそう判断する。
 靴のあとがあった。
 そこに立ってみる。もうあたりは暗くなっていた。
 が、路地や建物が混ざる中、一直線、リリーナの部屋の窓が見える。
 今は部屋に明かりがともっていて特によくわかった。
 窓には立つなといっておいた。
 判断は間違っていなかった。ほっとする。
 リリーナの部屋には奴らがついているころだ。だがやはり窓辺には誰も立っていない。
 その判断は上等だ。奴らボディガードのセンスを分析する。
 状況を分析しつつ、
 だが同時に敵の正体が危殆なるモノだと感じていた。
 針の糸を通すような銃技をどれだけ持っている奴らがいるだろう。
 この距離とこの路地の隙間を通す腕があるからこそのこの場所だ。
 ヒイロは憮然として嘆息した。
 自分も撃てる。
 彼女が窓辺に立ちさえすれば、この位置から確実に。
 あまり誇れることではないなと思った。









 つけ放したテレビに先程の大統領の会見がリプレイされていた。
 リリーナはその後に続く、マスメディアの報道のなされ方の方が気になった。
 次の大統領は誰になるのか。
 選挙か、推挙か。それとも次点繰り上げか。
 そしてどれを取っても自分なのだ。
 肩の髪が白いブラウスに落ちる。ブラウスには白い糸で花の刺繍がほどこされ、ツーピースの膝丈のスカートにも同じ花が続き、ただ青いグラデーションを濃くしていく。
 リリーナの表情が険しくなる。その目元を押さえて俯いた。
 安易に指導者を求めてはならない。
 だが人々の心は刻一刻と変化しそれに向かいつつある。
 音声から、名指しでリリーナを推挙する声が上がった。
 映像により彼女を切り取っていく。
「この中で私は立候補しなければならないなんて。」
 望まない形だ。
 これでは帝国にいる皇帝と変わらない。
「(・・・・それは誤解だと言わなければならない。)」
 指導者となるために私は大統領になるのではない。
 自分とて幼い。大統領なんて肩書きは真実重いということを理解してもらわなければならない。
 ただひたすらに目標があり、指導者となるためではなく、私は目標のために大統領になるのだ。
 リリーナは掌の下で目をキッと開けた。

 そして・・そう、望まぬ形の大統領になるならば、彼が私を殺してくれる。
 だから、大丈夫。
 気がふれたりしない。

 ぱさっと書類が落ちた。
「・・・・。」
 ヒイロにプライベートナンバーにてそこを動くなと言われて3日経った。
 レディアンからその後連絡があり、待機という指示があった。
 リリーナはニースのホテルにいた。
 言われたとおり、窓にも近づいていない。
 リリーナは応接のソファに座り、書類をつき合わせていた。
 ここでもある程度の仕事はある。
「・・ヒイロ。」
 リリーナの心を穏やかざるものにしている理由がもう一つあった。
 今回の大統領を撃った者が、「ヒイロ・ユイを暗殺した者」という触れ込みだ。
 今更のようにヒイロ・ユイという人物が語られている。
 ヒイロ・ユイが連呼されるのが嫌だった。 
 彼は全く違う人生を生きているのだから。



 コンコンとノックがあった。
「レディアンだ。外務次官、入ってかまわないか?。」
 レディアンは公用の場面以外はリリーナに対して口調を改めたりしなかった。
 出会いが出会いだった。だからリリーナもその方がむしろいい。
「どうぞ。」
 リリーナは応接から立ち上がった。
 レディ・アンと二人の女性が中に入ってくる。
 リリーナは彼女達にに一礼した。
「見たところ疲れているようだが、大丈夫か?。」
「あたりまえです。こんなところに三日もいるんですから。」
「体の静養にはならなかったか?。」。
「疲労より心労のほうが堪えます。行動に出られないんですもの。もう、ここから出てもいいのですね。」
「ああ。ひとまずはな。・・・紹介する。あなたにつく、ボディガードだ。」
 レディ・アンが彼女達を振り返る。
「ジョーです。」
「セツです。」
 二人が応える。
 レディ・アンが付け加える。
「セツには秘書の一人にもなってもらう。」
「わかりました。」
 リリーナは真っ直ぐに立ち、眼差しはそれよりも真っ直ぐで彼女達を見た。
「お二人ともありがとうございます。私は警備の指示に従います。」
 リリーナの言葉に含まれた意味に、そっとボディガードたちは微笑んだ。
 あの大統領は無視したのだ。
 同情すら出来ず、自業自得だとさえ思う。
「外務次官。このままテレビ局に向かわせてもらうが、かまわないか?。」
「お願いします。私も少なからず生じた誤解を解く必要がありますから。」
 リリーナは立ち上がった。
 その時だ。
 ジョーの端末が鳴った。
「?。」
 発信者は不明だ。だが声がした。
「<窓辺に立ってみろ。>」
「・・・。」
 先程レディ・アンが引き合わせた青年の声がした。
 ジョーは端末を耳に当てたまま、用心に用心を重ねて窓辺に立った。
「<見えるか?>
「・・かろうじて。今、セツを呼びます。彼女の方が視力があります。」
 セツに目配せをする。
 こちらに彼女が来る。
「見えます。」
「見えるそうです。」
「<そのようだな。>
「・・・撃てますか?。」
「<・・・・俺は撃てる。>
「そうですか。・・これからそのあたりを通ります。よかったら拾いますが。」
「<わかった。>」
「では通りに出ておいてください。」
 ジョーは端末を切った。
「スナイパーの位置か?。」
 レディ・アンが尋ねる。
「はい。」
「目視した限りではチーフ一人でした。もぬけの殻だったのでしょう。」
 セツが補足した。ジョーが少しきょとんとし、やがて得心のいった顔になる。
 感じた限りでは力量は確かに自分達を超えている。なのに番号で呼ぶのは願い下げである。
 それから揶揄も入っている。単独行動を取るためおそらく言われなれていないだろう。
 よしんば彼が認めなくても、対外的にはまともに聞こえる。
「わかった。」
 彼をそう呼ぶことにしたことも含めて、レディ・アンは片手を上げた。









 車に乗るのは運転する自分ジョーだ。リムジンの後部シートは向かい合わせで、手前セツ。奥にリリーナドーリアン外務次官が座る。
 レディ・アンは乗らず、手配したヘリでコルシカに向かった。
 ジョーは先程見えた建物の前に横付けした。
 正確には青年の前だ。
 青年というにはまだ少年の部類に入りそうな気もしたが、それは外務次官に抱いた感想と同じだ。
 年齢も見た目も問題ではない。
 重要なのは能力であり、だからこそ彼らに対して一目置いた丁寧な物言いが自然と出来る。
 右ウィンドウを降ろす。
「お待たせしました。」
「・・・。」
 右シートの横に乗るかと思いきや、彼は開いた窓から手を伸ばし後ろのドアのロックを外し、無言で後ろのドアを引き開けた。
 バックミラーを見る。外務次官がなんと言うか。
 だが車が停止した先程から彼女は瞠目していた。
 入ってくる青年を凝視している。
「・・・・。」
 うわごとのような唇の動きで読み取れない。
 当然のように彼は外務次官の隣に座る。視線もやらず、足を組み腕を組んで目を閉じる。
 外務次官は端座したまま、静かに呟いた。
「民間人のあなたが来るなんて。」
「不足か?。」
「警備の指示に従うと申し上げました。」
 物言いからして、知り合いのようだ。レディ・アンの人選だ。その線が有力なのだろう。ジョーは納得する。
 外務次官は、そっと囁いた。
「・・・・・・・・・忠告をありがとうございました。」
 つまりあの滞在はこの彼が指示したということだ。








[09/08/13]
■ヒイロはナイトじゃないけど、ナイトヒイロも書きたいのだよ〜〜〜〜。ちょと長編になります。
[09/08/23]
■早く書かないと大統領が死んだことになっちゃう・・と思いながら続き。もう少し書き足すやも。
[09/09/12]
■ものすごい作業感あり・・・・。読みづらかったらすいません。早く私もヒイロとリリーナメインにしたい。
そういう話なんですけど。予定・・。

コートダジュールは今、世界不思議発見を見たせい・・・。
紺碧海岸って響きは、ヒイロに似合うよねーとか。でも現実的コートダジュールのリゾートやらビーチやらは似合わないなー。
ニースは行ってみたい町。


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